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特集:安心・安全で環境に優しい畜産をめざして
    ――JA全農畜産事業の挑戦

特集にあたって
 輸入畜産物の増加と消費の伸び悩みによる価格低迷、生産者の高齢化と担い手不足。BSE発生によって高まる「安心・安全」ニーズ。16年11月から本格施行される家畜排せつ法への対応など、畜産生産者が取り組まなければならない課題は多い。こうした課題にどう取り組んでいくのかを、JA全農畜産事業本部の現業部門3部長に「安心・安全」をキーワードにインタビューした。さらに、クローズアップとして、環境対策への取り組みと、安心・安全な畜産物を供給するための「くみあい配合飼料IPハンドリング」を取材した。

消費者ニーズに応えた新たな畜産酪農政策の確立を
―畜産事業の現状と課題―

 畜産は日本農業の総産出額の28%を占める基幹部門だ。しかし、輸入畜産物の増加による価格低迷などによる経営圧迫、生産者の高齢化・担い手不足、安心・安全への取組強化、環境対策など、課題もあり、現状と課題を概観してみた。

和子牛生産の強化が課題―肉用牛

 肉用牛の生産量は、平成8年以降部分肉ベースで38万〜36万トンで推移していたが、13年9月のBSE発生による国内消費量の激減、価格の暴落など甚大な影響を生産者はこうむった。その後の全頭検査体制の導入をはじめとするBSE関連対策がとられたことで、消費は徐々に回復し、最近はほぼBSE発生前の水準に回復してきている。
 輸入牛肉は、9年以降12年まで一貫して増加してきていたが、BSE発生による国内消費の減退、牛肉偽装事件をきっかけとする消費者の厳しい選別、国産志向の高まりなどから大幅に減少し、14年に入ってもこの傾向は続いている。
 こうした中で、肉用牛生産農家は、小規模層を中心に年5〜7%の割合で減少。平成2年には23万戸余あった生産農家は現在、10万余と半分以下となった。飼養頭数は近年ほぼ28万頭台で推移しており、規模拡大は着実に進展している。
 和子牛生産農家についてみると、生産者の高齢化などにより減少傾向が続いている。1戸あたりの規模は拡大しているが、農家の減少が規模拡大のピッチを上回っており、繁殖雌牛の飼養頭数は減少している。このため、和牛基盤である和子牛生産の強化に向けた対策が、今後の検討課題となっている。

消費者の「安心・安全」への関心の高まり

 BSEの発生によって、消費者の「安心・安全」への関心が高まり、「トレーサビリティ」という言葉はごく日常的な言葉として使われるようになった。BSE対策特別措置法にもとづいて、牛の生年月日、移動履歴などを追跡できるように牛への耳標の装着とデータ入力が進められ、10月からはインターネットを通じて一般公開されている。今後さらに、固体識別を生産から流通・消費にいたる各段階で義務づけるトレーサビリティ法案についての検討が進められている。また、トレーサビリティのJAS規格についても検討が進められており、15年度からJAS規格にもとづく表示が導入される見通しになっている。

生産基盤の維持強化対策を―養 豚

 豚肉については、平成2年以降、生産者の高齢化と担い手不足、環境問題などから国内生産量は減少傾向にある。2年に4万戸余あった生産農家は、最近は減少が鈍化しているものの、小規模層を中心に年10%前後減少し、現在は1万戸となっている。
 豚肉の消費量は多少の変動はあるものの、おおむね安定しており、BSE発生後は、牛肉の代替需要があり需要が増加し、卸売価格も前年度を上回って推移している。需要が安定し、国内生産量が減少しているために輸入は増加傾向にあり、13年度は対前年比8.5%増となり、14年度も輸入は増加傾向にある。
 養豚農家の減少にともなって、繁殖雌豚も減少傾向にある。現在、卸売価格は安定的に推移しているが、平成16年11月1日から家畜排せつ物規制法が本格施行されるのを契機に、さらに離農がすすむことが懸念されており、養豚生産基盤の維持強化に向けた生産振興対策がこれからの課題となてきている。

進む大規模集中化―鶏肉・鶏卵

 ブロイラー(鶏肉)についても、口蹄疫やBSEの影響から、牛肉代替需要が高まり、価格も堅調に推移している。国内生産量は、昭和63年以降減少傾向で推移しており、その分輸入が増加してきている。生産農家も小規模農家を中心に年3%前後減少しているが、1戸あたり飼養頭数は増え、確実に大規模化が進み、10万羽以上飼養する生産者のシェアは、ほぼ88%(13年度)となっている。
 鶏卵は、生産者団体の計画的生産によって、国内生産量はほぼ横ばいで推移している。ここでも、小規模農家を中心に生産農家が減少しているが飼養羽数はほぼ横ばいで、大規模化が進んできている。5万羽以上飼養する生産農家のシェアは、8年度の62%から68%(14年度)へと着実に拡大してきている。

生乳の需要安定対策を―酪 農

 酪農については、生乳生産が13年7月以降、副産物収入の低下を生乳生産増でカバーしたこと、都府県向更新牛の滞留により北海道での生産が高まったこと、都府県でのBSEによる廃用予定牛の滞留などから、生産の減少に歯止めがかかった状態となり、全体として増産傾向にある。また14年度から後継牛確保のための対策が措置され、さらに増産傾向となることが想定されている。
 しかし、家畜排せつ物規制法が本格施行される16年11月以降の離農が懸念されている。さらに、短期的には生乳は増産傾向にあるが、牛乳消費の伸び、生乳使用の増加から、年末年始を除き需要は堅調に推移するものと思われる。

土地基盤に立脚した経営育成を

 食料・農業・農村基本法を受けて、自給率向上の観点から、現在、94万haの飼料作物作付面積を平成22年に110万haに拡大することを目標に、自給飼料増産運動が展開されている。また、コメの生産調整対策として、ホールクロップサイレージの積極的に取り組み地域があり、14年計画では3300haが見込まれている。さらに国産稲わら利用の取り組みも推進されている。
 BSE発生以後、安心・安全の確保、自然環境や家畜環境へ配慮した畜産・酪農を求める消費者の声が高まってきている。そのため、新たな畜産・酪農の基本政策の検討が求められているが、その柱として、土地基盤に立脚した畜産酪農経営の育成に向けた仕組みづくりの検討が、これからの課題となっている。
(生産量、生産農家戸数などのデータは農水省畜産部畜産企画課「畜産の動向」14年10月による)。



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