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(むらた たけし)
昭和17年福岡県生まれ。
昭和44年京都大学大学院
経済学研究科博士課程中退。
金沢大学経済学部教授を経て
現在、九州大学農学部教授。
主な著書・訳書は「現代農業
保護貿易の研究」
(金沢大学経済学部研究叢書6)、
「アグリビジネス・アメリカの
食糧戦略と多国籍企業」
(共訳・大月書店)など。
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◆九州で長崎県とともに統合の先頭を切る
本年4月1日、九州における経済連の全農との合併では長崎県とともに先頭を切って、全農福岡県本部「JA全農ふくれん」が誕生した。
福岡県では、平成9年12月の「第35回JA福岡県大会」において「JA広域合併の促進並びに県連の組織・事業改革と支援体制の確立」が決議され、23農協へのJA合併が目標とされ、現在26農協にまで合併が進むとともに、県連についても平成10年には購販連と園芸連が合併して「JAふくれん」になった。
このJAふくれんと全農との統合でも、その基本的な考えは、「組合員の視点に立ち、組合員が最大限のメリットを享受できる事業運営とJAの補完機能の効率的な発揮を基本に、事業・組織二段にすることにより、専門化・高度化した事業機能を発揮する新しい連合会・全農として再編成」することにある。そこで構想されている新「全農福岡県本部」の機構イメージは、「地域の農業振興・営農指導に連動した生産資材の推進・農産物の販売等、組合員・JAのニーズに総合的に対応できる機構」だとされている。
◆福岡県農業振興協会の設立
この統合を支援すべくJA福岡中央会が平成12年に立ち上げた「福岡県JA組織整備専門委員会」は、(1)統合が経済事業で波及効果を発揮すること、(2)JAの広域合併が総じて営農指導事業の脆弱化をもたらし、合併後の指導員の配置や営農センター構想などに対する生産者の不満が顕在化しているので、「営農指導体制の再整備」を行うことを重要な課題として提起した。具体的には購買事業では農業生産資材をどれだけローコスト化できるか、販売事業では生産指導と販売の一貫体制を県域で統合することでどれだけ組合員の目に見える組織になりうるかが問われているわけである。
JA全農ふくれん総括副本部長の井土勝也氏によれば、購買事業で統合の経済メリットを発揮するにはまだ時間を要し、組織的にも県域を越えて九州北部4県の物流センター構想や、全農福岡支所の再整備などの課題を残している。
生産指導と販売の一貫体制に関しては、全国的にみても注目される体制の整備を行った。統合と同時に「福岡県農業振興協会」を設立、3年間で社団法人化をめざすとしている。この協会は、県内JAとJA全農ふくれんを正会員、JA福岡中央会と福岡県を賛助会員とし、(1)JA営農指導事業の支援の高水準化、(2)地域農業マスタープラン策定支援、(3)生産者組織の活性化、(4)福岡県ブランド・地域ブランドの推進、(5)県行政との連携、などを担う「地域農業振興のシンクタンク機能」を果たすことを目的にしている。
JAの広域合併がJAを組合員から遠い存在にさせるのではないか、営農指導がますます弱まるのではないかという組合員の危惧や、統合によって福岡県独自の農政マスタープランができなくなるのではないかという疑問に真正面から対応し、「地域密着型」の事業を展開するという意気込みがうかがえるのがこの協会である。
◆JA全農ふくれんに期待する
誕生まもないJA全農ふくれんへの生産者の期待を、JA糸島で聞いた。
JA糸島は、昭和37年に郡内の14農協2連合会が1郡1農協に大合併して生まれた広域合併JAの先駆である。平成9年には営農総合センター、翌10年には園芸流通センター(総事業費19億6千万円)を設置している。広域合併JAが営農指導事業と経済事業を一体的に取り組み、作物別専門別対応を行う機能を発揮するという課題を、着々と実現してきたのがJA糸島だといってよい。
