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新年特集 「21世紀を農と共生の時代に


日本の食文化にあった農産物を
安定、安価に


株式会社ファミリーマート
執行役員総合企画室長・経営管理部長 飯沼 浩

(インタビュアー)農政ジャーナリストの会会員 坂田 正通 氏
消費の成熟化と大型店の出店規制が強化された1970年代半ばに、長時間営業と利便性を掲げてコンビニエンスストア(CVS)が誕生する。絶え間なく変化する消費者ニーズに応えて成長してきたCVSは、「IT革命」のなかでEコマースのプラットホームとして新たな変身を遂げようとしている。業界大手のファミリーマートは、JA全農と提携し埼玉県草加市にJA‐SSに併設した店舗を開設したが、1年間で137%も売上が伸びているという。そしてさらに全農と提携した店舗展開も検討されている。そこで、消費者に最も近い立場から、現在の消費の動向、農業への意見を聞いてみた。聞き手は農政ジャーナリスト・坂田正通氏。

ニーズに応えればそれなりの反応が

(いいぬま ひろし) 昭和26年生まれ。49年法大経済学部卒。同年、(株)三愛入社、59年(株)ファミリーマート入社、平成7年総合企画室担当兼業務革新委員会事務局長11年、取締役総合企画室長、12年取締役総合企画室長兼経営管理部長、同年5月執行役員総合企画室長兼経営管理部長、広報部管掌。

 坂田 個人消費が低迷しているといわれていますが、直接、消費者と接しておられるCVSからみるとどうですか?

 飯沼 小売業では既存店の売上が一つの目安となります。百貨店やスーパーはこの既存店の売上高が長期間前年割れをしていますが、CVSも昨年9月以降、前年割れになるなど既存店の売上が伸び悩んでいます。売上というのは客数×客単価ですが、客数はファミリーマートでは3年連続増加しています。しかし、客単価は下がっています。

 坂田 その原因はなんですか?

 飯沼 データ上では1人当たりの買上げ点数が少なくなっていること、1品当たりの単価が下がっていること。1品当たりの単価が下がるという点では、構造改革によって低価格の商品を提供する衣料品のユニクロのようなところが出現しマーケットプライス(市場価格)が形成されれば、他業態のスーパーも専門店もそこにシフトせざるを得なくなります。
 CVSも同様に競合するファーストフードなどが価格を下げ新たなマーケットプライスを作ってきていますから、それに対応する品揃えをすると1品当たりの価格は下がりますね。

 また、1人当たりの買い上げ点数が少なくなってきていることに通じるかもしれませんが、支出構造が変化しているということがいえると思います。さまざまな調査結果をみますと、1人当たりの購買支出金額はあまり変わっていないようですが、携帯電話やインターネットなどの通信費の割合(支出)が高くなり、これまでのような物販支出の割合が低くなってきているというのが特徴です。

 坂田 そうすると個人消費は…。

 飯沼 マクロでいえば消費者心理は雇用環境とか年金など将来の不安もあり、急激な回復は望めないと思います。といってそれほど縮こまっているわけでもないので、お客様の望んでいるものをきちんと把握をして提供できれば、それなりの反応はあると思います。

主婦や壮年男性にまで広がった顧客

 坂田 CVSの客層は若い人、というイメージがありましたが、最近は変わってきているようですね。

 飯沼 客層は広がっています。お弁当などの品質の向上はもちろんですが、個食といいますか小さなパッケージは一人暮らしの若者だけではなく、ご自身で作るとかえって割高になったり無駄になってしまうというお年寄りや少人数家族、また家族の中でも食の好みが違うということで自分用の惣菜を買われる方など幅広くご利用されています。それから、30坪ながら生活をサポートするいろいろなサービス機能が充実していることもあるのだと思いますが、主婦や壮年男性といったお客様が増えていますね。

 坂田 主婦や壮年はやはり食料品を買いに来ているわけですね。

 飯沼 現在のファミリーマートは本当の意味で街の便利屋になってきています。お弁当やデザートなどの食料品はもちろんですが、公共料金や通販料金支払いに利用される主婦が増えています。

