組合員や地域住民の資産管理事業を積極化
JA遠州夢咲は、平成4年に小笠町など5町4JAが合併して発足した。組合員数は約1万5000人で、そのうち正組合員は9700人を数える。県内でも農業の盛んな地帯で、全国有数の生産量を誇るお茶をはじめ、メロン、いちご、トマトなどの施設園芸、米、麦、大豆、花きなど多彩な生産が営まれている。温暖な気候に恵まれ周年出荷が可能な地域で、なかでもメロンは昭和20年代から産地づくりが行われてきた。
11年度の販売事業の実績は、荒茶販売高が過去最高の約47億円を記録するなど茶加工業全体で前年比146%の80億円の実績。
また、畜産を含む農産物全体では約75億円の実績を上げている。
◆農業経営資金への対応を重視
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JA遠州夢咲の本店 |
信用事業部門は、11年度の貯金は約1579億円で前年比103.9%、貸出金は約466億円で同104.2%といずれも年度の事業計画を達成した。
また、12年3月末の自己資本比率は17.42%。他の金融機関は、県内地銀平均12.18%、県内信金平均13.02%、都銀平均11.83%(いずれも12年3月末)となっている。また、リスク管理債権比率も3.20%と他の県内地銀平均などよりも低く、いずれの数字も経営の健全性を示している。
JAの信用事業は、農業経営資金への対応が重要な役割になる。同JA管内でも、茶生産の経営は良好で、生産者の運転資金としての需要は多いという。しかしながら、果実や野菜など多彩な農業が行われていながらも農業生産全体としては、他の地域と同様、価格低迷や後継者不足などによって縮小傾向にあるのが現実だという。
◆農住事業で資産活用を手助け
そこで同JAが最近積極的に取り組んでいるのが農住事業である。
組合員が所有する遊休地を利用した共同住宅の建設を資金面でバックアップしてきた。農業生産の減少と都市化の進行で増えつつある遊休地を組合員の資産活用の観点から手助けする事業でもある。
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石原芳男 常務 |
JAが相談窓口となり、資金融資のほか、建設された共同住宅の家賃振り込みなど運営管理まで担う。この事業には5年ほど前から積極的に取り組むようになり、現在では800室ほど建設された。広い間取りとリーズナブルな家賃が好評で入居率は高いという。また、最近では共同住宅ではなく、一戸建て個人住宅の建設も増えはじめているという。
こうした農住事業は、組合員の資産管理事業として進められているが、一方では、組合員以外の幅広い地域住民の住宅資金需要に応えることもJAの信用事業の大きな柱になってきた。
管内には住宅会社、静岡県企業局等による団地造成も行われ、地元住民の住宅買い換えだけでなく、他地域からの転入者も増えている。JAとしてはそういった新住民も対象に住宅資金ニーズに応えるよう、住宅会社などのルートを通じて接点を求め実績につなげている。
「住宅ローンだけではなく自動車ローンなども含め地域の人々とのつながりを強めていくことがJAにとっての課題になっている」と担当役員である石原芳男常務理事は話す。
◆JAとの対話で「年金相談会」が好評
地域住民とJAとの関係づくりという点では、1昨年から始めた「年金相談会」も挙げられる。
これまでに年に2回開催してきている。1回の開催期間中に8〜9会場で開く。相談役として社会保険労務士を招き、個別専門的な内容を分かりやすく解説してもらい参加者の質問に答えてもらっているため、非組合員にも好評で、これまで約1500人が参加。そのうち新規の年金受給者でJAを振込先にした人や振込先指定替えした人は約1000人にも上るという。相談例で多いのは年金制度の解説や手続きについてなどだが、そうした相談のなかで過去に勤務先で厚生年金の掛け金を支払っているにもかかわらず、受け取りを忘れていたことに気づくケースが多く参加者には好評だ。
現在、同JAには支店と出張所あわせて29あるが、どの店舗にも年金相談員を配置しており、相談員が組合員はもちろん年金受給者の地域住民にも相談会開催を知らせて参加を募ってきた。また、組合員から非組合員に口コミで伝わることも多いという。これまでの参加者のうち7割が年金振り込みをJAに指定していることになり、高齢者が増えるなかでJAの貯金獲得の機会になっているといえる。
