◆じりじり下がる集荷率
JA十日町管内の米の生産者は4600戸。平均耕作面積は約70アールだという。
生産者のほとんどは兼業農家で生産法人や受託組織はあるものの、専業稲作農家の割合は、4600戸のうち1%程度。経済成長時代に所得確保のために兼業化が一気に進んだ。現在では、高齢化も進み、後継者不足からいわゆる飯米農家も多くなった。
同JAの米穀課、佐藤實課長によると、管内全体の集荷率は「平成9年ごろまでは70%を超えていたが、最近ではじりじりと下がり67%程度」だという。管内全体の生産量はほぼ31万俵。このうち集荷量は20万俵である。
品種は、魚沼地域だけに生産量の9割以上が「コシヒカリ」。「魚沼コシヒカリ」は11月の13年産第7回入札でも、2万6279円と上場全銘柄中、もっとも高い。他銘柄よりかなり高いため県外の業者が買い集めにくる傾向はあまりみられないが、地域には計画外流通米を扱う未登録業者が5、6業者ほどあって、生産者から直接買い付け県外に販売しているという。
未登録業者に販売する生産者には、このところ「計画出荷米は需給調整のコスト負担がかかるから損」という意識が強くなっている。
◆仕組みの複雑さに理解が得られず
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佐藤實課長
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JAでは13年産の仮渡し金を稲作経営安定対策の補てん金を含めて2万3000円とした。このうち米の価格だけの仮渡し額は1万7000円だから、入札価格を考えれば、当然、その後に追加払いが行われることになる。
ところが、生産者のなかには、業者が仮渡し金より1000円高い2万4000円を示すとそちらに売ってしまう人も出てきた。なぜそうした行動が出てくるのか。
「結局、作付け面積あたりの拠出金、とも補償や稲経の拠出金などを経営安定のためと考えてもらえず、手取り額から差し引かれるもの、と捉える人が出てきた。拠出金分を除いても最終的には業者が示す価格より手取りは高いんですが、そこの理解がなかなか……」と佐藤課長は話す。
米政策の仕組みが複雑になるなか、高齢農家や規模の小さな兼業農家に理解が得られず、心情的に計画外流通米のほうが得だという意識が出てきたということだ。一方で生産調整に努力し計画出荷している多くの生産者には不公平感が募る。
◆精神論ではだめ 具体的数字示して
JAではこれまで庭先集荷を基本として、自らJAに出荷してくる生産者からは手数料をとらないという方針で集荷対策を行ってきた。
それに加え最近では、稲作経営安定対策のメリットを説明することに力を注いでいる。作付け前の3月から計画出荷米の契約を積み上げる5月までの間、生産者が集まれば、ことあるごとに稲経の仕組みの説明と加入を勧めているという。
「米はJAへ、という精神論ではだめ。具体的な数字を示しJAに出荷するほうが安心だということを分かってもらうしかない」。
◆生産組織の強化へ乗り出すJA
兼業農家がほとんどのこの地域では、今回の米政策見直しで稲経の対象から副業農家を除外する案が出されると、当然、猛反発した。副業農家が対象外になれば、集荷率の向上はおろか、生産調整そのものへの協力が得られなくなってしまうと考えられたからだ。
ただ、その一方で高齢化が進むなか、担い手の育成による地域農業の変革も大きな課題としてきた。
具体的にはJAが支援して生産法人や受託組織を作ることである。
生産法人のなかには25ヘクタール規模の経営を実現するところも出てきた。また、経営安定のために設立当初からカントリーエレベーターやライスセンターを法人が経営できるようにして、JAの集荷業務を代行、同時に集荷率の向上にもつなげるという取り組みもしている。
稲作や転作を引き受ける生産組織も含めると、50近くある。ただ、課題は経営がきちんと確立されている組織が少ないこと。そこでJAでは、生産組織の強化を今後の方針として打ち出した。それぞれの組織に作物や作付け面積などの「経営モデル」を示し、それに即して農地の利用集積を図っていく考えだ。
現在でも米以外で収入を上げる作物としてキノコ類の栽培で収入を上げている生産者、法人もあり、JAの販売額でも米の37億円に次ぐ34億円となっている。これ以外に水田を利用した大豆、そば、さといもなどの栽培で経営安定を図る計画づくりをめざしている。
こうした担い手の経営基盤を強化するモデルを示しながら、集落の協力を得て農地の流動化をすすめる。 そのためにも、生産調整政策での公平性確保は不可欠だということになるが、なかでも佐藤課長が懸念するのはポジ配分に移行した場合、それが実際にどう行われるかだ。
かりに数量配分だけであれば、その数量によっては、たとえば、単収の低いほ場では作付けが拡大し、単収の高いほ場では作付けを今よりも縮小しなければならないという事態も想定されるという。
もっともその場合、単収の高いほ場で生産を制限するかといえば、「そうはならないだろう。予定の生産数量を超えて作っても魚沼コシなら計画外で販売できるからと、結果的に生産調整が崩れるし、農地の流動化もすすまなくなる。数量だけでなく面積配分も実施しないと実効性ある措置には絶対にならない」と指摘する。
豪雪地帯のため転作作物の選択肢は限られ、ここでは米があくまで基幹作物。その米づくりでは、土壌と食味との関係をほ場ごとに分析し生産現場にフィードバックさせるなど、今後は、魚沼コシのグレードアップに力も入れる。それだけに米の生産調整のあり方は、生産者の理解と納得が得られる仕組みとなることが現地では望まれている。