◆自己完結型農業からの脱皮
「カイニョ」と呼ばれる屋敷林に囲まれた家々が、水田の緑の中に点在する「散居」という珍しい景観が広がる富山県砺波平野の奥、県の西南端、石川県と岐阜県に隣接する山麓の平坦地に福光町がある。
昨年春、1町1JAとして誕生したJA福光の組合員数は5391。農家戸数は約3485戸だが、近年は農業就業人口が減少し、就農者の高齢化が進んでいる。
そして、基盤整備された農業用地の90%以上が水田、農業粗生産額の70%がコメという典型的な稲作地帯だ。JAの販売事業をみると、昭和60年をピークに著しく乱降下している。これは、気象条件の変動によることもあるが、コメの生産調整強化、価格の低迷・下落によるところが大きいといえる。
そのためJAと町は「農家・組織等の人」「農用地」「機械・施設」「情報等」を有機的に結びつけて、自己完結型農業から脱皮し、個人・担い手・集落ぐるみの営農組織などが連携して、町全体を1農場とした「地域農場システムづくり(1町1農場)」へ積極的な誘導を進めている。
◆組織化と施設の充実で高い集荷率
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JA福光のカントリーエレベーター(左)とふくみつ健康米
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コメの作付は早生がもち米のとみちからと酒米・五百万石、中生がコシヒカリ、晩生がもち米の新大正が中心となっているが、約60%をコシヒカリが占め、酒米が25%、もち米が14%となっている。作付面積は生産調整30%を差引いて約1900ヘクタールとなっている。
集荷率は毎年90%以上の実績をあげ、業者への「計画外流通はほとんどない。東京にいる娘や大阪の次男に送る縁故米がある程度」だと山田幹夫営農部長。
集荷率が高いのは、1.生産コストの削減、2.集落(ムラ)機能の維持・発展、3.地域の環境を守り資源の有効活用などを目的とした集落営農組織の確立と、管内水田面積の70%をまかなえるカントリーエレベーター(CE)を中核とする「ライスコンビナート」など施設を充実してきたからだといえる。
CEの収容力は4基で9000トンだが、受入数量は8000トンと全国的にみても非常に高い利用率となっている。これは、第1号CE建設時から、該当するエリアの生産者に対して「個人で乾燥機を購入しても近代化資金対応はできませんよ。施設にもってくるようにと決め」るなど、CEに集中する施策を積みあげてきたからだ。
集落営農組織は、兼業農家が多く、1戸あたりの所有農地も1〜1.1ヘクタールと小さいことが背景にあるが「集落で農業機械が20台あったものを、2台で50町歩やろうよ」ということで、その形態としては、1.全面協業プール方式、2.部分協業方式、3.転作協業方式など、その集落にあった形態からはじめ、徐々に全面協業方式に移行するように指導していこうというもの。
◆地域とも補償で麦・大豆の団地化
コメはもとより転作の麦・大豆も協業組織の代表者名義で売渡を行い、生産コストや経費を差引いたものを配分している。法人のように専従者はいないが、簿記管理・事務管理もしっかりと行われている。現在、表1のように総水田面積の約30%を全面協業方式の集落営農組織が担っている。これに部分協業の集落営農組織、法人、認定農業者、中核農業者を加えると、60%弱の農地が集積されていることになる。
麦・大豆の転作作物についても団地化して取組んできているが、これには平成2年からの地域とも補償が大きな役割を果している。「ブロックローテーションととも補償で、麦163ヘクタール、大豆427ヘクタール(12年)を条件がいい地域がやることで、安定的な面積を確保している」と山田部長。表2のように団地の規模は、8年には5ヘクタール未満が多かったが、12年には約70%が5ヘクタール以上と大きくなっている。団地化にあたっては、国道や河川などがなければ集落の境を越えて形成されることも規模が大きくなっている要因だとも。
◆存亡を左右する集落営農組織
加賀藩の年貢取立てを軽微にし、自らを守るために散居という集落形態をこの地域はとったが、互いの連帯感や情報連絡のための集落機能は強固だったという。それが「ゆい」という人情に厚く、相互に助け合う習慣として続いてきた。協同組合精神にも通じるこの伝統が集落営農組織確立の背景にあるような気がする。
その集落営農組織が、今後の農業政策、コメ政策のなかで、どう位置づけられるのか。この地域の農業の行方はこの一事にかかっているといえる。
山田部長には「いまさら個人でとはいえないし、集落で担い手を育成してやってくださいともいえない。集落営農をキチンと主業として位置づけてもらわないと福光の農業は全滅するかもしれない」という危機感がある。集落営農組織の法人化という選択肢はあるが、兼業農家で組織をつくっているから、法人化するための要件を満たすのは大変に難しいといえる。それよりも「中核農家と兼業農家の協業組織である集落営農組織が融合してやっていくことが、地域農業の基盤を維持・発展させていくためには大事なことだ。中核農家だけでは絶対にやっていけないのだから」とも。