インタビュー 新全農への提言 元気がでる農業へ、リーダーシップの発揮を 住友商事(株)肥料部長 小林 伸太郎 聞き手:坂田正通氏(農政ジャーナリストの会会員) |
農業にとって重要な生産資材である肥料供給を通じて、JAグループと競合も協力もしながら、商系として肥料事業に取組んでいる、住友商事の小林伸太郎肥料部長に、現場の感覚を交えて新全農への提言を忌憚なくお話いただいた。聞き手は農政ジャーナリストの坂田正通氏。 ◆全国ネットワークの販売・物流戦略の構築を ――小林部長は、長年にわたって肥料事業に携わって来られ、直接生産者とのおつきあいもあり、農業や農村のこと、そしてJAグループについてもよくご存じなわけですが、そういうお立場から新全農をどう見ておられますか?
小林
すでにご尽力されていると思いますが、生産者・農家が元気になるようなお仕事を、従来以上にやっていただきたいと思います。そのためには、農産物の販売面、資材を含めた物流面、そして開発面が大事だと思います。特に、農産物の販売については、統合が進み優秀な人材がたくさんおられるのですから、販売にどんどんエース級を投入されて、日本農業にもっと活力を与えていただきたいと思います。
◆農地を維持するために政府援助があってもいいのでは
小林
1993年から97年まで北海道の日東バイオンへ出向して営業担当と一緒に農家をまわりましたし、その後も福岡県の大牟田市にあるアグロメイトに2年余行き、九州各地のフェアなどで生産者と話す機会がたくさんありました。
◆トップの戦略こそが問われているのでは
小林 トップの戦略だと思います。新全農になって販売が強化されるかどうかではなくて、「強化するんだ」ということで適材適所の人材配置をされるとかですね。 ――冒頭に「生産者が元気が出る農業」といわれましたが、新全農が誕生したことで、手数料が下がったり、コスト低減とかが期待されていますが、それで元気が出るのでしょうか。 小林 私は手数料が下がることだけが重要なこととは思いませんね。極端な話、手数料が下がらなくても生産者の手取りが増えるようになればいいわけです。そのためには、お米も含めて消費自体が増えるといいですね。冒頭に言いましたとおり、生産者がもっと元気になる仕事をする全農、すなわち販売、物流、開発に従来以上に注力することが、生産者と消費者の双方から今まで以上に評価されることにつながるのではないでしょうか。 ――日本の会社が海外で指導して輸入してくる開発輸入が増えていますが開発輸入は止められないでしょうね。 小林 いわゆる「市場経済」ですからね。 ――それに対抗するためのリーダーシップがあるかどうかですね。 小林 発揮されている地域はありますので、これを全国規模で底上げしてネットワークを組ませていくのが新全農の仕事ではないでしょうか。 ◆顧客満足度を高めるサービスの充実が ――系統と商系の競合もありますが、商系の中でも競争をしており、そのなかで仕事を伸ばして来られたポイントはなんですか。 小林 原料の商売としては、価格もありますが、配船回数とか情報とかのサービスによってお客様に価値を認めていただく努力が評価されているのかなと思っています。住友商事は実質的には戦後生まれの商社ですから、後発として先発商社に追いつき追い越すためには、「違うな」という価値を認めてもらわないと相手にされませんから、ハングリー精神でがんばってきたわけです。 ――「攻め」の精神ですね。
小林
一つは、92年12月の日東バイオンとの資本業務提携が大きかったですね。取扱い量の拡大により、配船回数が増えましたし、本船の大型化による価格競争力も強化されました。 ――それは先ほどいわれた顧客サービス、顧客満足度ということでですか。 小林 生産者と直接ですと、生産者の方が何を求め、何が不満かということが分かり、早く対応ができることで、評価され顧客満足度につながりますね。一方、住商農産のみならず、日東バイオン、アグロメイトにっとっても卸取引も引続き重要な位置付けとなります。卸取引においても、商店の先におられる生産者が何を求めているか常に意識し対応することが肝要と思っています。
◆新全農対策は、末端の販売力を強化すること ――JAはどうなんでしょうね。
小林
出向していた当時に生産者の方から、「農家が商系から肥料を買うのは、商系の営業からいろんな情報をもらうためだ」と言われたことがあります。「JAには注文書を配って回収するだけの者もいる」とのことでした。もちろん、これがすべてではないし、話に誇張があっただろうとと思います。 ――最後に新全農へ一言… 小林 最初にも申し上げましたが、農産物の販売、物流網の強化、品種開発などを通じて生産者が元気になるよう施策とっていただき国土保全や食料安保の観点から、新全農がリーダーシップを発揮していただきたいと思います。また私ども商系業者としましても日本農業の存続発展のために新全農および各地のJAと協力させていただける機会を指向して行きたいと考えております。
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農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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