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地域における満足度・利用度No.1をめざして
特集 21世紀に飛躍するJA共済事業

座談会
現場第一主義に立って事業改革を促進
組織統合の効果とこれからの課題

前田千尋 JA共済連専務理事
藤谷築次 京都大学名誉教授・農業開発研修センター会長
司会:押尾直志 明治大学教授

 JA共済事業が歴史的な全国一斉統合を実現してから1年経過した。この1年、JA共済事業は過去最高の長期共済新規契約実績をあげるとともに、統合がめざすものを具体化するための「JA共済3か年計画」を組織協議し、3月の臨時総代会で決定した。この「3か年計画」の目標は、JA基盤の変容、金融自由化や業界の再編による競争の激化など厳しい環境下で、組織統合をふまえた事業改革を促進し、「地域における満足度・利用度No.1をめざす」ことにある。
 そこで、組織統合の効果を発揮してこの目標を実現し、JA共済事業が21世紀に大きく飛躍するために、どのような課題があるのかなどを、藤谷築次京都大学名誉教授と前田千尋JA共済連専務、押尾直志明治大学教授(司会)に話し合っていただいた。

◆組合員・JAの意思反映をスムーズに

  押尾  昨年4月に全国一斉統合を実現し1年が経過しましたが、統合後の事業運営の進捗状況について、まず前田専務からお話いただけますか。

【略歴】
(まえだ ちひろ)
昭和12年1月6日佐賀県生まれ。
九州大学理学部卒業。
昭和35年全共連入会、大阪支所長、
数理部長、総合企画部長を歴任、
平成5年参事、
平成8年常務理事を経て
平成12年代表理事専務に就任。
 
【略歴】
(ふじたに ちくじ)
昭和9年愛媛県生まれ。
京都大学卒業。
京都府立大学助教授・教授を経て
京都大学教授、現在
(社)農業開発研修センター
会長理事・京都大学名誉教授。
著書に『農産物流通の基本問題』
(編著、家の光協会)、
『農業政策の課題と方向』
(編著、同)など多数。
 
【略歴】
(おしお ただゆき)
昭和24年3月千葉県生まれ。
昭和52年明治大学大学院
商学研究科博士課程。
平成5年日本協同組合学会
常任理事、
平成7年福島大学経済学部
非常勤講師、
平成10年厚生省「生協のあり方
検討会」委員。
  前田   組織統合にあたって、組織が大きくなっても組合員やJAの意思反映がスムーズにいくように対応すべきだといわれておりましたので、この1年間そのことに気を配りながら運営に努力をしてきました。
 具体的には、県域での組合員・JAの意思反映については、県の理事会はなくなりましたので、県本部事業運営委員会を月1回開催し意見集約を行ってきました。また、連合会内部の意思反映・意見交換を密にするために県本部長会議を月1回開催してきました。
 さらに県本部長の代表者による共済事業経営委員会を設け、理事会に付議する重要案件等について事前に十分協議をし意思疎通に努めてきました。この共済事業経営委員会のほかに、人事制度委員会をはじめ、普及・開発、教育研修、審査・査定、福祉活動、資金運用の6つの専門委員会を設けております。資金運用については資金が全国本部に一元化しましたので、地場産業など地域対応については県本部の意見を十分に聞いてということで設けています。

  押尾  事業実績はどうですか。

  前田   12年度は、統合初年度でしたが、JAの役職員のみなさんにご努力いただいた結果、厳しい環境下にもかかわらず、長期共済、年金共済とも過去50年の歴史の中で最高の実績を挙げていただき、目標を達成することができました。

  押尾  この間「3か年計画」についても、検討されてきたわけですね。

  前田   前3か年計画の最終年度が12年度でしたので、13年度からの新3か年計画について、JA代表の専務・常務・参事12名の参加を得て、次期JA共済3か年計画研究会を設けるなどして組織協議を重ねてきました。
 この1年間を一言でいえば、統合のめざすものに向かって「手探りの中で、無我夢中だった」という感じですね。

