今年の米政策の抜本的な見直し方針については、生産者やJAグループ関係者から、なぜ、今なのか、というとまどいの声も多く聞かれた。また、将来展望が拓ける新たな経営所得安定対策の議論こそが今年の大きなテーマとなるはずではという声も。米政策の見直しがどのような背景のもとで打ち出されてきたのか。また、それに対してJAグループはどう運動を進めたきたのか。今後の課題も含めてJA全中の食料農業対策部富士重夫部長に解説してもらった。 |
食糧庁の抜本的見直し案の背景
◆新たな経営所得対策との関係
昨年の緊急米対策の決定のあと、自民党では新たな経営所得安定対策の導入に向けた検討が行われ、12月には自民党の検討方向と併せ、農水省も今後の検討方向の項目整理を出し、今年の始まりは、まさにこの新たな経営所得安定対策の本格的な検討を進めるということであった。
農水省も研究会を立ち上げ、春頃には大綱骨子、そして夏頃には大綱をとりまとめて、その考え方の方向性に即して秋の作物毎の対策、つまり米対策、畑作対策、畜産・酪農対策につなげていく、といった考え方をもっていたはずである。
食糧庁も当初はこうしたスケジュールを念頭において、新たな経営所得安定対策と稲作経営安定対策の関係をどう整理するのか、その上で、一体新しい経営所得安定対策はどのような形のものを、どのような仕組みのものをイメージするのか、できるのか、そしてそれは水田農業の構造改革との関係では絵姿を描けるのかといった検討を進めていたはずである。その上で生産調整のあり方をどうするのか、計画流通米など流通対策をどうするのか。そして、こうした抜本的、総合的見直しは、新たな経営所得安定対策が創設される時に合わせ、14年産、15年産と移行期間を円滑に経ながら実施して行くプロセスを考えたはずである。
ところが、新たな経営所得安定対策はもちろん、構造政策も含めた総合的な経営政策大綱の検討は、時間を浪費するだけで、遅々として進まなかった。
JAグループは当初のスケジュールを念頭において、新たな経営所得安定対策の基本的考え方を整理し、JAグループ各段階で討議等を重ねてきたが、5月の連休前後に経営政策大綱骨子はとりまとめられず、夏へ向かってズルズルと現行施策の検証が行われただけだった。
そして、自民党総裁選の実施による小泉内閣の誕生を迎えることになる。
◆小泉内閣による経済財政の構造改革
小泉内閣誕生によって、経済財政諮問会議が設置され、特殊法人改革、聖域なき財政改革、構造改革なくして景気回復なしなどの路線が打ち出され、この方向に即した検討が押し進められていくこととなる。14年度政府予算の概算要求においても、公共事業の削減、一般政策経費の一律10%カット、構造改革特別要求枠の設定による、構造改革なき事業は予算削減といった枠組みがはまることになった。
食糧庁は、新たな経営所得安定対策との時間軸が詰まらない中、こうした予算の関係から、改革は一気に14年度からという枠組みの中で、水田農業の担い手に焦点を当てた構造改革や、ポジ配分による需給調整体制への移行、規制緩和による米流通の改革を柱にした総合的・抜本的米政策の見直しの検討につき進んで行くことになる。
概算要求をもとにした見直しの大枠
食糧庁は8月末の14年度予算概算要求において、構造改革特別枠として(1)地域水田農業再編緊急対策(日本型CTE)を500億円、(2)米流通システム改革推進対策を443億円として打ち出し、経済財政諮問会議での査定を受け、9月末には(1)を400億円、(2)を160億円要求することを認められた。
こうした予算の概算要求をバックに食糧庁は、米政策の抜本的見直しを全て14年度から実施するとし、水田農業の構造改革については地域水田農業再編緊急対策(日本型CTE)を3年間実施するとともに、稲作経営安定対策の担い手等のシフト、つまり副業農家の除外を盛り込んだ。またポジ配分、生産数量配分への移行、とも補償助成の廃止と新たな助成体系の創設、水田農業確立助成の見直し、稲経における補てん基準価格の据置措置の解除などを打ち出した。さらに米流通システムの改革では、計画流通米に係る販売先制限、期別販売計画などの規制の緩和や、豊作等による過剰米の発生に機動的に対応できるようにする米流通システム改革の促進対策を内容とする大枠の考え方を整理し、自民党の基本政策小委員会に諮ってきた。
これに対し、JAグループは猛反発し、副業農家の除外の撤回を求めるなど厳しい意見が相次いだ。自民党における議論でも、現場の理解と納得が得られない、実態を全く無視したもので認められない、といった意見が圧倒的多数を占めた。
見直しの先送りと14年産対策が決定
11月22日、これまでの現場の組合長やJA青年部等の担い手からヒヤリングを行い、議論を重ねてきた自民党農業基本政策小委員会は、米政策の見直しの先送りと現行の枠組みのもとでの14年産米対策の取り組みについてとりまとめ、決定した。
◆当面の需給安定のための取り組み(14年産)
米政策の抜本手見直しは15年産以降とされたため、14年産は去年決めた緊急米総合対策の枠組みを基本に取り組むこととなったが、いくつかのポイントがある。
(1)生産調整の規模は去年同様101万haとされた。これは96万haに約5万ha緊急拡大した去年と同じ考え方で、拡大分については追加助成措置があり、とも補償や水田農業確立助成も現行通りである。
豊作の作況103に対応する緊急需給調整対策については、今年初めて行った反省と教訓を踏まえ、各県、各地域の選択により飼料用米処理、特別需給水田、収穫前調整等を実施できるよう仕組みを見直した上で措置することとなった。
