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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

新春特別インタビュー
「ARCADIA」 ―理想郷―撮影進行中
農村に不向きな若者を主人公に「コメの有り難さ」をうたう

斎藤耕一監督に聞く


 コメをテーマにした映画は数少ないが、今「コメのありがたさ」をうたい上げる劇映画「ARCADIA」の撮影が進んでおり、米政策改革のおりから話題がいっぱいだ。農業振興や地域起こしの観点から文化庁芸術文化振興基金の助成もついた。舞台は山形県置賜地方。このためJA山形おきたまも県市町などと共にバックアップしている。監督は「津軽じょんがら節」などで知られる斎藤耕一氏。「都会の若者がコメのことを面白いと思うような映画、明るくコミカルな娯楽作品にしたい」と語っている。完成は今年秋。聞き手は本紙論説委員の倉光定巳氏。
―映画のあらすじ―
  「ARCADIA」(理想郷)=都会から駆け落ち同然で逃げてきた茶髪の少年少女が、とある農家に転がり込んだ。そこには百姓フォークシンガーと名乗る主を中心に様々なわけありの人々が共同生活をしていた・・・・。そして映画は「生命の尊さ」「コメのありがたさ」「自然の偉大さ」をうたい上げる。
 出演は吉永雄紀、大貫あんり(以上新人)、永島敏行、松原智恵子、鹿内孝、浅茅陽子、須貝智郎、ガッツ石松、毒蝮三太夫、小林旭ら。監督は斎藤耕一。企画・制作は(株)斎藤耕一プロダクション。



◆若い人の生きる力をドラマチックな展開で

 ――「ARCADIA」は一言でいってどんな映画ですか。

斎藤耕一監督
さいとう こういち 昭和4年東京八王子生まれ。23年東京写真大学卒。東映、日活、松竹を経て平成元年第2次斎藤プロ設立。賞は芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章、日本映画シナリオ功労賞。 代表作は、キネマ旬報ベストテン1位の「津軽じょんがら節」、毎日映画コンクール監督賞の「旅の重さ」と「約束」、映画芸術ベストテン2位の「幸福号出帆」、日本映画批評家大賞・最優秀監督賞の「望郷」ほか。最近作は「親分はイエス様」。

 「若い方たちに生きる力を見つけてほしいという思いをこめて作っています。知識ではない本当の力を」

 ――農村に飛び込んだというか、逃げ込んだ若者が登場しますね。

 「およそ現代の農村風土に似ても似つかない若者2人をあえて、そこに放り込み、そこからドラマが生まれないかなと思って、娯楽映画としての面白さをねらいました」

 ――コメをテーマにした映画は、そうたくさんありませんね。

 「今井正監督の『米』とか新藤兼人監督の『裸の島』くらいですか」

 ――シナリオを読んだだけでも、話題性の多いストーリーだと思います。

 「たまたま8年前に山形という土地と出会って、山形で撮りたくなり、地元の人も何か1本作ってほしいということから、山形で撮る映画が全国的な発言力を持って見てもらえるような今日的テーマは何だろうと探してコメにたどりつきました。コメは普遍的な意味合いを持ち、日本人のコメに対する思いがあるので、取り上げられる機会の少ないこのテーマに絞りました」

◆コメは日本人の「業」
  青刈りは切ない

 ――東京ご出身の監督にとってコメとは何ですか。

倉光定巳氏

 「私たち戦中・戦後世代はとくにそうですが、日本人にはおコメに対する“業”みたいなものがありますよ。生産調整の青刈りにしても、ほかの作物を畑でつぶすのとは、ちょっと違います。青刈りは切なくて精神的に応えますよ」

 ――自由化の中で輸入農畜産物が増え、生産者は悩んでいます。生産調整を拡大しても米価は下がり、今度また米政策改革で国は生産調整の配分から手を引こうとしています?

