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特集:鼎談 農協運動と家の光事業の役割
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鼎談 教育文化活動は良質の有機肥料 (社)家の光協会 山本昌之専務理事 JA紀南 中家徹代表理事専務理事 司会:東京農業大学国際食料情報学部 白石正彦教授 |
創刊75年の歴史を誇る「家の光」を発行する(社)家の光協会は、21世紀のJA教育文化活動の方向を示した「家の光事業基本構想」をまとめている。今後の同協会の果たす農村文化の振興、農協運動の活性化、出版文化団体として社会的活動などの役割に一層期待が高まる。そこで、今回は農協運動における家の光事業をめぐって山本昌之専務とJA紀南の中家徹専務、そして東京農業大学の白石正彦教授に話し合ってもらった。
白石
『家の光』は創刊75年の歴史を持つ雑誌ですが、家の光協会はこれを記念して一昨年「家の光事業基本構想」をまとめました。今日の鼎談は、この基本構想をふまえながら今後の事業の方向、農協のあり方などについて話し合っていきたいと思います。
ただ、考え方だけでは先に進みませんから、2001年がちょうど中期計画の切り替わりの年にあたったので、とりあえず向こう3年間、この大切にしたい考え方を具体的な事業方針にした「21世紀第1次家の光事業中期計画」を立てました。 この計画は、組合員教育、組合員組織の育成活動と生活文化活動を柱に具体的に「農業尊重の思潮づくり」、「参加・参画する仲間づくり」、「組合員・組織の元気づくり」、「共に育てる次世代づくり」の4つの事業目標を掲げました。この目標に基づいて『家の光』『地上』『ちゃぐりん』図書の企画制作をし、さらに記事活用などの文化活動を行うと位置づけました。「共に育てる次世代づくり」で、次世代問題にしっかり取り組むというのが従来にない事業として大きな特徴だと思います。 先日、あるJAのセミナーに出席したのですが、教育文化活動がJAの文書のなかにしっかり出てきていまして、農協段階で教育文化活動が位置づけられる時代になったなと実感しました。そういう点では広域JAの時代にあって家の光協会の対応は率直に言って遅れていたと思います。そこで基本構想と中期計画を作成したわけですが、これから拍車をかけてこの計画に取り組まなければならないと考えています。 白石 JA紀南は「レインボー21」という10年間の長期計画のなかに教育文化活動が盛り込まれていますね。
中家
教育文化活動は、もともとJAにとっていちばん大事な事業だと思いますね。さらに、ICAの新原則やJA綱領でも地域社会との関わりが掲げられており、私たちのJAでも、JAの進むべき方向として「農業を中心とした地域協同組合をめざす」ことを明確にしています。そんななかで、教育文化活動は一層重要性を増してくると感じています。 白石 その教育文化活動の考え方は、家の光協会のめざす理念と基本的には同じなのでしょうか。
中家
われわれが期待する部分は網羅されているという感じはします。ただ、JA段階、ましてや組合員段階では、家の光協会とは一体どんな仕事をしているのかと聞かれると、『家の光』という雑誌を出しているところ、という認識しかないのではないかと思いますね。
白石 現場の具体的な教育文化活動について伺いたいのですが、やはり記事活用や家の光フェスタなどの活動が中心でしょうか。
中家
女性の会の最大の行事が、家の光大会ですね。毎年800人ぐらい集まります。女性の会は『家の光』に相当関心を持っていますし、文化活動のなかでは料理も含めていろいろな記事活用も行っています。 白石 生活文化活動の一環として、女性が参画するクック・ガーデン(Aコープ3号店)もオープンされたそうですね。 中家 ふれあい市を月1回Aコープ店舗で開催してますが、これは自分たちが作ったものや加工したものを販売しようと始めたことです。加工品をつくる施設は夢工房という名前ですが、実はこの資金の一部には平成6年に家の光文化賞を頂いたときの賞金を当てています。夢工房では味噌などの加工品をつくっていますが、ここが女性の会が集まる拠点になっていますね。
白石
家の光の基本構想でもJA紀南の長期計画でも、農業振興や農を大切にする思潮づくりを掲げていますが、これからはクック・ガーデンのような施設を通じて消費者との直接のふれあいのなかで農業や食料の大切さを理解してもらうことが必要でしょうね。
中家
それぞれのJAではそうした役割を果たすことが大事でしょうね。一方で、家の光協会に期待したいのは、対外的な活動です。国民の合意形成なくして農業の発展はないと思います。
山本
対外的に農業の大切さを訴える活動はJAグループ全体の課題ですが、そのなかで家の光協会としては、13年度中に市民農園利用者を読者対象にした新雑誌をつくろうと考えています。市民農園は全国で38万か所あるそうですが、新雑誌は農家というよりも市民農園利用者がターゲットです。
白石 教育文化活動を進めるにはJAの役職員の意識改革が大切だと思います。日常的に、『家の光』などに掲載されている記事について、会議などでこんな取り組みがあるんだね、と話題にしていくことが大切だと思います。 中家 たしかに機会があるごとに話題にするようにしています。ただ、教育文化活動は必要だという認識はあっても、一方では、JAの事業のなかではいちばん切りやすい事業なんです。ここまで経営が厳しくなるとどうしてもそれをなおざりにする、置き去りにする、こういう傾向は出てくるんですね。本当は経営が厳しくなればなるほど、教育文化活動の分野が必要になるんですが。 白石 経営がむずかしいからこそ、逆に『家の光』によるサポートの役割があるとも言えるわけですがね。
山本
