JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

特集:未来の架け橋を築くために ―― 21世紀の農業を考える

インタビュー
生活者が関われば日本農業も変わる
農業は循環型社会の「要」
大河原 雅子 東京・生活者ネットワーク代表委員 東京都議会議員 
インタビュアー:坂田 正通 氏(農政ジャーナリストの会会員)

 食品の安全性について生活クラブ生協の要求は厳しい。本体だけでなく包装容器まで改善させたりする。大河原さんたちは東京都に消費生活条例をつくらせるなど行政の姿勢を生活者に向けさせてきた。輸入食品の検査などを求め、情報公開を追求し続ける。一方、生活者の注文に応える生産者への信頼感は強い。そして生活者の関わる運動で日本農業を守っていこうと考える。21世紀の循環型社会を展望すれば農業は面白い産業になると期待した。話は法人化や人づくりなど多彩に広がった。

(おおかわら まさこ)
昭和28年神奈川県生まれ。国際基督教大学教養学部卒。昭和62年生活クラブ生協加入。東京都への「食品安全条例」制定直接請求運動や残留農薬問題に取り組む。平成3年生活クラブ生協・砧支部委員長を経て、平成5年都議会議員選挙初当選、現在3期目。東京・生活者ネットワーク代表委員。家族は、夫と子ども3人。
◆東京を生活のまちにします

  坂田   生活クラブ生協の活動を始められたきっかけは何ですか。

  大河原   子どもに安全なものを食べさせたいという思いからです。母親は妊娠の段階から母体として何を食べたらよいのかと気になります。

  坂田   生活者の立場で都政を変えようと6月の都議選ではローカル・パーティ(地域政党)の「東京・生活者ネットワーク」に所属して3選を果たされました。小泉人気の中で、いかがでしたか。

  大河原   具体性のない「改革」ではなく、私たちは都民から汲み上げた具体的な提案をし、「東京を生活のまちにします」と訴えました。

  坂田   現状は、だれのための街だという認識ですか。

  大河原   以前の鈴木俊一都知事は「世界都市」を目ざし、次の青島幸男知事は「生活都市」でしたが、今の石原慎太郎知事は「先客万来の世界都市」をうたって鈴木型に戻り、開発・土建屋型というか、オフィスや道路ばかりを増やすようなまちづくりになっているのが現状ではないでしょうか。

◆『食べる人』の声をもっと聞いて

  坂田   日本農業は安全性の確保でがんばっていると思いませんか。

  大河原   世田谷区では「隣の畑で農家が今、農薬をまいています。何の薬か調べて下さい」といった電話をかけてくる人がいますが、住民の目にさらされている都市農業の安全性が高いのは必然的だと思います。
 8年前の話ですが、中央卸売市場の視察で、有機野菜の取り扱いが少ないと指摘したところ、「形よりも安全性を優先させるとか、有機栽培を求めるような消費者はごく少数ですよ」と、しごく冷淡でした。
 しかし私たちは、形が悪くても安全だったら良いとする消費者が多いことを体験で知っていました。結局今ではスーパーでも有機野菜の販売が増え、レストランでも有機のサラダが目玉になったりしています。

  坂田   自然なものが自然な形で店頭に出回れば値段のほうも、もっと安くできると思います。

  大河原   例えば、曲がっていないキュウリを作る手間だけでも大変だと聞きました。規格にしても、1箱の本数を同数にするためにダイコンの大きさをそろえたりで、コストのかかる農業になっています。
 海外旅行が増えて、日本人もヨーロッパの小売市場で、パッケージされない不ぞろいの野菜が山積みになっているのを見たりして、消費者は賢くなっています。日本でも昔は一盛りいくらでした。見栄えを優先させるのは、流通などが作り出した消費者ニーズですよ。だから今では規格の簡素化も進んでいます。
 農業政策にしても政府と生産者だけでやってきて、『食べる人』の声は聞いてこなかったのです。

◆東京を変えれば国の政策も変わる

  坂田   一方では、消費者運動の長い歴史がありますが。

  大河原   そうですね。ふり返れば私たちは89年に食品安全の条例をつくらせるために、55万人の署名を集めて都に直接請求しました。
 各党に内容を説明する中で、どこも残留農薬の調査など具体的な政策を持っていないとわかりました。
 鈴木知事も「条例をつくる必要はない」と答弁しました。しかし運動の結果、食品安全関係の予算は約10倍に増え、国の予算を上回りました。「都民に安全な食品を供給するのは都の役目」という当局者の説明を聞いた時はうれしかったですね。
 東京は世界中の食べ物が集まる巨大な胃袋ですから、ここを変えれば国の政策も変わる、という自信も持ちました。その後、議員になって、93年のコメ緊急輸入に対しては、水際の検査だけでなく、都内小売店の調査をさせたり、また全国で初めてベビーフードの残留農薬調査をさせ、これは今も継続しています。