また、年金友の会の活動も活発だ。現在、会員は1万2000名を数え、ゲートボール大会やグラウンドゴルフ大会などを開催している。JAにとっても組合員と直接会話ができる場で職員が大会開催の応援をするが、実際は友の会の役員が自主的に行政との連携などをとりながら実施しているというほど積極的な会員が多いという。
石原常務は「高齢者のスポーツに対する意欲は大変高い。年金友の会の主催する大会に出たいからと、振込先をJAに替えたいという人もいるほどです」と話す。
そのほか、JAでは総会や昼食会も開催し会員同士、会員とJAとのコミュニケーションを図る機会をつくっている。
「ITを利用したインターネットバンキングやモバイルバンキングなどにもこの4月から取り組みますが、やはりJAの基本は、組合員をはじめとした地域住民と顔と顔を合わせて事業を展開することが基本だと思います。地域密着による地域振興がJAの役割ではないか」と石原常務は話す。
FP資格所得者の適切な配置で信頼を獲得
◆FP育成重視で地域密着型の事業を推進
そうした地域密着型の事業を推進するためにも、重視しているのが専門知識を持った人材の育成だ。昨年から職員のファイナンシャル・プランナー(FP)、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)資格取得に取り組み始めた。これまでに32人が資格を取得、現在、勉強中の職員も多く今後も増える見込みだ。
FP・FAには、組合員・利用者の資産運用の相談ができる専門的な知識と対応力が期待されている。そのためとくに金融部門の総合渉外担当者が資格を取得することが求められているが、同JAでは窓口担当者もFP・FAの資格を取得している。「利用者の相談に乗るという意味では、個別訪問する渉外担当だけでなく窓口でも対応できるようにすべき。他の金融機関なみの事業推進力が求められている」と石原常務は語る。今後、資格取得者の増加にともなって適切な人員配置も考えていく方針だ。
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JA遠州夢咲のミニディスクロージャー誌 より
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◆地域の全住民を対象にサービス強化をはかる
そのほか、月に1回、ふれあい訪問を実施。また、金融部としてはディスクロージャー誌も作成し情報公開にもつとめている。ペイオフ解禁対応として、大口貯金者には支店長がコミュニケーションづくりを心がけるなどの方針だ。
「やはり基本は地域での信頼関係。JAは地域に身近に支店が存在することが有利性を発揮することになると考えている。今後の地域の農業振興に合わせた商品の提供ととともに、地域の全住民を対象にしたサービスも心がけていかなければならない」と石原常務は話している。
ふれあい活動と相談業務を重視 石川光男代表理事組合長
管内は農業が盛んな地域で組合員の生活も農業所得が中心だ。ただ、全体として農業が厳しい状況にあり、後継者不足の問題も出てきている。
そこでJAとしては後継者育成につながる農業基盤整備事業に取り組むことにしている。
具体的には茶栽培の振興をめざして、総合的園地整備計画を立て、農地流動化による経営規模拡大を促進する。施設園芸では、いちご栽培を対象に高設栽培やトマトの溶液栽培への転換をすすめる経営構造対策事業なども実施する。
またJAの集出荷施設面では、現在、5カ所ある集荷場を1カ所に集約、さらに機械選果や箱づめ作業までをJAが担う体制をつくり、農家が栽培に専念できる仕組みをつくるなどの計画を盛り込んだ5カ年計画に平成13年度から着手することにしている。
こうしたJAの事業展開が信頼されるには、安定した経営も必要になる。ペイオフ解禁を控えJAへの信頼を得るためには、今後は、5カ年計画の中で事業利用高配当(特別配当)を実施することも考えている。
信用事業を取り巻く環境は、インターネットバンキングやモバイルバンキング、24時間稼働のATM設置など急速に変化しているが、基本は人と人とのふれあいだと思う。インターネットバンキングやモバイルバンキングにしても、どの金融機関のサービスを利用するかは人と顔を合わせての相談から始まる。その意味で、今後もふれあい活動など渉外業務と相談業務(FP・FA)を充実させていこうと考えている。
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