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特集:チェンジ・アンド・チャレンジ JAユース2002
 −第48回JA全国青年大会開催−

人口密集地の条件を生かして
都市農業の可能性を追求
鮮度で勝負「横浜野菜」 業務用の直売も展開

JA保土ヶ谷青壮年部 苅部博之さん

 有機質肥料たっぷりのこだわり野菜を取れたてで食べてもらおうと直売に力を注ぐ。野菜は鮮度が決め手だから市民の需要を市内でまかなえるほどの生産量が理想と語る。また野菜本来の味を広めたいとする。地元の農業に親しみを持ってもらおうと直売所の顧客に呼びかけ、自分の畑や竹やぶでイモ掘り、タケノコ狩りなども催す。顧客とのつながりを強め、消費者の情報を販売に生かしている。苅部家の野菜のおいしさはレストランなどでも評判だ。苅部さんはそうした実績から今年のJA全国青年大会の発表者の1人に選ばれた。

◆新鮮な野菜を地産地消で

佐藤義人さん(左)と苅部博之さん

 京急・上大岡駅前(横浜市港南区)のレストランバーに『苅部家のお野菜』と大きくカラープリントした献立表がある。この種の店で農家ブランドの強調は珍しく、同店の売り物の1つ。マネージャーの佐藤義人さんは「苅部家で作った野菜はおいしい。お客の評判は上々」と語る。 佐藤さんと苅部博之さんは同じ大学で共に農学部出身の友人。昨年11月から提携を始めた。
 今は2月上旬、苅部さんの供給はキャベツ、ダイコン、ニンジン、ブロッコリー、カリフラワーなど。それを佐藤さんの店がスティックサラダ風に3種類のメニューに仕立てている。
 天然塩を1つまみ添えてお客に出す。他に調味料はなし。生野菜をかじってもらうねらいだ。「あくまで新鮮な素材の良さを味わっていただく」と佐藤さん。「これも地産地消の1つのスタイル」とする。「すぐ近くの畑で取れたイメージを強調し、遠い産地からの直送とは違うという細かな差別をアピールできる点も面白い」とのこと。
 だが、お客の中には農業に全く無関心な人もいて、佐藤さんの説明に「えっ、横浜にも畑があるの?」と聞く客もいるそうだ。
 同店と苅部家はかなりの距離だが、佐藤さんが出向いて仕込む時もある。京都の料亭が地元野菜の引き売りから買うのと似ているようだが、事情は違う。
 苅部さんは他のショットバーにも直売している。実は、そこが外食向け販売先の第1号店だ。きっかけは友人である店主からの突然の注文だった。彼は『野菜と酒の店』というコンセプトを説き、苅部さんは「取れ立ての直売が、うちの基本だから新鮮なうちにお客に出してほしい」とだけ条件をつけてスタートした。
 彼は「お前とこの野菜の味をドレッシングで台無しにしたくない」と調味料を塩だけにした。農家名入りのメニューも彼の発案だ。結果は大当たりで「家族にも食べさせたいから、今度からは持ち帰り用の野菜も置いてくれないか」と頼むお客もいるという。しかし、この店は今、ビルの建て替え工事で休業中だ。
 苅部さんの経験を聞いて佐藤さんの“2号店”ができた。「生産者からの情報提供はありがたい」と佐藤さんは語る。一方「今後はトマトの通年供給などを苅部さんに望みたいのだが、都市農業はもう十分にがんばっているのだがら、これ以上はね…」と考え込んだ。

◆直売のお客が年々増加

 苅部さんは2.5ヘクタールで年間約55品目の露地野菜を作っている。キャベツを中心にネギ、ジャガイモを共販で出荷。またホウレン草やコマツ菜などを市場へ個人出荷し、直売もする。こうした多角的な販売形態はまだ例が多くないためか苅部さんの販売戦略はユニークにみえる。
 JA保土ヶ谷は正組合員183戸。全国でも有数の小さな未合併JAで直売所を持たない。しかし個々の農家が店を開いている。
 苅部さんの直売所は東京都内でもめったに見られないログハウス調のおしゃれな建物だ。店名も『FRESCO』。「新鮮な」というイタリア語だ。そのせいか若い女性客が目立つ。男性客も増えた。場所は東海道新幹線のガード横だ。
 都市農業の挑戦といった「斬新な感じを押し出すには、農家っぽい小屋よりもと、若い人が入りやすい空間づくりをねらった。そして誇りと、やりがいが持てるようにと、思い切ってコストもかけた」という。
 開店は3年前。それまでには東京都内などの直売所を見て回り、開店直後は中小企業診断士にも相談。細部にわたって工夫をこらした。このため一見して、やる気十分の構えがうかがえる。客足も絶え間なしだ。
 売り台には今の季節でも約20品目が並ぶ。漬物や梅干は母の手づくりだ。父と博之さんが野菜を作り、母と博之さんの妻が、それに付加価値をつけるため商品陳列の工夫や袋詰めをするなど一家はおおまかに役割分担をしている。
 「おいしければ売れるというわけではないため妻は旬の野菜のレシピをパソコンで作ってお客に手渡し、販促の一助にしている」と苅部さん。スーパーと違って八百屋なみに対面販売の長所を生かしている。「調理方法を知らないことが野菜の需要が伸びない理由の1つだからレシピの役割は大きいと」と指摘する。
 レシピのネタはネットから取ったり、自分で料理して試してみたり、また、お客に教えてもらうことも多い。直売は消費者から直接情報が入る。苅部さんはそれを生産に反映している。 まだ市場出荷が大半だが「直売のお客が年々増えて手ごたえは十分。仕事は忙しいけど市場出荷と両立させる家族の体制が整っているから、さらに直売を伸ばしたい」方針だ。「そのためには若い客層をつかむこと」という課題を挙げた。
 方針の根本には父勉さんの持論がある。「横浜市民345万人に新鮮な野菜を供給できるほどの貢献をしたい」というものだ。勉さんは職人気質ともいえる農業のプロ。JAの品評会では、たくさんの品目で一等賞や優秀賞の常連だ。
 長男がサラリーマンになったため次男博之さんが自ら進んで後継者となった。プロに徹する父の背中を見ていたからだ。就農して今7年目となる。
 地産地消といっても市場出荷では横浜市民の口に入るのは収穫の翌日だ。そこで当日収穫分を食べられる直売に父子ともども精を出し、息子の手で外食用への供給も始まったわけだ。

