岩手県のJAいわて花巻は、共済事業のメリットを活かした多面的な組合員還元を図るため「ゆりかごから墓場」までの福祉サービスを展開している。幼稚園や葬祭事業などのほか、特に介護福祉サービスに力を入れている。全職員が平成16年までにヘルパー3級をとり、JA挙げての取り組みを進めている。元気老人対策も盛んで温泉付きの福祉センターのほか、「生涯現役」で頑張れる直売所などで高齢者も生きいきしている。
◆幼稚園から葬祭事業まで
JAいわて花巻は、瀬川理右エ門会長(現JA岩手県五連会長)の下、「ゆりかごから墓場まで」をスローガンに、組合員サービスの充実を図ってきた。
同JAの平野寛一共済推進部長は「総合事業を行うJAの強みを活かしていきたい。共済部門ではそのメリットを組合員サービスに活かすことが大切。また、共済が果たす多彩な組合員還元のあり方も地道に理解してもらわなければならない」と話す。
幼稚園は、昭和37年の共同炊事に引き続き、38年に、農繁期のための季節託児所を開設したのが発展した。昭和43年に農協立としては東北・北海道地区初の幼稚園を開園した。現在は管内2カ所で、100人の園児が通っている。
また葬祭事業にも早くから取り組んできたが、より健康で長生きしてもらおうと開設したのが、グリーンホーム落合。高齢者健康管理福祉センターだ。
同JAでは、合併前から健康作り運動には熱心に取り組んでおり、介護事業への参入も組合としては自然な取り組みだった。
◆温泉付きデイサービスセンター
平成12年4月、介護保険スタートと同時に介護保険事業を開始。居宅介護支援事業、訪問介護事業、通所介護事業を始める。現在、ホームヘルパーを含め70人体制で取り組んでいる。うち、パート職員が7割。
特にデイサービスに力をいれ、グリーンホーム落合(定員40人)とグリーンホームいしどりや(同30人)の管内2カ所で開設している。「JAがやる以上、どんな不便なところでも送迎するのが当然。家の玄関先まで送迎する」という。
こうした利用者の側に立ったサービスが評価され、平成13年に5000人以上が利用、対前年比181.5%と倍近い伸び。介護報酬利用料も1億3000万円と、195.1%の伸び。先行した元気な高齢者のための健康管理福祉センターは年2000万円ほどの持ち出しの事業だったが、介護保険事業の開始で、今年度は黒字に転換した。
「介護事業者としては後発なので、知名度はまだまだ。福祉センターに通ってきていただく元気なお年寄りのニーズをうまくつなげていきたい」と千田ツサ健康福祉部長は語る。
グリーンホーム落合で、12年に浴用の地下水を掘っていた時に偶然、温泉が出たことも、経営に弾みをつけた。
◆ヘルパー資格者の「手つなぎ隊」
JAいわて花巻では、12年から5年計画で全職員500人がホームヘルパー3級を取得することを義務付けている。
資格のある職員は交代で毎日2人ずつ、デイサービスセンターで勤務する。名づけて「手つなぎ隊」。職員からの公募で名前を決めた。専門知識を身につけ、現場体験をすることで、介護福祉事業に対するJA全体の理解が進んでいる。
自身、いち早くヘルパー資格を取得した平野共済推進部長は「共済の推進に行っても、介護保険制度やJAのデイサービスについて、しっかり説明でき、日常業務の中でも大変役に立っている」と語る。
◆多彩な元気老人対策
JAいわて花巻の福祉事業の特徴は、元気老人対策だろう。
デイサービスセンターのあるグリーンホーム落合は、平成8年に、高齢者健康管理福祉センターとしてオープンしたもの。天然温泉にゆったりつかって使用料は200円と格安。原則として60歳以上で、歩行、入浴、食事等に介助を必要としない人が対象。野菜と魚を中心にした昼の健康定食は500円で食べられる。
趣味の講座やレクリエーションなどが楽しめる。最近、人気が高いのはコンピュータの講座。お年寄り向けにわかりやすく丁寧な指導が好評だ。デイケアセンターに来た人の中にも習っている人がいるという。
温泉が湧いてからは、夜は一般に開放した。以前は7000人程度だった年間利用者が昨年度は1万4000人になり、手軽に利用できるコミュニティ施設としても地元に愛されている。
◆ファーマーズマーケットで生きがい作り