 「グローバリゼーションがいわれてコメも商品化され、ほかの商品と同列扱いですが、数年前の凶作で困った時のことを思い起こしても、コメは別格で考えてほしい。コメは日本人のいのちですから、コメ信仰はあったほうがよいと思います。
 そうした日本人の価値観の底辺みたいなものが若い人たちに植え付けられないものかというねらいも、この映画にはあります。また若い人たちの新鮮な判断で農業の重要性を認識してほしい、フリーターのような若者も多いのだから農業に積極的に参入してほしい、さらに若い農業者には自信を持ってほしいという訴えをこめて撮っています」

◆コメ問題は深く重い
  将来の農業を視野に

 ――これからの農業は一層厳しくなると思いますが、それを乗り越えていこうとする農業者や農協への応援歌となる映画ですね。

 

 「これから先の農業を視野に入れています。どう改善し改革していくのかが見えやすいように『大日本生き残り隊』という冗談めいた名前の新規就農者のグループを描いています。脚本を書く前に勉強しないといけないので真っ先にJA山形おきたまを訪ねて、いろいろ教えていただき、それから各農家の話を聞いて回りました。最近も農業青年100人近くと懇談しましたが、みなさん、感動してくれました」

 ――懇談では農政の問題などもたくさん出たのでしょうね。

 「農政の矛盾点などをお聞きすると、それだけで1本の映画ができますよ。青刈りだけを取り上げても1本できます。しかし、それらにこだわらず、将来の農業を探りました。コメをテーマにすると問題が深く重くなりますが、記録映画じゃないのだから、面白くないとだめです。コメの話が素人にも面白くて、さらには観客動員のために明るく、気持ちの良い作品にしたいと、そうした形を整えています。その中で正当な労働をすれば正当に報われるという理想郷を目指す姿を描いています」

◆面白く明るい作品を
  熊が出没する棚田で

 ――撮影は順調ですか。

 

 「半分くらいは撮りましたけど、去年は稲の生長が2週間ほど早く、タレントたちのスケジュールが調整できなくて結局、1年で撮る予定が2年に延びました。稲も一つの主役ですから、きちんと描くために完成予定を今年の秋としました」

 ――苗つくりから刈り取りまでをリアルタイムで追うわけですか。

 

 「その点では俳優さんたちの稲作がドキュメンタリー的です。撮影現場は近くに『熊に注意』という立て札のある南陽市赤山の棚田を2反ほど借りました。農機が入れないので苦労です。だから脚本以上の予期しない効果が出ると思います。
 幸か不幸か予定が延びて良かったのは、米政策改革大綱に合わせて脚本を修正できることです。1昨年の脚本のままでは農民たちのせりふが現状と合わなくて古めかしくなります。これから政策を勉強して表現を書き直します。それにね。青空を撮る時に黄砂が飛んできて黄色い空になったりしたこともあますから撮り直しもします。まさか置賜地方に黄砂がくるとは思わなかった」

 ――それにしても、この企画の実現には大変なご苦労があったことと思います。

 

 「それは市町村やJAや地元のみなさんの熱意と協力のおかげです。企画した時には、こんなこともありました。私とカメラマンが雪の積もった棚田にぼう然と立ちつくしているグラビアが週刊文春に載り『助太刀頼む』とかいうコメントがつきました。そのページが『1年間コメづくりに協力してくれる俳優さんはいませんか』という出演者募集の広告代わりとなり、効果的でした。
 真っ先に永島敏行さんが名乗りを挙げてくれました。彼は千葉と秋田に農場を持っており、アマチュアにコメづくりの尊さみたいなことを指導していますからね。前向きですよ。しかし長丁場のロケですから俳優さんたちのスケジュール調整が大変です。例えば松原智恵子さんなんかはNHKの大河ドラマに出ていましたからね。日活時代から親しかった小林旭さんは友情出演してくれます。出番はこれからなので青刈りをする役をやってもらおうかなと考えています」

