◆今なぜ、米の消費拡大か?
高齢化社会の到来にともない「健康」が多くの人々の関心を集めています。
けれども現実は、心臓病、脳卒中、糖尿病などいわゆる生活習慣病が増加しており健康的な生活を送るには、これらの疾患に深く関係する私たちの食生活のあり方をもう一度原点に戻って考える必要があります。
私たちにとって、その原点とは何でしょうか。それはごはんを中心としてさまざまなおかずを食べる「日本型食生活」だといわれています。
平成12年に当時の農水省、厚生省、文部省は「食生活指針」を決定し公表しましたが、この指針のなかにも「ごはんなどの穀類をしっかりと」、「野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて」と記されています。
また、食生活のあり方は、食料自給率にも大きな影響を与えます。わが国の食料自給率(カロリーベース)は1960年には79%でしたが、98年には40%まで落ち込んでしまい、世界178の国・地域のうちで130位となっています。
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お米1人1年当たりの消費量
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こうした食料自給率の低下要因のひとつが、米の消費量の減少です。1965年には年間1人あたり111.7kgを食べていましたが、98年には65.1kgとなっています。炭水化物の減少の一方で脂質は増加し、飼料穀物等の増加、食料自給率の低下へとつながりました。
このように考えると、食料自給率の低下とともに生活習慣病が増加してきたともいえ、米の消費を拡大しごはんを中心とした日本型食生活を取り戻すことがいかに大切かが分かると思います。
食料自給率の向上はJAグループにとっても大きな課題ですが、麦・大豆・飼料等の自給率向上と併せ米の消費拡大によってその目標が達成されることは、農家経営の維持に貢献するだけでなく国土保全、景観の維持など農業の多面的機能の発揮にもつながります。
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ごはんとパンのインスリン反応
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ごはんに対する正しい理解を
このように幅広い意義を持つ米の消費拡大運動を推進するうえで、ごはん食を正しく理解してもらうことが大切です。
たとえば、ごはんにはさまざまな栄養素が含まれています。ごはんといえば、糖質ばかりが含まれていると思う人もまだ多いようですが、たんぱく質も多い食品です。たんぱく質は言うまでもなく、筋肉、血液など身体の基本をつくるために重要な栄養素ですが、かつてはごはんが日本人のたんぱく源となっていました。
そのほか、ビタミン、カルシウム、鉄、マグネシウム、食物繊維など実に多様な栄養素が含まれています。
また、ごはんは粒のままで食べるため、消化・吸収の速度が遅いとされています。そのため糖を体内に取り込む働きをするインスリンの分泌も緩やかです。ごはんは太ると思いこんでいる人もいますが、インスリンの分泌が緩やかということは、太りにくい食品だといえます。
ごはんに対する誤解を払拭し正しい知識を普及すること、魅力ある情報を提供することも私たちにとって大切なことです。
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食生活指針
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◆米の消費動向に変化の兆し?
ところで、減少の一途にあった米の消費量にやや変化を感じさせる兆しが見えてきました。平成12年度の1人1か月当たりの米の消費量は、前年同月比で増加した月が増え、結局、年間5147グラム(1か月当たり)と前年度対比で5グラム、0.1ポイントとわずかですが増加しました。この傾向は近年見られなかったことです。
その要因としては、家庭内食で減少傾向にあったものを、無洗米や発芽玄米、無菌包装米飯などの増加によってくいとめ、さらに牛丼など丼ものや弁当の人気、工夫を凝らした各種おにぎりの提供など和食系中食・外食産業の健闘が下支えたと考えられています。
やはり健康に良くおいしいごはんは評価され、さらに簡便性や環境への配慮などが考えられた商品であれば確実に支持されることを物語っていると思います。もっとも、今年、3月と4月の消費動向は再び減少モードにありますから、予断を許さない状況です。われわれも取り組みを一層強化する必要があります。
◆これからの米消費拡大対策の四つの視点
このような状況のなかで、今後の米消費拡大対策は以下の4つの視点で取り組む必要があると考えています。
(1)消費者に分かりやすく「得になり、ためになる」客観性のある米・ごはん情報の発信。
(2)実消費・実需要の増加に結びつく「美味、便利、健康、安心、エコロジー」などをテーマとした商品開発の強化と、手軽にごはんを食べられる場・機会の拡充。
(3)若者の朝ごはん欠食率改善対策として、メニューの多様化・サービスの工夫などによる朝ごはん市場の活性化。
(4)米飯学校給食の一層の普及・拡大と児童・生徒への米・ごはんに関する食農教育の充実。
