北海道から九州まで、生鮮食品を中心とした中堅・中小スーパー222社で構成するボランタリーチェーンCGCグループの店舗数は3001。その年商は3兆1393億円(13年9月現在)に達する。昭和48年の創立以来、JA全農と食肉をはじめとする取引きが継続している。そんな消費最前線にたつ堀内CGCジャパン社長に、現在の食品流通の問題点からこれからの日本農業について語っていただいた。聞き手は、原田康農流研理事長。
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◆ 大手と互角に戦うために中堅・中小スーパーが団結
原田 CGCは、どういうコンセプトで事業をされているのでしょうか。
堀内 昭和30年前半に、アメリカのスーパーマーケットをみて、首都圏の電鉄会社が食品スーパーに参入してきました。そして、地元に密着した生鮮食品中心のお店と競合しましたが、資本力にものをいわせて取引先に圧力をかけるなど、かなりひどい攻撃をしてきました。
こうした中で生鮮食品中心の中堅・中小のスーパーが生き残っていくためには、みんなで協力して大手と同等の仕入れ力を持たなければどうしようもない。地方のスーパーが大手と互角に戦っていくためには、青果、食肉、鮮魚の生鮮3品、それに最近では惣菜を加えた分野を強くし、ドライグロッサリーについては大手並みの価格で売ることができれば、生き残っていけるのではないかということで、地域に密着した中堅・中小スーパーにご参加いただき、CGCグループができたのです。
グループの年商は現在、3兆1393億円ですが、食品売上げだけを見ると2兆5000億円です。これは大手レギュラーチェーンで最も食品を売っている企業の約3倍強の数字になります。私はグループ各社のトップ社長が「大手に負けない」という意識をもって協業活動と自助努力を続けていく限り、これからも繁栄し続けると確信しています。
原田 昭和48年にCGCが設立されて以来ずっと食肉については、全農(当時は全販連)と取引きをされていますね。
堀内 食肉業界はかつては複雑な業界でしたから、あまり商売は上手ではないけれど(笑)まじめな全農さんや経済連さんと創業以来ずっとお取引きさせていただいています。
◆仕入れ方法などコンビニが変えた日本の流通システム
原田 たしかに当時は枝肉取引きで、いろいろなことがありましたね。
堀内 そうですね。かつてはスーパーのバイヤーがトラックで商品を取りに来ましたけれど、いまは全部委託になり自前のトラックなど持っている会社はなくなりました。わずか30年の間に仕入れの方法など仕事のやり方がまったく変わってしまったんです。
原田 なぜ、変わったんでしょうね。
堀内 私は今の日本の流通に大きな影響を与えたのはコンビニ業界が進める多品種少量配送だと思います。コンビニ業態が大成功していますから、このシステムにスーパーマーケットも対応することになった。そのため世界に冠たる高コスト物流網を全国につくりあげてしまいました。
原田 確かにコンビニが日本の流通を変えましたね。一方、最近は、海外から巨大小売企業も参入しており、外からの力で、変化を求められていますね。
堀内 いままでは、メーカーさんの価格政策もあって、全国同じような値段で売り、みんな仲良くやってきたわけです。ところが、海外の巨大小売企業は、価格構造はどうなっているんだと説明を求めてきます。生活必需品についてはアメリカは日本の半分、欧州で7割程度です。日本の価格を欧州並みにすると、単価が30%下落するわけです。その中で商売をキチンとしていくためにはどうしたらいのかということになります。そうすると、元から全部見直しをしなければいけない。そういう時代なんですね。
1970年頃にコールドチェーンといっていろいろなことをやはりはじめた時期がありましたね。
原田 ええ、流行(はやり)言葉になりましたね。
◆付加価値を付けに走りすぎる市場逆にコスト高招く
