◆JA事業を取り巻く環境の変化
構造不況に対する政府の対策が行き詰まり、景気回復の兆しも現れず、不良債権処理や株価・地価の下落にともなう資産の劣化により経営状態の悪化が続く銀行は、競争力の確保と生き残りをかけて再編統合を繰り返し、メガ・バンクや巨大金融グループが形成されている。
また、保険業界では中小生命保険会社の相次ぐ経営破綻にとどまらず、損害保険会社にも破綻が生じた。保険各社は経営状況が厳しさを増すなかで、合併や経営統合をすすめている。
保険会社の合併や経営統合は、大手会社が準大手・中堅会社を吸収したり、大手会社同士が対等合併するなど、大手会社にとってもっとも手っ取り早く市場占有率を拡大するための戦略であるとともに、金融制度改革・規制緩和のもとで競争が激化し、狭隘化した市場における生き残りのための戦略でもある。
とくに、地方銀行が保険取り扱いの認可を受けたことは、地域に事業基盤をもつJA共済にとって今後、簡易保険事業とともに大きな脅威となるであろう。
市場競争の激化は、JA共済事業の領域まで競争に巻き込み、保障仕組みやサーヴィス、料率など、従来の共済の価値観の見直しを迫りつつある。
また、保険会社だけでなく同じ共済事業を実施する共済団体も増えつつあり、共済間の競合状態も無視することはできない。とくに、生協の共済事業は2000年度実績では、契約件数、共済金額、支払共済金、および総資産のすべてにおいてJA共済を上回る伸び率を示している。
◆JA共済統合連合会発足2周年
全共連と都道府県共済連が一昨年4月に一斉統合を実現してから2周年を迎え、統合連合会発足の真価が問われている。
一斉統合の目的は、全国連と都道府県連の組織・機能面の重複や効率性の欠如、資金の一元的管理・運用の必要性、コスト・パフォーマンスの不足、都道府県連間の格差の拡大、指揮命令系統の徹底・迅速化の欠如などの諸課題を克服するためであった。組織上は連合会に再編成されたが、しかしなお、全国連合の指導力不足、全国本部と都道府県本部との間の組織・事業運営上の意志疎通の不足・見解の相違、さらには都道府県間の格差とそれを背景にした都道府県閥とも言うべき力関係の差など、統合目的を実現し、その効果をいっそう発揮するためには改革していかなければならない課題が残されている。
言うまでもなく、組合員には統合による具体的な効果が明確に示されなければならないし、統合連合会は説明責任を負っている。
◆コミュニティへの貢献
1995年に開催されたICAの100周年記念大会において採択された「協同組合のアイデンティティに関する声明」で、従来の協同組合原則には含まれていなかった、協同組合が社会的存在として果たすべき役割を初めて明確にしたのが、「第7原則 コミュニティへの関与」である。
ICAの「協同組合のアイデンティティ」に対応するように、JAは97年に開催された第21回JA全国大会で「JA綱領」を制定した。その中に、「環境・文化・福祉への貢献を通じて、安心して暮らせる豊かな地域社会を築こう。」というスローガンが盛り込まれた。とくに、JAは公的介護保険制度の在宅介護サーヴィスを提供する機関として社会福祉法人や生協などとともに指定を受けた。JA・JA共済は公的介護保険制度の改善を行政に働きかける一方、組合員や加入者のために公的介護保険を補完する事業を行う必要がある。
JA共済はまさしく組合員相互の世代間助け合いの仕組みであり、人的結合やネットワーク機能を発揮して、介護・介護予防や福祉をコミュニティで支え合うシステムづくりに主体的に取り組むことが期待される。その場合、組合員の次世代層や若年層へ普及推進をどのように図っていくかが重要な課題である。
◆共済思想教育・啓蒙活動の強化
JAと関連会社の食肉偽装表示や産地偽装表示事件が相次いで発覚した。協同組合は本来教(共)育・学習を重視する組織であるから、自浄機能あるいは自己改革機能が備わっていなければならない。一連の事件を、狂牛病の問題に責任転嫁するのは筋違いであろう。
組織の指揮命令系統が旧態然として硬直的で、かつ官僚的な権力構造の温床になったり、形式的に分権化をすすめるだけでは組合員の立場に立った事業・組織・運営の民主化を実現することは難しい。協同組合では根拠法や運動理念・目的を隠れ蓑にしておごりや怠慢が蔓延しないともかぎらない。事業規模が拡大する過程で官僚化がすすんだ場合、一般企業よりもむしろ協同組合の方が企業倫理が乏しくなる可能性があるかもしれない。
協同組合の役職員教育が、上意下達の指揮命令系統の徹底を主眼とすることになれば、利害関係が入り込みやすくなる。協同組合組織の民主化を図り、チェック機能を確立するにはなによりもまず教(共)育・学習を事業運営に組み込み、組合員の参加のシステムを具体化する必要がある。
ところで、保険事業の場合、生命保険の世帯加入率は90%を超えるが、火災保険(建物)は49.2%(2000年11月調査結果)、任意自動車保険(対人賠償)は70.4%(2000年3月末)であり、わが国の保険市場は明らかに生保偏重、換言すれば貯蓄保険偏重傾向にある。これは、日本人が貯蓄好きだからということだけでは説明できない。保険加入者が保険について、とくに損害保険の補償機能について基礎知識をもっていないということを示している。
生保会社が営業職員教育に十分なコストと時間をかけずに募集活動に従事させてきた結果、営業職員の業務廃止数が新規登録者数を毎年上回り、信じ難いほど低い定着率のまま改善は見られない。こういう状況では、依然として無理・義理募集が減らず、毎年新契約件数に匹敵する解約・失効が発生している。国民・消費者は保険についての基礎知識さえも持ち合わせていないことになる。その原因の一部は、生命保険会社の経営姿勢とそれを監督してきた行政庁の責任にある。
JA共済の場合は、組合員は協同組合思想、あるいは共済について一定の知識をもっていると言えるであろうか。むしろ、共済の普及推進のなかで組合員や准組合員だから共済についての教育、啓蒙活動に時間をかけなくても実績が挙げられてきたのではないか。経済成長が共済事業成長を支えてきたとすれば、ゼロ成長やマイナス成長のなかでこそ、協同組合・共済思想の教(共)育・学習を深め、啓蒙活動を重視していくことが望まれる。