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特集:米改革 期待されるJAグループの地域農業戦略づくり

座談会
農業者・農業者団体が主役となるシステムへ
期待されるJAグループの地域農業戦略づくり
出席者
山田俊男氏
JA全中専務理事
木勇樹氏
農林中金総研理事長(「生産調整に関する研究会」座長代理)
司会/梶井功氏 東京農工大名誉教授

 12月3日、米政策改革大綱が決まった。大綱では平成22年に農業構造展望で描いた姿が実現することをめざし、20年度からの米の需給調整を農業者、農業者団体が主体的に取り組むことを打ち出したほか、20年度までの助成措置も、地域ごとの判断で米も含め多様な農業の確立を促す助成に変わるなど水田農業の改革へ向けての方向が示された。今後の課題は何か、JAグループに求められる取り組みは何か、など議論してもらった。

◆決まったことはまだ3割
  食糧法の改正が今後の課題
木勇樹氏
たかぎ・ゆうき 昭和18年生まれ。昭和41年東京大学法学部卒。同年4月農林省入省、平成2年 林野庁林政部林政課長、3年大臣官房企画室長、4年食糧庁管理部長、6年畜産局長、7年農林水産大臣官房長、9年食糧庁長官、10年農林水産事務次官、13年退職、14年株式会社農林中金総合研究所 理事長。

 梶井 生産調整に関する研究会の「水田農業政策・米政策再構築の基本方向」(基本方向)を受けて、農水省は「米政策改革大綱」(大綱)を決めましたが、なお残っている問題があると思います。まずはこの点についてそれぞれご指摘いただけますか。

 山田 私自身は今回決まったことは30%でこれからの課題が70%というぐらいの気持ちで、まだまだこれから具体策を練り上げていかなくてはいけないと思います。
 大綱では、食糧法の改正にあたっては国の役割だけではなくて地方自治体の役割を位置づけるということも新たに盛り込まれました。この食糧法の内容の具体化が残されていますし、また、当面の需給均衡化対策の具体化があり、メリット措置、経営安定対策、過剰米対策など具体的な予算と関連する措置が残っています。
 それから米づくりのあるべき姿の実現に向けたアクションプログラムも残された大きな課題だと思いますね。これがはっきりしないとあるべき姿のイメージがはっきりしません。
 平成20年度から農業者・農業者団体が主役となるシステムへ移行するといいましても、あるべき姿のイメージとそこに行き着くためのアクションプログラム、そこには当然、土地利用の集積対策や、担い手対策も入りますが、それらが明らかにされなければいけないと思っています。

山田俊男氏
やまだ・としお 昭和21年富山県生まれ。早稲田大学第一政経学部政治学科卒。昭和44年全国農業協同組合中央会入会、平成2年組織部組織課長、平成3年組織整備推進課長兼合併推進対策室長、平成5年組織経営対策部長兼合併推進対策室長、平成6年農業対策部長を経て、平成8年全国農協中央会常務理事、平成11年専務理事就任。

 木 大綱には、米の需給調整といういわば狭い部分と、それを取り巻く、これと整合性をもって実施されなければならない、関連する政策のふたつがあると思います。確かに米の需給調整を含めいろいろと詰めるべきことがあるということではありますが、枠組みが決まったということからみれば、残された割合は3割以内ではないでしょうか。
 むしろ、私は大きな問題として残ったのは、構造政策として農地を農地として利用するという観点から農地制度を見直すという問題、また、経営安定対策については、確かに経営所得安定対策に一歩踏み出したような感もありますが、これで一体、経営所得安定対策の道筋が本当に見えてきたのかと思っています。このふたつが行政側の対応も十分でなかったこともあり、基本方向をまとめる過程で踏み込めず、今後できるだけ早期に論議を深める課題と考えています。

◆大綱がめざす自給率向上に向けた課題は何か?

