自由競争を前提にした農業は 成り立たない 生活協同組合連合会 ユーコープ事業連合専務理事 河瀬 輝典 氏 (インタビュアー)社団法人 農協流通研究所理事長 原田 康 氏
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◆生協組合員の生活を守る課題を今まで以上に重視 原田 90年代から、市場経済が世界の潮流になって、競争の勝敗が世の中の価値尺度のような時代になってきました。そこにIT技術などが発達してとくに金融の世界ではグローバル化が進行しました。
河瀬 情報技術などの進歩は組合員の生活が向上する可能性を持っていると思いますが、ただ、競争の時代には、矛盾も広まるんじゃないかと思っています。市場経済では解決できない部分がもっと生まれてくると思いますから、生協としては、組合員の生活を守るという課題は今まで以上に大きくなると考えています。 また、遺伝子組み換え技術についてもまだ解明されていない部分もあるわけですから、情報開示はすべきだという主張はしていますが、この技術そのものを否定するようなことはしません。進歩した技術を組合員、消費者のためにいかに活用するかという立場で積極的に関わっていきたいと思っています。 原田 世の中が大きく変わっていますが、組合員が生協に結集してくるスタンスというのは、以前と変わっているのでしょうか。それとも基本的には同じですか。 河瀬 安全、安心、安価。これはずっと変わらないですね。安価を求める意識は、バブルの頃には弱まったけれども、また最近は強まるというように強弱はありますが、この3つはずっと変わっていません。それに加えて最近は、もっと加工度の高い食品、つまり、手間のかからないものを求める意識がすごく強くなっています。 原田 以前は自分たちが班をつくって集まって共同購入して、自分たちの労力を含めて安全、安心、そして安価を求める努力をしようという意識があったと思いますが、今は少々高くても個配のほうがいいというニーズもあるようですね。安いということ以外に便利さを求める意識もあるようですね。 河瀬 確かにそうした意識もありますが、ただ、便利さを優先するというより組合員の生活が忙しくなって、働いたりそれ以外の活動にも積極的ですから、共同購入などに時間を割きたくないということだと思います。 ◆商品提供の大きな柱は簡単・便利、適量規格
原田 農業と生協との接点は、食がキーワードになるわけですが、消費者の食の現状をどうみておられますか。 河瀬 家庭の食生活が大変に変わってきていると思います。食生活が変わっているということは、組合員の生活そのものが変化していることであって、単身世帯も増えていますし、家族がいても一緒に食事をするということが少なくなっていますよね。 だから、生協としては、簡単・便利、適量規格の2つを考えた商品提供を大きな柱にしています。できるだけ手間をかけないで作れる、少しの量でやっていけるという方向ですね。 原田 事業としては競争のなかにありますが、今のような問題を克服していくには、生産から流通、さらに店舗での売り方や組織購買の仕組みを変えるなど大きく一連の流れを変えていくことも必要になりますね。具体的にはどんなお考えがありますか。 ◆事業大規模化だけでなくもう一度“地域”へ着目を 河瀬 かつての産直運動や共同購入は流通についての革新性があったと思いますが、今後もう一度着目すべきだと考えているのは、“地域”です。地域の農業、農産物に目を向けてそれを消費者にどうつなげるかということですね。そこから何か生まれてこないかと考えています。 原田 農協も共販制度を構築して農産物の販売を大量流通に組み込んだという歴史がありますが、今になってみると農家からすれば手取りが増えなければ意味がないわけですね。そうなると地域の方に食べていただくものを顔の見える関係で作るというのは、やはり大きな要素でしょうね。 河瀬 その場合、これからの担い手をどこに求めるのかということが大きな問題になりますが、今のような大規模化だけでうまく行くのかと思いますが。 原田 そうですね。大規模化しなければいけないものもあるでしょうが、グローバルな競争のなかで農業が生き残っていくとすれば特色を出し地域に密着したものがベースにないと難しいのではないかと思いますね。 河瀬 私が感じているのは、農家のことを出発点にして物事を発想しないといいますか、自分の組織の経営から出発しているんじゃないかということです。 原田 確かに農協は見かけ上の価格を高くするといった形で生産指導し、そのなかで農協の経営を考えてきたという問題もあって反省しなければいけない面もあると思います。そこで、農協のほうも営農指導員をもう一度見直そうということになっているんですが、やはりご指摘のように消費者に視点を当てて生産の地点にフィードバックするという役割がないといけないのでしょうね。 ◆自給率を上げるには政府の政策的誘導が非常に大事 原田 ところで日本の食料は世界各地から輸入されていますが自給率は低く、また、地球規模でみると食料不足の国もあります。こうした国際的な視野でみた食料問題はどうお考えですか。 河瀬 私としては、必ず食料不足の時代がくるんじゃないかと思っています。人口が増えていますし耕作地そのものが減っていますし、異常気象もありますからね。そういうなかで日本は一方で減反しながら輸入がどんどん増えるというのは正常な事態ではないと思っています。 原田 しかも農業には多面的な機能もあって価格だけで評価はできません。やはり消費者、生産者双方にとってしっかりした政策が必要でしょうね。今日はどうもありがとうございました。 インタビューを終えて 農協組織も、こういった身近なところにもっと力を入れることが「共生」を計画から実践に移すこととなろう。(原田) |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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