◆おいしいのはあたりまえ
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お米ギャラリー心斎橋 |
消費者のコメへの関心の持ち方が変わった。コメの売り方が変わった、という話を最近はよく聞く。例えば、お米ギャラリー心斎橋(大阪)の岡田秀美所長は「前は産地や銘柄米の問い合わせが多かったが、最近は少なくなった」「最近は、発芽玄米や無洗米などの質問が多い」という。お米ギャラリー銀座(東京)の神長暉所長も「若い人を中心に、手間のかからない無洗米」ニーズが高まっていることと、健康志向に応える胚芽米・巨大胚芽米、発芽玄米とか、普通のコメとは違う楽しさを演出する炊き上がりがカラフルで食卓の彩りがきれいな赤米・黒米、アミロースが少なく食感がいいミルキークィーンなど、新形質米への関心が高くなっているという。
この背景には、産地間競争によって、どの産地・銘柄でも品質が向上したため、消費者の関心が簡便性と健康志向に移行してきていると考えられる。だから産地・銘柄米への問い合わせも減っている。いまコメ消費のキーワードは、簡便性と健康志向だといえる。そして安全・安心・美味はあたりまえのこと、当然なこととなっている。
◆高齢者の作り慣れたコメで消費を拡大する
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岐阜パールライスの
「発芽玄米」 |
健康志向に応えるコメとしていま注目を集めているのが「発芽玄米」だ。JAグループでは最近、鹿児島パールライスや籾のまま発芽させる「籾殻発芽玄米 芽吹物語」を販売しはじめたJAこまち(秋田県)などもあるが、岐阜パールライスが取扱量も多く全国的に知られている。
平成6年に農水省中国農業試験場が、発芽のときにコメのグルタミン酸が内在酵素の作用でγ-アミノ酪酸(GABA・ギャバ)に転換することを発見し特許を取得するが、その研究に携わった人が岐阜県内で会社をつくり、発芽玄米を膨化加工し粉にする技術を開発、11年に実用化の相談にきたのが、岐阜パールライスが発芽玄米に取り組むきっかけだったという。それは9年に経済連から独立し会社化されたが、県内を基盤に玄米・精米だけを扱っていたのでは拡大・飛躍はないので、新しい事業をと考えていた時期でもあった。
この事業に進出することにした理由は、一つは、発芽玄米100%で粉にすればさまざまな食材用途や健康食品として利用が可能なこと。そして中山間地の生産者が高齢化しており、新しい品種を導入してコメの県間競争に参加することは難しいが、高齢者でも作りなれたコメを生産してもらい、それを発芽玄米事業で活用すれば、これからのJAの事業になるし、岐阜県産米の消費拡大になると考えたからだと柳生勝義営業部長。
『γ-アミノ酪酸<ギャバ>』
ギャバは動植物界に広く分布しているアミノ酸の一種で、神経の主要な抑制性伝達物質として脳の血流を活発にし、脳への酸素供給量を増加させ、脳細胞の代謝機能を促進させる。また、脳卒中後遺症、脳動脈硬化症などによる頭痛、耳鳴り、記憶障害、意欲低下などの症状を改善する作用が認められている。最近の研究によれば、更年期障害や自律神経障害にみられる精神症状(怒りっぽい・不眠・イライラ)などの緩和にも効果があるという。 |
◆レトルトは伸びているがコメ消費拡大にはならない
当初は発芽玄米の膨化パウダーだけで事業展開する予定だったが、12年にファンケルのレトルト商品が話題になったときに、コメで取引があったスーパーのユニーから「岐阜パールがレトルト商品をつくれば全店で取り扱う」という話があり、12年8月に熱水殺菌処理をし、さらにスチーム殺菌をしてやわらかく粘りのある食感をもたせたレトルトの発芽玄米を商品化する。現在、ユニー全店やいくつかのJA卸、お米ギャラリーなどで販売。さらに7月からは東海コ−プの共同購入も決まり事業として順調に伸びてきている。