 梶井 ところで、研究会の基本方向と大綱を見て、驚いたのは大綱では前文に、「水田農業経営の安定発展や水田の利活用の促進等による自給率向上施策への重点化・集中化を図る」とある。しかし、基本方向には、自給率ということは一言も出ていません。研究会の議論には自給率についての問題意識がなかったのではないかという印象があったのですが、大綱では、水田農業政策、米政策の大転換を図るのは自給率向上を図るためだということを明確にいっている。そこが基本方向とずいぶんちがうという印象を受けました。
 私はかねがね生産調整はまさに自給率向上施策との関わりのなかで展開している政策だと理解しているわけですが、大綱はそれを明確にしたと私は受け取りました。
 自給政策は、国民の大多数である消費者の目下最大の関心事ですが、大綱はそのために、水田農業、米政策の大転換を図るということを鮮明に打ち出したのではないかと思います。
 そういう考えと需給調整を農業者、農業者団体が主役になって行うということとは違和感があるんですね。この点についていかがですか。

梶井 功氏
かじい・いそし 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。著書に『梶井功著作集』(筑波書房)など。

 木 研究会は何を目指していたかといえば、要するに水田というものを一体どのように有効活用し、最大限利用して他の作物、とくに自給率の低い麦、大豆、飼料作物を本作化していくか、そして米は米で必要な需要に応えた生産体制をどうつくるか、それで全体として水田の利活用というものがきちんといくということでした。換言すれば水田農業全体として所得を上げる、それをめざそうということです。
 そのことが結局、自給率向上につながっていくということであって、それは当然のことになっているわけです。ただ、今までのやり方ではさまざまな問題があってうまくいかないために、今回は全面的にこれまでの政策を分析・検証して転換の方向づけを行ったわけですから、私はとくに違和感はありません。
 それから、これは国の施策だとのご指摘ですが、それはそのとおりという面もありますが、基本法では国、地方公共団体との役割分担、農業者団体の役割というのが定められているわけですね。
 国というのは一定の目的に沿った政策、システムの枠組みを作る、そのなかで政策目的をそれぞれが役割分担をして達成するということであって、国だけがすべてのことをやるということではありません。もっとも、国が政策から手を引くのではないかといった議論もありましたが、そんなことはあり得ないわけです。農業者、農業者団体が主役になるシステムに転換してもそれを支えるいろいろな措置は当然やらなければいけないし、そういうことから言えば、国がこれからもずっと全体的に政策的な関わりを持つというのは当然なんです。
 ただ、関わりの持ち方、これをどう変えていくかということだと思いますね。

 梶井 生産に直接タッチしているのは農家の方々であり、それを組織しているのが農業者団体ですから、生産の転換という問題については主体的に取り組むというのは当然です。
 しかし、需給調整施策、とくに麦、大豆、飼料作物の本作化、これを政策としてやろう、それを政策として組んでいこうというのは、やはり国の政策ですよ。国の責任でやることだと思うんです。

◆国の役割と農業者団体との役割分担が必要

 

 木 しかし、政策として仕組むという場合にどこからどこまでやるのか、です。国が全部やるのか、役割分担はどうするのか、そのときにシステムはどうするのか、それを今回は議論をしたんです。

 梶井 国が全部やるとかやらないとかの問題ではなく、農業者、農業者団体が主役となる、という言い方が問題であるし、それにはやはりひっかかりを感じるんです。

 木 主役となるというのは当然のことでしょう。需給調整については、誰のための何のためのという議論がありましたが、それはどんな作物でも農業者、農業者団体が主役でやっていることですから。それをどういうシステムで支援するかというのは作物によって違うとは思いますが、国が支援という形では関わっていくわけです。
 それから生産対策、構造政策、経営政策や流通も含めて整合性を持って改革をするんだということですから、そういう意味では国が全体として政策的な関与をするというのは当然のことですし、そうなっていると思います。