また、豊作における飼料用米処理における1500円/10a基金の拠出の公平性確保の基本的なあり方は検討課題となったが、現行の枠組みで取り組む14年産については、農業共済組合、食糧事務所など関係機関との連携により、現場における公平性がより確保される取り組みを促進するよう事務次官、食糧庁長官等の通達も出されることとなった。
(2)新しい助成措置として、集落・地区単位の超過達成面積について増加分2万5000円/10a、既存分8000円/10aが創設された。これは自民党における米政策見直しのヒヤリングの時に現場の組合長から、需給改善へ向けた効果的な取り組みの1つとして提起され、議論されてきたものであった。しかし、現行の生産調整面積に対する助成体系は96万haの基本部分と、約5万haの緊急拡大分の追加助成、それにその延長線で措置されている豊作分、作況103に対応する特別需給水田への助成など三段重ねになっている仕組みの中で、どうするのか、その困難さが指摘された。最終的には特別需給水田との選択を可能とし、集落・地区に着目したもので、基本的には作物限定しない面積当たりの助成措置とすることで決定した。
財源、予算が厳しい中で、14年度から打ち出される地域水田農業再編緊急対策(日本型CTE)事業の中で位置づけ、措置することとなった。
◆米政策見直しの検討と稲作経営安定対策
★先送り検討課題
ポジ配分、いわゆる生産数量配分をはじめとした生産調整対策のあり方については、JAグループが最大の課題としていた公平性の確保の問題、つまり生産調整実施者と未実施者、計画流通米と計画外米、過剰米処理における経費負担としての1500円拠出の公平性については、制度的枠組みなどの実効ある多様な措置も含め、今後検討していくこととなった。その見直しの時期、適用すべき年産については、可能な限り15年度とされ、今後JAグループ、行政などから構成される研究会を設置して検討を進めていくが、現場の理解と納得が得られる内容次第であり、15年産はあくまで目途としての意味合いが強い。
また、もう1つの大きな見直し課題であった計画流通制度に代わる安定供給体制についても、当然、生産調整の仕組み、過剰米を含めた公平確保措置の内容と連動するものであり、このテーマについても前述の研究会で、生産調整のあり方と併せ検討していくこととなった。
★稲経における副業農家除外の撤回
稲作経営安定対策については、担い手にシフトし、副業農家は除外したいと目論んだ点については、稲経が地域における多様な農家を含めて生産調整のメリット対策として果たしてきた役割を認めた上で、新たな経営所得安定対策に係る施策を確立する中で、その両者の関係整理、あり方を検討することとなった。
★稲経の補てん基準価格の改善
稲経の補てん基準価格の据置は、昨年の緊急対策の時に措置されたものであるが、安売りなどのモラルハザードの問題や、資金収支の悪化が指摘された。特に重要な点は資金収支の悪化で、この事態がつづけば補てん割合の引き下げとなり、また自らの借金で補てんをつづけるタコ足配当のようなことになることであった。
最終的には農家経営の安定に資するものに見直し、補てん基準価格の算定基礎をこれまでの3年平均から今後は7年中の最高と最低を除外した5年平均、いわゆる7中5と安定化させることで決着した。また、14年産対策として生産者プラス0.5%、政府プラス1.5%の稲経の拠出割合を追加する資金造成措置も実施されることとなった。
★備蓄運営の見直し
政府米の備蓄運営については、150万トン±50万トンから、自主流通米の価格水準や、米の全体需給の動向を勘案して、円滑に運営することとし、100万トン程度とすることになった。ただし、この備蓄水準の引き下げと生産調整は直接リンクさせないで対応していく考え方が示された。
この他、米の安全性に係る取り組みの強化や、米の消費拡大対策の強化、国民運動の展開などに取り組んでいくことも併せてとりまとめられた。
今後の検討課題
これからポジ配分、生産数量配分の方法や計画流通制度の見直し検討が、政府の設置する研究会で進められていくが、JAグループとしては、この問題は個別課題としてや、実務的問題として捉え、位置づけるのではなく、米政策の基本問題として捉え、水田農業の構造改革の問題から、生産調整のあり方、安定的な流通のあり方や経営安定対策、全体を通しての公平性ある政策の確保など、まさに総合的な見直し改革として、十分な期間と検討体制を整備して進めていくべきだと考える。
政府の研究会も食糧庁の範囲にこだわらず、経営局、生産局、農村振興局も含めた農水省全体の今後の農政における重要課題として取り組むべきである。集落営農を含めた担い手の育成確保、農地をまさに農地として利用する規律のもとで農地の有効利用を計画、耕種と畜種の連携を画期的に進める仕組みをどう構築し位置づけるか、豊作分や過剰米の対策、そして最大の問題である公平性確保、転作率の格差、集荷率の格差、とも補償加入の格差、1500円基金拠出率の格差、飼料用米処理の共計負担の格差など幾重にもわたる不公平感が各県ごとにも、県内地域ごとにも生じている実態をふまえ、どのような制度的仕組みがありうるか、これまでの政策にこだわらずに幅広く検討していくことが必要である。
稲作経営安定対策についても、生産調整実施者のメリットとしての経営安定対策という基本を維持・強化した上で、新たな経営所得安定対策との関係整理をどう考えるのか、生産調整のあり方と併せ、どう位置づけを強化するのかといった検討も必要である。
政府の研究会と併行して、JAグループとしても検討体制を整備して、将来の水田農業のあり方も含め、抜本的・総合的な検討を進めていかなければならない。ここでの検討がJAグループにとって来年度、最も重要な取り組み事項となることはまちがいない。