現地座談会 あいち知多から始まる あぐりルネッサンス
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新しい地域の枠組み
中嶋 約10年前、旧JA東知多で本格的な土壌調査をしたところ、大変悪い結果が出て、ショックを受けました。そこで、もう一度、地力を蘇らせ、地域農業を復興させようと土づくりを基本とした「アグリルネッサンス構想」を策定しました。 もう一つは、農村女性が作り、加工し、付加価値をつけた農産物を提供するという起業の場、男女共同参画の実践の場でもあります。 白石 専務は、農と食を結びつけた新しい地域社会づくりの枠組みを示されました。それを中心的に担っていく女性への期待が大きいわけです。いかがですか。
青木 JAの理事になった時にあぐりタウンの計画を聞き、夢のような話だなぁと思いましたが、それが現実となりました。JAの意欲的な取り組み姿勢はすごいと思います。 パートナーシップ 鈴木 私はアスパ農園グループの一人です。最初は女性部会がアスパを各家庭に配り、また行政も無関心でしたが、グループが行政に働きかけて、最近では行政がアスパを買って配ってくれるようになりました。これは女性部会の運動の大きな成果じゃないかと思います。 白石 地域の環境をよくしたいという女性部会の自発的な運動を行政が評価したわけですね。 鈴木 その流れで行政はゴミの分別にも動き出しました。 青木 私たちの土づくり運動は結局、食の安全につながっています。やはり一番大事なことは健康です。 女性ベンチャー
白石 健康づくりが一つのキーワードですね。さて鈴木さんは、げんきの郷で惣菜を提供する有限会社の社長ですが、出店の経過はどうですか。 鈴木 以前はアスパ農園の野菜を直売所に出し、また漬物にしてJA直営のコンビニで売っていて、もっと売場を増やしたいと思っていました。しかし、あぐりタウンに入れるとは思っていませんでした。中嶋専務さんからは、女性起業家を育てたいとの意向を聞いていましたが、現実に出店話が持ち込まれた時はびっくりしました。農園グループで相談したところ半数の7人が「やろう」と手を挙げ、そこで7人で300万円を出資して会社を設立しました。 白石 どんなメニューですか。 鈴木 郷土料理の定番のひじきやおからを加えた野菜の煮物が中心ですが、新しく中華風や洋風も考えています。 白石 食材はアスパ農園の無農薬無化学肥料野菜ですか。 鈴木 そうです。即刻配送で。 白石 1日の売上げは? 鈴木 平均すると約20万円です。 中嶋 私は中途半端な女性ベンチャーではいけない、胸を張って、JAの助けなしに、自らの経営責任でやっていける会社にしてほしいと考えて出店者を推薦しました。 白石 商品の特色はどうですか。 鈴木 やや辛目が地元民の好みですが、健康のため、やや薄味に抑えたり、若い客に“おふくろの味”を教えたりしています。「おいしかった」といわれるのが一番うれしい。 中嶋 温泉は午後10時まで営業していますから、完売になります。 白石 惣菜のほかにも女性参加の施設が多いですね。 中嶋 ファーマーズマーケットの「はなまる市」に早朝から出荷する登録会員の6割は女性ですよ。会員は1018人ですが、12月の出荷者は約280人でした。今後もっと増えてきます。搬入は1日3回です。 ところで(株)「げんきの郷」は出荷者の売上げが10万円になると自動的に定期貯金「はなまる定期」に振り替えて年1%の金利上乗せをしています。出荷者だけが対象ですから、JAの信用事業としては優遇金利をつけられません。そこで会社として、いわば奨励金をつけているわけです。 白石 青木さんは、はなまる市へおすしを出しておられますね。 青木 ええ。私の個人経営で、自宅に加工場を設け、女性部会の仲間3人を雇って、1日60パックほどを手づくりしています。地元に伝わる押しずしを商品化したもので値段は3種類詰めの1パックが450円です。早朝5時から作り始めて、はなまる市に持ち込み、午前中にほぼ完売します。 アグリカルチャー 白石 次に女性部会について、フレッシュミセスとかミドルとか層別の活動はやっておられますか。 中嶋 私は次の世代が自然に女性組織を継承できるようにフレッシュミセスの教育をしっかりやっておくべきだと思います。その中で時代に合った参画の方法をJAとして広げていく必要がありますが、JA合併後の女性組織への対応次第ですね。 白石 合併は単なる合体でなく、有機的な相乗効果を目ざすものですからね。ところでJA全国大会決議は、全国平均で正組合員に占める女性の割合を25%にするなどといった3年後の数値目標を掲げましたが、その辺の取り組みはいかがですか。 青木 難しいですね。旧JA東知多の時は女性もいたんですが。合併後のJA理事の女性部枠は3名です。女性の総代はあまりいません。 中嶋 男性のみでなく担い手の6割を占める女性に学習の機会を積極的に提供しようと、13年度は、げんきの郷に「アグリカレッジ」という施設をつくる予定です。そこで、どういう勉強をしてもらうかが課題になっています。 白石 新基本法も女性の参画を前面に打ち出しています。げんきの郷などでの事業活動を通じて起業者としてのノウハウを身につけていくことも大事ですね。そのためにはJAの企画機能なり、全体の風土づくりも必要です。 中嶋 そこで、JAトップの姿勢や思想が問われますね。 白石 JAあいち知多は「元気部会」の組織化など高齢者福祉活動も非常に積極的ですが、どうですか。 青木 早くからホームヘルパーの助け合い組織をつくり、その活動の場ともなるJA福祉センターの設置も県内のトップを切りました。いまヘルパーは約650人です。
