| |||
特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える |
インタビュー 日清製粉(株)専務取締役 中村隆司氏に聞く |
「農協に限らずすべての組織は変化しなければダメだと思います。変化してのみその組織は生存しうる」のだからと、JAグループへの期待を込めて日清製粉の中村隆司専務は語った。それは、創業100年を期し、さらに発展するために事業ごとに分社化した日清製粉グループの意思と経験に裏打ちされた言葉だといえる。そして本業の小麦については、本作にするならば「いつでもコメに戻れる」という作り方ではなく、大規模土地集約型作物である小麦に適した基盤改良をし、コストを低減して一定品質のものを生産することで競争力を高めていく必要があることを強調した。 |
◆創業100年を期し事業ごとに分社化
藤塚 御社は創業100年を期して分社化をされましたが、その意図することはどういうことでしょうか。 中村 平成13年7月2日に、ホールディングカンパニーである日清製粉グループ本社と6つの会社に分社しました。その6つとは、グループの基盤である製粉事業の日清製粉、加工食品事業を行う日清フーズ、配合飼料など飼料事業の日清飼料、ペットフードの日清ペットフード、医薬品や健康食品などの製造・販売をする日清ファルマ、総合プラントメーカーをめざす日清エンジニアリングです。従来は、これらの会社が行っている事業が1つの会社のなかで展開されていました。しかし、小麦粉は1カ月以内に製品になりますが、医薬は研究に10年もかかるとか、事業のサイクルが違います。それから、私たちの事業は人が対象ですが、配合飼料は家畜が対象です。これを1つの会社の中で一緒にやっていると、それぞれの事業分野における競争が不明確になってしまう。それで、それぞれの事業分野に応じた形で分社し、それぞれの事業分野できちんと競争していこうということにしたわけです。 藤塚 多彩な社会貢献活動に力をいれ、環境問題では「報告書」を毎年出されていますね。 中村 食品会社ですので、きちんと環境問題に対応しないと社会的に認められないと考えて、環境対策室を設け、多くの工場で産業廃棄物をゼロにするとか、焼却炉をすべて撤去するとか、リサイクル率を高めるなどに力を入れて取り組んでいますし、省エネのための啓蒙活動は20年くらい前から取り組んでいます。日本経済新聞が1100社を調査して企業の環境問題への取り組みをランキング化していますが、その50位、食品業界に限れば第2位とこうした活動が高く評価され喜んでいます。 藤塚 それから、食に関する研究会を開催されたり、研究助成をされていますね。 中村 財団法人食生活研究会を設立し、いろいろな方に評議員、理事になっていただき、社会貢献活動を行っています。もともとは自然科学系の先生方にお願いしていましたが、最近は、社会科学系の先生方にもいろいろ研究をしていただこうと、分野を広げて助成もさせていただいています。そして年に1回講演会を開いています。 藤塚 ITを活用したコミュニケーション活動もありますね。 中村 「創・食クラブ」といいます。社員や特約店の方がお得意先を訪問をするようにしていますが、私どものお得意先は何万社もありますので、必ずしも訪問しきれず、お得意先の悩みとかご質問に応えきれていないということがあります。そこで、インターネットを活用したネットワークをつくり、直接、お得意先からの質問や悩みを入力していただき、パンや麺の専門家が答えるという仕組みです。 ◆国内産小麦の約4割を購入
藤塚 国内産小麦の使用量はどのくらいのウェイトを占めているのでしょうか。 中村 小麦は国が国家貿易で管理していますから、私たちは食糧庁から買っているわけですが、外国産小麦が87〜88%で国産小麦が12〜13%ですね。国産小麦についていえば、14年産麦の出回り量は78万トン程度で、製粉業界が9割、醤油業界が1割使っています。日清製粉は30万トンを全農さんから購入することにしています。 藤塚 日本の製粉業界も、今後、合併などによって集約化が進んでいくのでしょうか。 中村 いま製粉会社が120数社あります。国内産小麦が今後どう進んでいくのか。国家貿易のあり方がどうなるのかなど、いろいろな要素があって一概にはいえませんが、長期的な流れとしてはそういう方向にいくのではないでしょうか。製粉工場を建設するには莫大な投資が必要です。施設が老朽化して建替えるときに、1社でそれだけの投資をするのは、なかなか難しい面がありますからね。 藤塚 最近の製粉工場はおおむね臨海ですね。 中村 国内産小麦の産地にある製粉工場は、地元の小麦を製粉しパンや麺をつくるなど、特色あるやり方で進んでいく道もあると思いますから、必ずしも数が少なくなればいいというものでもないと思いますね。 