福島県・JA伊達みらい
現地ルポ モモ栽培全面積で環境に優しい農業を 生産者、農産物そして環境、この3つの安全を守ることが「安全防除運動」が一貫して掲げてきた目標だ。とくに最近は、消費者のオーガニックや地球環境の保全に対する関心が高まってきているが、こうした消費者ニーズに応え、高品質な農産物を生産することで、産地イメージの向上と生産意欲を高揚するために、性フェロモン剤を使った省農薬防除を実施する産地が増えてきている。そこで、管内のモモ生産者全員が「複合性フェロモン剤利用による果樹省農薬栽培」に取組んでいるJA伊達みらいに取材した。 |
◆高品質・高糖度な生産をめざして光センサー導入
JA管内では合併以前の旧JAごとに、平成3年から7年にかけて、光センサー選果機が導入され、より高品質・高糖度を目指した生産が行われきている。しかし、生産されたすべてのモモがセンサーに通されるわけではなく、一定の基準を満たさないものは事前にはねられてしまう。はねられたモモは出荷されても価格は安くなる。選果場の担当者は「生産者から苦情をいわれ、きつかった」けれど、そのことが生産者の意欲を高めたし、産地のイメージを向上させたともいえる。 ◆全国に先駆けて性フェロモン剤の実証試験を実施
そうしたなかで、生産者と環境に優しい防除方法として、複合性フェロモン剤を利用した防除の実用化研究が県果樹試験場などで進められ、平成4年に全国で初めて桑折町伊達崎地区で現地試験が実施された。 ◆今年からは、全モモ生産者1912名が参加
11年からJAは、全モモ生産者(全面積)を対象にして取組みことにし、管内モモ栽培面積の約3分の2にあたる約600haが申しこんだ。JAでは申しこみがあったすべての情報(地番・品種・面積)を地図に落とし込み、「穴のあいたところ」へ推進するとともに、慣行栽培の「ミスピーチ」との差別化を行うために「プレミアムピーチ」とブランド名をつけて販売する。その結果、12年度は98%に拡大し、13年はJAモモ生産部会(1912名)の全員・全面積で実施されている。 ◆JA・普及センター・県果樹試験場が三位一体で
モモ栽培全面積で実施されるまでの経過をみると、平坦部や山間部など栽培条件の異なる圃場で実証試験を行い、そのデータをもとにJAと普及センター、県果樹試験場が協力して地区ごとに事前説明会や設置にあたっての指導を繰り返し行ってきたこと。予察体制や情報伝達体制の整備を行う中で地区の中核的農家に対して、より濃密な指導を行ってきたこと、などによって害虫や農薬への理解が深まり、害虫の発生形態に応じた農薬の選択と予察情報をもとにした防除が可能になるなど、従来、スケジュール的に防除していた大部分の農家が「なぜこの時期にこの農薬を使うのか」という基本的なことへの理解が深まったことが大きな要因になっているといえる。 ◆迅速な予察情報伝達体制を確立
そしてこれを可能にしたのが、予察情報の収集・分析と防除方法の迅速な伝達だ。性フェロモン剤を使い殺虫剤を減らした防除体系を実施する場合、発生予察にもとづく適期防除が従来以上に重要だ。発生予察のフローチャートは右図のようになっているが、予察調査としてはモニタートラップ調査と各害虫の世代ごとに圃場での発生密度、被害の発生程度を調べる密度調査を実施している。
◆生産者を支援するJAの諸施策が高めた組織力
数又清市同JA営農企画課営農係長は「殺虫剤の使用が慣行の1/2になり現場の安心感が増したこと」が推進の力になったという。そして、何よりも生産者の高品質で高糖度なモモをつくりたいという高い意欲が、合併JAにありがちな地域ごとの「温度差」を埋めた大きな力だっとと振り返る。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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