このうち客観的な情報発信の点でいえば、すでに触れたようなごはんの持つ優れた食品としての知識を伝達することのほか、たとえば、無洗米が環境にやさしい商品であることを知らせることなども大切でしょう。農水省の試算(平成10年)では、米の全流通量の2%が無洗米だとすると、年間112トンの無機質リンの排出防止になるほか、年間約42万人分の生活用水の節水になるとされています。
また、米飯給食の一層の普及についていえば、JAグループが米の安定供給の役割を果たしながら、他の団体とも手を携えて、米飯給食の実施回数を増加させるような仕組みを構築していくことも大切だと考えています。
いずれにしても、この4つの視点に共通するのは、消費の現場に接近して対策を考えることです。つまり、魅力ある商品や情報を消費者に直接、効果的に提供することを重視していこうと考えています。
◆JA全農の米消費拡大の取り組み
こうした視点を踏まえJA全農は、今後も経済事業の立場からの情報発信と商品開発などに力を入れていきます。
情報発信の面では、12年4月に、全農の取引先110あまりの企業・団体の参加を得て「米消費拡大推進協議会」を結成し、この協議会を通じて、食事メニュー別栄養バランス・自給率表示の導入の呼びかけや米・ごはん食の良さ、大切さをポスター、ステッカーなどでアピールしてきました。
また、食糧庁、全中と連携して設置した「朝ごはん実行委員会」では、朝ごはん推進キャンペーンをメディア・ミックスによって展開しています。このほか、全中が展開しているお米ギャラリーやごはん処純米亭の情報発信・アンテナショップ機能発揮への運営面での協力も行っています。
米飯学校給食についても、行政、全中と連携して一層の普及拡大に向けて取り組みます。
そのほかプロ野球JA全農GOGO賞、大相撲全農賞、チビリンピック、少年スポーツ大会などへの特別協賛も継続し、米消費拡大運動の一環として取り組んでいきます。
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JA全農の米関連商品開発
さらにJA全農の役割としては、米の消費増につながる商品開発も重要な仕事と考えています。いわば幅広い意義を持つこの運動を形にすることが経済事業に求められていることだといえます。
その商品開発の視点は、先ほども触れましたが、簡便性、美味、手頃な価格といった消費者ニーズに即した開発です。
なかでも最近では、食物アレルギーを避けるため低たんぱく質レトルト米飯として「AFTライス」を昨年開発しました。また、粒食ではなく、『粉』として米を利用するという発想で、米粉入りパンも開発し、現在、営業を推進しています。このパンは、国産小麦90%、米粉10%で製造しているのが特徴です。先般(5月24日)大阪のABC放送のニュース番組でも採り上げられました。
そのほか、無洗米、冷凍米飯の販売拡大にも力を入れていきます。また、ごはん関係店舗の運営など消費の現場により接近した消費拡大の取り組みも検討していきます。
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多様な形態での消費が広がる可能性
最近、注目されているのが発芽玄米です。発芽玄米には白米にくらべて7倍の食物繊維と10倍ものガンマ・アミノ酪酸が含まれているといわれやはり健康面から関心が高まっています。ガンマ・アミノ酪酸は、降圧作用や血流の改善などに効果のある成分とされています。
考えてみればこの商品は「玄米の加工品」とも言えるわけです。おにぎり、丼、米を使ったバーガーなど多様な形態で米を食べることが消費拡大につながっていますが、玄米の優れた機能を増強し、食べやすさ、調理のしやすさを付加した発芽玄米も、米の新たな利用形態の提案だと言えます。我々全農グループの中でも、岐阜パールライス(株)が発芽玄米粉の生産を開始しました。
また、先般の新聞報道によれば、胃の抗潰瘍効果をもつ米エキスを原料とした低アルコール酒が発売されたとのことです。粒、粉、液体等、米をベースとした新しい商品が続々と世に出ることを期待したいし、我々としてもその一翼を担っていきたいと思います。
ところで米への関心、注目は海外にもお手本があります。米国での、米消費量は1988年の10.8kgから98年には14.4kgへと増加しました(伊藤正一阪大助教授調査)。ヘルシーさへの注目にとどまらず、最近では短粒種のネバネバ感を「クリーミー」な感触だとして販売促進する業者も登場し、この感覚を理解する人も徐々に増えているといいます。
自らの取り組みとともに、国内外の米利用の方法や消費の動向にも注視しつつ、消費拡大につなげていきたいと思います。
21世紀のスタートの年だからこそ、改めて健康・安心と農業・農村をつなぐ「これからは、米身体(こめからだ)」の認識が大切だと考えています。
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「AFTライス」と
米粉入りパン
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環境にもやさしい
「無洗米」
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【全農 米関連商品】
低たんぱく米飯や米粉入りパンも開発
JA全農では特徴的に機能を持つ米商品の開発も行っている。
