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食糧庁は9月末に米政策の抜本的な見直しの方針を示し、その内容をめぐってJAグループでは大きな議論になった。本紙でも研究者の提言や現場関係者の座談会などで問題提起をしてきたが、11月末に一定の方向が示され、生産調整や稲作経営安定対策のあり方などは今後の検討に委ねられることになった。そこで今号では今後の議論のために食糧庁の考え方を中川坦次長に聞いた。聞き手は梶井功前東京農工大学学長。 |
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◆「見直しの方向」の基本的考え方は
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食糧庁 中川坦次長
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梶井 米政策の見直しの方向がこの11月に決まりました。まず基本的な考え方と概要を聞かせていただけますか。
中川 新基本法では、わが国の農業の中心である水田農業の安定、発展をめざすことや、食料自給率の向上に向けて努力すること、水田の持っている多面的機能を発揮させるということが大目的になっていますね。
今後はその目的に向けて具体的に何をやるかが課題になるわけですが、図の右側に整理したように担い手の育成や構造改革による生産のコストダウン、あるいは需要に応じた米生産による農家手取りの確保、麦・大豆の生産拡大などが必要です。
こうしたことを水田農業の目的にし、一方で稲作の現状を整理したのが図の左側です。生産、流通、消費、いずれの面でも今の稲作農業は深刻な問題を抱えています。具体的には主業農家の生産シェアが低いという脆弱な生産構造、米価の大幅な下落、生産調整政策の限界、流通、消費の構造変化などがあることがわかります。
そこで、稲作の現状と向かうべき新しい方向の両方を見据えたときに、今何をしなくてはいけないのかを整理したのが、この図の中ほどにある今回打ち出した生産調整のあり方、稲作経営安定対策の改善など6つの項目の米政策改革の方向です。
この方向に基づいて、具体的な政策を明らかにして取り組んでいきたいと考えていますが、われわれは3年待っているようでは、本当に稲作で元気よくやっていこうという農家の人たちが待てるのかという意識を持っています。
◆面積の調整から数量配分へ転換
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梶井功
前東京農工大学学長
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梶井 ポイントを絞って伺いたいと重います。生産調整は、もともと米の減産ですから、方式を数量管理にすることは考えられることだとは思います。ただ、実際に実行するとなると個々の農家の生産能力や出荷まで把握しないと実効性がないですよね。具体的にはどう考えていますか。
中川 生産数量のコントロールは、集落地図を用いてどこにどれだけ米が作付けされているかをチェックし、それと水稲共済などの基準単収をベースにすれば、およそこの地域では今年は米がどれだけ穫れるかがわかるだろうと考えています。
それから、実際に収穫された段階では、個々の生産者からどう出荷したのか、たとえば、伝票のようなものを出してもらえればチェックできると考えています。ただ、そのときに農家消費分をどうやってチェックするのかなど、詰めなければいけない実務的な話が出てくるために研究会で検討が必要ということなんです。
課題はありますが、大きく考えた場合、従来の面積で行う生産調整にどんな問題があったかといえば、生産調整目標面積はほとんどの年で100%以上達成しているのに供給量でみるとオーバーしてきたということですね。それから、面積配分で行うと誰かの農地を引き受けて規模拡大しようとしても、生産調整もセットになっているから、経営上の制約になってきたという面もあります。
そこで数量配分にすれば、もう少しわが地域、あるいは自分はどのような米をどれだけ作ってどう売るか考えようというように生産者の意識が変わるんじゃないかと。今までは生産調整目標面積を達成することに意識があって、わが地域の米をどうやって売るのかということは農協や市町村を含めて、どちちかといえば最優先の検討課題じゃなかった。その発想が変わるというメリットもあると考えています。
◆経営安定させる仕組み(セーフティネット)は必要
梶井 稲作経営安定対策についてですが、私は導入時から補てん基準価格の決め方は再生産を確保できる一定の水準を確保すべきだと考えてきました。
今回は、前7か年のうちの最高と最低を除いた5年平均にすることになりましたね。稲経がスタートした時にこの方式であれば意味があったんですが、米価がこれだけ下がり続けてきた今の時期に算定方式を変更するのでは効果が薄い。経営安定になるのか疑問だと思うんです。
中川 必ずしもそうではないと思いますね。大きな流れとして、米価は需給で決まるわけです。ですから、米価が下がっているのは供給オーバーということであって、生産者サイド全体としては、需給の調整にさらに一層努力しなくてはいけないというシグナルとして受け止めるべきだと思います。
梶井 米価を市場形成に委ねるというのはいいんですが、しかし、市場形成に委ねたのでは生産者の所得が下がりっぱなしになってしまい、生産構造それ自体がおかしくなるということで稲経をつくったわけです。だったら、やはり安定ラインの確保策を考えていくべきではないか。
中川 これ以上は下がりません、という価格を決めるべきだとのことですが、あらかじめ、これ以上下がりません、ということになれば、価格が保証されているからどんどん作るということになり、やはり市場のシグナルが反映されない。