◆メンバーシップ・ガバナンスの確保を大切に

  押尾  藤谷先生はこれまで、JA共済のあり方について、基本的な問題点の分析を踏まえて改革のための具体的な提言をされてこられましたが、前田専務のお話を聞かれて、いかがですか…。

  藤谷   組織統合の効果は、事業機能の強化・高度化・効率化、言い換えれば、他業態との競争力の強化を実現するための事業体制の整備が可能になることだと思います。そういう意味で、今回の「JA共済3か年計画」を読ませていただくと、大変、適切な方向付けをされていると思います。しかし、組織統合にはデメリットもあります。特に協同組合の場合、メンバーシップ・ガバナンスの条件が崩れる危険性がある。ですから、メンバーシップ・ガバナンスの確保を大切にすることが、組織統合の効果確保の大前提といえます。
 前田専務のお話を聞きますと、その点に大変配慮され、さまざまな委員会を開催されたりして、「計画」づくりにできるだけ現場の意思を汲み取る工夫をしておられる。今後もメンバーシップ・ガバナンスにしっかり留意して取り組んでいけば、組織統合の効果は必ず出てくると思います。それがおろそかになると「全共連はいつ株式会社になったんだ」という批判が、組合員から出てくることになると思いますね。

  前田   合併委員会などでの共通した意見は、競争条件を整備するために組織統合し大きくなることはいいが、官僚化してはいけないということでした。現場にどういう声があるのか、どういう苦しみがあるのか、現場の実態を踏まえたうえで競争に打ち勝つ事業運営・組織改革をはかれ、というものでした。
 よく「理念なき事業展開は失敗する」といわれますが、JAグループとしては、農家・組合員、地域住民の営農と生活の安定・向上をめざし「しあわせづくり」の一環として、「ひと・いえ・くるま」の総合保障を提供することで貢献することが原点だと思います。そういう意味では、組合員等利用者のみなさんが「JA共済に入っていて良かった」と思えるような事業・組織の運営を心掛けながら取り組んでいくことが大切だと思います。

◆協同組合らしさを徹底することで信頼を

  藤谷   農協共済総研の研究会で、押尾さんが強調されたことは、JA共済が生き残れるかどうかは「協同組合らしさの徹底ですよ、それ以外はありませんよ」ということでしたが、私もその通りだと思います。生保も損保もあるのに、なぜ組合員がJAに結集してくれるのかといえば、「協同組合は絶対に組合員を裏切らない」という、自分たちの組織への信頼だと思います。その信頼を永遠に大事にしていただきたいと思いますね。

  前田   そういう気持ちをJA共済事業に携わる一人ひとりが常に持っていくことだと思います。競争に勝つには、組合員等利用者の信頼を得て安心してJA共済を利用してもらえるよう一人一人の気持ちにキチンと応えていかなければいけない。そのためには、経営をより健全なものに、かつ総合的にし、私どもが持っている諸機能を有効に発揮して、JA共済を利用して良かったという満足度を一人でも多くの人に持ってもらうことだと思います。

◆統合のめざすものを具体化−−「JA共済3か年計画」

  押尾  民間の金融機関はここ数年、再編合併を続けています。この1年を振り返ると、生保会社の経営破綻も相次ぎましたが、第一火災が損保会社としては戦後初めて経営破綻しました。そういう意味では、JA共済を取り巻く環境は非常に厳しかったと思います。
 また、昨年のJA全国大会では、JA共済の事業改革について、組合員・利用者ニーズに対応した良質で利便性の高い共済仕組み・サービスの提供と、安心して加入できる強靱な経営基盤の確立の2点を重要課題として確認していますが、「JA共済3か年計画」の狙いと概要についてお聞かせください。

