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特集:2003 おんなたちのPOWERで「変革」の風を
    −第48回JA全国女性大会特集−

特別企画
JAグループに望むこと

「自分の子どもに食べさせられるか」というモノサシで
(株)いなげや取締役商品本部長 西山正巳氏に聞く

聞き手 原田 康氏(前農協流通研究所理事長)


 1900年(明治33年)に東京・多摩地区で創業した(株)いなげやは、東京・埼玉・神奈川・千葉そして栃木・茨城と首都圏全体に店舗展開する食品スーパーとしていまもっとも注目されている企業だといえる。そして、販売する食品の多くをJA全農から仕入れているように、JAグループとの関係を大切にしている企業でもある。そこで、統合が進む新全農に期待するもの、商品開発の基本的な考え方などについて、西山正巳取締役商品本部長に原田康氏が聞いた。


◆安全・安心の一本化を新全農に期待

西山正巳氏
にしやま・まさみ 昭和21年神奈川県生まれ。日本大学法学部卒。43年(株)イトーヨーカ堂入社、平成9年明治乳業(株)入社、13年(株)いなげや入社、同年取締役就任。

 原田 御社は、全農とかなりの取り引きがありますが、統合して大きくなった新全農をどうみておられますか。

 西山 わが社は全農さんとのつきあいの割合が大きいので、全農関係で問題が起きるのが一番困りますね。独立した会社なら、その会社だけの問題ですみますけれども、全農は統合して国家的な産業になっていますから、どこかで問題が起きても日本中が揺れることになってしまいますからね。
 そして私たちが一番気になるのは、飲料でも関連会社がいくつもあり、同じグループのなかから選択しなければならないわけです。ユーザーとしてはもう少し整理して欲しいですね。

 原田 最近は、コメや飼料などで、いくつもあった会社を整理し統合し始めていますね。

 西山 そのことには、もう1つの視点がありますね。それはトレーサビリティです。私たちが一番期待するのはこの問題です。全農に統合されることによって、いままでバラバラだった安全・安心の取り組みが統一され、「安全・安心な全農ブランド」となる。このことの価値、メリットは大変に大きいです。ですから逆に、全農内部から問題がポロリと出てくると、それが片隅の問題であっても、日本中が揺れ、全部狂ってしまうわけです。全農はコンプライアンスの問題として取り組まれていますが、漏れが絶対に発生しないようにお願いしたいですね。

 原田 統合・合併は組織や会社の都合を優先せず、安全・安心な商品を届けるということをキーワードにして、そのためにどうするかを考えるということですね。

 西山 統合されたことで無駄が省け、全農として安全・安心を一本化して見ていけるわけで、そこに価値があり、信頼度が生まれるわけです。経済効率性が優先されて、安全・安心が二の次になるとおかしくなり問題が起きると思いますね。

◆種苗センターは強い味方―もっと情報の提供を

原田 康氏
はらだ・こう 昭和12年愛知県生まれ。東京教育大学農学部卒。36年全農(全販連)入会、63年総合企画部次長、平成2年生活部長、5年全農常務理事、8年(株)全農燃料ターミナル社長、11年(社)農協流通研究所理事長、14年同理事長を退任。

 原田 ユーザーとしてみると、全農の組織統合の意味はそこにあるわけですね。

 西山 全農としてはもっと別の考え方があったのでしょうが、私たち小売サイドからみれば、安全・安心で一本化ができるというところに価値を見出したいと思いますね。全農と取り引きする上で、安全・安心への取り組みができあがれば、これほど強い味方はないわけですから・・・。
 例えば、全農福岡県本部に種苗センターがあります。できたころは、随分高価な施設をつくったなと思いました。ところが、昨今の安全・安心に不安がある時代になってみると、こういう施設があることは、私たちにとって非常に活用価値があると考えています。播種し発芽させ接木する。そして、品種改良まで1つの施設でしているわけです。その苗を農家に渡して、できあがった作物を集荷して販売していますから、これほどトレーサビリティの明確なものはありませんね。そこに私たちは拠りどころを求めることが可能となります。

