昨年来、BSE問題や食品メーカーの一連の偽装表示事件等により、消費者の食品に対する安全性や品質表示への関心が高まっています。このため、国は、「食品表示110番」の設置、「食品表示ウォッチャー制度」の導入、JAS法に基づく「玄米及び精米品質表示基準」の適用などにより、食品の安心・安全の確保に全力をあげており、さらに、来年度には、内閣府に食品安全委員会、農水省に消費安全局を設置し、危機管理体制の確立と消費者に軸足を置いた指導を行うとしています。
◆「米政策改革大綱」の決定
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かわもと・けいすけ 昭和23年生まれ。福岡大学法学部法律学科卒。46年入会。平成6年大阪支所米穀部長、平成8年本所米穀販売部出対課長、10年本所米穀販売部次長、平成13年現職。 |
11月29日、生産調整研究会に関する研究会において、「水田農業政策・米政策再構築の基本方向」が取りまとめられました。
12月3日には、この取りまとめをふまえ、政府・与党は、「米政策改革大綱」を決定しました。
決定の内容は、(1)米づくりの本来あるべき姿と実現の道すじ、(2)16年産からの当面の需給調整のあり方、(3)流通制度改革、などについて整理されていますが、需給調整システムについては、「20年度に農業者・農業者団体が主役となるシステムを国と連携して構築」、過剰米処理については、「農業者・団体の主体的取り組み」など、JAグループにとって厳しい内容となっています。
しかし、一方では、需要に見合った生産、適正表示の確保、トレーサビリティシステムの導入、安全性確保対策の強化など、JAグループとして強化すべき取り組みも整理されています。
◆JAグループの米事業の改革
JAグループでは、今回の米政策の見直しの有無にかかわらず、生産・流通面で多くの課題を抱えているため、米事業の改革が必要となっていました。
具体的には、JAグループは、(1)生産調整の限界感、(2)生産調整未実施者や県別転作率などに対する不公平感、(3)計画流通米の競争力低下による集荷率の低下、(4)今後、少子・高齢化などによる一層の需要減、(5)消費者の安心・安全への関心の高まりなど消費構造の変化への対応、などの課題を抱えています。
こうした中で、JAグループは次のことを柱に事業改革に取り組んで行きます。
(1)販売を起点とした事業方式への転換
これからの生産は、「生産者が、需要量を自らが把握し、自らが生産量を決める」、販売は、「自己責任において販売する」ことが基本となり、JA、連合会は委託を受けて取扱うという位置付けとなります。
しかし、現状では、すべての生産者が個別に需要量を把握し、生産量を決め販売することは不可能であり、JAグループの機能発揮が必要となります。
このため、JAグループは、JA・県連・全農各段階において、販売促進を通じて精力的に需要情報(今どのような米が売れるのか、求められているのか)を収集し、生産者段階に的確に情報提供して行くとともに、都道府県別・JA別の販売計画を策定し、需要に見合った生産をはかります。
あわせて、今後も委託販売・共同計算方式を基本としたうえで、共同計算の透明性の確保と早期精算の実施、メリハリのある委託条件、集荷手法を検討していきます。
また、販売にあたって、本会は、大消費地(東京・大阪)に、営業拠点(販売センター)を設置し、県本部・県連等と一体となった販売を段階的にすすめるとともに、需要をより正確に把握するため、卸売業者と連携し、量販店・業務用実需者への接近をすすめて行きます。
(2)安心・安全な米の供給
ア 安心・安全を核としたJA米の確立
JAグループでは、今までは、集まった米をいかに完売するかに全力を傾けてきました。しかし、今後は、需要をふまえた販売の考えを示し、米の取扱いを行うことになると考えております。その際、核となるのが「JA米」です。
今後、JAグループは、JAグループが取扱う米は、種子更新率100%、農産物検査100%、生産者の栽培履歴記帳によりトレーサビリティが確保された米(「JA米」)として、すべて安心・安全な「JA米」とすることを目指し、消費者のニーズを先取りし、競争力を強化する取り組みをすすめていきます。
