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特集:安全防除優良JA拡大運動

現地ルポ
性フェロモン剤ベースに新たな防除システムを確立
長野県 JA須高高山支所・りんご部会

共同防除の取組みの成果が認められ受賞

 志賀高原を間近に望む長野県北東部の須坂市・小布施町・高山村を管内とするJA須高は、平成元年に誕生した合併構想実現JAだ。
 この地は、上信越国立公園に源を発する松川・百々川・鮎川・八木沢川からなる扇状地と千曲川の沖積地帯からなり、降水量が少なく昼夜の温度差が大きく、農産物の生産にとってまさに「天恵の地」だ。
 特に、JAの販売事業約91億円のうち約3分の2がリンゴ(23億円)、ブドウ(38億円)、モモ(6億円)など果樹類が占めていることでもわかるように、果樹を中心とした農業が盛んな地域だ。なかでもリンゴ・ブドウの生産には100年の歴史があるという。そして管内農家戸数は4266戸だが、リンゴ農家2310戸、ブドウ農家1469戸となっている。果樹生産農家は、リンゴとブドウ、リンゴとモモというような複合経営が多いことも特徴だといえる。
 今回「安全防除優良JA拡大運動」に参加したのは、同JA高山支所りんご部会で参加農家は312戸だ。運動への登録実施内容は、環境に配慮した防除への取組みとして「コンフューザーAの全園普及による防除回数の低減。防除暦の徹底・遵守」、効率的防除への取組みとして「薬液調整施設の活用による共同防除の合理的実施と部会員全員の実施」となっている。
 そのために11年12月に防除日誌を配布、12年4月にコンフューザーAの設置方法や防除暦・防除方法を徹底するための研修会を実施(300戸参加)。その上で4月から9月まで、月に1〜3回全農家の巡回を実施し、収穫後の11月に防除日誌を回収し点検している。
 その結果「部会として総合防除に取組むとともに、発生予察にもとづく適正な防除が行われ、防除日誌の記帳・点検・回収もきちんと実施されており、取組みの成果が認められ」たとして、今年7月17日に開催された「平成12年度安全防除優良JA拡大運動取組みJA研究会」で、優良JAとして表彰された。そこで、同JAを訪れ、高山村の圃場を見せていただきながら具体的な内容を藤沢正実同JA営農部農業振興課課長代理と滝澤聖同課係長・広域技術員に聞いた。

県果樹試験場の試験結果の受入れは平成3年から

 高山支所りんご部会が性フェロモン剤を使った防除に取組み始めたのは、コンフューザーAの農薬登録がされる以前の平成3年からだったという。そのきっかけとなったのは、昭和62年から平成2年にかけて県果樹試験場が実施した性フェロモン剤(シンクイコン、ハマキコン)利用による殺虫剤削減試験で、慣行防除区と同等かそれ以下に被害が抑えられたことにあるという。
 当時は、食品の安全性に対する消費者の関心が高まってきた時期でもあり、この試験結果を受けて平成3年に、病害虫防除所、普及センター、同JA高山支所や行政などが参加して高山地区クリーンフルーツ協議会を組織して性フェロモン剤を使ったリンゴの防除が始まった。
 その後、クリーンフルーツ協議会は全国環境保全型農業コンクールで優秀賞を受賞し、他の関係団体も加わった「高山村環境保全型農業推進会議」が設立され、関係機関と協力して取組む体制が整った。

村に4カ所の薬剤調合施設、生産者は在庫の必要がない

 高山村出身の滝澤さんによると、当初はコストが高いこともあって「抵抗はあった」という。そこで村と国で半分を助成(国は3年間だけ)することになり、この問題を解決し、部会として性フェロモン剤を使うことが決まる。
 平成9年からは現在使っているコンフューザーAが登録され切り替わるが、当時はシンクイコンとハマキコンを別々、10アール150本づつ設置するので大変だったという。それでもこの地域で性フェロモン剤が普及した背景には、薬剤調合施設の存在がある。
 高山村では、昭和62年までに村内4カ所に薬剤調合施設を設置。この施設で、防除暦にもとづいて必要な薬剤が調合され、生産者はまるでガソリンスタンドでガソリンを入れるように、調合された薬剤を受け取り散布する。だから生産者が農薬を在庫する必要がない。ところが性フェロモン剤を使わないと、それに替わる薬剤を自分で購入し調合・散布しなければいけなくなる。「それなら性フェロモン剤を使った方がいい」ということになったという。

枝から下がっているのがフェロモン剤
 
薬剤4剤削減、予察をもとにした
  防除体系を確立

 平成9年にコンフューザーAに全面的に切り替え、高山支所りんご部会加入面積の90%に設置面積も拡大することで、モモシンクイガ、キンモンホソガに対する効果がかなり高くなり、その発生密度は減少する。そして、全域で殺虫剤を年間4剤削減する防除体系が確立していく。
 現在は、コンフューザーAを使用しながら、5日ごとに普及センター・防除所・県果樹試験場・JAの担当者が実施する害虫の発生予察をもとに、JA技術員が会議を開き「防除暦に書いてはあるがいまは必要がないから次回にまわそう」とか「発生のピークが早いから今回散布しよう」などと、散布薬剤を決定し、生産者の協力も得て薬剤調合施設で必要薬剤を調合し散布する防除システムが確立している。

JA全体に、そしてリンゴからモモに拡大

 性フェロモン剤を使った防除は、高山村から他の地域や果樹にも広がっており、その導入面積はリンゴ(コンフューザーA)は高山・須坂・小布施の250ヘクタール、モモ(コンフューザーP)は小布施・井上の50ヘクタールにおよんでいるという。
 当初は環境にやさしいということが、商品差別化につながったが、藤沢さんは「この栽培技術は実施して当たり前になる」と考えている。これからも、行政や関係機関と協力しながら、りんご部会、モモ部会の組織をあげて面積拡大に取組んでいくという。そして性フェロモン剤を使った栽培だけではなく、有機物のリサイクルや化学肥料使用量の削減をめざして、総合的な環境保全型農業を同時に推進していくことが今後の課題とも。
 取材を通して強く感じたことは、行政、県試験場、防除所、普及センターなどの関係機関が、地域の農産物生産のためにしっかりと協力関係をつくり、強力に地域農業をバックアップしている姿だった。こうした協力関係がある限り、JA須高管内の農業は、厳しい環境下でも間違いなく発展していくのではないだろうか。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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