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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

インタビュー
JA改革を考える
改革の風はJA全国監査機構から爽やかに
―JA監事の役割強化や経理改善なども課題―

JA全中 監査委員長 森田松太郎氏に聞く
聞き手・坂田正通 本紙編集委員


 森田さんはJAグループのJA全国監査機構を率い、その分野からJA改革推進の一翼を担って、既成の風土に外部からの新鮮な風を送り込んでいる。監査委員長就任約9カ月。同機構は今、期中監査を実施し、必要のあるJAには期末までに業務を改善するよう勧告書を出している。やがて同機構発足後、初の決算書が出そろう。県監査部が他県のJAの監査を担当するという画期的なやり方も始まった。同機構とJA監事が連携を密にするという方針も改革の風を強めそうだ。理事に比べ、ともすれば影の薄かった監事というポストに内部牽制の力を注入すればJAのコンプライアンス(法令順守)に信頼が高まることになる。同機構の活動に対する期待は大きい。聞き手は坂田正道・本紙論説委員。

◆農業も学んだユニークな経歴
森田松太郎氏
もりた・まつたろう 昭和4年1月生まれ。北海道大学農学部農業経済学科、小樽商科大学経理経営専攻科卒業。33年公認会計士第3次試験合格、36年森田公認会計士事務所設立、平成5年朝日監査法人理事長、9年同法人相談役、10年日本アーサーアンダーセン研究所(現ARI研究所)理事長、12年アサヒビール(株)監査役。

 ――外部の専門家としてJA全中に招かれ、監査委員長を引き受けられましたが、その経過やご感想をお聞かせ下さい。

 森田 全中さんからお話があり、いろいろうかがって、農協さんも大変だなと思い、口幅ったいようですが、私でお役に立つならと引き受けました。
 人選には、大手の監査法人の理事長経験者で農業を知っている人という条件があり、それなら私しかいないということになっちゃったらしい。以前から全農さんの監査をやらせてもらったりしていましたからね。ご縁があったんです。

 ――それに森田委員長は北海道大学農学部農業経済学科のご出身ですしね。それが、どうして公認会計士のほうへ進路変更されたのですか。

 森田 就職した三菱商事系の貿易会社が倒産したからです。カニの缶詰など食品を取り扱っていたんですけどね。困っちゃって、たまたま、その年にできた小樽商大経理経営専攻科(現在の大学院)で1年間、畑違いの勉強をした後、公認会計士の試験にパスし、東京へ出てきたわけです。
 その後、監査の契約先に農業と関係のある肥料やビール、食品の会社が多くなり、学校で習ったことがすごく役立っています。とにかく農業のことは体質になじんでいます。

 ――農家のご出身ですか。

 森田 いいえ。父は旧逓信省にいました。今のNTTです。

◆日本農業にも活力になる機構

坂田正通氏
坂田正通氏

 ――理事長をされていた朝日監査法人の職員は何人ですか。

 森田 約3000人です。昭和44年に資本金50億円以上の会社を監査している会計士は監査法人をつくりなさいとの指導があったのが始まりで、その後、合併を重ねて大きくなりました。

 ――さて、JA改革推進の中で、JAグループの監査実施体制が大きく変わりましたが、要点を教えて下さい。

 森田 都道府県ごとに各中央会の監査部がJAの監査をしていましたが、その事業を統合し、一本化して昨年4月1日にJA全国監査機構ができました。

 ――それを統括し、率いるのが監査委員長ですね。就任は機構の設立と同時ですか。

 森田 そうです。が、その前に私は3月の全中総会で全中の理事に選出されました。理事21人のうち6人が学識経験者で、うち1人は監査委員長という役員選出の枠組みがあるからです。
 私が理事になったのは新機構設立が決まった後ですから準備過程はわかりませんが、最初に監査を一元化するという話を聞いた時、これは日本農業にとっていい話だと思いましたね。改革の背景にはペイオフ解禁や自己資本比率8%キープなどの問題があったかと考えます。

◆決算期までに改善勧告書も

 ――JAに対する監査が県中央会ごとに違うのは問題です。

 森田 県によって考え方が微妙に違い、会計処理や監査レベルに統一がなかったのです。そこで全国監査機構をつくり、監査の品質とレベルを統一して農協に対する信頼性を確保していこうということになりました。

