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特集:安心・安全で環境に優しい畜産をめざして
    ――JA全農畜産事業の挑戦

クローズアップ・環境対策
環境との調和をめざして

――畜産総合対策部環境対策室

 平成11年7月制定された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」は、16年11月1日以降、畜産農場から野積みと素掘りをなくし、なんらかの適正な処理を行わなければならないことを義務付けている。そこで、現在の取組状況などに焦点をあて、JA全農畜産総合対策部環境対策室の取組みを取材した。
残された時間はわずか

 JA全農は、平成12年7月の畜産委員会で、環境対策を具体的に進めるために5つの基本方向を定め、JAグループ各段階が機能分担して取組んでいくことにした。それは
1、畜産農場における具体的な環境対策
2、耕畜の連携による畜産有機堆肥の利用率拡大対策
3、行政措置(助成等)の積極的な活用
4、指導体制の整備
5、環境改善施設、資材等の新規開発
 以後、この基本方向にそって、具体的に取組んできているが、「非生産的な投資であるために、躊躇している生産者がけっこう多い」と推測される。まだ、時間的な余裕があると考えている人が多いということなのかもしれない。しかし、本当に余裕はあるのだろうか。
 現在、国は畜産環境対策を実現するために「資源循環型農業推進総合対策事業」と「資源リサイクル畜産環境整備事業」を整備実施している。また、畜産環境整備機構においても、11年から年間約200億円強の財源で、畜産環境整備対策に関わる施設整備として2分の1補助リース事業を行っている。こうした事業を活用して施設の整備を行うには、事前の県農政局との協議が必要となり、工事に着手する年度の1年前から取組む必要がある。さらに工事には一定の時間がかかるので、実質的には20ヶ月程度を見込まなければならず、15年早々には本格的に取組まねば、16年11月1日には間に合わないことになるだろう。残された時間はわずかしかないということになる。

生産基盤密集地域は集中処理でコストを低減

 JA全農が取組んでいる具体策の主なものをみてみよう。まず「畜産農場における具体的な環境対策」は、集中(共同)処理による環境対策と農場個別処理による環境対策に分けられる。
 「集中処理による環境対策」は、牛豚鶏という畜種がまんべんなく地域内に存在しているか、豚なら豚に取組んでいる生産者が集中しているなど、畜産生産基盤が密集している地域では、共同で運営管理する集中処理センターを設置・運営することで、低コスト環境対策を実現することが可能であるとの提案だ。
 JA全農の試算によれば、農場個別で処理をすると、母豚50頭の場合の排せつ物処理コストは、生産物(豚肉)1キログラム当たり約107円かかる。これを集中処理(母豚3000頭)すると5分の1の約22円ですむ。つまり、個別に装備をするよりも、共同で処理施設をつくり、そこに一定の処理料を支払った方が圧倒的に安くすむということだ。

個別農場処理でも低コストを実現

かいぶん21
かいぶん21

 生産基盤が集中しておらず散在する地域の農家でも、環境対策は義務づけられており、個別農家ごとに環境対策を講じなければならない。このためJA全農は低コストの浄化槽と堆肥生産システムを開発し、「JA全農推奨型」として、広く系統内に普及をはかっている。
 低コスト浄化槽としては、JA全農とセキスイエンバイロメントの共同開発により商品化し、全農畜産施設サービス(株)が販売している「KAIBUN21(かいぶん21)」がある。これは従来品だと小さくても約3000万円ほどするのがその3分の1でできるという超廉価版で、少ロット生産規模農家の浄化槽だ。畜産環境整備機構の「1/2補助付リース」の対象になっているので、500万円程度の負担で浄化槽が取得できる。これを5年償却で考えれば、1ヶ月の負担は10万円弱ということになる。
「タヒロン・マゼッター・シシテム」
超低コスト堆肥生産システム
「タヒロン・マゼッター・シシテム」
 堆肥生産システムとしては、超低コスト堆肥生産システム「タヒロン・マゼッター・システム」がある。これは生ふんを撹拌機であるマゼッターに投入し、生ふんと水分調整剤の撹拌作業を行い、特許を取得しているメッシュ状のタヒロンバックへ投入し、このバックで発酵・成熟・保管・運搬をするシステムだ。バックはくり返し使用することができ、堆肥の切り返し作業や発酵剤が不要など、小規模農家が堆肥を生産するのに適したシステムだといえる。
 JA全農では、農家個別または2〜3戸の農家が共同で購入して処理することを提案しているが、今年7月発売開始ということもあって「知ってもらい、見て、触ってもらうことが一番」と、現在、各地での展示デモを実施し、普及推進に取り組んでいる。
 行政措置については、いくつか触れてきたが、2分の1補助付リースを利用する際に発生する保険料の4分の3見合い分を初年度に限って、JA全農が支援する事業も実施され好評だという。
 また、環境改善施設・資材の開発についても、個別農家用だけではなく、集中処理用施設・資材も含めて「JA全農推奨型」を選定し普及推進してきている。
 さらに、畜産環境対策の専門技術者の育成を目的に、国の取り組みと連携した系統内における畜産環境アドバイザーの育成も含めて、16年11月1日までの体制整備とその後の環境対策をにらみ、全農畜産総合対策部環境対策室は連日大奮闘している。

耕種連携の支援策も実施

 JAなどの堆肥センターが優良堆肥をつくり、それを耕種農家に使ってもらう「耕畜の連携による畜産有機堆肥の利用率拡大」も大きな柱の一つだ。
 しかし、高齢化が進み、堆肥を散布する手間(労務)と時間がとれない耕種農家が多くなってきている。そこで畜産環境整備機構では、堆肥センターの機能を強化するために、耕種農家に替って堆肥センターが散布すれば、そのための機械・ソフト・情報宣伝などについて、一定の助成をする「堆肥センター機能強化推進事業」を行っている。
 JA全農では、この事業を推進するとともに、全農自らも「環境保全型・畜産有機堆肥利用促進モデル事業」を12年度から実施し、現在45堆肥センターの機能強化(人材育成、経営改善、実証試験ほ場設置)に取り組んでいる。

異業種との連携も視野に

 耕種連携は畜産環境対策の大きな柱だが、堆肥を使う時期が春・秋など限られていて、年間を通して使われないという問題がある。こうした問題に対応するために、JA全農では堆肥を炭化し、石炭による火力発電所など異業種と連携して燃料用に使ってもらうなど、国が進める「バイオマス・ニッポン総合戦略」としての畜糞のエネルギー利活用事業を検討している。



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