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特集:JAグループの安全防除運動

福島県・JA伊達みらい

現地ルポ モモ栽培全面積で環境に優しい農業を
―― 性フェロモン剤利用による果樹省農薬栽培の取組み

 生産者、農産物そして環境、この3つの安全を守ることが「安全防除運動」が一貫して掲げてきた目標だ。とくに最近は、消費者のオーガニックや地球環境の保全に対する関心が高まってきているが、こうした消費者ニーズに応え、高品質な農産物を生産することで、産地イメージの向上と生産意欲を高揚するために、性フェロモン剤を使った省農薬防除を実施する産地が増えてきている。そこで、管内のモモ生産者全員が「複合性フェロモン剤利用による果樹省農薬栽培」に取組んでいるJA伊達みらいに取材した。



◆高品質・高糖度な生産をめざして光センサー導入

ピンポン球くらいに育った6月上旬のモモ
 JA伊達みらいは、平成7年に福島県中通北部の保原・桑折・国見・伊達・霊山・月舘・梁川の7JAが合併して誕生した。福島県は全国でも有数な果樹産地だが、同JAも販売事業の約60%を、モモやあんぽ柿を中心とする果実が占める果樹産地。特にモモは12年度JA販売実績が32億円強と販売事業の1/3を占める基幹品目だ。
 JA管内では合併以前の旧JAごとに、平成3年から7年にかけて、光センサー選果機が導入され、より高品質・高糖度を目指した生産が行われきている。しかし、生産されたすべてのモモがセンサーに通されるわけではなく、一定の基準を満たさないものは事前にはねられてしまう。はねられたモモは出荷されても価格は安くなる。選果場の担当者は「生産者から苦情をいわれ、きつかった」けれど、そのことが生産者の意欲を高めたし、産地のイメージを向上させたともいえる。

◆全国に先駆けて性フェロモン剤の実証試験を実施

 そうしたなかで、生産者と環境に優しい防除方法として、複合性フェロモン剤を利用した防除の実用化研究が県果樹試験場などで進められ、平成4年に全国で初めて桑折町伊達崎地区で現地試験が実施された。
 農薬登録がされる以前の取組みは普及センターが県果樹試験場の協力を得て進めてきたが、6年からは実証ほ担当農家と旧JA桑折町モモ部会(現JA伊達みらいモモ部会桑折支部)を中心に、性フェロモン剤利用による省農薬防除体系(殺虫剤削減)の取組みや環境保全型農業の啓蒙に努めてきた。その結果、4年40a、5年2ha、6年10haと処理面積を拡大し、効果が高いことと殺虫剤の削減が可能なことが確認され、9年には伊達崎地区に加えて桑折町内3地区と国見町に拡大した。

◆今年からは、全モモ生産者1912名が参加

「プレミアムピーチ」のブランド名で発売
 10年には「コンフューザーP」として農薬登録がされたので、桑折町では早い段階から営農センターが中心となり設置要望の取りまとめや集落説明会を行うとともに、予察体制と情報伝達体制の整備に取組んだ。さらに町が財政的な支援を行うなど、行政とJAが一体となった取組みによって実施面積は162haとなった。また、他地区でも桑折町の成果を受けて環境に優しい農業への取組みが進み、国見町をはじめ梁川町・保原町・伊達町でも本格的に同剤の普及を図り、JA管内で約270ha(内省農薬160ha)の処理面積となった。
 11年からJAは、全モモ生産者(全面積)を対象にして取組みことにし、管内モモ栽培面積の約3分の2にあたる約600haが申しこんだ。JAでは申しこみがあったすべての情報(地番・品種・面積)を地図に落とし込み、「穴のあいたところ」へ推進するとともに、慣行栽培の「ミスピーチ」との差別化を行うために「プレミアムピーチ」とブランド名をつけて販売する。その結果、12年度は98%に拡大し、13年はJAモモ生産部会(1912名)の全員・全面積で実施されている。

◆JA・普及センター・県果樹試験場が三位一体で
モモの主要害虫
 

 モモ栽培全面積で実施されるまでの経過をみると、平坦部や山間部など栽培条件の異なる圃場で実証試験を行い、そのデータをもとにJAと普及センター、県果樹試験場が協力して地区ごとに事前説明会や設置にあたっての指導を繰り返し行ってきたこと。予察体制や情報伝達体制の整備を行う中で地区の中核的農家に対して、より濃密な指導を行ってきたこと、などによって害虫や農薬への理解が深まり、害虫の発生形態に応じた農薬の選択と予察情報をもとにした防除が可能になるなど、従来、スケジュール的に防除していた大部分の農家が「なぜこの時期にこの農薬を使うのか」という基本的なことへの理解が深まったことが大きな要因になっているといえる。

◆迅速な予察情報伝達体制を確立

「発生予察フローチャート」クリックすると拡大表示されます。 そしてこれを可能にしたのが、予察情報の収集・分析と防除方法の迅速な伝達だ。性フェロモン剤を使い殺虫剤を減らした防除体系を実施する場合、発生予察にもとづく適期防除が従来以上に重要だ。発生予察のフローチャートは右図のようになっているが、予察調査としてはモニタートラップ調査と各害虫の世代ごとに圃場での発生密度、被害の発生程度を調べる密度調査を実施している。
モモにつけられたトラップ
 モニタートラップ調査は毎週水曜日に79ヵ所で行われ、調査担当者(生産者)は、正午までに所定の用紙に記入して各地区の営農センターにFAXなどで届ける。営農センターは集まった調査データをパソコンソフト(JAの職員が開発)に入力し、JA本店営農企画課に送信し、7つの営農センターから集まったデータが普及センターに送信される。普及センターは果樹試験場など関係機関と協議して、その週の金曜日までに「病害虫発生予察情報」を各営農センターへ送信。営農センターはその日のうちに各地区での防除対策を補完して、生産部会支部役員などを通じて全生産者にそれを渡すことにしている。密度調査は、4月から8月まで毎月1回231ヵ所で実施され、発生予察に活かされている。

◆生産者を支援するJAの諸施策が高めた組織力

 数又清市同JA営農企画課営農係長は「殺虫剤の使用が慣行の1/2になり現場の安心感が増したこと」が推進の力になったという。そして、何よりも生産者の高品質で高糖度なモモをつくりたいという高い意欲が、合併JAにありがちな地域ごとの「温度差」を埋めた大きな力だっとと振り返る。
 JAでは、前にふれた光センサーの導入の他にも、組合員公募で「ロイヤルフルーツ」と名付けられた有機質50%の環境保全型・核果類専用肥料を開発するなど、生産者を支援する施策をいくつもとってきている。それがJAへの結集力・組織力を高めていることが、わずか3年で全面積実施の背景にあることを忘れてはならいだろう。
 JAでは、さらに殺菌剤の削減を含めた防除回数の低減・省力化についても研究中だという。


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