 ――全国監査機構の監査対象はすべてのJAですか。

 森田 いいえ。貯金残高500億円、負債200億円以上のJAに対しては毎年必ず監査を実施しますが、それ未満のJAは任意です。しかし全国監査機構としては2年に1回はやりましょうということになっています。いずれにしても監査を受ける相手先との合意と契約がないと監査はできません。
 JA以外では、信連も監査します。全農、全共連、経済連、厚生連や全酪連も新しく監査対象になるそうです。

 ――具体的に農協監査をどう統一していくのですか。

 森田 同じ基準を実施します。これまでも同一基準があるのですが、実行されているかどうか、すでに期中監査をしています。3月や12月の期末になって急に監査をしてもうまくいきませんからね。そこで期中監査をして期末の決算期までに、これこれこういう点を修正して下さいと改善勧告書を出しています。
 それを受け入れてもらえばきちんとした決算書ができあがってくると思います。全国監査機構設立後、初めての決算となるわけで、それらについて、これからは私が証明した監査報告書を出すことになります。

◆同一品質が最大の目標

 森田 最大の眼目は全国すべての農協監査を同一の品質にすることです。凸凹があっては困ります。たった1つのJAの不祥事でも全体の信用にかかわってきますから。
 全国監査機構に所属するスタッフ約420人の研修にも力を入れています。東京の八王子にあるJA全国研修センターに泊まり込みですよ。

 ――所属職員というと全国の中央会にいる農協監査士のことですね。

 森田 都道府県ごとに全国監査機構の監査部があり、10名前後の職員がいます。その方々に情報を出すメールマガジンを作ったりして今、一所懸命です。

 ――どんな情報ですか。

 森田 例えば、税効果会計はこう考えたらよいとか、資産査定や賞与引当金はこうやって下さいとか、会計処理はいろいろありますから。そのほか全中へきてもらったり、こちらからも出向いて、例えば、そんな処理はダメですよと問題点を指摘したり、機構は活発に機能しています。
 各県ごとにJAの監事は100人くらいおりますが、その集まりには私が出向いて話をしています。私の出勤は週2日ということですが、実際には3、4日は出勤しています。

◆経理と監査は車の両輪

 

 ――JA会計の一番の問題点は何ですか。

 森田 内部統制ですね。例えば同じ人が長年にわたって現金出納をしているのは好ましくないから交代させるのが普通ですが、小さなJAで交代要員がいない場合、別の手だてを考える必要があるのに、それをしないといった問題があります。一般の会社なら内部牽制組織と規則をつくって運用していますが、JAの場合、やっていないところがある。だから、そうした手だてが非常に大切なのだということを、まず認識し、実行に移してもらう段階にあります。

 ――キャッシュを扱う職員の人事異動がなく、経理の部長や課長だけが変わるというケースも多いようです。

 森田 農協監査士のみなさんは統一試験をパスして資格を取得し研修もしていますから結構、優秀ですよ。問題は経理担当者、あるいは経営者層の意識が全国的に統一されていないことが問題です。
 経理がきちんとしていないと、いくら監査をしたって意味がないんです。問題点の指摘ばかりになってね。経理と監査は車の両輪ですよ。経理をよくしないとダメです。

 ――一般企業と比べてJAの内部牽制は甘いですか。

 森田 また内部統制をどうするかの話になりますが、JA合併による合理化で支所の統廃合などから経理要員も減ります。ところが合併で大型化すれば動くカネも大きくなり、子会社もできるし、経理も大規模組織型に変わります。これまでとは違った知識が経理に求められます。連結決算の時代もきていることだし、経理のレベルを上げる指導をしないといけません。

◆より第三者の監査を志向

 ――課題は多いですね。

 森田 JAの経理要員は全国にいっぱいいるし、農協監査士のような資格試験もないから、これを全国的にどうレベルアップするか。監査と経理指導がいっしょというのもヘンですから私は監査機構とは別に経理の指導組織をつくったらよいと思うのですが・・・・・・。

