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生産者・消費者から信頼される組織確立をめざして
特集 新全農のめざすもの、期待するもの

インタビュー
新全農への提言 元気がでる農業へ、リーダーシップの発揮を
住友商事(株)肥料部長 小林 伸太郎
聞き手:坂田正通氏(農政ジャーナリストの会会員)

 農業にとって重要な生産資材である肥料供給を通じて、JAグループと競合も協力もしながら、商系として肥料事業に取組んでいる、住友商事の小林伸太郎肥料部長に、現場の感覚を交えて新全農への提言を忌憚なくお話いただいた。聞き手は農政ジャーナリストの坂田正通氏。

◆全国ネットワークの販売・物流戦略の構築を

 ――小林部長は、長年にわたって肥料事業に携わって来られ、直接生産者とのおつきあいもあり、農業や農村のこと、そしてJAグループについてもよくご存じなわけですが、そういうお立場から新全農をどう見ておられますか?
【略歴】
1947年 福井市生まれ。
1973年 東京大学工学部合成化学科卒業。
同 年 住友商事に入社し肥料部に配属され、
    輸出業務を担当。
1981年 米国住友商事へ。
1988年 住友商事に戻り、肥料輸入国内
    チームリーダーに。
1993年 日東バイオンへ出向し、同年9月に
    同社取締役社長室長に。
1997年 アグロメイトの社長に就任。
1999年 住友商事肥料部長に就任し
    現在に至る。

  小林   すでにご尽力されていると思いますが、生産者・農家が元気になるようなお仕事を、従来以上にやっていただきたいと思います。そのためには、農産物の販売面、資材を含めた物流面、そして開発面が大事だと思います。特に、農産物の販売については、統合が進み優秀な人材がたくさんおられるのですから、販売にどんどんエース級を投入されて、日本農業にもっと活力を与えていただきたいと思います。
 販売面では、安全で安心でおいしい農産物を、時期的にも量的にも安定供給できる全国ネットワークの産地づくりを全農にやっていただきたいと思っています。これは全農にしかできないことですから…。トマト、レタスなどの野菜には、温室と露地がありますが、長い日本列島ですから、南から収穫が始まって北へあがっていくわけです。全農が全国のJAをネットワークして、作物ごとに何月はどこから何トンという感じでプログラムして、量販店や流通業者と全農が代表して取引すれば、価格面でも有利になるのではないでしょうか。そのことで、生産者・農家の手取りが良くなりますし、消費者側も安心・安全な農産物が安定的に供給されることで、両方にプラスになると思います。
 そして、物流面でも全国ネットワークを基盤にして、日本列島ベースの物流を掌握されて運送業者を活用すればよりより効率的な物流が可能になるのではないでしょうか。全農は、北海道から沖縄までカバーされているわけですから、さらに踏み込んで物流システムを構築されてはどうかなと思いますね。
 また、野菜を中心に農産物が海外から輸入されていますが、これに対抗するのは食味とか安心・安全ということになると思います。そのために海外農産物に対抗できるような新しい品種開発や大消費地に立地した低温倉庫物流拠点の構築などが考えられます。これらのことを全農がリーダーシップをとって実現して行っていただければと思います。

◆農地を維持するために政府援助があってもいいのでは

 ――小林部長は北海道や九州で直接、生産者と接触されて現場の状況をよく存知だと思いますが、いまどういう状況でしょうか。

  小林   1993年から97年まで北海道の日東バイオンへ出向して営業担当と一緒に農家をまわりましたし、その後も福岡県の大牟田市にあるアグロメイトに2年余行き、九州各地のフェアなどで生産者と話す機会がたくさんありました。
 最近も、応援で九州でのフェアに行きましたが、野菜輸入が話題になり、「とても息子に跡を継げとはいえない。何とかして…」といわれました。私たちは良い肥料をより安く供給するためにはがんばりますが、抜本的な対策には日本政府が日本の農地・農業と自然環境をいかに守って行くか、その施策に向けて全農が政府に提言して行くことが必要ではないでしょうか。
 日本では海外のような価格支持政策がありませんが、農地を守るためとか環境保全のために農地を維持する、そのこと自体に面積あたりで政府から援助があってもいいと思います。
 もちろん元気な生産者もいますね。これは熊本県でトマトを中心に生産されている方ですが、新JAS法になり、オーガニックの認定を受け、大阪に就職していた息子さんを呼び戻して作付面積を増やしています。この人は「儲からなければ息子に帰って来いとは言えない」といっています。
 九州では私たちはBB肥料以外に、有機配合肥料とか水稲やミカンに使うと食味や甘味があがると評判の肥料も扱っていますが、フェアに来られる水稲農家さんはふたつに大別されました。ひとつは「自分たちは高い肥料は使わない」なぜならば「いくらいい肥料を使ってうまい米を作ってもJAに持って行けば、みんな一緒にされて同じ」だから「肥料は一番安いBB肥料でいい」というわけです。
 もう一方は「減農薬減化学肥料などで生産して作った米を必ずしもJAを経由しないで、すべて福岡の弁当屋と契約して出すなど独自の販売ルートに販売する人たちです。これは例外的な話で、全国の多くのJAが有機/減減栽培米あるいは、野菜、果実などについて栽培指導もしながら産地作りの努力をされていることも事実です。今後とも各地のJAと全農とのチームワークとネットワークによって、こだわり農産物の産地形成と販売推進が強化されて行くことを期待しています。