  前田   「統合のめざすもの」として、優れた保障を低価格で提供する、契約者へのサービスの向上、経営の健全化による組合員に対する安心感・信頼感の確保の3つをあげました。これの具体化をはかることが新たな3か年計画の目的です。
 21世紀において大きな潮流の変化がありますが、1つに農家人口の減少や准組合員の増加、契約者の減少などJAの基盤そのものが変容しております。そこで、組合員とのつながりを強化していきながら、「保障の輪」を地域住民にも広げていくという課題があります。
 そして、金融自由化など規制緩和とか業界の再編のなかで、大競争が展開されているわけですが、この競争に勝つためには、効率のいい事業運営、競争力を堅持できる事業の枠組みをキチンとつくることが課題となります。JAグループは信用事業、経済事業、指導事業をもっていますから、そうした事業と横の連携をとりながら全体の組織力・総合力を発揮して事業を展開し、より健全性の高い経営にしていくことが必要だと考えています。
 さらに、IT活用による情報提供と事業の効率化を進めることで、事業の競争力を高めていくことも重要です。
 これらの課題を解決するために、地域密着型の事業展開、低価格で優れた保障の堅持と利便性の高いサービスの提供、強靱な経営基盤の確立と透明性の確保、高度情報化社会に適応した業務プロセスの再構築の4つを実現することで「地域での満足度・利用度No.1をめざす」ことにしたわけです。

◆組合員の幸せづくりの一環を担うことがコンプライアンスの精神

  押尾  将来にわたって「低価格を堅持していく」とありますが…。

  前田   価格を考える要素としては、予定利率、予定事業費、予定危険率があります。金利が低いので予定利率は引き下げざるを得ない。一番効果的に価格対抗できる要因は、事業費をいかに節減をして、これを契約者に還元するかだと思います。
 それと35兆円の資金が一元化されたので運用体制を整備し、いかに効率的に運用するかということです。そして予定危険率については、いろいろな危険収支の安定化をはかっていくことが必要だと考えています。
 しかし、現実には「逆ザヤ」の課題があり、これにどこまで耐えうるかという問題があります。予定利率は契約者に対して約款上お約束をしているものですから、これは最後まで守っていく必要がありますし、事業改革の促進によって経営基盤をキチンと確立し、健全経営を堅持していくことだと考えています。
 こうしたことを実現するためには、人の育成が大事だと考えています。その場合、単なる専門知識をもった職員ではなく、協同組合はどうあるべきかという意識をもち、なおかつ専門能力の高い人材を育成していくことだろうと思います。
 経営基盤を確立するには、情報をディスクローズしていろいろな人の目を通して、多くの人のご意見をいただき、悪いところは反省をしながら直していくことも必要だと思います。
 最近、コンプライアンス(法令遵守)ということがいわれますが、協同組合は本来、組織のためとか個人の利益のためではなく、農家・組合員、契約者のみなさんの「幸せづくり」の一環を担うものですから、この姿勢がコンプライアンスの精神だと私は思います。

◆地域に広げることの重要さをどれだけ認識できるかが鍵

  押尾  藤谷先生、3か年計画についてどうお考えですか。

  藤谷   JAの役職員の方が受けとめやすくコンパクトにまとめられているなと思いました。特に「地域における満足度・利用度No.1をめざして」という形で、統合のめざすものを集約し、JA共済事業の中長期の事業展開目標としてハッキリと提示されたことは、非常に分かりやすく、説得力があると感心しました。その目標をどう実現していくのかという方策の基本が「組織統合をふまえた事業改革の促進」であると、組織統合の意味をキチンと位置づけられており、すっきりと分かりやすく、良い「3か年計画」だと思います。

  押尾  そうしますと、実践できるかどうかが問題ですね。

  藤谷   「主要施策」としてあげられている「連合会の重点取組み」については、全共連は最大限の努力をされるだろうと思います。心配なのは「JAの重点取組み」のなかの「地域における満足度・利用度No.1をめざした普及推進の強化」と「地域のニーズに対応した福祉サービスの提供」がやりとげられるのかなということです。
 JAの事業基盤を確立するためにも、正組合員のためにも、地域住民もターゲットにし、事業利用者を広げ、事業分量を確保することが必要だという認識をもち、実際に地域に開かれたJA運営のあり方を追求しているJAはまだ少数派だと思います。農家の組織だから、まず組合員を大事にすることこそがJAの基本姿勢だとお考えの組合長さんが多数派ではないでしょうか。