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(ほりうち あつひろ)昭和21年東京都生まれ。流通経済大学経済学部卒業。44年(株)東急ストア入社、50年(株)シジシージャパン入社、常務取締役、専務取締役、副社長を経て平成元年エス・ビー・システムズ(株)代表取締役社長、3年(株)シジシージャパン代表取締役社長。
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堀内 産地で予冷し冷蔵車で市場に運び、市場の冷蔵庫で保管されるというコールドチェーンができて、これからの流通は変わるんだと思っていました。ところが何も変わりませんでした。産地が予冷庫を設けても市場は常温のままです。産地で冷蔵したものを常温の市場に降ろしたら水滴がたまってしまうから、トラックの運転手が温度を上げながら運んできているのが実態だと聞きました。
アメリカのブロッコリーの場合、収穫する農地の横に冷蔵庫があって、氷詰めにして港まで運び、そこで酸素を抜き窒素充填して船に乗せ、横浜についたらもう一度氷をかけるといった形で入荷しており、日本の市場で仕入れるブロッコリーよりも鮮度がいいんです。市場の最大の欠陥が温度管理だと思います。
原田 市場法の改定を議論したときに、どういう方向でするのがいいのかと聞かれましたので、市場法そのものをなくして、場所と情報だけを管理し、取引内容についてはすべて業者に任せる方がいいといったことがありますが、思い切ったことをしないと良くはなりませんね。
堀内 それから、市場の手数料は率ですから付加価値を付けないと稼げない。曲がったキュウリはダメ、大きさを統一しろ、もっと糖分をあげろとか、付加価値を付けることに走りすぎ、そのために農家にものすごい負担をかけてとんでもない高いものにしてしまった。それを本当にお客さんが望んでいるんでしょうか。
原田 本当にそうですね。
堀内 付加価値を付けて勝ち残っている市場は大都市周辺だけで、他ではダメになってしまっています。商売ですからある程度安くていいと思いますよ。でもキチンと予冷したような商品はコストがかかっているんだから、高く売ってもいいと思います。ところがみんな同じ率で考えるから、市場に冷蔵庫をいれても合わないんですよ。
原田 付加価値をつけるとか、差別化ということですごく手間をかけ、コストをかけているから、中国のような国には農業でも勝てない。向こうは人件費は非常に安いですから…。農水省は、高性能収穫機、高性能調整機を導入するといいますが、付加価値の付け方が逆でコストを高くしてしまうような気がしますね。
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(はらだ こう)昭和12年東京都生まれ。東京教育大農卒。昭36年全農(全販連)入会、平成2年大阪支所課長、同生活部長。平成5年全農常務理事、平成8年(株)全農燃料ターミナル社長、平成11年(財)農協流通研究所理事長。 |
堀内 先日、中国へ行ってきたんですが、ものすごい勢いで伸びています。
原田 中国はどちらへ…。
堀内 北京から天津、青島、上海です。上海郊外の会社の畑は800万坪もあり、日本向けになんでも作りますというんですね。しかもこれをやっているのが日本の農業を捨てて渡った日本の若い人たちですよ。CGCは良いものを安く世界中から集めるのが仕事ですが、これは困ったな、日本農業は根幹から揺さぶられるなと痛切に感じましたね。もうセーフガードがどうのこうのという程度ではやりようがないですね。日本農業をどうするかについて、国をあげて対策を練らなくてはいけないと思います。
原田 わたしも6月に山東省の野菜畑を見に行きました。そして、いろいろな人に会いましたが、日本でビジネスをしても成功するような優秀な人が現場の第一線で仕事をしていますね。これにも改めてびっくりしました。
堀内 どこも30歳代40歳代のやる気満々の人たちばかりですよ。それに農地も畝と畝の間が中国は日本の倍はあるので、その間にトラックが入れるわけです。生産性の面でも段違いだと思いました。
原田 そういう中で、これからの日本農業はどう変わらなければいけないとお考えですか。
