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新年特集 「21世紀を農と共生の時代に

自由競争を前提にした農業は
成り立たない


生活協同組合連合会 ユーコープ事業連合専務理事
 河瀬 輝典

(インタビュアー)社団法人 農協流通研究所理事長 原田 康 氏
食の安全性や安定した生産への関心は消費者の間でも高まっているが、一方で個食化、利便性の追求など従来の食生活とは異なる要求も生まれてきている。生産者もこうした動向にどう対応するかが課題といえるだろう。ここでは生協が目指す方向と農協組織への提言などを神奈川、静岡、山梨の3県内6生協の連合会であるユーコープ事業連合の河瀬輝典専務に語ってもらった。聞き手は原田康(社)農協流通研究所理事長。

生協組合員の生活を守る課題を今まで以上に重視

 原田 90年代から、市場経済が世界の潮流になって、競争の勝敗が世の中の価値尺度のような時代になってきました。そこにIT技術などが発達してとくに金融の世界ではグローバル化が進行しました。
 こういうなかでは生協が取り組んでいる人間性や豊かさを追求する市民の運動もなかなか従来どおりにはいかないという問題もあると思いますが、同時にこれからこそ一層生協に期待されるという感じもします。まず、生活協同組合は当面どんな方向を向いて運動を展開されていくかをお聞かせください。

かわせ・てるみち 昭和23年香川県生まれ。46年静岡大学農学部農学科卒業。同年、静岡大学生協入職、47年同生協常務理事就任。48年静岡県西部市民生協入職。62年コープしずおか常務理事、63年同専務理事。平成5年生活協同組合連合会ユーコープ事業連合専務理事に就任。

 河瀬 情報技術などの進歩は組合員の生活が向上する可能性を持っていると思いますが、ただ、競争の時代には、矛盾も広まるんじゃないかと思っています。市場経済では解決できない部分がもっと生まれてくると思いますから、生協としては、組合員の生活を守るという課題は今まで以上に大きくなると考えています。
 それから、技術の進歩、科学の進歩については、われわれユーコープ事業連合としては積極的に取り入れて、それを組合員の生活に生かせるように考えていかなければならないと思っているんです。たとえば、情報技術を持っている人とそうでない人との格差がすでに問題になっていますが、生協としてはこうした問題が起きないようもっと積極的に取り入れていこうということです。

 また、遺伝子組み換え技術についてもまだ解明されていない部分もあるわけですから、情報開示はすべきだという主張はしていますが、この技術そのものを否定するようなことはしません。進歩した技術を組合員、消費者のためにいかに活用するかという立場で積極的に関わっていきたいと思っています。

 原田 世の中が大きく変わっていますが、組合員が生協に結集してくるスタンスというのは、以前と変わっているのでしょうか。それとも基本的には同じですか。

 河瀬 安全、安心、安価。これはずっと変わらないですね。安価を求める意識は、バブルの頃には弱まったけれども、また最近は強まるというように強弱はありますが、この3つはずっと変わっていません。それに加えて最近は、もっと加工度の高い食品、つまり、手間のかからないものを求める意識がすごく強くなっています。
 それから、安価を求めるといっても、今まではとにかくユニット・プライス的な意識が強かったですけれども、今は適量で安いものを、ということです。最近は安くても大量であれば購入しませんね。キャベツでも大根でも半切りのほうが売れますし、白菜も4分の1です。少し高くても、使うのに適した量であり、それが相対的に安いということを求めるようになったと思います。

 原田 以前は自分たちが班をつくって集まって共同購入して、自分たちの労力を含めて安全、安心、そして安価を求める努力をしようという意識があったと思いますが、今は少々高くても個配のほうがいいというニーズもあるようですね。安いということ以外に便利さを求める意識もあるようですね。

 河瀬 確かにそうした意識もありますが、ただ、便利さを優先するというより組合員の生活が忙しくなって、働いたりそれ以外の活動にも積極的ですから、共同購入などに時間を割きたくないということだと思います。
 では、時間を割きたくないからと購入をやめ、そのかわりに多少多くお金を払ってもいいと考えるかといえばそうではないんですね。いろいろな活動もしていてそっちにもお金がかかりますから、かえって食品の価格にはシビアになるということなんです。だから、われわれは今まで以上に難しい要求に応えなければなりません。

商品提供の大きな柱は簡単・便利、適量規格

はらだ・こう 昭和12年東京都生まれ。東京教育大農卒。昭和36年全農(全販連)入会、平成2年大阪支所課長、同年生活部長。平成5年全農常務理事、平成8年(株)全農燃料ターミナル社長、平成11年(社)農協流通研究所理事長。

 原田 農業と生協との接点は、食がキーワードになるわけですが、消費者の食の現状をどうみておられますか。

 河瀬 家庭の食生活が大変に変わってきていると思います。食生活が変わっているということは、組合員の生活そのものが変化していることであって、単身世帯も増えていますし、家族がいても一緒に食事をするということが少なくなっていますよね。
 つまり、キーワードでいえば個食化と家事の外部化の2つで、これが相当長期的な流れで進むんじゃないかと思いますから、それに対応した事業展開をしていかなければならないということですね。