他方、大規模な稲作農家がもっとも価格下落の影響を受けているというのはその通りだと思います。そこで過度の価格変動の影響を受けないようにというのが、稲経を導入したときのそもそもの趣旨であり、平成6年以降は米価が下落傾向にあることも実態ですから、こうした最近の動きも勘案して今回、いわゆる「7中5」に見直したということです。
梶井 どんどん作るのをおさえるために生産調整政策があるわけでしょう。それとリンクしている安定策なんだということを考えるべきではないか。現実に生産者が手にする価格水準が一定水準以上でないと、規模拡大しようという生産者もその意欲がなくなってしまうと思う。意欲を出す水準は何かを考えて、それを確保しないといちばん肝心な水田農業の構造改革が進まないんじゃないか。
極端にいえば規模拡大しようという人たちが借地料として払う水準が、受け取る側の所得と同程度の水準にならないと内在的に規模拡大は進まないのではないかと考えています。
中川 すべての生産者が経営的な判断で行動するとすれば、今のようなご指摘もあるかと思いますが、やはりそれを可能にする米価水準を政策的に支持するのは、需要に応じた生産ということとの関係を断ってしまうと思います。
また、われわれは米の需要を所与のものとしてそこに生産を合わせていますが、今、全体の4分の1近くを占める外食や中食のニーズは、価格にものすごく反応する世界です。そうすると価格が上がると需要量自体が下がるという悪循環に陥る世界が出てきていると思うんですね。だから、これからめざすべきは米価が大きく上がって、そのなかで経営が成り立つというよりは、米価が大きく上がることがないなかで経営が成り立つ方向を目指さないと政策的には手詰まりになってくると思います。
ただ、政策的に価格を支持するという手法はとれませんが、安定的に経営を発展させていけるようなセーフティネットの仕組みは必要だと考えています。そこを経営所得安定対策として考えていこうということです。
◆公平性の確保は検討課題が多い
梶井 望ましい構造になっているなら別ですけれど、今は望ましい構造にどうしたらもっていけるかが問題なのでしょう。ところで、計画流通制度の見直しについては今のところどんなことを考えていますか。
中川 今の法体系は計画流通米が太宗を占めるという前提で成り立っているわけですが、その計画流通米には、流通ルートの特定や自主流通計画の策定などの規制があります。他方、計画外流通米には、たとえば、計画外流通米だけを扱っている業者は登録も必要ないなど規制がありません。
ですから、計画流通米については、もう少し規制を緩めて関係者の創意工夫が生かせるようにしたいということです。たとえば、インターネットを使った米のビジネスも登場していますが、計画外流通米の世界では実現していても、計画流通米の世界にはないんですね。他方、計画外流通米については、表示の不適切なものが多々みられるなど消費者の安全、安心というニーズに応えられていない面もあるわけですから、もう少し規制を強化していこうと。
梶井 計画流通と計画外流通の区別をなくするということではないんですね。
中川 ビジネスの世界での差を埋めて、イコールフッティングに近づけようとは考えていますが、区別がなくなるかどうかを決めているわけではありません。
梶井 ところで、計画外流通で販売しようという生産者は食糧事務所に届けることになっていて、無届けでは過料を課すことになっていますね。
中川 そのとおりですが、これまでに実際に過料を課したケースはありません。その理由ですが、緊急事態になって食糧供給が混乱しているなら別ですが、現在は混乱を起こしているわけではありませんから、まずわれわれとしてはきちんと届け出るよう指導をすべきだと考えてきたからです。実際に届け出の数字は増えているんですよ。たとえば、12年産の届出数量では47万トンですが、13年産では10月末で昨年比で34%増えているんです。
梶井 私も、単に過料に処すべきことを主張しているのではなくて、野放しにしておくのは良くないということなんです。というのも生産調整を達成しても過剰米が発生した場合の青刈りや飼料用処理などのコストは計画流通米出荷者が全部負担しているわけですね。その不公平をどう是正するか、これは大きな課題です。そのときに計画外米出荷者にもコストを負担してもらおうと思っても、出荷者を把握していないというのでは問題だということです。
中川 公平性の確保の問題は、心情的にはよくわかるのですが、具体的な仕組みとなると検討すべき課題が多々ありますので、この点についても研究会で検討してもらうことになっています。また、農協系統にもお願いしたいのは、農協自身も計画外米出荷者のニーズに応えていない面もあると思いますから、そこは集荷団体としての努力もしていただきたいと思います。
梶井 まだ論点はありますが、研究会で十分に議論されることを期待します。
(インタビューを終えて)
“わが地域の米をどうやって売るのか”を地域で相談してもらおうという政策と、稲作生産者を分断するような政策――幸いにして副業農家を稲経対策対象外にするという案は消えたようだが――は矛盾する。諸政策の整合性がとれていることが大事だが、見落とされることがある。計画外流通の肥大化もそこから生じたのではないか。
現状で“米価が大きく上がることがないなかで経営が成り立つ”ような経営が、今どれくらいあるか。土地粗収益が支払小作料を上回っている経営、つまり借地稲作経営が“成り立つ”経営は、平成11年以降は5ha以上だけになっているが、5ha以上稲作農家の米売渡数量は全売渡数量の17%でしかない。こういう経営が増えるようにするにはどういう政策を講ずるべきなのかが問題なのに、今の政策はそういう経営だけに通用する政策に力点をおこうとしているようにみえる。83%の売渡数量を現に持っている稲作経営者の意欲を削ぐようなことを続けたのでは、基本計画が重視する自給率アップなど、到底おぼつかないのではないか。今は何をすべきなのか、そして次には何が課題になるのか、政策には手順が重要だ。
こういった点、議論すべき問題を残した。(梶井) |