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特集: 米麦の品質事故“ゼロ”をめざして
―― カントリーエレベーター品質事故防止強化月間

インタビュー
事故が起きることを前提にした危機管理体制の確立を
――(財)農業倉庫受寄物損害補償基金 三尾忠理事長に聞く

 コメは、国民の主食であり日本農業の基幹であることに変わりはないが、食糧法時代である今日、他の食品と同様に1つの商品として考えていかなければいけない。カントリーエレベーター(CE)や農業倉庫は、コメが商品として年間を通して売れるように、品質の維持・管理をしなければならない重責を担っている。
 とくにCEにおける品質事故は数千万円から1億円を超える損害を生産者に与えることになる。こうしたCEにおける品質事故を防止するためには、どのような考え方にたって、何をしなければいけないのかを三尾忠農倉基金理事長に聞いた。

◆米麦の事故補償と災害予防活動
 −−農業倉庫基金の事業

  ――   まずはじめに(財)農業倉庫受寄物損害補償基金(農倉基金)ではどのような事業を行っておられるのかをお話いただけますか。

  三尾   農業倉庫に保管された米麦が火災によって被害を蒙った場合の補償制度は、昭和17年に食管法が制定された時に「農業倉庫受寄物損害処理制度」として開始されました。その後、昭和31年に当時の全販連での「農業倉庫受寄物損害補填基金」となり、昭和35年に農林大臣の認可を受けて現在の「財団法人 農業倉庫受寄物損害補償基金」となりました。それから41年になるわけです。
 当初は政府米麦の火災による損害補償のみを行っていましたが、44年に自主流通米制度が導入されましたので、45年に自主流通米の火災事故補償制度を、48年には自主流通米水害事故補償制度(政府米は免責)を発足させました。カントリーエレベーター(CE)は39年に日本での第1号が稼動しますが、40年代は技術がまだ確立していなかったこともあって事故が多発しました。これを何とかしなければということで、昭和50年に米穀のCE品質事故補償制度を設立し、62年には麦類についても同じ制度を発足し、今日に至っています。
 こうした損害補償業務のほかに、事故を防止するために農業倉庫保管管理強化月間(5月15日〜7月15日)、CE品質事故防止強化月間(9月1日〜10月31日)、農業倉庫火災盗難予防月間(12月15日〜2月15日)の設定、農業倉庫やCEの技術研修会などを行っています。さらに食糧法になり、自主流通米の備蓄・調整保管が実施されることになりましたが、「米需給調整・需要拡大事業」にかかわる資金の運用・管理も農倉基金が行っています

◆増えているCEの品質事故件数

  ――   事故の補償件数は増えているのでしょうか。

  三尾   火災については毎年数件発生していましたが近年は比較的少なくなっています。水害はそのときの気象条件によって変わり防ぎようもありませんが、ゼロという年もありますし、平成2年のように16件も発生している年もあります。
 CEの品質事故は54年が最初で、それ以降は60年がゼロでしたが、それ以外の年は大なり小なり数件の事故が起きています。とくに平成12年度には過去最高の11件の事故がありました。金額ベースでみると平成4年度の3億1823万円(事故件数8件)、7年度の2億4271万円(同9件)、そして12年度の1億6756万円(同11件)、3年度の1億1482万円(同5件)が補償額1億円を超えた年です。

  ――   12年はずいぶん事故が多かったのですね。

 三尾 11件の内2件は麦の異臭事故でした。麦は昨年度から民間流通になりましたが、現状は全くの買い手市場となっているので、政府麦のときよりは取引がよりシビアになってくると思われます。そうすると事故の発生も多くなるのではないかと懸念をしています。

  ――   CEでの事故の原因についてはどのように見ておられますか。

 三尾 CEの品質事故はすべてコメの場合は発酵ヤケ米、麦の場合は異臭麦です。この原因を遡ると、収穫時に雨が上がった後に一斉にコンバインが田圃に入って収穫するので、籾の水分が高いことと、荷受が集中することにあると思います。CEの乾燥機の処理能力は決まっていますから、その能力以上に荷受が集中したり、水分が高いと乾燥に時間がかかる。直接的な原因はここに行き着くようですね。

◆気象変動など想定し計画を
 −−経営者の責任(1)