 梶井 私が言いたいのはこういうことです。米過剰の問題を体系的に政府の審議会で議論したのは1969年の農政審議会でしたね。
 あのとき出した方針は、本来であれば米価を下げて高コストの地域を米づくりから転換させていくのが本筋であり、その意味で生産の地域分担を考えようということでした。米を作る地域と米づくりをやめてもらう地域に分けるということです。
 しかし、それはなかなかできないから、当分の間、生産調整を実施するしかないだろうということになった。つまり、そのとき方針としてはっきり打ち出したのは、水田農業を輪作として確立しようという考え方です。麦、大豆の本作化にはそういう考え方があるわけです。水稲連作ではなくて、輪作農業として水田農業を構築していこうではないかということだったわけですね。これは今回の研究会の基本方向でも大綱でも示されていて、それはそれで私は正しいと思います。
 ただ、69年のときの議論を振り返ると、米づくりをやめてもらう地域を決めるという政策はとらない、輪作という姿で水田農業を構築する、それを国として決めたわけです。そのうえでそれを実現させるために施策として細かな転作奨励金なりを決めてきた。
 ということは、主役という言い方をすればそういう大所をきめる政策の主役は国ではないかということなんです。

木勇樹氏

 木 もちろんいつまでたっても国は一定の目的に沿った政策の枠組みをつくるという役割を持ち続けるでしょう。
 ただ、今ご指摘されたような国がこの地域はこういう作物をつくるべきではないかというような政策が、農業者の主体性を失わせ、結局、奨励金の高いものを作るということになったわけです。これは農業者が悪いわけではなくそういうシステムだったからで、そのなかで一番の所得を得ようとするわけですから。適地かどうかよりも一番奨励金が高いかどうかです。そういうことをシステムとして国がやってきた。
 しかし、これからは農業者自身、農業者団体自身がこの地域で売れるものは何かをまず考え、販路を確保したうえで何を作るかを決めようということです。米もこういう米が売れ筋だということを把握して作ろうと。それを判断することに対してインセンティブを与えるシステムに変えるということだと思います。
 こういう政策のほうが結局、農業者も所得が上がるし、売れ残りなどの無駄もなくなるはずですよね。なかなかうまくいかないという点は出てくるわけで、その点については支援措置を取らなければいけないという面はあります。しかし、そのようにしていけば結局、所得を上げる農業生産体制ができてくると思います。

 梶井 その方向が結果として、予定調和的に国が目標としている、たとえば自給率目標に一致するかどうかは保証の限りじゃないですよね。

 木 計画経済ではないですから、それは保証の限りじゃないでしょう。
 カロリーベースで40%の自給率を45%に引き上げようというのは、農業者もニーズに沿った品質のものをつくるとかいろいろなハードルを超えることが求められているし、消費者も自分の食生活を考え直すことによって食生活を変えていく、そのために情報提供を徹底して行うという、需要と供給の両面においていろいろなハードルがあり、それを超えられれば結果的に自給率が45%になるということを目標にしているわけです。
 つまり、目標ありきではなく、それを実現するためには、こういう手法のほうが達成できる、農業者にとっても生産への意欲も湧く、所得も上がる、ということです。

◆主役として登場するためには政策的バックアップ不可欠

 山田 主役ということについていえば、農業者や農業者団体が何から何まで判断していくということになると二つ問題があります。
 ひとつは、主役であるということを意識できる農業者をどのようにつくれるかということです。きちんと主役であることを意識できる農家、あるいは担い手を集落型経営体を含めてどのようにつくりあげるかだと思います。
 ふたつめは、売れる米づくり、売れる麦づくりはやはりきちんとやっていくことだと思います。しかし、売れる米づくりといっても作柄によっては余り米が出てくることがありますし、それで価格が下落すれば経営が発展しないわけですから、そこにどんなセーフティネットを仕組むか、さらにどんな過剰米対策をつくるか、です。
 麦、大豆であれば、ともに海外の良品質の麦、大豆と競争しなければならないということがあるわけですから、競争すれば価格は低落する。その部分はやはり麦、大豆の経営安定対策を充実させていかなければなりません。
 こういう仕組みが、まず準備されるべきだと考えていまして、主役と言いましても、突然、上から舞い降りて出てくるというものでもありません。また、意識改革だけで主役が登場するという話ではなく、この気候条件、土地条件のなかで生産する以上はきちんとした政策的な裏づけが準備されてしかるべきだと思っています。
 だから、限定つき主役、だと思うんですね。