◆沢山の消費者が得意先に

 博之さんは地域の改良普及センターで研修終了時に『有機野菜は本当においしいの?』というテーマで発表するために実験をしたことがある。有機野菜は一般的に安全・健康面から評価されるが、博之さんは味の面から消費者の志向を探ってみようとした。
 地元の特産であるジャガイモを3通りの方法で栽培し、約30人を自宅に招いて、でき上がりを食べ比べる『ジャガイモパーティ』を開き、順位をつけた。
 結果は、有機質肥料だけで栽培したイモは年配者から「ほくほくで、昔ながらの濃い味がする」と好評だった。しかし若い人たちは化学肥料だけで栽培したイモをむしろ好んだ。
 若い層はマヨネーズやバターなどをたっぷりつけるため、イモそのものは淡白な味がよいとしたようだ。有機質肥料と化学肥料を混ぜて栽培したイモの評価は悪くなかったが、とにかく「年代によって、調味料などの条件から、好みが違うのだとわかって驚いた」と苅部さんはいう。
 こうした年代差はマーケティングの難しさとつながる。しかし苅部さんは生産者として「ひそかな我がままだが」としながらも、やはり「若い人にも野菜本来の味を好きになってもらいたい」と求める。
 苅部さん自身も31歳で若いほうだが「化学肥料だけで作った野菜はおいしくない」と断言し、ドレッシングの多用も批判する。しかし、ファーストフードなどの濃い味付けに慣らされた若者の味覚を日本食好みに転換させるのは困難だ。苅部さんの悩みは続く。
 とはいってもレストランバーで生野菜が受けている現実があり、学校給食に対してJAグループが働きかけるなどといった手だてにも希望がつなげる。また直売所を開いた年に生まれた顧客の子供は野菜が大好きだといういい話もある。
 とにかく、味にこだわる苅部さんの野菜作りは有機質肥料をかなり使う。規格をそろえたりするのに有効であるため化学肥料も少し混ぜる。そして低農薬だ。化学肥料だけでは栄養が回らないため大きくならないし、枯れるのも早いとのことだ。一方、改正JAS法による有機野菜の基準は厳しいので、それをクリアするのは困難だと語る。
 野菜の流通を勉強していた学生時代から、苅部さんは単純にこう考えていた。横浜は大都市だ。巨大な胃袋を持つ。ところが農家数は少ない。ということは農家1戸あたりで、たくさんの消費者を得意先にできる有利な条件があると。
 その考え方は今、確信になった。現在、農業人口は約2万2000人。全人口の0.6%に過ぎない。

◆専業農家の姿勢貫く

 地の利を武器に地産地消で鮮度をアピールすれば、輸入農産物の安さや国内の主産地のブランド力に対抗できる。市内の各JAも同じ考えで『よこはまブランド・はま菜ちゃん・とれたて食べよう横浜野菜』という幟旗をつくった。
 苅部さんの直売所にも、これが勢いよくはためいている。また顧客とのきずなを強めるためイモ掘りやタケノコ狩りなどのイベントも催している。そこには地元農業に親しみを持ってもらおうという生産者の情熱がある。この辺が町の八百屋さんとの違いだ。一方、JAの青壮年部も毎年、農業祭を催している。
 ところで苅部さんのタケノコ狩りは所有地の竹やぶで行う。直売所も同家の土地だ。ほかにも宅地があり、資産活用による農外収入がある。だが、それはあてにせず、あくまで専業農家として農業所得を上げていく姿勢を堅持している。
 保土ヶ谷の農家は大半が駐車場などの資産活用で農外収入を得ている。しかしそれに頼らないで農業に専念している人が多い。
 このため、どことも後継者に恵まれている。JA青壮年部員17人ほどの半数は20歳代だ。子供は農業に打ち込んでいる親の姿にひかれるのだろう。この地域の後継者確保率の高さは全国でも有数なのだ。


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