| |||
特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える |
インタビュー JA改革を考える 構造改革のピッチをさらに上げる JA全農 田林 聰理事長に聞く |
全農のシェアは高いから独禁法適用除外をはずせという議論に田林理事長は「全農は非常に簡易で効率的な代金決済機能を持っており、系統外だけでも販売・購買を合わせて約1万4000社が、これを利用し、伝票を通すからシェアが高く見えるだけだ」と反論し、また肥料や農薬などのシェアについても具体的な数字を挙げた。 さらにJAグループ批判が出てくる背景などを説明した。そして激しい競争の中で、さらに自己改革を進め、構造改革のスピードを上げると強調した。全農の事業基盤であるJA経済事業の収支改善支援を視野に入れた全農の仕事をさらに強化していくことを新しい三か年計画に盛り込むとも語った。 |
◆農業もデフレ経済への対応に努力
北出 JA全農が昨年7月末に導入した経営管理委員会制度と理事長のお仕事はどういうものなのか、お話の前提として、まずお聞かせ下さい。 田林 経営管理委員会の委員は総代会で選任され、委員会はJA全農の事業計画や決算などの基本的な重要事項を決定します。これにもとづいて、委員会の指導のもとにある理事会が迅速に経営を執行します。委員長以外の委員は非常勤ですから、理事長としては、重要事項について委員会の適切なご指示をいただくように、あらゆる情報を委員会に報告するよう努めています。 北出 今いわれたJA経済事業改革の状況はどうですか。全農としては3年前から中期事業構想に取り組んでいますが。 田林 中期事業構想は5大改革を実践することにより全農が事業利益を生み出し、そのメリットをJAに還元していくことです。このため経済連と統合した新しい全農組織が業務の重複を排除し、効率化をしてスリム化を進め、モノ、ヒト、カネをどこに再配置するかを含めて、事業利益拡大の実現に取り組んできました。 北出 つまり見直しですか。
田林 そうです。事態の急変が予想以上でした。もう1つ、JAの経済事業が深刻になっているという問題があります。信用事業と共済事業の収益が落ちてきて、今後もそれが続くとJA全中や農林中金、JA共済連は見ております。JA経営は部門損益で独立していませんから、信用・共済事業の利益低下が経済事業の運営にも大きな影を落とすことになります。 北出 中期事業構想は平成17年度までですが、それを途中でやめて、新たな3か年計画の実施に移るのですか。 田林 中期事業構想は経済連との統合が本格化する前に基本を練ったので、先行きの不透明を承知でつくりました。そこで統合が一段落した時に改めて、きちんとした中期三か年計画を策定するということを構想の中にも盛り込んであるのです。 北出 そのようにJAグループが経済事業の改革に努力しているが、政府の経済財政諮問会議や総合規制改革会議などで、JAの各事業の独立採算性等がいわれています。批判が出る背景についてのご見解はどうですか。 田林 失われた10年などといわれて日本経済の停滞が長すぎるため、政府も業界も競争原理の導入などで新たな需要を創出して経済活性化の道を見出そうとしている、そうした背景があるのだろうと思います。 ◆信用・共済事業分離は論外 北出 JA改革が必要な点はたくさんありますが、かといって官製市場だから民間を入れろといって信用・共済事業の分離などを主張するのは論理の飛躍じゃないかという気がします。経済事業や営農指導をしっかりやっているから信用・共済事業も伸びるのであって、これを分離したら両事業はやっていけません。そこに民間がつけ込むという恐れもあります。 田林 同感です。信用事業で経済事業の赤字を埋め合わせているから、いつまでも自己資本比率が高まらないのだという批判もありますが、例えばJA貯金やJA共済を集めるのに大いに力になっているのが、営農指導員や農機の専任職員ではないのかということです。農協職員の実労働の配分比率なども考える必要があると思います。 北出 その視点も大事でしょうね。だから経済事業は例えば施設の集約とか物流の合理化などもやって自己改革を進めているわけですからね。 田林 改革はさらに進めなければなりません。競争相手と比べて労働生産性はどうか、また顧客・組合員に対して競争相手以上のサービスができているか、資材の価格は高いか安いか、などをよく検証し、負けているなら反省し、対抗できる体制をつくらなくてはいけません。 北出 改革を進める場合、克服すべき点はここだという典型的な例はどういう点ですか。 田林 組合員サービスと収支のバランス問題だろうと思います。例えば生活店舗事業です。Aコープ店舗のほかにJA支所には小さな購買店舗があり、中山間地などでは便利です。しかし店舗事業の赤字は大きい。そこで利便性と収支改善を天ビンにかけると、私はやはりサービス全体を長続きさせるためには部門採算性を確立しない限り、どこかで破たんすることは間違いないと考えます。 ◆伝票上は高くみえるが全農のシェアは高くない 北出 独禁法適用除外問題は農協よりも連合会の方が問われています。統合連合が進めば批判がさらに強まると思いますが、どう対処しますか。 田林 問題にする側には、全農の組織が大きく、シェアが高くて、外部から参入できないという認識があるようですが、実はシェアはそんなに高くないのです。個別品目の平均を見ると、農薬は35%、農機は25%、肥料は30%弱です。肥料は特定の主要17品目平均は70%ほどですが、有機肥料などを含む全品目では低い。 北出 本来の協同組合としてやっていることを独禁法違反みたいに批判することは協同組合自体を否定することになり、かつての「反産運動」の平成版みたいな感じもします。 田林 JAの仕事の有意義なところを、あらゆる手だてを尽くしてご理解いただき、誤解を解かなくてはいけません。 ◆息長くねばり強く「食の安全」徹底追求 北出 では最後に、全農は安心システムを展開していますが、安全・安心な食品の供給について聞かせて下さい。 田林 その前に、全農の理事9人が昨年8月後半から手分けして現地に出向き、100余のJAの経営者層と懇談したことを申し上げたい。これまで組合長のみなさんと直接話し合う機会が少なかったので、全農が「もっと近くに」のスローガンを掲げ、新体制になったことでもあるからとして実行しました。 北出 長時間どうもありがとうございました。
|