藤塚 小麦の国家貿易制度は今後どうあるべきだとお考えでしょうか。 中村 国が重要な食料をどんな形であれきちんと管理をしていきたいというのであれば、国家貿易は存続すべきだと思います。ただ、国家貿易を行うことによって、その原料を使っている業界に、必要以上に負担がかかる場合には、国家貿易のあり方も考えなければいけないだろうと思っています。つまり、国家貿易は何のためにするのかということで判断すべきではないかということですね。 藤塚 生産調整など米の制度が変わりますが、これと麦の生産との関係についてはどうお考えですか。 中村 小麦は本来、大規模土地集約型作物ですが、転作小麦は、水田のまま小麦を作ろうとしています。いずれにしても最終的には、品質がどうかとか、国際競争力がどうか、ということになるわけです。ここ2年ほど「本作」ということで助成金を出してきていますが、いつでもコメに戻れるという作り方をしているのでは「本作」ではないと思います。単なる一時しのぎの転作だと思います。本当の意味で「本作」として作るのであれば、基盤改良をして小麦を作るのに適した土地にして、集約化・大型化して、投下資本を少なくしてコストを下げ、品質も一定にするという方向に進まなければと思いますね。 ◆自給率よりも「自給力」維持が重要 藤塚 国として食料政策をどう考えてやっていくかですね。そういう意味でアメリカの食料政策をどうみておられますか。 中村 アメリカは世界最大の農業国で、生産者団体も強く、けっこうなお金をつぎ込んで保護し、石油と同じ戦略物資として考えていますね。そういうアメリカと日本を比べる必要はないと思います。アメリカのやり方が正しくて、日本のやり方が正しくない、ということはありえないことですからね。 藤塚 日本では自給率目標が定められていますが、これについてどう考えておられますか。 中村 自給率目標をきめるときに「自給率ではなく自給力が重要ではないか」という人がけっこういましたが、私も本当は「自給力」が重要ではないかという感じがします。自給力の中には、耕地だけではなく担い手とか後継者問題も含めて考えていかないといけないと思います。数字上の自給率だと、どうしてもそういう視点が抜けてしまうような気がするものですから・・・。例えば水田の場合、耕作放棄しておくと、いざという時に使えなくなるわけで、そういう問題をどうするのかとか、本当の意味での自給力を維持しておくことが大事だと思いますね。 ◆農協の基本は生産物の販売 藤塚 米食をもっと広げなければいけないと国やJAグループはいっていますが、今後の食生活はどういう方向に向いていくとみておられますか。 中村 米麦の消費トレンドでいいますと、麦はこの20年間、1人30kg程度でほとんど変っていませんが、おコメは100kgから60kgに減ってしまった。この減った40kgが脂肪とか糖分に振り替っているといわれています。しかし、食べる人たちの1食の量が少なくなってきていることもあると思います。私は、コメも小麦粉もでん粉ですから、自分の健康を意識して「でん粉連合」での摂取量を考え、そのなかでコメを選択するのか、パンや麺を選択するのかは個人の自由だと思います。 藤塚 食管制度で国に価格を維持してもらい売る努力をしてこなかった体質が、まだ残っているのかもしれませんね。農協が販売にコストとエネルギーを投入しないといけないですね。 中村 私は生産額、生産出荷額で評価するのが、農協の本質ではないかと思います。モノを作って売る。売るためにどう工夫をするかに力を振り向けていくような方向にいかなければいけないと思います。現在は、そういうプリミティブな活動への力が若干削がれているのではないかという感じがしますね。 藤塚 本業である経済事業がうまくいかなければ、農協の存在意義がないともいえますね。 中村 一所懸命にやられていると思いますが、それが表に出てきていないですね。コメの消費拡大もそうですが、自分たちで何かをして、自分たちの作物が消費者に喜んで食べてもらえるような努力をするべきだと思いますね。 ◆変化してのみ組織は生存できる 藤塚 最後に、JAグループにアドバイスがあれば・・・。 中村 農協に限らずすべての組織は変化しなければダメだと思います。変化してのみその組織は生存しうるわけで、変化しない組織は必ずダメになります。変化をするためには、「変化をしよう」という自分の意識がなければできません。外圧で変化するのではなくて、自分たちで考えて変化をすることです。その変化の仕方は、世の中の風、いまの社会が何を見ているかをきちんと理解し、その世の中の変化に合わせて、あるいは先取りしていくことです。
|