◆トップの戦略こそが問われているのでは

 ――今回の合併で新全農となって販売が強化されるかどうかが大きなポイントとなるということですね。そのためには、販売に軸足を置いてはどうかと…。

  小林   トップの戦略だと思います。新全農になって販売が強化されるかどうかではなくて、「強化するんだ」ということで適材適所の人材配置をされるとかですね。

 ――冒頭に「生産者が元気が出る農業」といわれましたが、新全農が誕生したことで、手数料が下がったり、コスト低減とかが期待されていますが、それで元気が出るのでしょうか。

  小林   私は手数料が下がることだけが重要なこととは思いませんね。極端な話、手数料が下がらなくても生産者の手取りが増えるようになればいいわけです。そのためには、お米も含めて消費自体が増えるといいですね。冒頭に言いましたとおり、生産者がもっと元気になる仕事をする全農、すなわち販売、物流、開発に従来以上に注力することが、生産者と消費者の双方から今まで以上に評価されることにつながるのではないでしょうか。

 ――日本の会社が海外で指導して輸入してくる開発輸入が増えていますが開発輸入は止められないでしょうね。

  小林   いわゆる「市場経済」ですからね。

 ――それに対抗するためのリーダーシップがあるかどうかですね。

  小林   発揮されている地域はありますので、これを全国規模で底上げしてネットワークを組ませていくのが新全農の仕事ではないでしょうか。

◆顧客満足度を高めるサービスの充実が

 ――系統と商系の競合もありますが、商系の中でも競争をしており、そのなかで仕事を伸ばして来られたポイントはなんですか。

  小林   原料の商売としては、価格もありますが、配船回数とか情報とかのサービスによってお客様に価値を認めていただく努力が評価されているのかなと思っています。住友商事は実質的には戦後生まれの商社ですから、後発として先発商社に追いつき追い越すためには、「違うな」という価値を認めてもらわないと相手にされませんから、ハングリー精神でがんばってきたわけです。

 ――「攻め」の精神ですね。

  小林   一つは、92年12月の日東バイオンとの資本業務提携が大きかったですね。取扱い量の拡大により、配船回数が増えましたし、本船の大型化による価格競争力も強化されました。
 一方100%出資の住商農産が国内の肥料販売を行っていますが、97年に千歳のBB工場を買い取り子会社化し、北海道においては農家への直接販売も開始しており、川上・川下両方に入る戦略でやっています。

 ――それは先ほどいわれた顧客サービス、顧客満足度ということでですか。

  小林   生産者と直接ですと、生産者の方が何を求め、何が不満かということが分かり、早く対応ができることで、評価され顧客満足度につながりますね。一方、住商農産のみならず、日東バイオン、アグロメイトにっとっても卸取引も引続き重要な位置付けとなります。卸取引においても、商店の先におられる生産者が何を求めているか常に意識し対応することが肝要と思っています。

◆新全農対策は、末端の販売力を強化すること

 ――JAはどうなんでしょうね。

  小林   出向していた当時に生産者の方から、「農家が商系から肥料を買うのは、商系の営業からいろんな情報をもらうためだ」と言われたことがあります。「JAには注文書を配って回収するだけの者もいる」とのことでした。もちろん、これがすべてではないし、話に誇張があっただろうとと思います。
 今JAが合併し大型化していますが、生産者から不便になったと聞くことがありますね。地元の支所がなくなりJAの顔が見えなくなった。JAが遠くなったといわれます。これは商系としてはチャンスだから、もっと隈なく回ろうといっています。
 それから全部ではありませんが、リストラで営農指導員を減らしているJAがありますね。これも商系の出番だから、もっと技術力を身に付けようと考え、試験場にいた人とか、大学の研究室にいた人を雇ったりしていますし、社員向けだけではなく農家向けの講習会を開いたりしています。

 ――最後に新全農へ一言…

  小林   最初にも申し上げましたが、農産物の販売、物流網の強化、品種開発などを通じて生産者が元気になるよう施策とっていただき国土保全や食料安保の観点から、新全農がリーダーシップを発揮していただきたいと思います。また私ども商系業者としましても日本農業の存続発展のために新全農および各地のJAと協力させていただける機会を指向して行きたいと考えております。

インタビューを終えて

 東大工学部出身の商社マンというのも珍しい。小林部長は若い頃から営業一筋で腕を振るってきた。肥料事業でみれば、JAグループの商売敵であるが、商人系同士の争いの中でも住商、即ち小林さんのグループは一貫して右肩上がりである。伸び悩みの肥料分野では、既存のシェアーが年々食われたことになる。「新全農」へのコメントではコインの表裏のように成功の期待は半分という。農協の大型合併がすすめば、サービスが行き届かなくなり、逆に商人系のチャンスと檄を飛ばす立場にある。農協支所の機能を商人系が代行するケースが全国にはよくあるという。
 小林さんは、2年前まで日東バイオン(株)、アグロメイト(株)出向中(社長)、農家とよく酒を酌み交わした。農家の要望・苦情がどんどん入ってくる。他の先進国がやっているように国土保全か環境保護を切り口に補助金を農業に持って来る事しかありませんよという。語り口は優しいが、内容は辛口の論客。福井県出身。 (坂田)


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