 だから、生協としては、簡単・便利、適量規格の2つを考えた商品提供を大きな柱にしています。できるだけ手間をかけないで作れる、少しの量でやっていけるという方向ですね。
 もちろん、だからといって安全性や環境について関心が薄くなるかといえばそうではなくて、みんなが自立しているという点からすれば社会的問題についても関心を持っていますから、それにも応えていかなくてはならないわけです。

 原田 事業としては競争のなかにありますが、今のような問題を克服していくには、生産から流通、さらに店舗での売り方や組織購買の仕組みを変えるなど大きく一連の流れを変えていくことも必要になりますね。具体的にはどんなお考えがありますか。

事業大規模化だけでなくもう一度“地域”へ着目を

 河瀬 かつての産直運動や共同購入は流通についての革新性があったと思いますが、今後もう一度着目すべきだと考えているのは、“地域”です。地域の農業、農産物に目を向けてそれを消費者にどうつなげるかということですね。そこから何か生まれてこないかと考えています。

 原田 農協も共販制度を構築して農産物の販売を大量流通に組み込んだという歴史がありますが、今になってみると農家からすれば手取りが増えなければ意味がないわけですね。そうなると地域の方に食べていただくものを顔の見える関係で作るというのは、やはり大きな要素でしょうね。

 河瀬 その場合、これからの担い手をどこに求めるのかということが大きな問題になりますが、今のような大規模化だけでうまく行くのかと思いますが。

 原田 そうですね。大規模化しなければいけないものもあるでしょうが、グローバルな競争のなかで農業が生き残っていくとすれば特色を出し地域に密着したものがベースにないと難しいのではないかと思いますね。
 農家も農協も消費者も、お互いに運動としての環境をつくりながら、安心でしかもリーズナブルな価格をつくるという考え方への転換が求められているんでしょう。この点を含めてJAグループへの提言をお聞かせいただけますか。

 河瀬 私が感じているのは、農家のことを出発点にして物事を発想しないといいますか、自分の組織の経営から出発しているんじゃないかということです。
 もう一つは、消費者の要求について勘違いといいますか、たとえばたしかに消費者は安全なものを求めているわけですが、安全だから高いというのでは買わないですよね。果物でも、もっと高く売れるものを生産するために過剰な規格を設けたりして本当に生産者のためになっているのかなと思いますし、消費者の要求からも離れることになってはいないかということです。
 もっと生産者の立場に立って、しかも消費者の要求に応えるようにするには、どうすればいいか、真剣に考えてほしいなと常々思っています。

 原田 確かに農協は見かけ上の価格を高くするといった形で生産指導し、そのなかで農協の経営を考えてきたという問題もあって反省しなければいけない面もあると思います。そこで、農協のほうも営農指導員をもう一度見直そうということになっているんですが、やはりご指摘のように消費者に視点を当てて生産の地点にフィードバックするという役割がないといけないのでしょうね。

自給率を上げるには政府の政策的誘導が非常に大事

 原田 ところで日本の食料は世界各地から輸入されていますが自給率は低く、また、地球規模でみると食料不足の国もあります。こうした国際的な視野でみた食料問題はどうお考えですか。

 河瀬 私としては、必ず食料不足の時代がくるんじゃないかと思っています。人口が増えていますし耕作地そのものが減っていますし、異常気象もありますからね。そういうなかで日本は一方で減反しながら輸入がどんどん増えるというのは正常な事態ではないと思っています。
 ただ、自給率を上げるには、私は政策的誘導が非常に重要だと思うんですね。いわゆる政治です。それを抜きにしては解決しないような気がしています。消費者が食生活を見直し、生産者はもっと安く作る努力をしなさいということは否定しませんが、政府の役割が何かというのが見えてきませんね。しかも自由競争を前提にしているわけです。やはり農業は自由競争だけでは成り立たないと思っています。

 原田 しかも農業には多面的な機能もあって価格だけで評価はできません。やはり消費者、生産者双方にとってしっかりした政策が必要でしょうね。今日はどうもありがとうございました。


インタビューを終えて
 消費者像というものが絞り込みにくく、それだけ生協の組合員の要求も多様化をしてきているなかで、安全、安心、安価というのがいつの時代にも変わらない生協への結集の基本的スタンスであるというのが河瀬専務の分析である。
 この基本の3点も時代によって要求度に強弱があり、組合員の意識、要求を的確に汲み上げた活動を発展させることが生協運動のポイントと指摘されている。

 特に印象的であったのは、かつての産直には、既存の流通の矛盾への挑戦という革新性と情熱があったが、近頃の産直には熱気が感じられないとの見解である。
 消費者と生産者が主体となって流通を自分達の手で改善しようという活動に、生協と農協がバックアップをして事業化をすることで産直が情熱を持った運動に発展する。
 さらに、河瀬専務は生協も「地域」を重視した運営が大切であると指摘をされているが、地域という場で消費者と生産者、地域に住む住民が共通のテーマを持つことで農業が食糧の供給の他にも人が生活をする上で大切な産業であることが理解をされる。

 農協組織も、こういった身近なところにもっと力を入れることが「共生」を計画から実践に移すこととなろう。(原田)



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