  ――   事故をなくすためにはどうしたらよいとお考えですか。

  三尾   大きく分けると、CEを設置しているJAの経営者の責任と、実際に機械を動かしているオペレーターの責任があり、経営者の責任としては3つあると思います。
 1つは、CEの運営についてトップも含めて運営方針をキチンとたて、組合員に十分周知徹底して守ってもらうことです。事故が起きたCEをみると、これが必ずしも十分ではないと思います。荷受の日別計画はあっても運転予備日(調整日)が設定されていないJAがあります。これは事故が起きるとか、気象変動があることを想定していないわけです。
 昨年、事故が起きたJAに査定委員と調査を行なったときに、「雨が上がったあとにどっと搬入されたから」と原因の説明がされました。そのときに査定委員である某JA組合長が「なぜ、止めなかったのですか」「これが事故の原因なんですよ。私のJAはそれをキチンとやっている。臨時雇いの女性でも今日は何トン以上は受けませんと断りますよ」といわれ、事故を起こしたJAの役員は言葉がありませんでしたね。これを見て、それがパートさんからでもCEからの発信は、すべてに優先するという気構えで経営者が運営しないといけないのではないかと思いました。

◆CEの能力を知ること
 −−経営者の責任(2)

  三尾   2つ目は、大変失礼な言い方になるかもしれませんが、JAの経営者の方は自分のところのCEの能力をご存じないのではないかと思います。例えば、1日の荷受量100トンで乾燥能力を設定しているCEの場合、生籾の水分は24%を基準として設計されています。荷受水分24%の籾を半乾貯留する17%まで乾燥すには8.43トンの水分を除去します。これが、荷受水分が30%だと除去する水分は15.66トンと倍になり、処理能力は2分の1に落ちます。
 この乾燥機の場合には、1日に8.43トンの水分しか除去できないわけですから、荷受水分30%なら荷受量を54トン弱に抑えなければ乾燥作業に無理が生じます。荷受水分が24%から26%にわずか2%高くなっただけで除去水分量は10.84トンと30%近くも増えます。
 このことをキチンと理解して、荷受対策を講ずる必要があります。それなしに雨が上がった後に高水分籾がドッと入ってきたとき、オペレーターに「残業してでもがんばれ」といっても、解決できるものではありません。万一事故が起きても、オペレーターだけに責任を負わせるのは、酷というものです。

◆オペレーターの作業環境を整える
 −−経営者の責任(3)

三尾 3つ目は、オペレーターの体制整備の問題です。オペレーターの研修会で一様にでるのは「経営層の理解がない」という意見です。JA経営が厳しいこともあると思いますが、ほとんどが兼務ですし、人員が削減されています。パートの人が何人かいるだけで、ピーク時には1週間も家に帰ったことがないという状況の中で作業をさせられている例もあります。
 こうした問題についても、経営層がキチンと取組んでいただかないと、オペレーターの環境が悪化し、ひいては事故の原因にもなると考えています。

◆国家資格所得者の自覚を
 −−オペレーターの責任

  ――   オペレーターについてはどうですか。

 三尾 1つは、乾燥設備作業主任者という国家資格を持っているという自覚をもってもらいたいと思います。高水分籾というのは子どもでいえば虚弱児と同じですから、通常の管理をしたのでは当然事故につながりますから、籾の状態に応じた適切な対応と細心の注意をして管理して欲しいですね。2つ目は、先輩からの引き継ぎ事項を鵜のみにしたり我流や経験だけに頼らずに、国家資格を取得するときに学んだ技術、つまり基本の原点に戻り機械の運転にあたって欲しいということです。

◆穀温データをグラフ化し素早い対応を

 3つ目は穀温の変化に何をおいても気を使って欲しいということです。穀温が0.5度上がれば人間でいうと微熱がでた状況ですから、サイロの中で何かが起こっているのではないかと考えて素早く点検をしなければいけないわけですが、事故が起きたJAでは、概して穀温変化に対して反応がにぶいように思えます。的確に把握するためには、穀温を自動的に測定したプリントアウトをグラフ化して管理することだと思います。数字の羅列を視覚化することで、変化を的確に読み取ることができます。

◆コメは食品 品質管理には万全を

  ――   最後に、最近とくにお考えになっていることはありますか。

 三尾 最近、食品の事故がいろいろ起きています。コメは国民の主食であり、食品であるわけです。そのことをJAの皆さんにも自覚していただきたいと思いますね。良食味品種への転換には熱心ですが、同じように品質管理についても取組んでいただきたいと思います。東海村の原子力発電所の事故に象徴されるように、日本人は事故が起こることを想定して危機管理を行っていないように思います。米麦は食品ですから、一度事故を起こせば信用を回復するには、大変な時間と努力が必要になります。これからは、事故は起きるという前提にたった危機管理対策をキッチリたてていかなければいけないのではないかと思います。


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