当然、「JA米」については、栽培暦どおりに生産されていることを前提に、国等が実施している残留農薬・カドミウム検査の活用をすすめるとともに、JAにおいて区分管理を行います。
イ 全農安心システム米」の取り組み
「全農安心システム米」とは、「JA米」の中でも、産地(生産者)と取引先(実需者)とが互いに納得した栽培方法で生産された米が対象であり、商品として「美味しくて安全」といった要素を前提に、客観的な検査と認証により生産から加工・流通までの履歴が明らかにでき(トレーサビリティの確保)、かつその情報を消費者に提供できるより安心で安全なお米です。
本会は、JAグループの米事業改革で提起した19年度の到達目標50万トンの実現に向け、商品としての優位性を保持しつつ、優良産地の開拓と販売先(実需者)の開拓を行い、流通市場において強い影響力のある取引先を順次確保して行きたいと考えています。
ウ 米の安心・安全の確保のためのチェック体制
・全農パールライス品質管理委員会の設置
JAグループ米穀卸は、「生産者団体の卸」であり、また、「パールライス」は全国ブランドであることから、万が一、品質事故や表示違反問題が生じた場合、生産者・消費者双方の信頼を裏切ることとなり、同時にJAグループ米穀卸全体が社会的制裁を受け、その存在意義を失いかねないこととなります。
このため、本会米穀事業本部では、品質管理に万全を期すため、14年3〜4月にかけてすべての精米工場を対象に、法令遵守、品質管理等について、「総点検」を実施しました。
また、14年7月にはISO主任審査員等をメンバーとする「全農パールライス品質管理委員会」(以下「委員会」)を設置し、JAグループの全米穀卸を対象に「現状分析とISO9001基準による改善・指導」を実施し、流通・加工段階における安心・安全の確保に努めています。
12月20日現在ですでに、対象卸38のうち、22卸で実施済みとなり、15年3月末までにはほぼ全卸の改善・指導が完了する見込みとなっています。
さらに、「委員会」では、本会がISO9001(2000年版)に準拠して定めた「JAグループ米穀卸品質マネジメントシステムガイドライン」に基づき、審査・認証を行うこととしており、現在2卸が認証取得に取組んでいます。
・ISOの認証取得
本会は、第8回理事会(14年11月6日)において、「すべての食品子会社は17年度末(18年3月末)までにISO9001(2000年版)の認証取得に取組む」ことを決定しました。
米穀事業本部としては、JAグループ米穀卸の当初からのISO認証取得を支援するとともに、ISO認証取得へのステップとして、「JAグループ米穀卸品質マネジメントシステム」を推進し、JAグループの全米穀卸でISO認証の取得をはかります。
◆JAグループの知恵を結集し万全の対応を
米政策が見直され、新たな世界での米の取扱いがスタートすることになりますが、スタートにあたり、大きな課題を抱えており、JAグループの知恵を結集して対応に万全を期す必要があります。
自主流通米の持越在庫は、国が公表した主食用米の需給見通しによると、15年10月末で41〜46万トンが見込まれています。
今、自主流通米としての古米の販売能力は、20万トン程度であり、40万トンを超える持越在庫は、2年がかりで販売することになります。
このため、その販売は、米政策改革後の世界あるいはそれを先取りした世界で、今まで以上に需給が緩和し、流通もより自由な中での販売となりますので、その際、特に留意することとして、
1つは、先に述べたとおり、今後とも米事業は委託販売、共同計算を基本としますが、一律的なものではなく、JAに間違いなく出荷してくれる生産者か否か、ガイドラインの内外などによりメリハリのある条件とする必要があります。
2つは、近年、国の役割が後退するとともに、JAグループの役割が増加する一方で、数量・価格のダウンによりJAグループ各段階において、経営が悪化しています。このため、全農全国本部・県本部、県連等では、大消費地において販売センターを設置し、情報と戦略を共有化して一体となった販売を行うなど、合理的・効率的に事業を見直すことが必要だと考えています。
その際、JAグループにとって武器となるのが、消費者の求めるものである安心・安全、トレースのきく「JA米」、「全農安心システム米」であると確信しています。