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御子柴 茂樹 課長
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高品質・良食味の「かみいな米」づくりをめざす
JA上伊那は、伊那市、駒ヶ根市、辰野町など2市4町4村が管内のJAである。面積では長野県の全面積の10分の1を占める。西に中央アルプス、東に南アルプスが聳え天竜川が流れている。
伊那市街地にあるJAの本所でも、標高は630m。東西の山岳地帯の麓に拓かれた農地は標高1000m以上まで広がる。
JA管内で米を出荷している生産者は約1万3000世帯。耕作面積1ha未満の生産者が中心である。
12年産米の上伊那地区の収穫量は約3万5000t。JAの集荷率は64%と毎年この水準を保っている。20ha程度を経営する大規模生産者もいるが、ほとんどは小規模な生産者のため、計画外流通米といっても業者への販売というより自己保有米か縁故米としての流通がほとんどとJAは分析している。
13年産では33万5000俵(60kg)の生産集荷計画を立てた。同JAが組合員に打ち出した方針では、販売動向に即した作付けと生産重点事項を達成し信頼される「かみいな米」の生産をめざそう、と呼びかけている。
主力品種はコシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれ。市場に対応した米づくりのために、地帯別・品種別に生産計画を立てている。ほかに酒造米の美山錦、ひとごごちなども作付けしており酒米団地として評価も高い。
JAの方針のなかで生産重点事項として掲げたことの一つに「胴割れ米ゼロ%」がある。上伊那産のコシヒカリは1等比率が高く食味も向上して市場からも評価が高まっている。「特A」にランクされている地域もある。
しかし、一部に胴割れ粒も発生していることが課題。防止策としては適期植え付けと適期刈り取りの徹底である。今年は、田植えの時期も遅らせ適期刈り取りの徹底と合わせて品質確保を図る。
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全国でも有数の規模を誇るJA上伊那のカントリー・エレベーター。
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食味については、食味計と品質計で分析し生産者にその結果を知らせ、栽培、施肥方法などの検討を行ってきた。
上伊那地区は、一日の温度差が大きく病害虫の発生も比較的少ない。したがって、この地域では通常の栽培法であっても実質的に農薬の使用量が少ない栽培として消費者から評価されてもいる。現在、東京、名古屋、京都の生協から産地指定を受けて合計約2000tのコシヒカリを販売しているが、これも上伊那米への評価の高まりだ。今後の販売増にも期待がかかる。
さらに重点事項として生産者に呼びかけているのが、カントリー・エレベーターとライスセンターの利用によって低コスト稲作を実現することである。JAにとっては集荷率の向上になる。
向上するカントリー・エレベーター利用率
JA管内にはカントリー・エレベーターとライスセンターを合わせて8つの施設がある。合計処理能力は2万8000tと全国でも有数の規模を誇る。利用率は約74%。カントリー・エレベーターの建設は、昭和50年代から始まったが、利用率は当時と変わらないという。この間、生産調整によって生産量は減少したことを考えると、利用率は向上しているともいえる。
施設集荷以外は生産者からの紙袋での出荷だが、これもJAによる庭先集荷によって行っており、同JAでは「生産者個人による搬入はしないこと」を原則にしてきている。
庭先集荷の場合は、出来秋にJAの職員と臨時雇用者で集荷にあたる。毎年9月末から10月末までの期間、3人1組のチームで集荷する。個袋の集荷はほぼ100%を達成しているという。
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大豆も全量共選している。写真はカントリー・エレベーター内に設置された調製施設。
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協業組織によるスムーズな施設集荷
一方、カントリー・エレベーターなどへも個人での搬入は行わないことにしているが、どのような方式で行っているのか。
営農部米穀課の御子柴茂樹課長は「地域の根ざした協業組織、営農組合が施設集荷を担っている。利用率が高いのもこの組織の力があるからです」と語る。
JAでは、カントリー・エレベーターなどの施設建設が進むと同時に、関係する集落に協業組織づくりを合わせて推進してきた。
協業組織は、今後の地域農業の維持をを考えた場合に集落単位での営農が不可欠と考えたからだ。協業組織は、集落の中核農家を中心に兼業農家も参加して2、3戸から10戸程度でつくられている。現在、約130組織あり、コンバイン、田植え機、トラクターを備え、集落内で田植えや刈り取りなどの作業受託を行っている。
そして、施設への搬入もこうした協業組織が計画的に行うという方式にしたのである。
カントリー・エレベーターなどの利用申し込みは、個人ごとに受け付けるが、出来秋にはJAが申し込みをまとめて、集落の協業組織に刈り取り日の指定と1日あたりの刈り取り面積を配分する。そのスケジュールにしたがって刈り取りから搬入まで行うことにしている。
また、利用率を高めるため、生産者には半乾籾や自分で刈り取りしハゼかけしたものであっても脱穀して籾のまま出荷することもできることなどを伝えている。組織的な対応によってコストダウンと米の品質向上や有利販売が図れることを生産者に強調することも重視し利用率向上を図っている。
このような取り組みについて御子柴課長は「カントリー・エレベーターというハードの建設と同時に、その利用を円滑にするため協業組織というソフトづくりも必要だとの認識が当時からあった」と振り返る。
古い協業組織ではすでに30年の歴史を持つところも出てきている。まさに集落の核として役割を発揮しているといえる。
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JA上伊那の直販所「とれたて市場」
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大豆、そばの全量共選体制で販売にも展望
生産調整面積の拡大にともなって麦、大豆などの本作化が叫ばれるようになり、それを促進する助成も準備された。同JA管内ではこれまで生産調整は100%実施、なかでも大豆、麦、そばの作付けに力を入れてきた。
12年度の実績でみると、大豆は約250haを作付けし、前年より24%増えた。麦は140、そばは520haとなっている。
これらの作物を本作化するにはしっかりした販売体制も必要だ。これまでも大豆、そばなどは作付けされたが、乾燥・調製して出荷されることは多くなく捨てづくりの面もあった。
そこでJAでは昨年、大豆の調製施設をカントリー・エレベーター内に設置し、全量共選体制をとっている。方法は、搬入から乾燥まではカントリー・エレベーターを共用して使用し、調製のみ専用の設備で行うもの。建設費を抑制することもできカントリー・エレベーターの常駐しているオペレーターを効率的に活用することでコストの増大も抑えられているという。そばについても大豆と同様の考え方で、13年度に乾燥調製施設を設置する予定だ。
「生産の定着と販売体制の確立に向けて踏み出そうということです」。
販売面では、地域の大豆を使用した豆腐の加工にも取り組みはじめ、直売所やJA店舗で販売している。小麦についてもオリジナル商品の開発が進められている。
こうした作物の生産振興で大きな役割を果たしたのが、やはり集落の協業組織である。団地づくりの促進でも、これらの組織が作業受託をすることで地域の生産者との話し合いがうまくすすんだ。また、生産者の負担軽減のため、地域とも補償基金のなかから、協業組織に支払う刈り取り、搬送料金の2分1の補助する制度も実施していることも、生産定着を促進させた。
御子柴課長によると今後は集落内でブロックローテーションをいかに確立させるかも重要な課題になるというが、
「そのためにも価格も含めやはり米生産の基盤がしっかりしていなくてはならない。米の生産意欲が減退すれば集落のまとまりも薄らぎ、転作の調整も難しくなる。米づくりは集落の求心力となっているのが実態。JAとしては農地を荒廃させないよう作物生産の誘導を図っていくことが大切になる」と語っている。
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