堀内 日本農業は他産業に比べて30年くらい遅れていると思います。その原因の1つは国の政策にあります。コメの一率減反政策は日本の農業をダメにしてしまいます。あるいは、ミカンがいいというと静岡から西の太平洋岸にみんなミカンを作らせ、今度はキーウィがいいというとまた同じように広げていく。そしてみんなダメになってしまったわけです。
日本は生産規模が小さすぎます。海外が株式組織でどんどんやっているときに、農業だけは農家がやっているのはおかしいと思いますね。
原田 農業団体も30年遅れに大いに責任があると思いますが、遅れをとり戻すためにはどうすればいいと思いますか。
堀内 全国組織が一本になって、日本の農業をどうするということを、生産者と一体になってやっていくことです。「まだやれる」と言われるかもしれませんが、それはあと2〜3年の間ではないでしょうか。特産物をもっていま自立できているところでも早くやらないと間に合わない。中国には、やる気に満ちた人が1億6000万人もいるんですから…。個々にやっていては間に合いません。法律改正も含めて、農業を産業にしていくためには株式会社化は避けては通れないと思います。自給率低下に歯どめをかけるためには、国内で海外にも通用するような生産の仕組みをつくっていかなければどうしようもありません。
原田 農業団体はどこから手をつけるべきですか。
堀内 農協を株式会社にして、どうやって効率を上げるのか、生産性をどう上げるのか。そのために機械化をどう進めていくのかを考えるべきですね。
原田 生産性を上げなければ、海外と太刀打ちできない…。
◆農業にもユニクロ方式が
堀内 ユニクロのようなやり方を世界中の大規模小売企業はみんなやっている訳で、従来のやり方はもう通用しません。そういうことが日本の農業でも起きてきます。国としての方針をキチンと定めてやるしかないですね。自給率を上げるといったって、海外から入ってくるものを止めることはできませんから、国内の生産性を上げるしかないでしょう。いまは生産性を上げるためにお金を使っていませんから、助成の方式を変えて、生産性を上げるための前向きなお金の使い方をしてもらいたいですね。そうしないとこの国の農業は滅んでしまいます。
それから、安心、安全といった面でも、中国はHACCPなどどんどん取得して、日本の漬物工場よりもよほど衛生的ですし、検査体制もキチンとしています。
◆産地づくりで特色ある商品を
原田 これからCGCとしては、どうしていこうとお考えですか。
堀内 海外だけでなく、日本でも良いものをつくってもらって地道にキチンとした対応をしていこうと考えて、CGCに商品開発チームをつくり、全農からの出向者もそこに入っていただきました。このチームを中心にして、産地作りをしながら、特色のある商品を作りだしていこうと考えています。
原田 本日は、貴重なお話をありがとうございました。
(インタビューを終えて)
CGCグループは北海道から九州まで全国各地の食品中心のスーパーマーケット222社が、豊かな食生活と、食を通じた文化の発展を旗印に、地域一番店を目指して頑張っておられる元気のいいグループである。
グループは全国に3001店、平成12年度の販売高3兆1393億円の実力である。毎日が食品の販売を通した消費者の厳しい選択と、大手スーパーマーケットとの競争のなかで奮闘しておられる。
CGCグループのトップとして、堀内社長から日本の農業・組織への提案は、農政も農協組織も、農業の生産性をあげることに焦点を当てて政策・事業・組織の思い切った転換が待ったなしの時代という認識を持つべきということである。
外国との競争力を持つためには、生産性を上げる分野・農家を育てる施策を最重点にすることこそが農業を産業として存続させる方法であるとのご意見である。
最近、中国の農業の現場を見て来られた眼で日本の農業を見ると、待ったなしの対策が必要であるにもかかわらず、農水省の施策も農協組織の対応も緊張感が不足しているということである。
「ユニクロ」現象で、日本の小売業界は従来のような仕入れ、販売の方法を抜本的に見直しを迫られているが、その業界から見るとなんとも歯がゆいというご指摘である。
全く同感である。(原田) |