園芸流通センターは柑橘糖度センサー、トマト・みかんカラーセンサー、真空予冷、エチレンカット倉庫などの新鋭設備を装備し、多品目の野菜果実の単価引き上げ、販売実績で成果を上げてきた。
しかし、ここにきて深刻な経済不況と野菜輸入の激増のもとでの価格暴落は、JAの販売事業に深刻な影響を与え、生産者とJAにとっては、生産および出荷をどれだけ低コスト化できるかが問われる事態になった。WTO体制のもとでの農政転換は食糧法をはじめ最低価格支持制度を放棄しているなかで、わが国農業は今や「平成農業恐慌」に突入していると考えるべきである。合併JAと生産者が全農統合連合を厳しく評価し、同時に大いに期待するのは、こういった農業情勢にあるからである。
JA糸島の高田隆治参事や営農部の職員の声を紹介しよう。
「営農技術指導については、それがきわめて地域的な特性をもっているので、全農県本部に期待するのは無理ではないか」
「期待したいのは、ひとつは販売面での効果である。発足したばかりの福岡県農業振興協会には、福岡県産ブランド化について、大いに成果をあげてほしい。価格が上がる可能性がほとんどないなかで、輸入品と対抗する流通システムを開発することに全力をあげてほしい」
「農業生産資材の系統利用高を引き上げたい。肥料・農薬はまだしも、一般資材、たとえばダンボールやビニールなど出荷資材は、コストを下げるためには商系に依存せざるをえない。商系との取引ではしっかりした契約の締結や相手企業の信用度調査が不可避である。現在では200社もの取引相手があって、これが系統一本になれば、大いにコスト低減になる。全農県本部には、価格競争での優位さに加えて、資材の在庫ロスや発注ロスの低減のために期待に応えてほしい」
また、同農協組合員で福岡県稲作経営者協議会会長の井田磯弘氏(水稲20ha・麦20ha経営)の期待を紹介しよう。
「第一に生産資材の購買事業については、JA糸島の組合員は圧倒的に系統利用である。稲作経営者協議会の会員のような大型農家については、県本部レベルで肥料の年間契約による直接販売をぜひ実現してほしい。県本部に数名の生産資材の営業担当専門職員を配置して、県内の大型経営を巡回させればよい。私の肥料購入額は年間400万円になるが、これを月別に必要量を県本部と契約し、工場から直送してもらえば、単価ダウンと適期納入ができる。農機具も系統利用は修理を含めたサービスについて安心できる。全農への統合によって県本部の対メーカー交渉力は窓口一本化の効果を発揮できるはずだ。これまで、県間で一物数価であった農機具の価格引き下げをぜひとも実現してほしい」
「販売事業については、園芸はともかく、コメについては後手に回ったのが福岡県であるので、県本部にはぜひともコメの販売力を強化してほしい。すでにコメは県外にまで輸送コストをかけて売るメリットはなくなった。福岡県の県内消費量は33万t、生産量は20万t余りなのだから、県本部のコメ販売戦略は地産地消を基本にすえるべきだ。昨年夏、主食用にミニマム・アクセス米(SBS輸入米)として輸入されているコメの産地を中国の黒龍江省に訪ねたが、全国で10万tのSBS輸入米のうちの1割以上が、なんと福岡県内の卸売業者に買われていると聞いて驚いている。もっと、県内で県産米を消費してもらう戦略を確立すべきだ。例えば、県内のコメ産地JAと都市部JAの間でコメ取引を拡大・調整し、都市部JAにはブレンド技術を確立させて精米販売を伸ばす。JAが精米を販売する直営小売店を都市部に設置するよう県本部が指導・バックアップを行う。まずは県本部が実験店舗を開いてみるのはどうか」
「営農指導について県本部に期待したいのは、売れるものづくりの情報提供の強化につきる。例えば、いま栽培しているコメ品種のミルキークィーンは全国稲作経営者協議会ルートで手に入れたものであるが、このような情報はぜひとも県本部から真っ先に入ることが期待される」
全農福岡県本部「JA全農ふくれん」には、JAや生産者から熱い期待が寄せられている。
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp
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