カントリーエレベーター(CE)が昭和39年に日本に導入されてから38年が経った。この間、国民の主食であるコメの品質の維持・管理をする基幹施設としてCEは着実に増え、40道府県315JAに763施設を数え、その収容能力は200万トンに達するまでに発展し、地域農業振興、米麦経営の基幹施設、米麦集出荷・販売拠点として欠くことのできないきわめて重要な位置を占めている。
CE設置JAを中心に組織されている全国農協CE協議会も発足して今年で28年となるが、今年6月の総代会で、新会長に廣瀬竹造JAグリーン近江会長(JA滋賀中央会会長)を選出した。
そこで、「生産調整研究会」の生産者委員でもある廣瀬会長に、最近のコメをめぐる情勢とCEの果たす役割について聞いた。聞き手は古村勝一(財)農倉基金指導部長。
◆生産現場との距離を感じた生産調整研究会
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「百姓が好き……何としても日本農業を活性化させたい」と語る廣瀬会長 |
――廣瀬会長は食糧庁の「生産調整に関する研究会」の委員をされていますが、研究会に参加されてどんな感想をもたれていますか。
廣瀬 委員には経済界、マスコミ、消費者代表などが参加されていますが、生産現場とは相当な距離があると思いました。私たち生産地においてもそういう人たちの考え方を謙虚に承って改革すべきは改革していかなければいけないと思います。
ただ、その場合に、「規制緩和、自由」ということがよくいわれますが、構造改革、規制緩和で本当に日本の条件にあった稲作経営なり、穀物自給率の向上がどこまではかれるのか、ということをしっかりと考えないといけないと思います。単なる場当たり的な構造改革とか規制緩和では、生産規模の拡大はできませんし、担い手も育たないと思います。
もう一つは、平成6年から豊作が続いていますから、豊作が当たり前という認識になり、コメは主食という意識が薄らいで、他の農産物と同じ商品であるという意識が消費者にも出てきていることを危惧します。
現在、101万haと豊作分の5万haを合わせた106haを生産調整していますが、未達の県もあります。生産調整を達成しにくくしている要因のひとつに、70万トンのMA米の存在がありますね。国は主食用ではなく、援助用とか加工用にまわしているから、数量的には国内の生産調整に影響をおよぼしていないといいますが、私は量的、価格的にも大きな影響があると考えています。
――主食であるコメを市場経済にゆだねてしまうという危機感を感じますね。
廣瀬 「売れる米」ということがいわれていますが、私たちは、秋に収穫されて年間を通して安定的に消費地に供給しているわけで、これが計画流通米の最大の役割なわけです。計画外流通米は、安定供給ではなく価格だけを追求する流通になっています。これも今後よく検討していただきたいと思います。
◆これからの販売戦略は生産履歴分かる品揃えで
――そうした「コメ改革」が進められようとしているなかで、今後、CEをもつJAのコメ販売戦略はどうあるべきだと考えておられますか。
廣瀬 CEでは、需要に応じた新鮮な今摺り米を供給していますが、これに加えて生産履歴を明らかにするトレーサビリティをシッカリやっていくことだと考えています。
私のところでは、従来から品種や肥培管理について一定の指示をしてその条件にあったものをCE利用してきましたが、これからは土壌マップによる土づくり、防除・肥料などの履歴を明確にできるコメをCEに集荷するようにしていく予定です。そして、生産条件が同じ品種ごとにサイロを分けるという販売戦略をとれば、安心・安全・おいしいコメを、消費サイドに安定的に供給できるようになると思っています。
――CEを利用するほ場ごとにキッチリと指示をして、同じ条件のコメごとにサイロを分けるということですね。
廣瀬 そうです。JAがそういう方向でやっていけば、「売れるコメ」づくりの大きな武器になっていくと思いますし、そうあるべきだと思います。
現在ある250トンとか500トンのサイロでも、CEを活用しようと思えば、生産履歴の分かるコメを大量に均質に供給することができますが、これからはもっと小さな100トンくらいのサイロにして、生産条件が同じいろいろなコメを品揃えをし、きめ細かく供給していくほうがいいと思いますね。
――CEを武器としたコメ戦略ですね。
廣瀬 計画外流通米が中心の一部の生産法人は、ライスセンターやカントリーといった施設を持っていませんし、持とうと思ってもこの低米価の中ではコストがかかり、合わないでしょう。われわれには、育苗センターとか、CEやライスセンターなどの施設がありますから、これを活用し、地域の要求にあった生産履歴の分かるコメづくりをする。これがこれから重要になってくると思います。
いままでは、生産者がつくったものを持ち込んでいたわけです。今度は、JAの営農指導として、生産履歴を含めてJAのマニュアルに従ったコメをCEに集荷するようにすることです。それがJAの売れるコメづくりですし、JAのコメ販売戦略だということです。
◆百姓が好き!日本農業の活性化を
――会長は食糧事務所に勤められ、その後、農協運動に携わられてこられていますが、農業への思いが強い・・・・・。
廣瀬 百姓が好きなんですよ。今でも朝5時に起きて出勤前に1時間ほど田んぼに行ってますよ。百姓が好きだから、何としても日本の農業を活性化していきたいと思いますね。
――活性化するためには若い人が入ってこないと・・・・・。