 ――なぜ「ARCADIA」という題名をつけたのですか。ゲーテの「イタリア紀行」の副題は「われもまたアルカディアに」ですが。

 

 「アルカディアは置賜地方の代名詞のように使われて地元の方々になじみのある言葉だからです。ギリシアの昔の都市の名前で『理想郷』という意味になっています。イギリス人の女性旅行家がきて置賜の美しい自然を『東洋のアルカディア』だとほめてから定着したと聞きます。
 大日本生き残り隊が生き甲斐を見出し、若者が生きる力を身につけていく理想郷という意味で、この題名にしたところ、地元民もみな賛成してくれました。日本のコメの映画だから逆に横文字も面白いのです。
 ところが題名決定後にニューヨークのテロ事件が発生し、アルカイダと間違う人が出てきて困っています。映画を紹介してくれたNHKの女性アナが『ではみなさん、アルカイダをよろしく』なんていい間違えちゃったりしてね。しかし語源はアルカディアと同じなんです。別の題名案には『おにぎり』とかの候補があるんですが、今、悩んでいます」

◆自然と関わり連帯生む
  農業振興の一環として

 ――「理想郷」という題名は、そこの自然と関わって若者が生きていく、コメ作りの中で、それまで別々の生活をしていた都会人の間に連帯が生まれるというストーリーにふさわしいのですが、アルカイダと間違われては参りましたね。

 

 「連帯といえば、スタッフはみなロケ現場に住み着いたような気持ちでやっていますから、効果的な仕上がりになると思います」

 ――地元の人を俳優として起用していますが、これはどういういきさつからですか。

 「須貝智郎さんのことですね。そもそもは地元の文化連盟の宴会で百姓フォークシンガーを名乗る彼の歌を聞き、エネルギッシュな明るさに感銘して話し込んだのです。地元には新規就農者がたくさんいて、希望に燃えている人や、都会にいられなくなった人もいるというエピソードが面白く、これはコミカルな娯楽映画に作りやすいなと思いました。
 それを山形弁丸出しで語る須貝さん自身が得難いタレントだと私は喝破しました。地元出身のかつての喜劇俳優伴淳三郎さんより現代的で力強くユーモラスで、さらに農業を天職ととらえていることにも感銘しました。そこで彼に出演してもらって彼を軸に周りをプロの俳優で固めることにしたんです」

 ――置賜地方とは8年前からのおつきあいですか。

 

 「地元主催の映画祭が上映作品を全部僕の映画で通してくれたことに感激して、それから交流が始まったんです。今度の映画製作では、地域起こし、農業振興を図る一環として山形県、南陽市、高畠町、JA山形おきたまさんから大変ご協力をいただいております。
 私は東京都八王子文化連盟の理事長をしている関係から市のお祭りで「おきたま物産展」をやらせてもらい、いも煮会などもにぎわいました。そうした交流もあります。映画が完成すれば自主上映もやる計画ですから、今後ともJAさんにはよろしくお願いしたいと思っています」

インタビューを終えて

 若者とコメづくりが主題の、コミカルな映画の制作と聞いてまず驚きました。その斬新さに。そしてその構想が、監督自身の8年間におよぶこの地域での、自然や人とのふれあいや絆から生まれたものと聞き、もっと驚きました。映画を作る仕事の奥深さやエネルギーに、一門外漢が目をむいたのですが、それだけではありません。この映画にかける斎藤監督の情熱に圧倒され、感動したのです。
 地域に腰を据え、人の営みに目をこらし、その中からテーマも配役も、シナリオもメッセージも紡ぎ出していく――。そんな斎藤監督チームの映画づくりの態度には、いま苦吟する農業や地域社会の、立て直しの道すじや手法とも重なるものを感じました。
 “イネとは命の根なり”とは先人の言葉ですが、そのコメづくりを賛歌し、農業の未来に応援歌を寄せてくれる映画「アルカディア」。立派な完成を期待します。そして置賜発、全国での上映運動の成功を――。(倉光)



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