◆JAの総合力の発揮と各部門独立採算制の確立を

  藤谷   事業コストをどう節減するかというお話がありましたが、厳しい金融情勢のもとでは、運用利回りの確保も大事ですが、容易なことではない。費差益の徹底追求がより大事だと思います。
 JAは共済事業で収益をあげていますが、その収益は利用者への還元、共済事業のためなどだけではなく、他の事業の赤字補填などにも使われているわけです。JA経営が厳しいこともあって、JAの経営が共済収益過度依存になっていると思います。これでいいのかとJA陣営全体で共通の理解・認識をして、経済事業の改革を含めて事業全体を改革する中で、共済事業の競争力を強化できる可能性を追求していくことが大事ではないか。この課題にJA陣営全体で取り組まないと、「地域No.1」は実現できないのではと危惧します。

  前田   昨年のJA全国大会で、各事業体別の経営・事業・組織の改革がうたわれており、お互いがこれの実現へ向けた努力をしていくことをベースに、JA共済として取り組む方向を明確にしたのが新「3か年計画」です。
 それから、JA自体の経営も厳しくなってきていますから、各部門ごとの経営のあり方に非常に関心をもって取り組まれるケースが増えてきています。その時に、信用・共済・経済・指導事業の総合力を活かす方途を考えなければ、地域における協同組合運動の拠点という意味が薄くなると思いますが、一挙にはなかなかいきませんね。

  藤谷   前田専務がいわれるように、総合事業経営の強みをどう発揮するかですね。組合員の方がJAに強く求めているのは、JAにとっては持ち出しの事業ですが、営農指導事業の強化であり、高齢者福祉活動を含めた生活文化活動の振興なんです。最近は、組合員にも、共済事業を利用するということは、共済事業が本来果たしている役割だけではなく、その収益が営農指導や生活文化活動を経費面で大きく支えているということが理解されてきています。
 しかし、こういう、組合員が強く求める事業活動を、共済事業の収益が支えていることをもっとPRすべきだと思いますね。営農指導や生活文化活動には支援の基準をつくってバックアップしていくべきだと思いますが、共済事業の発展に直接プラスになりにくい他部門の赤字まで補填するのは、単なる丼勘定ではないでしょうか。もっとそれぞれの部門が独立採算制でやっていく努力をしなければ、共済事業の競争力を強化するといっても限界があるのではないかと心配をしています。

  押尾  「3か年計画」には「経費率改善計画」が示されています。大手生保会社と比較しますとかなり経費率が高いと思いますが…。

  前田   JA共済の総付加収入の60%強がJAへの配分となっています。このJAへの配分がストレートに契約者還元にはなっていないというのが藤谷先生のご指摘ですが、考え方の問題ではないでしょうか。つまり、JAの総合事業の活力として活用されているとか、JAの事業剰余となり組合員配当として配分されていますので、民間保険会社と単純に比較することは難しいと思います。

◆学経理事を強化したJA経営トップ体制と事業部制の確立を

  押尾  事業改革を促進するために、いかに強靱な経営基盤を確立するかが一番重要な課題だと思います。そのために、組織運営の見直しとコンプライアンスのための体制の確立があげられています。前者については経営管理委員会制度がありますが、実際にはほとんど導入されていませんね。

  前田   少ないですね。

  押尾  これをどう具体化していくかが、内部管理体制、監査体制を充実していくうえでは重要な課題になると思います。もう一つのコンプライアンスについては、先ほど前田専務から「協同組合の精神」というお話があり、まさしくその通りだと感銘しました。最近では、4月から消費者契約法や金融商品販売法が施行され、共済事業も対象になっています。共済事業がこうした法の対象となったということは、共済事業も進んで社会的責任をもつ姿勢を示していかなければいけないということだろうと思います。
 経営基盤を確立するには、事業の推進体制をどう再構築するかということだと思いますが、藤谷先生、どうお考えになりますか。