その点に関しては、家の光協会が実施している教育文化活動研究集会は今年でちょうど7年目になりますが、参加者は減るのではなく増えているんです。やはりJAの役員の方は関心は持っておられると思います。また、1昨年から始まった家の光文化賞JAトップフォーラムにも定員一杯の申し込みがあるんです。ですから、JAのトップや常勤役員の方は教育文化活動について関心は持ちつつ、どのようにしてそれを自分のJAで実践したらいいのか、その情報を得にきていると思いますね。家の光協会としては、そういう場を提供し、情報交換をしてもらうのが役割だと思っています。
中家
家の光の購読率とJAの経営は、案外、比例していると思うんです。つまり、家の光の普及率は高いけれども、経営状態が良くないというJAはないんですよ。ですから、結果としてはいい回転をするというか、普及率が高まれば経営は良くなる、経営が良くなれば普及率がさらに向上するということになる。 ただ、昨年のデータでは、市町村レベルの家の光大会の参加者は約16万人なんですね。今、『家の光』の購読数は約80万部なので、およそ5分の1の読者が参加していることになります。広域JAになってから、JA段階の家の光大会も相当立派な企画になっていますから、みなさん参加してみてよかったなと思えるんでしょうね。最近は自ら参加して楽しんでいる。ですから、まだ教育文化活動に本格的に取り組んでいないJAには、私はまず家の光大会を開いてほしいと言っています。そうしたJAに対しては、協会としても家の光大会開催のお手伝いをしていこうと考えています。そこがまた一般の出版社と違うところになるわけです。『家の光』は活用されてはじめてその価値がある。普及と活用が伝統的に事業の両輪となっている理由がそこにあるわけです。
白石 8月号にも野菜で紙を作るという記事が載っていましたね。ちょうど夏休みには宿題があるわけですから、『ちゃぐりん』を読めばいいテーマがあるよ、という形で共済や信用事業の担当者がつながりをつけていく。切り口をいきなり事業にするのではなく、こうして組合員や地域の人々とのふれあいを大事にすることだと思いますね。 山本 『ちゃぐりん』は昨年から増部に転じているんですね。それでこれまでは編集局のなかにちゃぐりん編集部を置いていたんですが、昨年からちゃぐりん部として独立させました。また、昨年、農水省と文部省の担当者にも加わってもらって次世代研究会をつくりました。今年になってから、この研究会でシンポジウムを開催したんですが、80JAほど参加してくれました。こういう活動を通じて、次世代問題に対応する新たな事業を検討したいと考えています。 中家 管内の小学校全部に『ちゃぐりん』を1冊づつ提供しているんですが、ある校長先生が言うには、『ちゃぐりん』がぼろぼろになるほど子どもが読んでいるというんですね。先生たちにも、ものすごく評価されているようです。先生が惚れ込んで子どもたちに伝えれば説得力がありますからね。ただ、その良さがまだ十分に知られていませんから、何とかそこを伝えられたらなと思いますね。 白石 今年の全国家の光大会では、『ちゃぐりん』を教材にして女性部の方が小学校の講師になって子どもたちに話をしているという活動が報告されていました。そういう面では教材を通じて地域と学校が近くなるという面もあると思います。 中家 総合学習の関係でいえば、私たちの地域では、JAがその一端を担いますと教育委員会に働きかけていますが、全国段階でもこうした取り組みを打ち出すことを考えてみてもいいのではないかと思いますね。 山本 先ほど話した次世代研究会でも、文部省の担当者も農業を通じた総合学習については、やはりJAが相当なウエートを占めるだろう、ほかにこのテーマに取り組める団体はないだろうということでした。また、先生自身が農業についての教育を受けていない。米国では小学校の先生になるには、農業体験を何か月かやらないとカリキュラムを終えられないんでしょう。日本ではそういうことはないですよね。そういう意味では、先生に対するアプローチも重要でしょうね。
中家 まず問題なのは、活字に親しむ若い人が少なくなっていることです。それに替わって今はITです。いろいろな情報をすべてインターネットで入手する。JAでもインターネットで組合員向けの情報提供をしていますが、青年部からはなぜもっと早くやらないのかという声がありました。ですから、なかなか誌面でのコミュニケーションを考えるのはむずかしいです。 白石 『地上』自体もそういうニーズに合ったものとして編集を見直すことも必要かもしれませんね。どういうところにアクセスすれば、どういった情報が得られるのか、その最新の情報は『地上』を見なければ分からないというように。
山本
家の光のホームページにも開設当初はそれほどでもなかったですが、最近は月に3万件ほどのアクセスがあります。 白石 では最後に今後の課題も含めてお話いただけますか。
中家
私たちのJAでは平成15年の合併が予定されていまして、これが1つの契機になるかなと思っています。広域JAになるわけですから、ますます教育文化活動が重要になると思っています。組合員の結集力、求心力を高めるためには教育文化活動が非常に重要になると思います。そのために家の光協会に期待するところは大きいですね。 山本 私は、やはり女性組織の活性化が大事だと思います。戦後、女性組織と家の光協会は二人三脚で歩んできましたが、今一度、女性組織の活性化にどれだけ寄与できるか考えなくてはいけないと思っています。もうひとつは、『家の光』の媒体特性をもう一度考えることです。実は今年の12月号から誌面を変えますがその狙いは組合員とJAを結びつけるコミュニケーション・ツールであることが誌面で分かるように作り替えようということです。 白石 21世紀はまさに大転換の時代ですので、これからは地域個性を掘り起こしながらどんどん活気を出していく時代に入ったと思います。ヨーロッパでもスローフード運動など、今までの生活を大転換するということも含め、私は家の光協会の役割はますます大事になっていくと思います。いわば新しい21世紀の社会を作り直す軸になるJAづくりが大切でもあるということだと思います。きょうはどうもありがとうございました。
(鼎談を終えて)
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