◆コシヒカリ誕生の地・福井
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今をときめくコシヒカリは福井で誕生した。県農試に記念碑が |
本州の日本海側中部に位置する福井県は、古くは東北・北陸から京に通じる要衝の地として、また中国大陸や朝鮮半島からの文化の窓口として栄え、有形・無形の文化遺産が数多く残っている。また、国内で出土した恐竜化石の約8割が県内で発掘されているという「恐竜王国」でもある。
緑豊かな山々が連なる越前(県東部)と水の流れが美しい若狭(県西部)と自然に恵まれ、古くから「越山若水」と讃えられてきた。この豊かな自然条件を活かして、稲作農業も古くから盛んだった。日本のコメの起源ともいわれる中国・福建米(赤長米)が、いまから約3000年前の縄文時代に福井県で栽培されていたことが分かっている。
福井県人は、勤勉・真面目で新しい物好きだという。勤勉・真面目さが農業を育て、新しい物好きの性格が、新しい何かを生み出すパワーとなり、「越前の国に光輝くことを願って」命名されたコシヒカリを昭和31年に誕生させた。
◆生産者の責任を明確にする「ほ場表示板」
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県内42のCEが。20年選手も多いが、CEのフレコンバラは品質がいいと高い評価を得ている。 |
福井県の平成13年産米作付面積は2万8500ha、生産量は約15万トンだが、県内にはCEが42施設あり、その収容能力は9万8000トンに達する。しかも「20年選手が多い」という。かつて「CEのコメは品質が悪い」といわれたこともあったが、いまは「CEのフレコンバラは品質が安定している」と消費地からも高い評価を得ているという。
それは、「農家の意識が変わった」からだと堺井英輝JA福井経済連米麦課長はいう。良質米をつくるためには、生産段階、CEでの荷受段階、CEの機械のメンテナンス、CEのオペレーターの技術の4つがシッカリ噛み合わないと「品質事故が起きるし、良いコメはできない」と、福井では、生産段階から徹底した営農指導を行っている。
その代表的なものが、CE利用ほ場一筆ごとに掲示されている「CE利用ほ場表示板」だ。ここには栽培品種・面積・生産者名・集落名・田植日・出穂日が記載され、CE搬入前にJA営農指導員が3〜4回巡回し、雑草の除去、病害虫の被害状況、倒伏の程度を点検し、問題がなければ「合格シール」が貼付される
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「圃場掲示板」に合格シールが貼られていないとCEに搬入することが出来ない
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問題がある場合には「今一度、草取りをして下さい」と指示され、農家が草取りをしたら報告をし、それを営農指導員が確認して、はじめて合格シールが貼付されるのだが、このシールが貼付されないほ場のコメはCEには搬入することができない。「合格シール」が貼付されていても、CEでは荷受時に品質検査を行い被害籾は、ライスセンターなどで別処理される。二重チェックで品質の悪いものが入らないように県内全CEで徹底している。
「ほ場表示板」は事前チェックの効果ももちろんあるが、最近は米価が低迷し農家の生産意欲が低下し、ほ場管理が疎かになり勝ちなので、「農家同士の刺激になる」効果が大きいという。「品質事故は、作る段階、CEの段階、各段階ごとに起きる可能性がある」(堺井課長)から、この「ほ場表示板」は、ほ場での農家の責任を明確にすることでもあるわけだ。
◆12年目を迎える「運営管理・環境美化コンクール」
良質米を作るためには、CEにおける適正な運営管理が徹底される必要がある。JA福井経済連では、「CEはJAの窓口であり、重要なセクション」と位置づけ、「マンネリ化が事故につながる」と考え、オペレーターの資質向上を目的とした研修会や施設機器などの点検を徹底している。とくに、機械のメンテナンスには力を入れ、稼動前後に経済連と関係メーカーによる「共乾施設保守点検会議」を開くとともに、各CEにもメンテナンスを行うよう指導している。