 ――監査は独立的ですしね。

 森田 その点で、全国監査機構の中で県の監査部が、その県下のJA監査を担当するやり方は原則としてやめようということになっています。といっても北海道が九州を担当するのは大変ですから、ブロック単位くらいで考えてA県は隣のB県の各JAを担当するといった具合にします。すでに一部で実施していますが、来年からはさらに広げていく予定です。
 監査は第3者であればあるほど効果が上がりますから、そのほうが全国監査機構をつくった趣旨に一層かなうし、筋が通ります。また、そうすれば監査技術の向上につながるし、それにお互いに交流ができます。実施県では、やってよかった、新鮮な気がするし、お互いの技術の共有化になる、といった反応が印象的でした。これは、かなり画期的なことだと思います。

◆監事がJA経営のチェックを

 

――話は戻りますが、期中監査による改善勧告の中には、期末までに直してもらう問題点がかなりあるんでしょうね。

 森田 直してもらった結果、自己資本比率が8%を割る場合もあるかとみています。そこで例えば資産処分を早めにしてもらうとか、債権回収を促進するとかの手だてを講じて、何とか8%を割らないように、あらかじめ話し合いを詰めていきます。
 それでも8%をキープできない場合は、私たちとは別のセクションで、あらゆる角度から対策を講じてもらうことになります。そうすることで農協の体質が強化され、それが世間の信頼につながると思います。

 ――コンプライアンス(法令順守)問題はどうですか。

 森田 食品表示などの問題がありますから、これも見なきゃならないことになっています。私たちで気がつかない問題もありますから、そこのチェックはJAの監事さんにがんばってもらいます。監事は理事会に出席しますから、違法性のあるようなことを決めたり、やったりしないように意見してもらいます。
 JAの内部で監査をする監事と全国監査機構が連携を密にしてコンプライアンスを徹底していきますが、監事監査、内部監査との連携は今までやらなかったことで、これもかなり画期的な方針であり、JA自身がきちんとすれば世間から信頼されることにつながると思います。

◆顧客満足度考えた事業へ

 ――監査を通じて見るJAと世間一般が見ているJAとの間にギャップみたいなものを感じられますか。

 森田 そうですね。顧客満足度を追求しない会社はダメになっていますが、JAには満足度追求の意識が薄いのではないかという感じがします。JAには消費者と組合員という2つの顧客があると考えた場合、資金運用を間違えると組合員のおカネを毀損しちゃうことになりますが、その辺の意識が問題です。しかし消費者に対しては少し変わってきて食の安全・安心に取り組んだりしていますね。

 ――農家の農協利用率が落ち込んでいます。

 森田 取扱高が減少して利益レベルが非常に落ち込んでいます。農協法8条には営利目的はいけない、組合員に奉仕することとありますが、不健全経営はダメですから、手数料その他の数字をもっとディスクロージャーし、経営の透明性を高める必要があるんじゃないかと思います。
 私はJAブランドだから信頼できるというふうにブランドの価値をもっと上げていくべきだといいたい。今は顔の見える個々の生産者ブランドのほうが信頼されていますからね。

 ――最後に、森田さんは日本ナレッジ・マネジメント学会の理事長ですが、これはどういう学問ですか。

 森田 みんなの経験的知識(ナレッジ)をマニュアル化して共有知にしていく、これを暗黙知を形式知にするともいいますが、すると、みんなが刺激を受けて創造が出てきます。その結果、会社や組織がよくなります。そうした経営管理手法を研究するのです。学会は5年前にできて大きくなっています。JA監査でも情報の共有化を図ってメールマガジンを始めました。


インタビューを終えて

 森田さんは、北大の農業経済を卒業、食品会社に一時期勤められたこともあるというから、農業分野には若い頃から関心があったのでしょう。現職の全中監査委員長のお仕事を楽しんでおられるようにも見える。森田さんは日本ナレッジ・マネジメント学会理事長でもある。知識の勉強会を続けており、中高年の知識を定年や退職で消滅させるのはもったいないというのが動機になった。知的な童顔で気さくに話してくださる森田さんを誰もがすぐ好きになる。
 趣味は豊富、なかでもクラシック音楽で自らバイオリンを弾かれる。学生時代に札幌交響楽団の前身札幌音楽院の弦楽器団員だったこともある。シューベルトの未完成交響曲を演奏すると札幌の聴衆はなぜか喜んでくれたという。今でも、森田さんの友人が地元杉並区の交響楽団を率いているので演奏会に誘われるが、もっぱら聞く方に回っているとか。旅行も好き。海外旅行は奥様とハンガリーやチェコ等の東欧を回ったこともある。4人家族。 (坂田)

 



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