◆JA全農・米穀事業の当面する5つの課題
食糧制度は、法施行から6年目に入っています。一昨年は「平成11年産米緊急需給安定対策」、そして昨年は「平成12年緊急総合米対策」が出されました。しかし、これらの対策に一定の評価をしつつも、生産調整達成という現実と、一方で、なのに価格は下落・低迷という現実のなかで、これをどうみるのかという点で、JAグループや関係者の間では、食糧制度の枠組みの基本にふれた意見や懸念が多く出されてきているというのが、最近の特徴といえます。矛盾が深まり、多くの方々が共通してそのことを話題にするようになってきています。逆に言えば、このままでは農業・稲作は危ない、基本的な改革をすすめるチャンスではないか、という認識の広がりと言えます。
米穀事業について、これらの意見等をふまえて大まかに括ってみると、次の5点が課題になっていると整理しています。
1つは、稲作の担い手確保に関連した新たな農業経営所得安定対策(いわゆる農業法人も含めた40万程度の担い手を対象)のあり方について、2つは、生産調整・需給調整に関連し、全体需給(生産調整、備蓄、MA米の国内流通)と産地・銘柄別需給の改善の考え方について、3つは、集荷に関連して、12年産計画流通米の集荷率が51%と前年より0.4%低下したが、この集荷率に対する厳しい評価と集荷反転の方策について、4つは、販売に関連して、これまでも言われてきた「需給実勢を反映した適正な価格形成」の意味とその実現の方策について、5つは、川下分野に関連し、量販店のシェア拡大、その主導による価格形成が川上の価格まで支配しているという状況を、どのようにしたら改善していけるのか、という点です。これらについて、以下、対応の考え方の基本点についてふれてみたいと思います。
◆集落営農等を含む幅広い稲作担い手の確保対策
まず、1つめの稲作の担い手確保対策についてです。
自民党の検討では、「農業法人を含めた40万程度の意欲ある担い手を対象として、他産業従事者並の生涯所得の確保と経営改善をおこなう」としています。しかし、「食料・農業・農村基本法」でうたっている農業の多面的機能の発揮や麦・大豆等の本作化を含めた自給率の向上などの観点からすれば、担い手の対象を40万程度に限定すべきではなく、集落営農等を含む幅広い担い手を対象とする必要があります。また、新たな所得安定対策は、これまでの稲作経営安定対策などの品目別経営安定対策とどのような関係になるのかが重要な焦点となります。これについては、歯止めなき価格下落を前提にした所得対策では、農家が将来を見通して農業投資をすることも、自らの農業生産活動に自負心をもつことも限界があり、生産意欲を引き出のは困難ではないかと思います。所得政策は、再生産可能なコストを償える価格政策と組み合わされた対策にしていく必要があります。
◆米の全体需給と産地・銘柄別需給のあり方
2つめの全体需給と産地・銘柄別需給についてですが、まず、全体需給については、生産調整、備蓄運営、MA米の輸入と供給など、食糧の「需給と価格」の大枠づくりに深くかかわっており、改めて国の果たす役割を明確にさせていくことが大事です。
そこで、次の点を国に求めていく必要があります。
@ポジ配分による計画的な生産(生産調整)を行うことです。
A「備蓄」のなかで果たす需給調整機能を明確にすることです。すなわち、一年古米中心に常に市場に供給する仕掛けにしてある現行の回転備蓄方式では、在庫圧力と販売量の不確定が価格の引下げ要因になります。したがって、棚上備蓄も組み込んだ方式とすること、自主流通米主体の流通制度なので、「備蓄米」の販売は、市場での自主流通米の流通量の過不足時に、買い入れ・供給することを基本とした需給調整機能にしていくのが適切かと思います。
B国内産米の需要を徐々に侵食してきているMA米については、その範囲を限定して大幅な縮減を求めていくこと、とくにSBSについては削減する(3月末に決定する13年度の「基本計画」では、12万tから10万tに削減予定)ことです。
また、産地・銘柄別需給については、需給アンバランスな銘柄について、県段階で販売・在庫状況をみながら、需要に見合った生産と需給改善にJAグループ自らが取り組んでいく必要があります。
◆集荷数量の拡大と集荷率の向上対策を
3つめの集荷率の向上については、JAグループは、集荷数量を拡大して集荷率を反転させることが米事業のスタートだ、と位置づけて取り組んできました。
12年産米の集荷は、残念ながら生産量対比で51%と、過去最低の率に終わりました。計画流通米の集荷率が51%ということは、計画流通制度のもとで需給コントロールできる量が半分しかなく、この半分の量の出荷生産者で計画流通全体を支えているという構図になっているということです。とくに、こうした制度協力生産者の経費負担は相当の額にのぼっており、負担がないか少ない計画外流通米との競争力を低下させる要因になります。これ以上の経費負担は限界にきているといえます。
13年産米では、集荷率反転のため、@集荷の基本となる出荷契約の積み上げと、稲経、とも補償、「基金」への加入推進、A安定出荷協力金等を加味した仮渡方式の拡大、B集荷場所の基準地を、原則倉庫戸前(検査場所)から生産者庭先へ変更、C消費地圏における計画外流通米を含めたJAグループ取扱いの拡大、D条件の整ったJA,県連等による検査実施業務の民営化への取り組み、などの対策に力を入れていくことにしています。なお、集荷・販売に関する詳しい対策は、別項(全農米穀販売部長手記)をお目通しください。
◆販売−価格回復に向けた取り組みを強化