鈴木 家事援助グループもできており、訪問活動のほかデイセンターでのボランティアもやり、年間述べ約1000人が活躍しています。 白石 文化面では「農の生け花の会」というのがあるのですか。 鈴木 約100人会員がいます。 青木 野菜などの活用だけではなくわらとか木材とか、いろんな素材や農機具も使ったりして芸術的な大作もつくっています。 中嶋 地元のホテルから飾りつけを頼まれたりもしていますよ。 鈴木 しめ縄も作っていて、デイセンターで教えたりしています。 白石 子どもたちとの関わりは? 中嶋 先生や親だけでなく地域社会も教育に関わるという方向が打ち出されていますから、アグリカレッジは、食と農の教育面でも地域農業に貢献したいと考えています。 白石 話はまた、はなまる市に戻りますが、地域の食材だけでなく、県外JAとの連携もありますね。 中嶋 JAながののリンゴ、JA木曽(岐阜)のシメジ、JA沢田(群馬)の漬物などを供給してもらっています。 白石 名勤生協との交流は? 中嶋 農家と直接話し合って取引をしてもらいます。農協が仲立ちすると農協と生協の両方が手数料を取ることになり、それは生産者にも消費者にも問題です。みみっちいことを考えずに、直接のつき合いを通じて消費者にもっと農業を理解していただくことを目ざしています。 元気引き出す
白石 では最後に、強調したいことをひとことずつお願いします。 青木 従来の農協は男性中心であり、また信用や共済の事業に重点を置いていますが、営農や生活文化面とも力を入れるべきです。家庭においても地域社会においても女性が大きく関っている今日、共同参画社会と言われる中もっと女性の意見を取り入れて、農協の再生を図るべきです。 鈴木 惣菜を作って売るというだけでなく、レシピを紹介したり、試食で意見を聞いたり、食の多様化に対応していきたいと思います。 岡部 パートを含めて約140人がげんきの郷で働いていますが、その9割が女性です。この地域では、かつてなかった雇用機会を創造したという点でも、この協同会社の意義はまことに大きいと思います。 中嶋 農業には元気がありませんね。そこで21世紀を「元気」の時代にしたいと考え、身も心も、また個人も組織も、みんな元気になる施策をどんどん打ち出していきたい。その担い手は女性と高齢者です。 白石 いやぁ、ロマンを高らかにうたい上げていただきました。みんなが共感できるコミュニテイーと家庭づくり、その中心にJAがある、協同組合のある地域社会をどうつくっていくかを目ざすわけですね。いいお話をありがとうございました。 座談会を終えて
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女性参画から始まった意義深い試み JA全中地域振興部生活課課長 松岡 公明氏 全国女性組織50周年記念事業として、@緑、A福祉、B環境をテーマに地域社会への貢献活動を提起していますが、10年前に、緑と環境問題をミックスした形で、しかも女性参画により「アグリルネッサンス」が始まったことを意義深く思います。 ある県の子どもに関する調査では、農村こそ子どもの育児・教育環境にふさわしいというこれまでの固定概念を覆す結果が示されています。つまり、都市部に比べれば、豊かな自然環境のもとで育った農村部の子どもが体力的にも優れていると思いがちだが、結果はその逆でした。また、学校以外の余暇時間の過ごし方では、農村部の子どもの方がテレビゲームの時間が多いし、食生活の内容でも乱れている実態が明らかにされました。 いま、農業もJAも元気がありません。21世紀は男女共同参画の社会づくりを求められています。逆に言うと、「男は仕事、女は家庭」という従来の固定的役割分担を廃し、新たなパートナーシップに基づく社会が形成されなければ、活力と魅力ある「この国のかたち」も描くことはできません。また、安全・安心・共生・環境といった21世紀のキーワードは、とりわけ女性の感性や発想がモノをいうこと間違いなしです。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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