しかし柳生部長は、コメの良さが認知されることはいいことだが「全体の消費量が増えるわけではない」。アイスクリームなどに入れられてデザートとして食べられれば、コメ商品として消費拡大になると考えている。
◆膨化パウダーで一般食品会社にアプローチ
この膨化パウダーは単なる玄米の粉ではなく、特許出願中の技術でコメのでんぷん質細胞を破壊し「コメのもっている栄養素をまるまる吸収しやすくした」もので、健康食品や生活習慣病予防として効果があるだけではなく、アイスクリームにいれると甘さの切れがよくなるとか、パン生地にいれるとしっとりふんわりとなる、飲料に入れてもザラツキ感がないという特性もある。
そうした機能を理解してもらい使ってもらうために、いままでまるで取引のない一般食品40社近くにアプローチ。半数の会社から「研究してみる」という返事もあり「手応えはある」のでこの事業を進め、県産米の消費拡大にぜひつなげていきたいと奮闘している。
◆大胆な発想でニーズに応えた商品開発を
「グルメ・飽食」の時代は終わり「倹約と節約の食生活」の時代になったといわれる。外食を見てもおにぎりや立ち食いなど単価の安いところへシフトしている。家庭でのコメ消費量もわずかだが増えてきている。こうした動きをみると「ご飯中心の食生活」に回帰しているのかもしれないという気がする。コメは他に比べ安い食材であり、漬け物だけでも食べられる変幻自在な食材でもある。
コメの消費を拡大するには、コメが日本人の健康にとって最良だということをもっとキチンと伝えると同時に、できるだけ手間をかけずに簡便にというニーズ応えていくことが必要だろう。いま無洗米が人気だが、それでも炊かねばならず食べられるまで時間がかかるから、朝は「ご飯」ではなく「パン」という人は多い。こういう人たちのニーズに応えたコメ商品・朝ご飯商品をどう開発していくのか。そして、岐阜パールライスのように、コメを「主食」ではなく一つの食材・素材と考えた商品開発など、従来とは違った大胆な発想がいま求められているのではないだろうか。
最新技術で伝統ある酒米をつくる −−近畿酒造精米(株)
コメは炊かれてご飯として食べられる以外にも、さまざまな用途に使われている。その代表的なものが清酒(日本酒)だといえる。
五昼夜白といわれるほどの時間をかけて玄米をつき、磨き上げた精米で醸造した清酒は、日本人が育てあげてきた素晴らしい米由来の文化だともいえる。
かつては杜氏の経験と勘に頼ってきた酒米の搗精を、今年8月に創業30周年を迎える近畿酒造精米は、最新の科学技術を駆使し安定した高品質な搗精として確立してきた。
清酒の消費量が焼酎などの伸長に押され減っているために、廃業する搗精工場が増えるなど、この業界も厳しい状況にある。しかし水野文雄社長は「いま辛抱すればチャンスはある」と考えている。創業以来の30年の取引先が7社、20年以上が14社もあり、全国シェアは12%弱。日本中に出回っている清酒の8本に1本は近畿酒造精米で搗精された酒米が使われていることになる。
平成10年に竣工した灘工場では、コンピュータ制御された40台の精米機が24時間稼動し、玄米から90時間かけて35%にまで精米される大吟醸用などニーズにあわせた酒米が製造されている。「技術を向上し、そのことを理解してもらい、良い米を入れていけば」信頼され、古くからの取引先だけではなく、新たな事業もみえてくるということだ。
JAグループには、県域を対象にした搗精工場をもつ経済連もある。全農との統合が進めば、各県の搗精工場を含めた合理的な事業展開をどう行っていくのかということも、近畿酒造精米の課題となってくる。
主食用とは異なるが、酒米も重要なコメの用途だ。そういう意味でも同社のこれからの健闘が期待されているといえよう。
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