その一つが、低たんぱく米飯「AFTライス」。最近では食物アレルギーに悩む人が増えているが、アレルギーにはある種のたんぱく質が関与している。そこで、主食の米からたんぱく質をできるだけ減少させ、しかも加熱するだけでおいしく食べられるようにしたのがこの商品。原料米にはたんぱく質を除去しやすい専用品種を使い、加工工程でさらに除去した。生研機構とJA全農などが共同で設立したアレルゲン・フリー・テクノロジー(AFT)研究所で開発。パールライス東日本(株)から発売。
また、粒食にこだわらず粉での消費拡大も狙って米粉入りのパンも開発している。
そのほか全農パールライス東日本(株)、同西日本(株)では、環境にやさしい「無洗米」も製造・販売している。
【全農安心システム米】
独自の検査・認証制度 本格的に始まる
JA全農では、JAグループが取り扱う国産農畜産物を対象にした独自の検査・認証制度「全農安心システム」を導入している。このシステムでは、取引先と合意した産地・品目を対象につぎのような取り組みが行われているもの。
(1)生産・流通基準の決定と検査・認証(取引先と合意した生産基準にもとづく生産工程検査、残留農薬など品質検査、加工流通工程検査(精米工場)、検査報告にもとづく審査・認証)
(2)生産履歴の情報開示(生産計画、栽培計画、生産工程管理データなどの取引先と消費者への開示、営農指導に活かすために産地での活用)
(3)安心の裏付けと環境負荷軽減(安全防除の徹底、環境負荷軽減生産資材の選定、地域資源循環型農業の推進、生産地域での環境監査と認証)
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JA古川の「ひとめぼれ」と
JAみやぎ仙南の「ひとめぼれ」
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米についても同システムによる検査・認証が進んでおり、11年産米では全農宮城県本部と連携し4つのJAで減農薬栽培米を中心に試験的に検査と情報開示に取り組んだことを皮切りに、12年産米は検査に認証も加えた本格的安心システム米として、2県に拡大された。
今年2月末時点で米認証部会で認証されたのは、宮城県・JA古川の「ひとめぼれ」150トン、同・JAみやぎ仙南の「ひとめぼれ」120トン、秋田県・JAあきた中央の「あきたこまち」400トン。そのほかこれらの米の精米工場5工場が認証された。
【全国農協直販(株)】
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「農協ふっくらごはん コシヒカリ100%」
栃木産のコシヒカリ(JAはが野)を100%使用してふっくらと
香りのいい炊きたてごはん。
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4月からリニューアルされたホームメイドタイプのまぜごはん。
炊き込みごはんの旬の別添具材で具の食感が生きる。
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厳選された国産米で炊きたての味を食卓に
全国農協直販(株)は、厳選された国産米を使用し炊きたての味わいにこだわった「ふっくらシリーズ」を製造・販売している。製造ラインにクリーンルームを取り入れた無菌包装技術などにより品質を長期間安定させることで、炊きたての味を食卓で手軽に味わうことができるレンジ食品として実現した。
日本有数の米どころから産地指定米をパッキングした「銘柄米」、厳選された素材との組み合わせで味付けに工夫を凝らした「おこのみ」、おかゆに最適な素材とされるひとめぼれを100%使った「おかゆ」がある。
そのほか、国内産餅米こがねもちを100%使用したふっくらもち「こがねもち」も発売。風味、ねばりともに自慢の一品。簡便性、保存性を考えた1個づつの個別包装も特徴だ。
また、10月には新商品「農協ふっくらごはん 発芽玄米ごはん100%」も発売される。宮城県産ひとめぼれ玄米を100%使用。食物繊維、ビタミンB群が豊富で白米にくらべてガンマ・アミノ酪酸が増加しているため血圧降下作用や便通の改善などが期待できる。酸味料添加、レトルト処理をしていないため自然な風味。
【全国農協食品(株)】
地域の文化、食をヒントに
冷凍米飯で消費拡大を
全国農協食品(株)はパールライスを主体にした冷凍米飯で米の消費拡大に取り組んでいる。
手間も時間もかけずに本格派の味を楽しめるように良質の原料米を一釜一釜ていねいに炊き上げる大型炊飯設備でおいしいごはんを製造している。
刻んだ焼きそばと焼きめしを混ぜ合わせ、特性ソースで絡めた冷凍米飯「そばめし」は同社が元祖でブームの火付け役になった。
そのほか、名古屋名物として知られる鰻の蒲焼きをごはんに混ぜた「櫃まぶし」や東京深川の地元漁師のごはんで筍とあさりを混ぜた下町文化の象徴「深川めし」、小豆と栗を具材にした「栗おこわ」など地域の文化、食にヒントを得たが多い。国内だけでなく、アジアのごはん文化も視野に入れた商品化も。消費者やユーザーのニーズに幅広く応える商品開発体制を整え、特徴ある商品を提供している。
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「山くらげごはん」
山くらげなど古来から中国の宮廷料理に使用されてきた素材
を中心に和風に仕上げたごはん。
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岡山名物「えびめし」を再現。ホールコーン、レッドピーマンなどを加えて食味、香りとも豊かに仕上がっている。 |