その上に立って実施されているのが、全CEを対象にした「CEの運営管理・環境美化コンクール」だ。「自主流通米販売量は10万トン。CEのバラ扱いが約半分あり、良質で均一な高品位米供給に果たすCEの役割は大きい。しかし、多くの施設が古くなり、異物が入ったりする可能性があり、品質事故も心配だ。施設の適正な運営管理と環境美化の徹底、作業の安全と品質事故防止をはかる」ために実施され、今年で12回目を迎える。
◆オペレーターが審査員に
審査は1次審査(7月)、2字審査(11月)、本審査(12月)と3回行われる。1次審査では、審査員が42ヵ所の全CEをマイクロバスで巡回する。審査員には県や食糧事務所とともに、5地区8名のJAのオペレーターも加わっている。
オペレーターが審査員になることで、他のCEを見て、自分のCEの長所・短所が分かることと、長年オペレーターに従事しているとマンネリに陥りがちになるがそれを防ぐなどの利点があるという。審査基準には、先ほどの「CE利用ほ場表示板」が設置・活用されていることも重要な項目としてあげられている。
◆「みんなの施設」を実感させる「運営委員会」
利用率は90%を越える
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真剣な表情で保管管理日誌などをチェックするコンクール審査員 |
CEでの実際の状況を聞くために、JA福井市中央CEをたずねた。
JA福井市(竹下清組合長)の販売事業におけるコメは、生産調整の強化、米価低迷などで下がっているとはいえ、販売事業の70%以上を占めている。
中央CEの作付けは、早稲の華越前4、中生のコシヒカリ6の割合になっているが、CEの利用率は高く90%近いという。利用率が高いのは、1集落1農場に近い状況にあり集団化していること。とくに野菜団地では、コメの収穫と野菜生産が重なりそちらに「手をとられる」ので、CEを利用するからだという。
もう一つは、荷受計画などは集落の代表で組織された「CE運営委員会」で決められ「JAはアドバイスするだけ」(野阪洋同JA営農振興課課長補佐)というように、生産者主体で運営されているので「みんなの施設という意識」が強いことがあげられる。
運営委員会は、同JAの4つのCEごとの地区委員会会長・副会長とJA理事で構成され、JAで一本化されている組織だ。地区委員会はCEごとに設置され、集落・農区ごとに設置された支部の支部長で構成されている。そして、利用計画と利用調整、施設の合理化や生産性向上、利用料金、自主検査や精算に関することを審議し、「策定された作業計画が順調に行えるよう、利用者に対し指導を行う」と「施設管理運営規程」で定めている。
◆問題あるものは荷受しない
「CE利用ほ場表示板」は「20年以上前から実施されている」が、荷受時に営農指導員が再度チェックし、発芽してものやカメムシ被害米などは別処理にまわしている。「キチンと一線を引かないと一生懸命つくっている人がバカをみる」からだと、同CEの責任者・空手勇治さんはいう。
作付けが特定品種に集中しているために荷受が集中するが、いまは「トラックスケールがあるので、時間短縮でき待たせることはなくなった」という。それでも処理できない場合は、他のCEにまわすこともできるという。これも運営委員会がJAで一本化されている効果だろう。
品質事故防止対策としては、稼動前後の機械の点検を徹底していることと、荷受した籾を貯めておかないで「風だけでも送って、とにかく動かすこと」だと空手さんはいう。ここでは、「半乾せずに仕上げる」ことを徹底しているという。
これからの課題としては「民間検査になり、自分で検査するので、それだけ厳しくなりますね」と農産物検査員の資格をもつ空手さんはいう。
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コンクール審査員と一緒に10ヶ所のCEをまわったが、JA福井経済連を中心に全CEが品質事故のない良質米づくりに取り組んでいることを実感した。こうした努力の積み重ねが、福井ではコメの品質事故が発生していないという結果となって出ているのだろう。