 原田 種苗センターは全国にかなりの数ありますね。

 西山 そういう情報をもっと教えて欲しいし、紹介してもらいたいですね。そういうところと取り引きできれば、お客様にもこういう風にやっていますから安全・安心ですよといえ、相乗効果が出せると思いますね。

 原田 安全・安心がいま一番求められていますからね。

 西山 いままでの味・鮮度・価格中心に、安全・安心を加えた取引政策の見直しをしなければいけないわけです。味・鮮度・価格の3つは、産地を選べばクリアできます。そして、差別化ということで、産地の奥へ奥へと入っていましたが、これからは、安全・安心をメインにして、味・鮮度・価格が満たされる産地に集約化されていくことになります。そういう意味でも、統合された全農は、最大の供給元であり、そこに価値を見出せると考えています。

 原田 大型JAにもいい種苗センターなどの施設がありますから、そのことをきちんと伝えないといけませんね。

 西山 インフォメーションがありませんから、私たちが気がついたところのみになり、摘み食いになっていると思います。

 原田 そこで組織というものが評価されるわけですね。

 西山 一本化された全農という組織をどう活用できるかが私たちの課題ですし、全農としてもどう生きていくのか、活躍していくのかが問われているわけですよ。しかし、先ほどもいいましたが、どこかで無登録農薬をつかっていれば、すぐに全体の問題になるというマイナス面もあるわけです。そういう問題が発生しないためにはどうしたらいいのかを考えるときに、まず、現場発想でとらえてもらいたい。頭で考えずにですね。コンプライアンスは、現場の人の声を吸い上げることも大事ではないかと、思いますね。

◆「ちょっといいもの」が売れて―商品開発のポイント

 

 原田 御社では、価値ある商品・質の高いサービスを提供し、お客様から信頼される小売集団をめざして、「クオリティー・ワン・プラン」という経営戦略に取り組んでおられますが、生産する方にそういうベースがあれば、仕組みとして成り立っていくことになりますね。

 西山 いま私たち商品部に求められているのは、安全・安心で信頼できる商品を入れていくのは当然ですが、それだけでは商売になりませんから、その上でどう商品開発をするかが、一番重要なことですね。

 原田 商品開発のポイントは何でしょうか。

 西山 デフレ時代になって、価格戦争もあって低価格品の開発があります。しかし、低価格品ばかり開発していると、利益が圧縮され安売り競争に走り、売上げが伸びなくなります。それをヘッジするために、高級品という意味ではなく、「ちょっといいもの」を開発する必要があり、マーケットの上と下という二極化という対応をしています。現状では、7割が価格対応品で、3割がこだわり商品の開発ですね。

 原田 例えば、どういう商品ですか。

 西山 味がいいとか、産地にこだわるとかですね。

 原田 それが売れている・・・。

 西山 この1年をみると、デフレの中で、価格戦争でどんどん安い商品が出回っていますが、それだけではお客様は満足せず、「ちょっといいもの」が意外に売れています。例えば、売り込んでもいますが、本マグロやインドマグロの中トロとかですね。

 原田 なるほど・・・。

 西山 開発のタイプを二極化といいましたが、もう一つ「発掘・発見のジャンル」があります。これは、わが社の店頭にはないけれど、他社で売れていたものです。そういう例がいくつかあります。例えばタマゴです。タマゴはいつのまにかわが社でも特殊卵が50%を超えていましたから、いいものが売れていると思っていました。ところが、他社で滋養卵というタマゴが売れているという話を聞きました。そこで、20店舗でテストをしました。最初は中途半端な売れ行きでしたが、1カ月過ぎから売れ出し、3カ月後にはかなりの数量が安定的に売れてきたため、全店舗に広げましたが、わずか半年で大型商材になりました。

