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生産者・消費者から信頼される組織確立をめざして
特集 新全農がめざすもの、期待するもの

農協の経営体質の改善・強化へ
企業合併の教訓から学ぶ全農統合連合の課題
明治大学商学部教授  押尾 直志

JA全農と21府県経済連が4月1日に合併し、農協の経済事業改革に向けて事業・組織体制の再構築への取り組みが本格的に始まった。JA全農と経済連との合併は98年10月と2000年4月に6都県経済連との間で実現し、今回の統合連合の発足に至った。来年4月にも引き続き、第3次統合が予定されている。JA全農統合連合は、昨年4月に全国一斉統合したJA共済連に続く農協改革の第2幕で、今後農協改革にいっそうはずみがつくことになろう。農協改革は言うまでもなく、農業・食料・農村をめぐる環境や市場・経済が急速に変化しつつあり、組合員や事業利用者の生活を守り、向上させるために農協の経営体質を改善するとともに、いっそう強化する必要があるからである。
 バブル崩壊後、外圧に加えて不況の長期化・深刻化にともない、規制緩和政策はさらに推進された。それは、バブル期の乱脈投資のツケである不良債権ばかりでなく、景気低迷にともなう経営危機によって発生する不良債権をも増大させる結果となった。
 政権の維持と保身に終始する政権政党と目先の利益に固執する財界のもとで、構造改革は絶えずかけ声倒れになり、場当たり的な規制緩和政策のために市場は混迷を深めることとなった。不良債権処理と構造改革とは、相互に密接にかかわっているが、後者は再三にわたって先送りされてきた。
(おしお ただゆき)
昭和24年千葉県生まれ。
昭和52年明治大学大学院
商学研究科博士課程。
62年明治大学商学部教授、
平成5年〜7年日本
協同組合学会常任理事、
7年〜8年福島大学
経済学部非常勤講師、
10年厚生省・「生協の
あり方」検討会委員、
11年〜現在JA共済連
共済約款・共済掛金率
審議委員会委員。

◆存続のための合併は多大な犠牲をともなう

 こうした状況の中で、企業はアメリカによるIT戦略に巻き込まれ、多額のIT投資を余儀なくされている。その負担は、リストラによる人員削減、不払い労働の拡大や賃上げ抑制、企業年金・団体保険をはじめ各種福利厚生制度の見直し、アウトソーシングの利用など業務の外注化によって支出を抑制し、徹底したコスト管理によって賄われている。しかし、構造不況とそれにともなうデフレ・スパイラルの進行、および規制緩和の進展による市場競争の激化は、企業の存続をも脅かし始め、否応なく生き残りをかけて提携・合併、持ち株会社の設立などを模索するところも増えている。とくに、日本版ビッグバンでグループ化を強めている銀行や保険会社の場合に顕著である。ただし、存続のための合併は実際、人員削減と不良債権処理の絶好の機会となっている。少なくとも、わが国における「市場機能万能論」は、労働者や中小・零細企業、さらには国民・消費者の多大な犠牲をともなっていることを忘れることはできない。
 近年の企業の経営危機や経営破綻は、その多くが経営判断力の不足・見通しの甘さ、あるいはモラル・ハザード(道徳的危機)を回避するためのチェック・システムの欠如に起因していることが指摘されている。そのために、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の必要性が認識されるようになり、社外監査役体制や学経取締役制度を導入する企業も出てきている。しかし、利害関係者として、チェック機能など重要な役割を担うべき労働組合や地域住民は、ほとんど除外されたままである。NPO・協同組合のキーワードである「共生」や「持続的発展可能な社会」、あるいは「社会貢献」などを企業活動の目標に掲げる企業も増えてきているが、民主的なチェック・システムさえも導入されていないのが現実である。また、行き過ぎた規制緩和は社会的問題を生み出しており、逆に法的規制を加えなければならない状況になってきている。このため、企業・事業体にとってコンプライアンス(法令遵守)への対応も非常に重要になっている。

◆JA全農の統合は民主化を促進するものに

 他方、JA全農にとって企業の経営危機・経営破綻や合併等から学ぶべきところは少なくない。何よりも市場競争への過度の傾斜は、利益獲得を最優先させる結果、効率性のみを追求し、事業体の論に支配されることになりかねない。効率性の追求は、早晩規模の経済性に依拠せざるを得なくなり、合併へと収斂することになるであろう。JA全農統合は、企業の合併や再編と根本的に目的を異にし、あくまで民主化を促進する統合でなければならない。系統3段階組織とそれにもとづく事業運営は、組合員の意思を公正に反映する民主的な制度であったはずであるが、事業の拡大の過程で組織が硬直化し、しかも事業体の論理が優先されてきたことの戒めが、今回の統合の背景にあると考えられる。JA−JA全農という2段階の組織と事業の体制に再編成されることによって、組合員の意思が統合連合に直接反映される仕組みが確立されることを期待したい。

◆広く地域住民への情報発信を

 平成8年の農協法の改正で導入された経営管理委員会は、これまでほとんど実行されていない。とくに、経営管理リスクへの対策として内部管理体制を早急に確立し、経営危機・経営破綻を未然に防止する内部システムを日常化していくことが必要である。同時に、チェック・システムの整備を図り、外部監査体制を強化するために、組合員参画を促進し、コーポレート・ガバナンスを制度化することが不可欠である。その際、次世代層や女性組合員の参画をいかに促進するかが、重要な課題である。
 去る3月31日に開催されたJA全農第25回臨時総代会で決定された「中期事業計画」に盛り込まれた5大改革は、こうした民主化を促進する理念にもとづいていると受け止めたい。
 さらに、JA全農統合をより実効性あるものとするためには、情報開示への取り組みを強化することが重要である。JA全農としての説明責任(アカウンタビリティ)を明確化するとともに、組合員や事業利用者の開示請求手続きを制度化するとともに、広く地域住民への情報の発信を促進していくことが望まれる。


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