環境変化に対応して機能高める

 坂田 今後の重点施策としては…。

 飯沼 1つはCVSであるファミリーマートの基本機能の強化です。お客様が望まれるサービス・商品を開発し提供し続けることはもちろん、それぞれのお店がお客様にあった品揃えをし、接客サービスやクリンネスなど、常にお客様に満足していただける体制を強化することです。
 もう1つは新たなCVSとしての機能の導入です。すでに開始しています銀行共同ATMをはじめとする金融関連サービスへの取り組み、また10月30日から開始いたしましたネットショッピングなど新たなCVS機能を探っていこうということです。そしてこの2つをどのように融合させていくかですね。目指すはスーパーCVS・ファミリーマートです。

 ファミリーマートは1981年に創業しましたが、その機能は常に強化され変化してきています。90年には公共料金の代行収納を開始し、95年には通販に広がり、いまではクレジットを含むかなりの分野で代行収納を行っています。また、91年には店頭で予約チケットが買えるオンラインチケットも導入しております。96年には規制緩和に伴いおコメ、〒郵便切手類の販売を開始するとともに、従来は玩具店で販売していたテレビゲームも取り扱いを開始しました。さらに99年からはドリンク剤の取り扱いを開始しています。お客様のニーズと規制緩和など環境の変化に対応することでCVSの機能を高めてきましたが、さらにどのように成長、変革していくのか、いま、し烈な競争をしています。

 坂田 POSをいち早く導入するなどITを一番活用していますね。

 飯沼 私どもでは、89年に全店にPOSを導入しました。POSは、客層分類キーを押さないとレジが動きませんから、このキーと商品のバーコードで、何時にどの商品がどういう客層に売れたかが分かります。取扱商品のデータはすべてこれで取れますが、取り扱っていない商品データ、トレンドデータをどう収集するかが課題になりますね。

ショップの売上は各加盟店に

坂田正通氏

 坂田 ネットショップのファミマ・ドット・コム(http://www.famima.com)を立ち上げられましたが、どういうものですか。

 飯沼 会員制のネットショップです。昨年10月に立ち上げましたが登録会員はすでに25万人を超えました。会員の特典がありますし、もちろん登録料、会費は無料です。ネット上のショップで商品を購入していただきます。商品は宅配か、お客様が指定する全国どこのファミリーマートでも受け取っていただけます。代金はお店で前払いまたは商品と引き替えにお支払いいただく方式が一番多いようです。
 ファミマ・ドット・コムが他のCVSチェーンのネットショップと異なるのは、ファミリーマートに加盟されているお店のネットショップが開設されているということです。ですから、そのショップの会員の方がそこで買い物をされるとそれはその加盟店の売上になります。

 他のCVSチェーンは本部が運営しているネットショップですから仕組みは違っています。近いうちそれぞれの店(5000店以上)が独自の品揃えしたネットショップになっていきます。実際の商売と同様に、ネット上でもフランチャイジーがそれぞれに品揃えをし、会員とコミュニケーションをとるこの仕組みを「ECフランチャイズ」としてビジネスモデルの特許申請をしています。

 坂田 食料品はネットショップで扱えますか?

 飯沼 コメとか産直品は、注文を受けて出荷準備しますから、従来のカタログ販売よりは鮮度が落ちませんね。入口は1つですが、その先には無限の売りたい人がいるという広がりがあります。注文などのデータは瞬時に届きます。

ファミリーマートの店頭で無料配布されているショッピング情報誌「月刊 ふぁみコレ」。インターネットでもファックスでもショッピングが楽しめる。

 坂田 そうなると商品を探すのが大変ですね。

 飯沼 実際のCVSは無数の商品の中からお客さんのニーズにあったものに絞り込み、30坪の店舗に2800アイテムしか置いていません。ネットでもそれと同じ考えでいきますから、お客様のニーズに合わせて商品は常に入れ替わっていきます。

 坂田 価格の問題もあってCVSの食料品は輸入物が多いような気がしますが…

 飯沼 価格の要素は確かに大きいのですが、一方で安心・安全という観点から減農薬・減化学肥料の食材が求められています。ですから単純に安いから輸入物というわけにはいきません。
 ファミリーマートでは、サンドイッチなどの食材として減農薬・減化学肥料の野菜を1年中、品質的にも一定レベルのものを供給してもらえるように3年ほど前から契約農家方式をとり農家の方を組織化しています。

