◆大きい食糧法の罪「公平性の確保」を
未登録業者は「減反なんかしなさんな。できたコメはみな私が買いますけん」と農家に持ちかける。出来秋にはポンと現金払いの庭先集荷で計画外米を買っていく。業者は大型農家をねらう。生産調整を妨げられて、JAは頭が痛い。
JA岡山の生産調整達成率は約97%。県平均の98.9%よりも低い。
大型農家の減反実施は苦しい。せめてもの救いは、管内がビール麦と小麦の産地であり、ほぼ100%の裏作ができることだ。麦、大豆、飼料作物には奨励金が出る。JAの寺元昭俊専務は「奨励措置は、ぜひ続けてほしい」と求める。
問題は『公平性の確保』だ。その点で当初、『作る自由、売る自由』を合唱させた食糧法の罪は大きい。
減反4割。正直な農家は、そのハンディを背負うが、やらない農家は100%作付という、はるか先のスタートラインから走り出す。
その上、正直農家は販促費、豊作分処理費、調整保管費、基金拠出など重いコストを背負う。計画外流通米で売れば、負担は流通経費だけで身軽に走れる。
寺元専務はそんな例えを引きながら「これでは競争にならない」と憤慨する。
◆ハンディなしのスタートラインを
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寺元昭俊専務
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11月中旬、自民党は米流通制度で生産者代表の意見を聞いた。専務も呼ばれた。ちょうど正面に食糧庁の石原葵長官が座った。
専務は「流通の競争は別として、せめて作付面積というスタートラインは一緒にし、ハンディなしで、公平な競争ができるようにしてほしい」と迫った。
だが長官は、生産調整未実施者を告発するとか法律的に取り締まるようなことは至難だとした。
そこで専務は「交通違反取り締りや税金徴収にしても、そこに、もし差をつければ、差別問題や人権問題になるではないか。行政ができないはずはない」と返し、さらに「未実施者の漁夫の利を見てきた正直な農家は『いつまで、こんなことが続くのか』と、やり場のない怒りを地方行政やJAにぶつけてくる」と現場の実情を訴えたが、議論は中途で終わった。
その後、専務は昔の農地改革を思い出したという。
◆行政が本腰入れ責任を持って
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JA岡山は地産地消のコメを「会陽米」(えようまい)と名付けた。「会陽」は西大寺・裸祭りに因む言葉であるため同寺僧侶の加護を受けた。 |
1945年の第1次では地主の抵抗などがあり、40%の解放にとどまった。しかし第2次では80%に達した。占領軍の強権とはいえ「行政の力をもってすれば公平な競争を実現できるはずです」と強調する。
岡山では減反を守らない人が、わずかずつだが、増えている。大型農家が“ただ乗り”の先進性?を吹聴する影響もある。こじつけにしても、地域のリーダー格の言い分だから、耳を傾ける向きもかなりある。
経済学者レスター・C・サローの著書『資本主義の未来』の一節を引用し、寺元専務は警鐘を鳴らす。その要約はこうだ。
社会組織がしっかりしていないと、全員がただ乗りのインセンティブ(動機)を持つようになる。恩恵だけ受けて、恩恵をもたらしているシステムを維持する努力はしなくなる。(クメール王朝の首都アンコールでは)全員が使えるだけ水を使おうとするだけで、灌漑システムの補修を怠ってシステムが使えなくなり、王朝は没落した。
これからすると、行政が本腰を入れ、責任を持って社会組織をしっかりさせなければならない。ましてやコメは長い歴史を持つ日本人の主食。その需給システムが2、3年でぐらつくようではいけないのだ。
◆大規模経営は果たして効率的か
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京阪神の量販店で
岡山米の宣伝キャンペーンを展開
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しかし現実は「食糧法はすでに破たんした」といわれている状況にある。
米政策見直しの方向で、寺元専務は改めて「計画外米を出す農家にも需給調整の負担をさせること。また未登録業者に登録させて、負担の公平をはかること」と主張。「課題は多いが、みんなで議論を尽くせばよい。とにかく公平性の確保がやれなければ、それは政治ではない」とした。
さらに「農水省はミニマムアクセス米の問題を隠した。見直し課題に入っていない。最近はマスコミ報道もされない」と指摘する。
MA米がなければ、日本のコメは、それほど余らない状況にあると分析する。
問題は、米国流グローバリゼーションの「強い者勝ちの原則です」。稲作経営安定対策から副業的農家をはずすという案も同じように「資本主義の論理むき出しでした。そこで私は、自民党本部で、こんな意見を述べました」と同専務。
要約すると、副業的農家を破たんさせ、駆逐しないと、経営規模の拡大はできない。それが資本主義的論理だが、果たして副業的農家は非効率で、大規模経営は効率的で生産性が高い、といえるのかどうかと。
◆欧州型複合経営は担い手の理念
JA岡山の稲作農家は1万600戸。うち水田所有10ヘクタール以上が19戸で、法人への作業委託もある。専業農家は約2200戸だが、果樹・園芸などが多い。山は果樹だが、谷間では、わずかの稲作といった複合経営もみられる(JA営農センター)。
農家の声を聞くと、米国型単位一経営などは空想世界だ。欧州型の農産加工を含む複合経営が意欲ある担い手の理想らしい。借地経営の法人が増え、平均経営規模はわずかながら上昇している。JAは集落営農のモデルも模索中だ。
なおコメの品種はアケボノとヒノヒカリ。集荷率は仮渡金増額などで今年も約94%を見込む。土づくりに力を注ぎ、京阪神の量販店PB米としてキャンペーンにも積極的だ。