  藤谷   私は、経営管理委員会にはやや問題があると考えています。なぜかといえば、経営管理委員会は執行理事を選任することはできるが、解任権がないとか、まだ制度上の欠陥があるからです。
 それよりも、広域合併JAにおいて、学経理事を強化した経営トップ体制を整備することが重要だと思います。全国連はそれで動いているわけですから…。さらに、共済事業を担当する常務理事体制を確立することだと思います。
 もう一つは、JAが事業部制を確立するということです。広域合併JAの本所に共済部が設置されても、支所は総合支所で支所長が裁量権をもっていますから、本所が直接所管できないわけです。本所の統括管理機能が支所に直接およぶような事業部制を確立し、また事業部内部で人事異動を行い、専門家を育てていくようにしなければいけないと思いますね。

  前田   複数の学経常勤役員体制は少しずつ増えていますね。それから私どもとしては、金融共済部ではなく金融部、共済部という体制をぜひとって欲しいですね。

  藤谷   広域合併JAであれば当然でしょうね。

◆LAにおける推進体制を中心に−−きめ細やかな専門家の対応が必要な時代

  押尾  事業改革を促進するために、いかに強靱な経営基盤を確立するかが一番重要な課題だと思います。そのために、組織運営の見直しとコンプライアンスのための体制の確立があげられています。前者については経営管理委員会制度がありますが、実際にはほとんど導入されていませんね。

  前田   JAにおける体制整備については、数年前から研究を進めてきていましたが、今年中には中央会の理解も得て指針を出したいと思っています。
 もう一つは、共済の内容について理解と納得を得て加入してもらえるような、相談提案型の推進をするためにライフアドバイザー(LA)制度を平成6年から導入しています。現在、1万7000名強ですが、2万1000名まで増やします。LAの人たちは、プライドを持って仕事をしていますし、LAを積極的に育てようという気運も高まってきています。12年度の長期共済新契約実績の41.4%をLAが占めていますが、15年度にはこれを54%まで引き上げる予定です。地域住民にまで対象を広げようとすると一斉推進では限界があり、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格も持つプロが対応しなければなりません。

  藤谷   私は、「3か年計画」の参考資料にある「組合員の意識調査」をみて非常にショックを受けました。それは共済契約に際して、「人的なつながりをもっとも重視する人」が9.1%しかなく、「もっとも重視しない人」が56.1%もいると出ていたからです。私は前々から、一斉推進から脱皮すべきだといってきましたが、このデータでも分かるように、人的つながりを手がかりに共済推進ができる時代ではないということです。一斉推進の良いところもありますから、それは活かしていけばいいと思いますが、多くの人たちが、いかに情報を求め、提案型推進を求めているかということです。そして、共済需要が個別化し多様化しているわけですから、きめ細かな専門家の対応が不可欠になっています。

  前田   広域JAではLA推進を中心にという気運が高まってきています。そうしないと事業量確保は至難の技だと認識され「LAがいなければ、どうにもならん。どう育成するか」という話をよく聞きます。そして資格をとらなければいけませんから、「教育をどうやっていくのかを、全共連はもっと真剣に考えろ」といわれています。これが共済事業を発展させていくための原動力だと考えています。

◆生保とは違ったLAの教育研修体制の充実を

  押尾  LAは今日の状況では、非常に重要な役割を担っていると思いますが、私が危惧するのは、生保の営業職員の場合、年間15万人くらいが登録され、15〜16万人がやめています。業界で共通教育制度は導入されましたが、営業職員の教育研修体制は不十分です。また、そうした営業職員が募集した契約が解約・失効につながっているとみることもできます。生保会社は44社ありますが、会社で獲得する新契約は1年間におよそ1100万件で、解約・失効で消滅するのが1000万件にものぼるという悪循環を繰り返しています。
 保険業界が抱えているこういう問題点をJA共済のLAは解決していかなければいけませんし、生保とは違った教育研修の充実をはかる必要性があると思います。そのためにどうしていくのか。また、都市、農村、混住という地域特性に応じた体制整備をどうしていこうとお考えですか。