 木 限定つき主役かどうかはともかく、要するに国がそういうシステムとしてどういうものを準備するかですが、そのシステムを活用する主役としての自覚、自信を持って登場できるかです。
 麦、大豆の本作化や地域での特色ある作物づくりも、いずれも本来主役でなければならないわけです。そしていろいろな政策を国が枠組みとして用意するわけですが、それは主役が活用しやすい方向で仕組んでいくのであって農業者の足を引っ張るような政策を用意するはずはないし、用意してはいけないということをきちんと位置づけていることにおいては、やはり主役なんですよ。

 山田 その主役ですが、需給調整上も主役となるシステムをつくるということですね。
 それはどこから出てきたかといえば、政府が生産調整の配分を行わない、農業者・農業者団体が行うことだということが象徴的に出され、そこの部分で大激論があったわけです。では、裏返していえば主役となるシステムとは、国に代わって生産調整の配分をするのか、またできるのか、という議論になるわけです。言葉の意味だけからすると、主役というシステムのなかには配分行為も含まれるということだと思います。
 ところが、主役になって配分行為を行った、しかし、実効性が上がらず混乱を来たすということになったのでは何もならないわけです。そういう意味では主役となる条件として、どんなことが準備されなければいけないのか、そこに国や地方自治体がどういう役割をして支えるのか、そのなかで配分も含めた主役をやっていけるのかどうか、ということだと思います。

◆22年度農業構造を実現には改革過程の検証も重要

山田俊男氏

 梶井 主役として動くのを保証し、主役としての行動が効果を発揮するようなバックアップは政策がやってもらわなければならんということですね。

 山田 そうです。ですから、主役であるということを避けるわけではありません。ましてや自分のことですから、自分のことは自分のこととしてきちんと判断していこう、それは農業者や農業者団体の責務だということはもう覚悟していこう、ということではあります。
 しかし、混乱すればそれこそ国民全体に混乱を与えるし、経済的にも政治的にも大変な損失を与えるわけですから、そういう面ではそれを支える仕組みが一緒に準備されるということだと思っています。

 梶井 そこで議論したいのは、そういう主役としての実質を身に付けるためにも時間がいりますね。平成22年という時間の設定というのは、これは基本計画との関係もありますが、今の米の問題から言うとこれはどうだったのかが私は気になるんです。

 木 基本計画は5年ごとに見直すことになっていますから、今後、どう見直すのかという議論はあるかもしれません。しかし、今、農業構造の姿を示しているのは22年度しかないんです。これは基本法に基づいて基本計画で決まっていて、見直しがなされていない以上、そこを政策のターゲットにするというのは当然だと思います。
 ご指摘の点はよく分ります。こういうスピードで22年度に農業構造が実現できるのかということは確かに研究会でも議論があったわけですが、では、閉塞感が出ているような状況にあって今、政策転換をしないでいいのか、といえばそうではなくて、転換をするなかで政策の実効性を検証しながら推進することが大事だということになった。
 今も評価し、検証するという政策評価システムを持っていますが、どうもまだきちんとした評価、検証になっていないと思います。私は今度はきちんと検証して、政策の点検をしながら進めないといろいろ問題が出てきてしまうと思っています。

◆これから問われる 地域の農業振興計画づくり

 梶井 基本方向では来年度に水田の利用状況を調査して、今後の水田利用のあり方について分析、検証を行うとしていますね。この検証に基づいて地域の実情に応じて水田の汎用化なり、あるいは実需者と結びついた麦、大豆の生産、環境保全型農業の拡大、定着などを推進していくとなっています。この分析、検証というのも農業者団体が主体になって取り組むということですか。

