JA共済事業 最前線レポート 「CS改善プログラム」で「利用者視点」の事業実践へ |
金融業界の競争激化などJAをとりまく環境がきびしくなっているなか、JAの事業推進のうえで、CS経営の必要性が叫ばれている。CSとは、利用者満足度(customer satisfaction)のこと。利用者の視点に立ち、共済事業などJAの事業に対するニーズを捉えなおし、事業のあり方に具体的に反映させていくことである。 このためJA共済連では平成8年度からJA共済利用者満足度調査(JA共済CS調査)を実施してきた。過去5年間の調査実施JAはのべ319JAにのぼり、調査結果は役職員の意識改革や体制整備促進などの成果をあげている。こうしたなか、この調査結果をより積極的に活用して、共済事業のあり方や将来のJAのめざす方向までを打ち出し、事業計画に盛り込むという取り組みを行うJAも登場しはじめた。この取り組みはJAの全役職員あげてCS改善のための活動を検討し具体的に実践していこうとする点で注目され、21世紀のJAのあるべき姿を示しているともいえる。ここでは12年度にこの「CS改善プログラム」に取り組んだ2つのJAを紹介する。
◆さまざまな課題解決WG方式で取り組む
JAはが野(豊田計組合長理事)は、平成9年に真岡市、益子町、芳賀町、市貝町、茂木町、二宮町の1市5町を管内とした合併JAとして誕生した。正組合員は約1万9000人。長期共済保有高1兆1840億円(11年度)など、事業規模は県内一を誇る。
WGには13名の職員が選ばれた。古澤参事はWGの人選について「共済CS向上という諮問に応えられる能力はもちろん求められるが、何よりもこれから10年先のJAはが野をどうするのか、そこに夢と希望を持つ職員にこの議論を託しました」と語る。そのうえで役職としては事業所長、LA、支所共済担当、窓口担当、本所職員など、また、年齢構成でも中堅、若手をバランスよく選抜した。 ◆基礎的データを確認し客観的な事実を共有
WGの目的はCS向上のための共済事業の課題を検討し今後の方針を報告としてまとめることにあるが、そのためにまずWGは、JAの共済事業がどのような状況に置かれているのか、現状認識から始めることにし、改めて10年度のCS調査結果を見直すとともに12年度のCS調査結果の分析を行った。 ◆推進方針の問題点など具体策の検討も展開
具体的には一般職員による一斉推進を行っている地域とLAによる推進を重視している地域の違いであった。 一般職員による一斉推進では、個人目標を達成するためあまり知識のないまま、いわゆる「お願い型」で旧知の組合員家庭に加入してもらいがちになる。加入した組合員に対してのその後のケアがなく満足度は低くなるし、職員にも満足感が生まれない。 一方、LAを重視した地域では、組合員の要望を聞きながら推進するため、組合員、職員双方に満足度が高い。 こうした分析の結果、WGは「誰に、どんなサービスをどのように提供すればいいのか」を考えることが課題の一つになっていった。 その結果、大胆な提言が出てきた。それは一般職員とLAの役割を大きく見直すものだった。従来は、知識の豊富なLAは新規加入の開拓、一般職員は既加入者を中心に推進すると考えていたが、それを逆転させてはどうかという意見にまとまっていったのである。 「正組合員を中心とした高額加入者にこそ、しっかりした説明を提供すべき。LAなら要望に合わせてさまざまな選択肢を示すことができ、CS向上を実現できるはずとメンバーの意見が一致したのです」と上野リーダーは振り返る。 この認識を基本に、目標・評価制度、管理体制、一斉推進のあり方など具体策の検討を展開していった。 ◆JAの良さに注力し今後のあるべき姿提言
WGの会合は計8回実施され、12月に最終報告をまとめた。
古澤参事は「これまでのお願い型推進から納得ずくの推進への転換が必要だと感じていたが、WGの答申はそれを具体的に示してくれた。今年から従来のような一斉推進の中止という方針も実現する。やるからには日本一をめざして頑張ろうと職員に呼びかけています」と今後の実践こそが重要と語る。
◆CS経営推進に向けプロジェクト発足
JA山口東(西本明代表理事組合長)は平成9年に合併して誕生したJAだが、昨年4月にも2JAと合併し、現在、岩国市の一部と周辺の6町を管内として正組合員数1万200人、准組合員数8300人の合併JAとなっている。