4つめの販売については、今年も価格を回復させる取り組みを最重点に据えます。価格に影響を与える大きな要素として、生産調整・作柄等による全体の需給状況をはじめ、計画外流通米の動向、政府(備蓄)米の在庫・販売状況、MA米の流通状況などがありますが、JAグループの集荷・販売力やその具体的なとりすすめ手法も影響しています。この点で重要なのは、新米流通の最初の段階での価格水準です。この価格がその後の価格水準を左右してしまい、低い価格でスタートすれば、その後はそれにひきづられる傾向があります。そのため、出来秋で、新古の価格逆転にならないような価格形成にしていく必要があり、具体的には、早期米の販売方法と価格設定について工夫することとしています。
また、JAグループ内でこれまでも度々確認してきたとおり、入札における申出価格の慎重な対応や、リベートの廃止などの節度ある販売について、改めて自らの姿勢を正していく必要があります。価格回復を期待する一方で、産地間競争を加熱し、自ら全体価格の低下要因をつくりだし、流通コストを増大させていることは、極めて残念なことです。リベートについては、食糧庁も調査にのりだしており、今後、不当なものと判断される場合の措置の導入などが検討されています。価格低迷と流通混乱が続いている今こそ、JAグループの結束による秩序ある流通と価格回復が求められています。
◆全農と経済連との統合を契機に川下流通・消費者対策の強化を
5つめは、川下の流通と消費者対策です。
全農は、この4月1日から東・西の全農パールライス会社の営業を開始します。この会社は、全農と経済連との第2次統合を契機に、JAグループの卸で、条件の整ったところから会社組織に統合するものです。東は東京に本社を置いて7都県支店、西は大阪に本社を置いて2府県支店でスタートします。量販店、大手外食産業の広域化に対応し、JA卸も広域の事業展開を行い、事業競争力を強化していきます。
あわせて、各県の精米工場の再編、物流体制の整備、情報システムの共有化などにより、徹底した製造コストの削減をはかっていきます。今後は、東・西の全農パールライス会社の経営を軌道にのせながら、広域会社に未参加のJAグループ卸をこの会社に統合させていくことなどが課題となります。
また、量販店主導の価格形成に対しては、前述の会社が業界全体のリーダーシップを発揮しつつ量販店への対応力を強化するほか、産地間協調による節度ある販売(リベートの廃止など)を徹底していく取り組みをすすめます。
さらに、精米表示については、今年4月1日から改正JAS法が適用になります。登録販売業者だけでなく、すべての販売業者に表示が義務づけられること、不適正、不正な表示を行っていた業者に対しては、農林水産大臣名で業者名等が公表されることや、業務改善命令などの指導が行われます。現在、食糧庁は量販店の価格調査を中心に立入検査し、それを通じて販売業者の精米表示の適正化の指導を強化しています。
全農としては、生産者団体の立場から、適正流通推進の一翼を担うべく、DNA鑑定を実施することで準備をすすめています。生産者が丹精込めて栽培した米が適正な表示・価格で評価されるよう支援していきます。
また、米の消費が減少しているなかで、全農としても学校給食拡大の仕組みづくりや商品開発などに引き続き取り組んでいきます。
◆食糧販売事業の3つの課題と対応策
最後に、JAグループの食糧販売事業について簡単にふれます。
食販事業をめぐる環境は、消費者ニーズの多様化、量販店(外資系含む)の台頭、卸業界の経営悪化・再編など、めまぐるしく変化しています。こうしたなかで、JAグループ卸は、@経済連と全農との統合進展と並行して合理的・効率的事業方式を確立していくこと、A消費者の品質に対する関心の高まりに応え、品質重視の商品づくりのレベルアップをはかること、B経営が苦しくなっている卸間の連携を強化すること、を課題としています。このため、具体的には次の考え方で対応していくこととしています。
1つは、新しい全農パールライス東・西日本鰍ノ、未参加のJA卸の統合をすすめていくことです。当面は、広域会社に向けて、14年3月と16年3月の2段階のスケジュールを予定していますが、統合にあたっての条件・基準づくりが大きな仕事です。
2つは、品質管理のレベルアップのための取り組みです。際限なき価格競争が続いているので、卸事業の拡大・安定を確保するには大変な努力が必要とされます。ともすれば、経営第1となり品質が後回しになるというモラルの低下を起こしかねない環境下にあります。しかし、どんなに競争が激しくても、品質管理を怠り、消費者の信頼を失うような商品を提供したのでは、当然のことながら、信頼回復は容易ではなく、以後の取引で相手にされないことになりかねません。JAグループは「安全・安心・美味」の商品提供をモットーとしています。このため、組織の研究会で商品づくりの拠り所となる統一の「品質基準ガイドライン」を策定し、統合県はもとより、JAグループ全卸がそれをもとに同水準の品質の精米を製造・供給できるよう、全体のレベルアップをはかっていくこととしています。
3つは、卸間の連携強化ですが、JAグループ卸が連携して、精米の製造コストを徹底して削減し競争力をつけることが急がれています。新しく広域会社に参加した経済連卸は当然一体的な事業運営となりますが、単独のJA卸会社や経済連卸でも、広域会社への統合をも視野におき、仕入、製造、販売、広告宣伝などの分野で、より効率的な事業を連携しながらすすめていく必要があります。これについても、JAグループ卸による研究会を設置して、卸間連携のあり方・具体策をつくっていくこととしています。
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