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特集:チェンジ・アンド・チャレンジ JAユース2002
 −第48回JA全国青年大会開催−

“夢”求めた青年部の情熱がJAを動かした
IT化で農業を もっと楽しく便利に


JA紀南青年部  泉 雅晴さん

 農業のそしてJAのIT化が必要だといわれて久しい。だが、なかなか具体的に進まないのが実態ではないだろうか。「IT革命」などといわれる前から、この日が来ることを信じ、農業の情報化こそ地域農業活性化のカギだと考えた若い生産者たちがいた。その意気込みと先見性を信頼し、JAのIT化に取組んできたJAがある。JA紀南と同JA青年部だ。ここで何が起きたのかを現地に取材した。

◆JAでパソコン教室を開いてほしいんや

 部員の資格は39歳までだが部員数208名、平均年齢32歳、半分が独身という青年部がある。和歌山県のJA紀南青年部だ。JA紀南は、和歌山県南部の田辺市にあるが、温暖な気候と平坦部が少ないという地形的条件を活かして古くから梅とミカンの生産が盛んなところだ。とくに梅は、隣接する「みなべ」地区と合わせると全国生産量の約4割を占める日本最大の産地だ。
 いま、インターネットなどを活用した農業・農村、そしてJA経営のIT化の必要性がことあるごとに強調されているが、JA紀南は平成8年に全国のJAに先駆けてホームページを開設するなど一貫してこの課題に取組んできている。
 JA紀南のIT化を進めてきたのは、「パソコンを農業に活用したい」「もっと農業を楽しく便利にしたい」という青年部パソコン班に集まった人たちの夢と情熱であり、若い人たちの先見性を信じその提案を受け入れJAの施策としてきたJA経営者の姿勢だった。
 青年部が「JAでパソコン教室を開いてほしいんや」とJAに要望したのは平成2年のことだった。当時、パソコンはまだ高額で一部のマニアのものだと思われていた時代だったので「ホンマに使えるのか?」「そんな大金を出しても、元がとれるのか?」という意見が役職員から出された。しかし、IT化が農業にとって必要だと考えていた当時の青年部員は、何度もJA役職員と話合い情報化の必要性を訴えた。その結果、青年部が自主的に責任をもって運営する。昼間はJA職員が事務処理に使うことを条件に、平成2年6月JA理事会で研修用パソコンを購入することが決定され、8月に最新パソコン3台が導入される。

◆全国のJAで初めてホームページを開設

 そして10月にパソコン教室が、青年部パソコン班55名を集めて開始される。パソコン教室でパソコンの基礎、簿記や農業日誌のパソコン化に取組む一方で、6年には、パソコン通信ホスト局BBS−PLANET(Personal computer Learn Agricultural  NETwork-system)を正式に開局。消費者・生産者ら200名が会員となり情報交換を始める。さらに、翌7年10月にインターネットへの接続を開始。その3カ月後の8年1月に全国のJAで初めてホームページを青年部メンバーが中心になって開設し、本格的に情報化への取組みを進めていく。
 いまでこそ、インターネットもホームページもあたり前のことだが、この当時は「いずれそういう時代がくるのかもしれない」というのが一般的な認識だったといえる。インターネット接続が開始される半年ほど前、宮崎県都城で開催された「農業情報ネットワーク全国大会」に参加した瀧川裕司さん(現、JA紀南経営指導係長)は、初めてインターネットにふれ「これからの時代はこれだ」とすぐにパソコンを購入し勉強を始めたと当時を振り返る。

◆目的積立金でJAがサーバを設置

行政主催のIT技能講習で講師を
努める青年部のメンバー

 社会のIT化の波と繰り返し実施されるパソコン研修によって青年部の情報化は進んでいくが、JA自体の情報化が遅れていては「何にもならない」と、各地域の青年部員は地元のJA理事にその必要性を繰り返し訴えていく。そうした青年部の主張を理解した理事は理事会でJA情報化の必要性を主張するなど、JA自体のネットワークシステムの整備を強く要望するようになる。
 その結果、平成12年に、JA独自の大規模インターネットサーバとインターネット技術を活用した会内情報システム・イントラネットサーバを設置することになる。この2つのサーバ設置には多額の費用が必要だが、JAでは平成7年に剰余金の中から5000万円を目的積立金「情報化整備積立金」として用意してあり、これを設置費用にあてている。ここにもJAとしての先見性をみることができる。
 インターネットサーバについては、機種選定から設定までを青年部が任され、JAと「二人三脚」でネットワークシステムを構築したが、業者に依頼するよりもかなり低い費用でできたという。単なる情熱や意気込みだけではなく、10年にわたって知識と技術を蓄積してきたことが実を結んだといえるだろう。
 サーバ導入を機に、従来青年部が中心となって作成してきたJAのホームページは、JA各部署が協力して作成することにし、青年部は独自のホームページをもつことにした。