JAいわて花巻で有名なのがファーマーズマーケット、「母ちゃんハウスだあすこ」。年間7億円を売上げる全国でも有数の農産物直売所である。直売所では70歳を過ぎても現役バリバリの人が多く、生きがい対策として役立っている。
ゲートボール大会や年金友の会の活動も盛んだ。
◆「スタート30運動」による早期取り組み
共済部門は共済推進部の中に、共済推進課、保全事務課、事故相談課の三課が置かれそれぞれの業務にあたっている。共済推進課にはLA52人が在籍し、地域等により6ブロックに分かれて推進活動を行っている。
年間目標668億5000万円のうちの半分の330億円が集中推進での目標(平成13年度)。
同JAでは、年度始めにまず、集中して推進を行う。名づけて「スタート30運動」。3〜4月に年間目標の3割を挙げてしまおうというものだ。これはLA、クラブ員、一般職員の協力で行う。共済部門として早期達成を図るのはもちろん、一般職員は集中推進を早く終えて、本来業務に専念してもらうという戦略だ。
5〜7月を「ダッシュ1」で目標の6割、8〜10月を「ダッシュ2」とし目標の8割と順次、目標額を達成していく。ゴールは12月10日に定め、推進を終わらせるように計画し、昨年は12月25日に年間目標を見事、達成した。
◆恒常推進体制の充実へ員外契約もカギ
同JAでは昨年度から保障の点検・見直しのキャンペーンを行っている。現在は、皆、何らかの保険や共済に加入している時代。これからは個々人の保障を見直し、一歩踏みこんだ提案型推進を行う必要があるからだ。
組合員の共済加入が伸び悩む中、員外契約をいかに獲得するかが今後のカギとなっている。その面でもLAの活躍が期待されている。
同JAでは現在、昨年度の恒常推進の割合は5割だった。今年度は6割、来年度は7割と、順次、引き上げていく考えだ。
そのためには、LAの質、量両面での向上が大きな課題となっている。今まで以上に知識を積み、推進技法を磨き、契約者をはじめとした、地域住民に十分な相談機能を発揮し、高度な提案型推進を実施していく。
◆JAの強み生かし多彩な組合員還元
JA共済岩手県本部の阿部清志普及部長は「JA共済の場合は直接的な組合員還元だけでなく、総合事業全体としていろいろな形で地域の組合員のお役に立てる。JAいわて花巻のように多彩な福祉事業で地域の組合員ニーズにこたえていくことで、より深い組合員の理解と共感を得ていきたい」と話している。
<健康管理・高齢者福祉活動のあゆみ>
JAいわて花巻の健康管理・高齢者福祉活動の歴史は主に昭和23年に設立された湯本農協のリードの下に始まる。農協婦人部とともに食生活や台所改善、麦食運動などを展開してきた。昭和32年には食生活改善運動で厚生大臣賞を受賞したほど。家庭菜園自給運動や成人病予防運動(健康家庭づくり運動)、押麦・海草を食べる運動などを展開。「成人病予防は子供の虫歯予防から」をスローガンに子供の歯の健康にも心をくだいた。45年から厚生連とともに一日人間ドックを開始。農薬危害防止キャンペーンに取り組む。
平成元年には花巻市内七農協が合併したのを機に、健康管理推進協議会を設立、家庭看護講座を開始し、現在の介護福祉事業の基礎を築いた。6年には、ホームヘルパー養成研修修了者で組織する、たすけあいの会を設立。高齢者への声かけ運動などを始めた。8年には「健康福祉課」を新設。「グリーンホーム落合」を開所。
平成10年に一市三町が広域合併し「JAいわて花巻」発足。「福祉課」新設。JAいわて花巻高齢者福祉活動事業検討委員会設置。ヘルパーステーション設置、ホームヘルプ、デイサービスを施行的に実施、デイサービスを1月より継続実施。平成11年5月に花巻市とデイサービス委託契約。12年4月、「健康福祉部」を新設。介護保険制度による介護三事業を開始。
<JAいわて花巻の概要>
◎組合員戸数−1万4351戸(うち正組合員1万370戸)
◎職員数−645人(うち共済担当職員91人)
◎長期共済保有契約(14年3月末)−2119億1377万円。7万7588件
◎年金−27億700万円。6194件
◎短期共済−11億8000万6000円。7万1623件
◎信用事業−貯金1兆58億4000万円。貸出金396億5626万円
◎購買事業−90億9323万円
◎販売事業−149億3452万円
◎おもな農産物−米・野菜