 さらに、循環型経済活動の一環として、お店から出る生ゴミをコンポスト化し土壌改良剤として農家の方に提供し、そこから作られた農産物を原材料として加工し、お店で販売することにも取り組んでいます。
 農産物や農産加工品についても、お客様のニーズを把握して、それを農家や中間にいる人たちに提供し、それに応じて生産、加工してもらうという他の商品で行っているマーケティング手法をもっと農業に活かすことができれば、いま以上に農業の発展に寄与できると思いますね。

 坂田 コメの販売はどうですか。

 飯沼 秋田、山形や新潟経済連のご協力を得て、ぎりぎりまで籾保管する「籾蔵」というオリジナル商品を出しています。当初は1キログラム、2キログラムパックだったのですが、味が良いと主婦にも人気がでましたので現在は5キログラムも品揃えし、これが売れています。

 坂田 おにぎりや弁当類の仕入れはどのようにされているのですか。

 飯沼 各地に製造拠点があり、弁当工場は54カ所ほどで、そこから1日3回納品しています。

 坂田 他に売れ筋の農産物としてはどんなものがありますか。

 飯沼 以前、ファミリーマートはCVSとしては珍しく丸のままのキャベツやスイカ、泥つき野菜など結構取り扱っていましたが、今はカットフルーツをはじめサラダとかカット野菜など手をかけたものが多くなっていますね。

物流を含めた構造的な改革が必要

 坂田 最後に日本の農業あるいは生産者への注文はありますか。

 飯沼 先ほどもお話しましたが、お客様のニーズを考えると単純に安いからということだけで海外からの輸入物を選択するということはありません。安全性などの視点もこれまで以上に重視していかなければなりませんから。
 そのためにも、日本の農業の担い手や耕作面積が減ってきているようですが、生活者のニーズに応えられるようなものを、納得できる価格で、安定して供給できる体制を早くつくって欲しいですね。コメ不足のときに輸入米を販売しましたが、売れませんでしたよね。やはり日本の食生活、食文化にあっているから日本のコメが売れるんでしょう。それぞれ食文化に合っている農産物がそれぞれの土壌から生まれるんだと思います。その農産物を安定的に、しかも価格を安く供給することを追求していただきたいと思います。私は以前、環境問題も担当していたのですが、主婦の方に聞いたことがあるんです。「環境に優しいものは多少高くても買いますか」と、皆さん「買います」とお答えになるんですが、実際に店に置くとあまり売れません。安心・安全といっても価格とのバランスがとれないものは、実際にはあまり支持されないんです。

 日本の農産物の価格を競争力あるものにするためにも物流コストをはじめとする構造的改革と、効率の良い大規模な生産ができる体制を構築する必要があるのではないでしょうか。産地と消費地をできるだけダイレクトにしたり、生活者のニーズ、情報を提供したり、私どもにできることは積極的に取り組んでいきたいと思います。


インタビューを終えて
 飯沼部長は、「小さくとも元気です」というキャッチコピーにつられてファミリーマート(株)にトラバーユし、15年目に取締役に選任された。若く伸び盛りの人(49歳)でもあり、企業(創業20年)でもある。デパート、スーパーの客足は減ってもコンビニの客数はまだまだ伸びており、一人当たりの利用金額は一回700円程度だという。
 コンビニ業界は早くからITを活用している。代金を支払った時点(POS利用)で、どの年齢層が何を買ったかすべて本部はデーターで知ることが出来る。店頭に置いてほしい商品にアンケートで「はい」と答えても、実際は売れないケースが多い。

 コンビニの売上約70%は食料品である。生鮮品は1日3回の配送になる。死に筋商品はすぐ店頭から引き揚げられるし、24時間365日の営業で近所の店との競争に負ければそのコンビニ店自体が消えるのも簡単。厳しい業界である。

 飯沼さんの心の癒しは、自宅に御香の部屋をつくり、御香の芳ばしい香りの中に1人静かに座っていると心が落ち着くのだという。娘2人の父親。(坂田)



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