  それは国、地方公共団体が主体となって取り組むということでしょう。もちろん農業者、農業者団体も関わると思いますが。
 この分析、検証は大事なことです。16年度からは産地づくり推進交付金が実施されることになっており、15年度に産地づくりについて各地域、地方公共団体や農業者、農業者団体がそれぞれ提案をするということですが、そのなかに水田利用のあり方も当然入ってくると思います。
 私たちの地域はこういう農業をしたいと、そういったなかで、いろいろな知恵が出てくると思いますが、その知恵を全国で共有するという作業が来年の作業だと思います。それをふまえて16年度から実際の交付金が交付されるということになるわけです。

 山田 22年度に基本計画で定めた構造展望が実現できるかどうかというのは、大変大事なことだと思います。そのときには効率的かつ安定的な経営が大宗を占めるというわけですからね。
 それを目指して20年度に農業者・農業者団体が主役となるシステムを国と連携して構築する、かつ、その前段の18年度に条件整備の状況を検証するということですね。
 そういう面では、22年度に向けた一連の目標実現をどのように着実にやっていくかわれわれにとって非常に大事です。
 ところが、22年度に向けた構造展望の実現がそう進まないにもかかわらず、18年度の検証、20年度の移行、ということだけが進んでしまうというのは絶対に認められないと言わざるをえないと思っています。
 ただ、私は15年度から地域の水田利用の状況を調査のうえで、地域ごとにどのような絵を描いていくかというのはものすごく大事なことです。今回の検討で、初めて集落型経営体のイメージを描いたわけで、これを地域の実態に合ったものとしてどのように設定するかということとも関連して15年度の水田利用のあり方についての調査は大事になると思います。
 それから、どういう担い手を対象にするのかということは今後の課題として残っていますが、担い手に対する経営安定策も今回、われわれが従来から主張していたような2階建ての方式で措置されました。すなわち、1階部分は、内容はまだ不十分ですが価格下落に対する影響緩和対策、その上に当面は稲作だけが対象ですが経営安定対策を構築するという仕組みになりました。
 さらに1階部分、2階部分ともに計画生産と連動して実施するという要件を盛り込むことができましたから、そういう面では私はこの2つの対策を大きく活用して水田農業の構造改革、それも大規模生産者と法人経営だけで背負っていくような効率的かつ安定的な経営体ということではなく、集落型経営体という新しい芽も含めたかたちで、わが国の水田農業の改革にJAグループが地域で活動するというのは大変大きいと思います。地域づくりの絵を描いていくことが大切だと考えています。

◆水田の有効利用の実現こそ農業経営安定への道すじ

梶井 功氏

 梶井 先ほどから話題になっている産地づくり推進交付金への評価を聞かせていただきたいんですが、このなかには産地づくり交付金と米価下落影響緩和対策のふたつがあるわけですね。私は米価下落影響緩和対策は稲経よりも後退している印象を受けますがどうでしょう。

 山田 現段階で示されている案は稲経にくらべると、ずっと後退していると思っています。しかし、今回、その上に2階部分の担い手経営安定対策を講じるわけですから、そのふたつを合わせてどう米価下落に対して補てんできるのかということを考えていけばいいと思っています。もちろん、1階部分も2階部分も、もっと充実させたいと思っていて、16年度の予算対策では課題になります。 

 梶井 米価下落影響緩和対策の実施は都道府県が判断するとなっていますが、これはどういう理由からでしょうか。

  これは地域によって米のウェイトが違っていますし、実際に稲経への加入率をみても相当低い地域があるという現実が出てきているわけです。そうすると県によっては米価下落影響緩和対策はやらず、産地づくり対策に全面的に助成金を使いますという地域があってもいいということです。