  前田   教育体制は非常に大事だと考え、県本部にLAをサポートできるLAトレーナーを配置していきます。
 それと、一斉推進においてもLAの持っているノウハウを活用しながら、うまく連携をとってやっていきたいと考えています。地域によっては一斉推進のウェイトが高いところもあります。また、協同組合活動への参画という面もありすべての事業を体験する一つの手段にもなっております。そのときに、専門知識や技術をもっているLAがリードしサポートしています。
 また、LAの能力を高めるために、FP資格を取得するようにしています。全共連は日本FP協会の教育認定教育機関の認定を受けておりFP養成に力を入れています。
 押尾先生がご指摘のターンオーバーの問題ですが、市場が狭くなるとそういうことが起こりうるわけです。個人との信用で契約をされた場合に、その人が辞めることでつながりがなくなるわけですから、契約を取るときにだけ行くのではなく、保障内容の見直しとか相談がないかということも含めて、フォローアップするように指導をしています。それから一番大事だなと考えているのは、異動がありますから、引き継ぎをキチンとして欲しいということです。せめて半年行動をともにして顧客の情報などを引き継ぐ体制を制度的にもできないかなと思いますね。
 JAは地域に根ざしていますから、生保などとは違って逃げ出すわけにはいきませんから信頼関係が重要です。

◆保障の高位平準化こそJA共済のあり方

  押尾  そういう点では、先ほど藤谷先生がご指摘の事業本部制を確立していくことは、重要なことですね。

  藤谷   地域に密着しているJAは、生損保にない組織基盤がありますから、強いはずなんです。それが活かされていない。共済事業体制の中で、共済事業の推進戦略を練り上げ確立する部署と、その推進戦略にもとづいて普及推進を管理する部署をJA本所の中に確立すれば、もっと戦略性のある有効な事業推進ができると思います。JAの共済部門で一番弱いのはそこなんですよ。

  前田   「3か年計画」では「JA本所における普及企画力の強化」をあげていますが、これを現場で実践をしてもらうことです。

  押尾  生保では解約・失効や転換が社会問題化していますが、いかに顧客を確保するかが一番大きな課題になっています。そのために、解約したり転換したりする必要のない自在性のある商品を開発しているように思いますし、投資信託などの金融商品と抱き合わせ、富裕層をターゲットにした商品戦略、販売戦略をとり、顧客の選別、顧客の囲い込みを強めてきています。民保のこのような取り組みについてはどうお考えでしょうか。

  前田   商品開発については、若干後追いになっても優れた商品を開発していきたいと考えています。顧客の囲い込みについては「高度利用者優遇措置制度」を来春から実施していきます。老後の資金形成に資する確定拠出年金事業についても、信用事業と連携を図りつつ対応することとしております。

  押尾  自動車保険では、差別化を進め優良顧客については大幅に料率を引き下げ囲い込む戦略がすすめられています。そのためリスクの高い人、負担能力が低い人が市場から取り残される傾向が強くなっています。そうなると、一般の保険保障を求める消費者の一つの拠り所としてJA共済事業が利用される傾向が強まるのではないかと思います。今後、審査とか契約内容をチェックする体制の整備や査定システムの改善が重要になってくると思います。

  藤谷   私はバリエーションがあっていいとは思いますが、協同組合の共済である限りは、組合員保障が高位平準化していく推進のあり方を大事にすることだと思います。その場合でも高額利用者とそうでない人が結果的に出てきますから、どうメリット還元をするのかは工夫していいと思いますが、保障の高位平準化を見失ってはいけないと思います。保険・共済嫌いで何の保障もないような組合員には組合長が出向いて「お前、何をやっているんだ」と怒鳴ってでも加入させる姿勢こそがJA共済のあり方ではないでしょうか。

◆次の課題は2世代が連続で掛金かけられる複数世代保障

  押尾  JA共済の仕組み開発のあり方についてはどうお考えですか。

  藤谷   3割の加入者で8割の契約額を占めるというように推進格差がありますが、それをそのままにしておいていいのかと思いますね。
 商品開発については、農家組合員の場合には複数世代が同居しているケースが多いわけですから、その複数世代が万一の危険に対してどう保障されるのかという仕組みを考えてみてもよいと思います。2世代が連続で掛金がかけられるとか…。

