●広域卸会社への統合
――今年の4月に、JAグループの広域卸会社として全農パールライス東日本、全農パールライス西日本が誕生しました。これに参加したのは9県ですが、今後さらに拡大していくのでしょうか。
江川 昨年11月に全国の食販担当部長の会議を開き、JAグループの競争力を強化していくために、16年4月を目標に全国のJA卸を東・西の広域会社に統合をしていくという方向を確認しています。また、今年の夏に開催する食販事業研究会でもそのための具体的な議論を進めていきたいと考えています。
いまJA卸は、広域会社に参加したのが9県、単独で卸会社をつくっているのが24県、従来の各経済連の協同会社に業務を委託しているのが3県、1県1JAの奈良と香川、それ以外に経済連卸が8つと、全国に46あります。
この全国のJA卸が東・西パールライスに参加するまで時間の猶予がありますが、それまでに統合してくる仲間を受け入れられるように、東西広域卸会社が経営基盤の強化をはかっていくことがいま一番求められていると考えています。
また、「16年4月に統合しよう」という心の準備はできたにしても、目標時に一気に統合できるわけではありませんから、それに向けた条件整備をいまから進めていきたいとも考えています。
●統一品質管理基準でパールライスの信頼を
――具体的には、どのように条件整備を進めていくのでしょうか。
江川 パールライス事業では、2つの研究会を立ち上げていますが、そこで具体的に諸課題を研究し実践していこうとしています。
それは品質管理研究会とマーケティング研究会です。品質管理研究会は5月に第1回を開催し、7月に2回目を開催する予定にしています。マーケティング研究会は、6月29日に第1回を開催しました。
――品質管理研究会ではどのようなことが論議されているのでしょうか。
江川 品質管理研究会では、JAグループの品質のレベルを全体的に底上げするために何をするかということを話し合っています。
いままでは商品名として「パールライス」を使ってきましたが、現在は46のJA卸の内、36が会社化され、「パールライス」が商号として使われています。消費者からは「安全・安心・美味」が求められていますが、これはJAグループのモットーでもあり、そのことで消費者から信頼もえているわけです。このパールライスに対する消費者の信頼を裏切らないために、いままでは各県ごとにつくっていた品質管理基準を統一し、全体を底上げしていこうということです。また、27都府県が全農と統合したわけですから、県ごとの違いをいうわけにはいかないということもあります。
いま品質管理研究会で提案しているのは、2000年バージョンのISO9000をクリアできる品質管理基準を作ろうということです。そしてJA卸のなかでレベルの高いところでは、環境に優しい、環境に配慮した品質管理ということでISO14000をクリアできる品質管理基準をと考え、そういう方向で品質管理マニュアルをつくろうとしています。
しかし、ISOを取得したり、それを毎年更新していくにはかなりの経済的負担がかかりますので、すべてのJA卸がこれを取得することは難しいといえます。
そこで全農では、JAグループで確認された統一品質管理基準をクリアできたものについては、全農として品質認証をし、精米単位で全農が品質を保証した認証マークをつけるようにしていきたいと考えています。これはこれからの研究会での論議を重ねる必要がありますが、最終的にはそうした方向でいきたいと思っています。
●ISO手法導入で意識改革をはかる
――ISOの手法で品質向上をはかっていこうということですか。
江川 ISOの手法を導入し、ISOを取得したからといって必ずしも品質のレベルがあがるわけではありません。ISO9000はいわばマニュアルづくりですが、マニュアルをつくるために職員が参加しますから、その過程で意識が改革されることが大事なわけです。意識が改革されることで、品質への取り組み意識が強まり、そのことで究極的には品質の向上につながると考えています。
――品質向上への意識改革をはかっていく・・・
江川 そのことで、統合に向けてJAグループ全体の品質をレベルアップしていこうということです。
●効率的な投資、施設の共同利用でコストを低減
――マーケティング研究会では何を論議していくのですか。
江川 広域卸会社への統合を待たずに施設の共同利用などによって、いまからコストを下げられるものについては、できるだけコストを下げる努力をしていきたいと考えています。
いま全国にJA卸の工場は61あります。そしてその稼働率は52%くらいです。いままでは、それぞれが県域を対象にして製造・販売していましたから、多少のロスがあってもよかったわけです。しかし、統合したときには、東日本、西日本を営業エリアとした工場の編成をするわけですから、従来のような工場配置である必要はなく、産地の工場、消費地の工場、地域の需要を満たす工場を合理的に配置するように、工場の統廃合を進めていきたいと思います。
単純に計算すれば、稼働率52%ですから、いまの半分程度の工場でも十分だということになります。稼働率が倍になれば製造コストを相当に下げることができますから、そのことでJA卸の競争力を高めることができますし、高レベルな品質の精米商品を供給することも可能になると思います。
――重複するような設備への投資もいまから検討していけば避けられますね。
江川 過剰投資を避けるための施設の共同利用とか、将来の工場再編をにらんだ設備投資のあり方も、マーケティング研究会のテーマです。
例えば、いま生協を中心に人気がある無洗米は、昨年は25万t程度の需要がありましたが、今年は飛躍的に伸びると予測されていますし、量販店が力を入れれば短期間で100万tレベルにいくのではと思います。しかし、全国で設備投資をしても無駄になりますから、相談をしながら施設を共同利用できるところは共同利用することで、製造コストを下げて、その分品質のレベルアップをしていくことが大事だと考えています。
――仕入についてはどうですか。
江川 仕入についても、できるだけ広域卸会社に集約化をして、それによって有利購買ができるように進めていきたいと思っています。
●いま全体でできることから手をつけて
――統合をにらみながら、いまからできることはやっていこうということですね。
江川 いまコメ卸は、価格面でみても量販店のバイヤーにプライスリーダー権をとられていますし、商社がコンビニなど川下に突き刺さり、そこを拠点にコメのビジネスに参入してきています。それに対抗するためにJA卸の力を結集し広域会社をつくっていくわけですが、個々の力を足しただけでは競争力の強化にはなりません。
競争力を高めるには、工場を再編成し、集約化することで製造コストを下げることができますし、配送コスト、物流コストも下げていけますし、品質のレベルアップをすることも可能になるわけです。
そのために、品質管理研究会とマーケティング研究会を通じて、いまお話したような課題を全体の認識として統一していきたいと考えているわけです。
●消費者ニーズに応え消費の拡大を
――商品面ではどうですか。
江川 最近は、各産地が努力をして、どの産地の銘柄をとっても相当の食味レベルに達していて食味では大きな差がありません。いままでは、テレビなどでは新しい品種がでるとそれを紹介することが多かったのですが、最近は最初に取り上げられるのが無洗米です。
いま消費者のニーズは無洗米に代表されるように、簡便性・利便性を求めています。そして発芽玄米など健康食品も大きなニーズです。つまり、単なる精米ではなく付加価値をつけたものが注目され、売り方が変わってきているわけです。
また、低アレルゲン米のAFTライスを東日本パールライスで取り扱うことにしていますが、全農直販の無菌パックとか、付加価値をつけた商品を含めて、各JA卸で設備投資をしていては無駄ですから、JAグループ全体の商品として取り扱って売り込みをし、消費を拡大していきたいと考えています。