 山田  その点は、われわれの組織討議でも主産地の県間流通銘柄米は需給変動の影響を大きく受けるため、それで在庫になっているという問題意識がありました。そうした主産地では銘柄米の需給調整の取り組みに対して米価下落影響緩和対策が重点的に実施できれば、それはそれでひとつの方策だと思いますので、まさに地域でよく相談して自分たちの案をつくるということだと思います。それこそ主役になるシステムではないかと思うんですね。
 また、過剰米対策として、われわれは豊作分の区分出荷ということを提起して相当な議論を経て実現しました。これも米価下落影響緩和対策とリンクする形をつくったわけですから、ここはきちんと実施して米価の安定に取り組まなければなりません。
 需給調整システムとして、計画生産に取り組むわけですから、豊作分であっても売れるのであれば売り込んでいいということになったのでは、計画生産に取り組んでいる生産者への説得力はないし公平性の確保もできないと思います。まさに、区分出荷は計画を超えて豊作分として出てくる米は需給に影響を与えないような仕組みで取り組もうということです。
 もちろん将来、あるべき米づくりの姿が実現できたとき、生産者が自覚的に生産するという段階になれば、このような仕組みは必要ないかもしれませんが、現段階、そして当面は必要だということです。

 梶井 あるべき姿が実現したとしても、それでも8万戸の生産者がいるわけですから、さまざまな情報提供をしたにしても自主的な取り組みで需給均衡が図られるとは思えないですね。つまり、需給調整の仕組みは残さざるを得ないと思いますが。

 山田 たしかに米づくりの本来あるべき姿が実現するのは、どういう条件が整わなければいけないのかをもっと議論しなければならないと思います。
 ただし、その時点でも現在のように40%も転作しなければならないような時代になっているのかどうか、ということがあると思います。やはり今後、水田利用をどうするかということが大事であって、その時点で麦や大豆の本作化などが定着しているかどうかということだと思います。つまり、水田に米以外の作物がどれだけ作られているかということが大切になるわけです。

 木 研究会では、約270万ヘクタールの水田があって、そのうち米づくりは200万ヘクタールで残りの70万ヘクタールがどうなるかという点が議論になりました。研究会に事務局から出された資料では、現時点では最大限努力しても28万ヘクタールは米以外の作物で埋まらないということでした。それではやはり米づくりが行われてしまうことになる。ですから、あるべき姿が実現したときにはその部分が米以外の作物づくりとして経営に取り込まれているということだと思います。経営として取り込まれていれば、その農地で米を作ろうということにはなりませんよね。
 そうなれば米づくりのための水田は限られますから、その部分での若干の需給調整、みなが集まって主体的に取り組もうといえばできる状況になるだろうと思います。こういう状況にならなければ経営として育たないということでもあるわけです。

 梶井 そのためには水田輪作のほうが、水稲連作よりも経営的に有利だと考えられるような条件をどうつくるかだと思います。
 さらに私としてはその際、同時に不測の事態への備えも考えるということは基本法でも定めていることですから、危機管理の面から確保しなければならない農地面積という問題とも整合性を持たせて考えなくてはいけないと思います。まだ、ご意見をお聞かせいただきたいことはありますが、今日はありがとうございました。


座談会を終えて

 “自給率向上施策”への重点化・集中化を図る・・・・ような政策を行うべく・・・・水田農業政策・米政策の大転換を図る”という改革大綱の考えは、そうは書いていないが研究会「基本方向」が前提にしている考えだと木理事長はいう。研究会のとりまとめにあずかって力の大きかった人の発言である。安心した。
 「基本方向」には一言もそれに類した記述がなく、気になっていたことだった。この考えが前提になるかならないかで、生産調整の政策的位置づけは大きく変わることになるからである。食糧法改正でどういう表現になるか、注視していたい。
 備蓄米の扱いについてふれることができなかったことが、私としては心残り。今後も回転備蓄が前提になるとすれば、凶作にでもならないかぎり、備蓄した古米の政府売り渡しが米価引き下げに作用し続けることは確実である。米価水準をどのへんでどうやって安定させるのか、大議論が必要だ。 (梶井)

 


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