◆丑の日のウナギ、85%が国産
  ―差別化は国産と輸入というとらえ方で

 原田 最近、国産への期待が高まっているようですが、輸入農産物はどうですか。

 西山 いままでブロイラーは輸入ものを扱っていましたが、どんどん国産に変えていますがこれが売れています。昨年の丑の日のウナギの売上げのうち、国産が85%です。中国産は10%以下ですね。この1年の商品動向を見ると、次から次へと国産にシフトしています。

 原田 価格差を乗り越えて国産にお客がついてきているわけですね。そのときに、国産の生産にマイナスが起きるような問題を起こしてはいけない・・・。

 西山 小売がよそにないものをと差別化を追求すると、相手が入ってこないような小さな規模のところに入っていきます。確かにいいものもありますが、パイが大きくなると小規模では対応できなくなり、無理をしますから輸入品を使ったり、他産地のものを混ぜたりするようになってしまうわけです。

 原田 差別化も限度を超えると量的に対応しきれず、おかしなことになってしまいますね。

 西山 需要と供給のアンバランスが生じると、供給しないと取引停止になりますから無理をするわけです。だから、小売サイドも極度にそういう方向を求めてはいけないと思います。私のところでは、差別化は大事だけれども、深追いせず、国産と輸入という大きなとらえ方で対応することが必要ではないかと考えています。ただ、この産地でなくてはというものもあります。神戸牛が欲しい人に仙台といってもダメですからね。

 原田 トレーサビリティの取り組みはどうされていますか。

 西山 追跡調査は徹底的にやっています。そして、飼料・肥料・農薬・土壌については、現地に行って必ず確認をするとか、公的機関の分析表を確認しながら取り組んでいます。

◆EDLCで企業体質を強化

 

 原田 いま小売業界ではウォールマートの進出が大きな話題になっていますが、このことについてはどう考えていますか。

 西山 成功するかどうかはなんともいえませんが、脅威であることは間違いありません。対応策としては、企業価値を高めることだと思います。そのために、収益性を高め、対応できる企業体質と体力をつけることです。利益体質にしていくためには、値入を高めることで、それには商品開発の強化が必要ですね。もう1つは、ロス削減とコスト低減という内部マネジメントの強化だと思います。

 原田 コスト低減は具体的にはどうやるのですか。

 西山 EDLP(エブリ・ディ・ロー・プライス=毎日安い価格で)を実現するための最大のポイントは、EDLC(エブリ・ディ・ロー・コスト=毎日安いコストで)と考えています。原価だけではなく、あらゆる分野がローコストで運営できるかどうかに着眼して取り組んでいます。

×  ×  ×

 原田 最後に、農村女性へのメッセージをお願いします。

 西山 皆さんの不断のご努力があるからこそわれわれも安心してお客様に商品を提供することができています。今後とも共存共栄にむけてご協力をお願いするとともに、あえて小売の立場から農業生産に従事している女性にお願いしたいのは、農村女性も、主婦であり母親であり消費者でもある生産者なのですから、ご自分の子どもに食べさせられるものか、自分の病気の母親に食べさせることができるか、というモノサシをもって生産し出荷していただきたいということです。

 原田 貴重なお話をありがとうございました。

インタビューを終えて

 「全農に望むこと」の一番に西山本部長は統合・合併は組織や会社の都合を優先せず、安全・安心の商品をいかに作るかをキーワードにして進めてもらいたいとのご意見である。全農はもとより、「農協」というブランドはナショナルブランドであり、どこかで信用に傷をつけると直ちに全国の小売店の売場に影響が出ることをもっと理解をすべきであるとのご意見である。
 安全・安心の商品とは何か、についての西山本部長のメッセージでは「自分の家族に食べさせる作物」を尺度にすることを挙げておられる。
 コンプライアンスやトレーサビリティのようなカタカナ語ではなく、簡単明瞭でしかもこれで充分である。
 全農ブランド、農協ブランドを力を入れて扱って頂いているお店の期待に応える商品を供給できる農協組織となることが、農家組合員の求めている農協でもある。 (原田)



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