廣瀬 農業をしたいという若い人が少なくなっていますね。これは農業に対する魅力がないということですから、魅力をつくらないことには、政府がいう構造改革や規制緩和をして大型農家をつくっていくといっても、つくれないと思いますね。
魅力というのは、日本型農業をどう構築していくか。それにはまず、経営安定対策の数値を国が示してもらわないと、果たして20ha、50haで専業農家が経営ができるのかどうか分かりませんね。それから転作作物として麦・大豆に国の助成金がでていますが、いままでのように猫の目行政で国の施策が変われば、助成がなくなる可能性もあるわけですから、そのあたりがどうなのかもハッキリしないと、経営できるのかどうか見通しもたちませんね。
――株式会社の参入ということもいわれていますね。
廣瀬 これは本末転倒ですから反対です。
意欲ある農家をつくるために、国が政策的にどうしたらいいのかを考えてもらわないと。また、戦前の地主制度のように企業が田んぼをもって小作を農民に求めるようなことになってしまう危険性が多分にあると思います。
◆細心の注意と日常点検
品質事故は防げる
――CEは導入されてから38年も経ちましたから、更新とかいろいろ問題もでてきていますが、これからのCEの課題としてはどのようなことを考えておられますか。
廣瀬 更新の問題については、国とも協議していきますが、生産調整の拡大や規制緩和の中で、生産者が自分勝手にコメを売りたいということで利用率が落ちていることが一番の課題だと思いますね。
――利用率を向上させるためには、何が一番大事ですか。
廣瀬 役員だけで取り組むのではなく、組合員の意思を運営に十分に反映させるように取り組むことだと思いますね。最近は麦の面積が増えてきていますから、CEは助かっています。麦の乾燥調製は、たとえ専業農家でも個人ではとてもできませんから、JAを利用する。これはJAの大きな強みですね。
――品質事故をなくすことも課題ですね。
廣瀬 最近は地球温暖化の影響でしょうか、稲の生育が早まりましたね。そのために、私のところでは、いままでは9月10日ごろに収穫しますから、それに合わせてCEを稼動していましたが、いまは20日くらい早くなって8月20日ごろの収穫です。ですから高湿度のなかでCEは稼動しますから、事故が起きる可能性が高くなっています。そのことをよくわきまえてCEを稼動していただかないといけないと思いますね。
――最近の事故を見ていますと、おコメの条件の一番悪い中で収穫してCEで作業をしていますね。
廣瀬 注意さえすれば事故は起きません。ちょっとした不注意が事故につながるわけです。CEは機械で、その機械を動かすのは人間ですから、細心の注意と日常的な点検さえしていけば、事故は防げると私は思います。その点に経営者が配慮すれば、事故を皆無にすることができるのではないでしょうか。
◆きめ細かく時代にあったCE運営を
――最後に協議会の会長として全国の皆さんへメッセージを一言お願いします。
廣瀬 CEは全国で763施設が稼動しており、数としては飽和状態にあると思います。これからは中身の伴う運営をしていかなければいけないと思いますね。物流の合理化とか今摺り米でおいしいというだけではなく、もっときめの細かい運営をするという使命がでてきたのではないかと思いますね。そうすれば、消費者からもCEへの要望・希望がでてきますから、売れるコメづくりにつながっていくと思います。そういう最大限の能力を引き出す時代にあったCE運営をしていきましょう。
インタビューを終えて
8年前、全国農協CE協議会が創立20周年を記念して、CEの母国、アメリカの農業施設研修を行ったことがある。そのとき、団員20数名の団長をお願いしたのが廣瀬会長との初めての出会い。
長身痩躯、学者肌の風貌、謹厳実直、そつなく団長役を務められていたが、その頃は、行政マン(食糧事務所)からJAに転身したばかりで、合併前のJAの常務さんでした。いつのまにか、広域合併JA(滋賀県JAグリーン近江)の組合長になり、今年からは、昔風にいうと、滋賀県の四連会長に選出された。
そんな忙しい身でありながら、今年からCE協議会の会長を引き受けられる。そのうえ、つい最近までは、食糧庁の「生産調整研究会」の委員。今度、お会いした途端、「系統組織のなかでも温度差があるが、委員との間では、埋めがたい温度差がある」と、感想を述べられる。会長の出身JAには、6つのCEがある。研究会では「売れるコメづくり」が打ち出されたが、会長は早速、土づくり、防除、施肥管理を徹底した米をCEで扱い、売れるコメづくりを実践するという。さすが、転んでも、ただで起きない近江商人(失礼)。九州のあるCEでは、人工衛星でほ場のタンパク値を把握し、それをもとにサイロ毎に荷受けをしている例もあるが、こうしたトレーサビリティ的な取り組みを全国のCEに広めたいもの。
「会長のエネルギッシュの源は?」の問いに「農業が好きだから」と柔和な顔をほころばす。毎朝、5時には畑に出て豆・野菜の世話をしているという。また、東洋蘭は20年来の愛好家でもあるそうだ。
老朽化施設の更新、稼働率の向上、品質事故の防止など、CEの課題が山積するなかでの廣瀬丸の船出。豊富な経験と、めりはりが利いたもの言いは、CE協議会の舵取りにはうってつけ。くれぐれも、お身体をご自愛のうえ、ご活躍されんことを。(古 村)
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