  前田   これからの課題がいま藤谷先生がいわれた複数世代の保障なんです。それが「農協らしさ」ではないかという意見が出ています。ほかにも解決しなければならない課題がありますからすぐにとはいきませんが…。
 審査・査定関係は、新しいネットシステムによってできるだけ人手をかけず迅速、適正に処理できることを目指しております。
 自動車での差別化のお話がありましたが、農家組合員のみなさんが理解し、客観的に認められるリスク細分化は検討していく必要があると思いますが、リスクの低い人だけをとってリスクの高い人はとらないというわけにはいきません。それが相互扶助・助け合いの精神ですし、JA共済の使命ではないでしょうか。

  藤谷   それが日本の文化ですよ。

  前田   人を助けるには、経営の健全性を確保して競争力をもつことが重要です。

  押尾  次世代への取り組みについては、どうお考えですか。

  前田   特に価値感が多様化しています。若い世代はそこで、次世代層への訴求力を重点にした養老・終身共済の仕組開発に取り組むほか、こども共済、定期生命共済の活用、さらには年金共済の提供などを中心に取り組むこととしています。

◆組合員の関心・要求を事業運営にどう活かしていくか

  押尾  「3か年計画」をいかに具体化し実践するかが課題といえますが、とくにメンバーシップとかガバナンスを実現できるかどうかが、事業改革を促進できるかどうかの分かれ目だと思いますが…。

  前田   事業運営にあたって、現場で持っている課題を中心に考えるという原点に戻らなくてはいけないと思います。
 現場ごとの課題は違うかもしれませんが、共通項はあります。連合会もJAも、現場主義にたった運営をどう心がけるかという一点につきるのではないでしょうか。
 世の中には変えていいものと、変えてはいけないものとがあると思いますから、変えてはいけないことについてはこだわりをもち、変えていいことは変えていく。
 農家組合員がどこに関心があり、どういう要求があるのかを常々耳を澄まして聞く必要があります。そしてそれをいかに咀嚼して事業運営に活かしていくことだと思います。

  押尾  藤谷先生は…。

  藤谷   地域満足度・利用度No.1という大きな目標を達成するためには、JA共済だけでは対応できない課題があります。そういう意味で、中央会などと一緒になった取り組みがいよいよ大事になってくると思います。広域合併JAのメリットを実現、確実なものにしていくためには、広域合併JAをどう成功軌道に乗せるかという基本課題の追求が大切であり、それなしに、JA共済の改革を実現することはありえないわけで、中央会などと連携してこの素晴らしい「3か年計画」が実を結ぶようがんばっていただきたいと思います。

  押尾  本日は、ご多忙のなか、貴重なお話をありがとうございました。

(座談会を終えて)
 JA共済が一斉組織統合を果たしてから1年を経過し、事業改革の促進に向けて先頃「JA共済3か年計画」を発表した。
 座談会では、組織統合後の組織・事業改革の進捗状況を踏まえて、「3か年計画」のねらいと概要について前田専務に説明していただきながら、藤谷教授からJA共済事業が抱える諸問題と「3か年計画」に対する意見を伺った。
 前田専務は、統合連合会内部の意思疎通を図ることに何よりも配慮したとこの一年を振り返られた。
 また、藤谷教授は「3か年計画」を高く評価しつつも、JA共済事業の組織改革が不十分であり、事業改革の促進のための「計画」の実現に向けた課題を提起された。
 司会の立場から、事業改革促進のための「3か年計画」を遂行する上で、とくに強靱な経営基盤の確立が重要であると考え、議論を深めていただいた。
 お二人とも、事業機能の強化を図るためにJAへの支援体制のいっそうの強化とともに、JAグループの結束・連携の必要性を再確認され、事業改革の促進に確かな手ごたえを感じさせた有意義な座談会であった。前田専務と藤谷教授に改めて感謝申し上げたい。(押尾)


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