◆蓄積された英智の結晶HPのコンテンツ

 JAのホームページ(http://www.ja-kinan.or.jp)は、本所に設置された気象ロボットによる気温・雨量の推移データや今月の農業など営農情報やJA紀南の農業の紹介、農協事業などを提供し、JAホームページからも入れる青年部のPLANETでは、農業のリンク、暮らしのリンク、農業www検索、楽々検索といった農業や生活で必要なさまざまなリンク先がまとめられている。試しにPLANETの農業のリンクをみてみると、栽培情報として、果樹用語集・園芸用語集・雑草図鑑・果樹病害虫図鑑があり、農家の地元お天気リンク・地元リアルタイム雨量計など、毎日の営農で必要になる情報やそのリンクがある。さらに経営情報として卸売り市場リンク集があり、全国の中央・地方卸売り市場サイトにリンクできる。記者も親切で便利なので早速ブックマーク(お気に入り)に登録したが、その1つひとつのコンテンツに、10年以上の歳月をかけて地道に蓄積されてきた彼らの英智をみる思いがする。

◆イントラネットで事務効率化が進むJA

 Winkネットと名づけられたイントラネットには167台のパソコンがつながれ、ほぼ職員1人が1台使える環境となっている。それぞれにメールアドレスが割り振られ、いままで電話やFAXで送受信されていた情報がメールでやりとりされている。人事異動や予定などは掲示板機能を使い、会議室の使用予約もネット上でできるなど「使い勝手はいいです」と好評だ。「各支所の指導員に生産予測量とか栽培面積のデータをよく依頼しますが、FAXだと送られてきたデータを手で入力しなければならないが、メールならデータファイルを添付して送ってくるのですぐに集計したりすることができ、時間も労力も省力化できます」と事務の効率化ができたと瀧川さん。

◆ネットワークの威力発揮するメーリングリスト

 パソコンは単体で活用するだけではなくネットワークに接続することで大きな力を発揮する。その1つがインターネットによる情報の受発信だが、もう1つがEメールを利用したメーリングリスト(Eメールによる電子会議の1形態)の利用だ。このメーリングリストを有効に活用しているのもここの大きな特徴だ。
 いまJA内にはいろいろな目的のメーリングリストが25あるという。会議の予告、会議内容の報告などによって、情報の共有化と伝達の迅速化がはかられている。さらに、問題が起きたり分からないことがあるときに、発信することで解決方法や解答を得ることもできる。また、メーリングリストが重なることで、より広い範囲からの情報を収集できるようになり、参加する人の意識が、「言わぬが花」から「発信してこそ」「発信しない人は情報は得られない」に変わってきたと泉雅晴青年部長。
 昨年からは、JAがオフトーク放送で発信する情報を携帯電話やパソコンにメールで送信することも始まった。オフトークでは電話機の側にいないと聞けないが、携帯メールなら畑にいても旅行中でも見ることができる。情報によって配信先をグループ化してあり、必要な情報を必要なときに確実に得ることができ好評だ。

◆広域合併に備えて情報システムの整備が急務

 ここまでの道のりを泉さんは「10年前にはいまのような状態は”夢”でした。もっと農業を楽しく便利にしたいという意気込みと、研修会など地道な努力を積み上げてきたからだと思います」と振り返る。
 だが、すべての青年部員や組合員がパソコンを持ちITを享受できているわけではない。パソコン所有は青年部で30%、組合員では20%程度だという。だから従来からの紙での情報発信などは当分必要だ。そして、ITを使える人と使えない人のデジタルデバイド(情報格差)が問題になると泉さんたちは考えている。
 15年には南の串本までの西牟婁地区9JAの合併が予定されている。広域になったJAで、情報伝達が迅速・的確に行われなければ、組合員の「JA離れ」が起きることが危惧される。だからJAの情報システムをキチンと整備しておかなければならない。青年部では「インターネットサーバ利用計画書」をJAに提案している。これは、生産技術情報系統・資源有効活用系・地域連携系・マーケット流通情報系・農業経営支援系・生活福祉系・JA地域情報システム群に分けて具体的に提案されている。すでに取組まれ4月以降の14年度に実現できるものもあり、青年部の提案がJAに真剣に受けいれられている。

◆研修など地道な努力の積み重ねで情報格差を克服

 デジタルデバイドについては、地道な講習会の積み重ねで、多くの人にパソコンに慣れ親しんでもらうことだという。青年部のパソコン教室はもちろん行政などが主催するパソコン講習会でも泉さんたち青年部員や青年部OBが講師として活躍している。そして主体を消費者においていたJAホームページのコンテンツを組合員向けに充実していくことだ。「パソコンがもっと使いやすくなると、お年よりも含めて一気に弾けるかもしれませんね。それまでは地道に積み上げることですよ」と泉さんは微笑みながら語る。その日がこれからの“夢”なのだ。

◆すべてを地域農業のために

 パソコンの可能性を信じた少数の青年部員から始まったJA紀南のIT化は着実に進んできたといえる。だが、取材して一番強く感じたことは、知識や技術を蓄積してきた彼らが、その知識や技術を地域の農業や生活のためにどう活かすかを常に考えているということだ。すでに青年部を卒業した人が、自分の住む地域でメーリングリストを組織し、他の地域から頼まれればそこに出かけ、惜しげもなく持っているすべてを提供していることだった。


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