プロジェクトが発足したのは昨年の7月。「Sun Rise Project〜JA山口東21世紀への挑戦!」と名づけられた。「山口東から陽が昇った」と言われるようなJAをめざそうという想いを込めた。西本組合長はプロジェクト発足にあたって「物理的合併は実現したがこれからは心の合併だ。JA山口東がひとつの組織として求心力を持つために、お互いが信頼できる職場を作ることが重要。そのことを徹底して考えてほしい」とこの取り組みがJAの将来考えることでもあることを強調した。 ◆メンバーの認識一致へCS調査結果を確認
そのWGでリーダーを務めたのは坂上支所の岡本太金融共済課長。「CSの大切さは分かっていたが、部門によってまだ職員の意識も違うし、議論がどこに向かうのか最初は不安もありました」と話す。 メンバーが認識を共有するためにも、同JAでもまず現状分析から始めた。10年度のCS調査結果を改めて確認すると、JA共済加入者のうち、「非常に満足」と「まあ満足」が合わせて50%程度だが、簡易保険とは差があった。また、利用者は加入時サービス、加入後サービスへのニーズが高く、評価も厳しいことが分かっているが、この点でもJAは他社にくらべて利用者のニーズに応えられていないというデータも示されていた。「窓口が利用しやすい」、「電話をかけやすい」など評価が高い面もあったが、全体として顧客満足度を高めるには課題がかなり多いことにメンバーは気づかされた。 さらに、JA管内の人口は全体で10年後に7%減少、農家人口では17%もの減少が予想されることから、現在の農家の次世代との関係強化、員外の開拓なども課題であることが改めて分かった。 ◆共済を中心として全体を見据えた視点で
一方でWGが重視したのは、JAに対する外からの目だけでなく、役職員自身が自分たちの仕事をどう評価しているかだった。実際にWGの検討材料とするために12年度のCS調査における役職員満足度(ES)調査も実施して議論を進めた。 ◆「心のサービス」徹底し愛され信頼されるJA
そして具体的な活動としては(1)「マナーアップ・業務改善活動」、(2)「お変わりありませんか、確認活動」、(3)「高額利用者訪問活動」、(4)「低加入者への情報提供活動」、(5)「JA・JA共済の存在とメリットの広報活動」の5つを提言した。 ◆みんなが実践できることから始めよう
同時に実践体制についても具体的に提起し、各支所長がCS推進の責任者とし、毎月一回「心のサービス活動委員会」を開いて活動の成果把握や制度の検討を行うことを求めたほか、組合長に対して「CS推進の責任者になってください」、「状況報告に必ず目を通し、組合長の方針を職員に語って下さい」など具体的な要望もした。 弘中義久共済課長は「CS活動は漫然と取り組んだのでは成果が上がらない。そのことに今回のWGが一石を投じたことになると思う」と今回の活動を振り返る。また、「データに基づた議論だから説得力を持つ。次世代をターゲッにした推進の重要性など課題も明らかになった」と語る。 JA山口東は13年度からまずこの5つの活動の実践に取り組む。支所長をCS推進委員とする体制も整える。
CS経営の重要性を常にとなえてきた西本組合長は「まず役職員の意識改革が重要」だと強調し「農協は本来、役員や職員のためにあるのではない。組合員が必要だから作った組織だ。その原点に忠実であればCSは当然のことで、職員はサービス提供のプロに徹しなければならない。そのためにも意識が変わらなければ行動も変わらない」と語る。 また、今後の実践については次のように語っている。「CS活動とは常に状況に合わせて軌道修正していくものだと思う。その意味では活動目標が達成できたから終わりになるものではない。何が求められているのか、繰り返し考えて実践が循環していること。それがCS活動ではないか‐‐」。
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農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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