インタビュー 消費者の「もっと近くに。」 心の通った信頼感を築いて JA全農 大池裕会長に聞く 県域、全国域の長所を生かし組合員にメリット還元を インタビュアー 東京農業大学教授 白石正彦氏 |
「もっと近くに。」を新しいメインメッセージとしたJA全農。3月末には27都府県本部体制となり、事業改革、業務改革などの5大改革を柱にした中期事業構想も打ち出した。大池裕会長はこの改革には「県本部と全国本部が血を通わせて取り組むこと」が大切と強調する。新全農の経済事業の展開方向、課題などを白石正彦東京農大教授が聞いた。 ◆県本部と全国本部が血を通わせた取り組みを 白石 JA全農と経済連との統合は、平成10年に3県連、12年に3都県連、そして今年の4月には21府県連と進んできました。最初に、組織再編の進捗状況をどう評価されているのか、お聞かせ下さい。
大池
これまで全部で27都府県連との統合が実現したわけですが、来春の第3次統合をめざして新たに5県連との合併委員会が発足しています。さらに現在、そのほかに3県程度が統合を検討していますから、来年4月には合計35県程度との統合が実現する見込みです。 白石 第22回JA全国大会決議での全農の事業に関係する点は、地域農業の振興と担い手との連携、生産資材コストの低減、生活関連事業と施設の見直し、それから安全、安心な食料供給による消費者との連携などだと思います。先頃「中期事業構想」を策定されましたが、これは大会決議を受けてのことだと思います。この構想で示された今後5年間の取り組みについてお話いただけますか。
大池
中期事業構想は、事業改革、業務改革、物流改革、組織改革、意識改革という5大改革に、県本部と全国本部が血を通わせて取り組むこと、何といってもこれを第一条件にしています。
◆組織2段としてのJAと県域、全国域の役割発揮を
大池
農協の組織再編は、大きくなって強くなるために合併しようとの方向で進んできました。しかし、大きくなったからといって、果たしてすべてが強くなれるかというと、昨今の経済情勢からしてもそう簡単ではありませんね。
◆生命産業としての農業には行政との連携プレーが大切
大池
農産物の販売は、安心、安全の提供と、消費者の顔がみえる関係づくりを私たちはめざしています。ですから、直売も大切ですが、さらに今後は、その地域の農産物のブランド化への取り組みも大切だと思います。農産物に特色を持たせないと地域の活性化も生まれてきませんからね。 ◆消費者と生産者、県域と全国域の「もっと近くに。」 白石 統合はしたけれども、県域、全国域それぞれの機能をどうつくっていくのかという緊張感が大切だということですね。
大池
先般27県本部長に対して、改めていかに意識改革をし、自分の県と統合した全農をどうつなぐかを考えるかが重要だとお話しました。「もっと近くに。」というメッセージは、生産者と消費者の双方にもっと近づくということですが、それだけでなく内部の組織としてもお互いに近寄らないといけないということです。 白石 そういうシステムづくりについては全国本部が担うということになるわけですね。 大池 そうです。この点をみても統合は大きな価値があると考えています。 ◆農協の今後の事業展開には消費者の意見反映も 白石 先ほど大池会長は血の通った改革といわれましたが、国会では農協法の改正案も審議されていて、成立すると全農にも経営管理委員会の設置が義務づけられます。この場合、青年部や女性部の代表にも委員会のなかに入ってもらうということはお考えなのでしょうか。 大池 先日、青年部と女性部の会長さんが訪ねてきて要請を受けました。理事会と経営管理委員会のあり方については、学識経験者だけで理事会を構成すればいいのか、組織代表は会員の意思反映をするだけでいいのか、あるいはそれをミックスする必要もあるのではないか、など現在検討をはじめています。そのなかで、青年部と女性部の参加の話もあったわけですが、私はこうした組織からも、そしてまた消費者の立場の人にも入ってもらったりして、業務執行に大いに意思反映ができるようにすればいいと考えています。 白石 今後の事業を考えると、これまでのように数字だけで実績を見るというのではなくて、質といいますか、確実に組合員の所得を上げて、そのために生産コストを下げ、価格は下がっても所得を守る。農協の事業としては取り扱いは減りますが、組合員の所得は増える、というようにいかに生産者の目線に立った事業展開ができるかが全農の戦略ではないかと思います。消費者にとっても単に量というよりも、やっぱり国産農産物はいいな、と感動できるような農産物づくりを求めているのではないかと思いますね。 大池 そうでしょうね。先だっても「もっと近くに。」というキャンペーンをおこなったんですが、全国から36万通を超える応募がありました。これを見てもいかに消費者が国産農畜産物にこだわりを持っているかがわかりました。私たちは日本の清らかな水、緑という独特の資源を生かしたなかで農業をしており、消費者との血の通った信頼感を築いて都市との交流もしなければなりません。全農も社会への貢献を掲げています。それは農業、農村を通した都会のみなさんとの交流であり、清らかな水と緑を提供するということだと考えています。 白石 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
インタビューを終えて
JAとその連合組織の経済事業に、組合員が利用結集したくなる内発的な事業システム改革が大きな課題となっている。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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