  坂田   都市農業は消費者と直結できますが、その点はいかがですか。

  大河原   思い出しますが、私の初めての本会議の質問で「東京の農業は…」と切り出した時に議場が少しざわめきました。東京は農業をやるところではないという通念を揺るがせたようでした。それまでは地産地消とか農業振興といった質問はなかったのでしょう。農家の資産管理とか税制をめぐる質問はありましたけど。
 しかし種類は少ないものの生産額にして、都民が食べている野菜の1割近くは都内の地場産です。
 最近は農協の直売所や農家の軒先販売も増えました。世田谷区では、マップを作ったりしてそれを支援しています。これは本来JAのやるべき仕事ですから、もっと早くから本格的に取り組めなかったものかと思います。消費者としては近くで作られた農産物は安心して食べられますからね。

  坂田   農のあるまちづくりということもありますしね。

  大河原   私はずっと前から、消費者が関われば農業は変わる、農業を守り、育てることができるという確信を持っていました。だから、きょうは、農協新聞の取材を受けて大変喜んでいます(笑い)。

◆作り置きした冷凍物を外国から持ち込むのは疑問です

  坂田   最近の問題としては、JRの米国産冷凍弁当の輸入販売があります。どう思いますか。

  大河原   作り置きした冷凍物のいわゆる調整品を外国から持ち込むというのは疑問です。最近ではコンビニでさえ、健康志向が売りで、添加物のない冷凍物を暖めて提供したりしています。消費者は安ければ何でもよいとは思っていません。JRの見込み違いではないでしょうか。
 輸入品の中には、大きなニンジンを小さく切って成形したものがありスーパーは1袋100円で売っていますが、消費者はそれをベビーキャロットのイメージで買っています。
 加工日の表示がないため輸入業者に聞いたところ、店頭に並ぶまでには最低でも2週間かかっているとのことでした。皮をむいてから2週間も経った野菜を食べてどうなのか。
 カット野菜の分類に入っていないから加工日を表示しなくてもよいとのことでした。こうして法律の狭間をくぐってくる輸入品は、JR弁当のほかにも多いと見ています。一面からいえば、日本の農家は見くびられているのではないかと思います。

  坂田   国産の農産物は、もっと安心・安全を売りにすべきですね。

  大河原   東京都は有機野菜の認証制度をつくりましたが、この4月から国の基準に吸収された形です。東京には消費者ニーズを地方の農業者に発信する仕組みができていると思います。それにしても有機農産物はまだまだ少ないですね。

◆食教育をきちんとすることが日本農業を守る第一歩

  坂田   ネギなどのセーフガードについてはいかがですか。

  大河原   日本でできるものは外国から買わないようにする、というのは単純過ぎますか(笑い)。しかし日本人がみなサラリーマンになってしまって、農業者がいなくなったらどうしますか。中国だって人口が増えて日本に食料を売らないという危機的状況にならないとも限りません。

  坂田   そこで食料自給率の向上ということになりますが。

  大河原   おコメの生産量からすれば大したことがないかも知れませんが、米飯給食を週3回から4、5回へと増やすべきだという母親が多いですね。子どももパンのおかずよりご飯のおかずが好きです。親の試食会では「私はサバの味噌煮を食べたことがないのですが、子どもには食べさせたい」という母親もいました。
 栄養士も大変な努力で郷土料理をメニューに入れたりしましてね。とにかく食教育をきちんとすることが日本農業を守る第一歩ですよ。

◆柔軟な発想で就農できる制度をつくることが必要

  坂田   最後に農家の後継者問題についてはいかがですか。

  大河原   小泉首相は構造改革で失業者が出るが、半分くらいは再就職できるといいます。しかし再就職先が、その人の職能・技術とマッチしなかったらどうするのか。
 そこで、もっと自由な発想で農業をやれないものかと思います。例えば土地がなくても就農できるような仕組みですね。やはり農業法人を増やし、そこに就職できるようにすることが必要です。その点に限っては規制緩和も必要でしょう。

  坂田   減反などで遊休農地がいっぱいあるのですからね。

  大河原   世田谷には園芸高校があります。普通科を志望していた女の子が、そこを見て「ここで勉強したい」と決心。3年間、遠くから通学して今年卒業しました。私はその子の話を聞き、偏差値教育の中では珍しいケースだと感心しました。
 少子化で都立農林高校なども統廃合の憂き目に会っていますが、一方では環境に役立つ産業だと考えて農業を選ぶ子もあるわけです。経済的な効率主義にとらわれないで、子どもたちの選択肢を広げていくようにすることが大切です。
 循環社会を考えれば、農業は一番面白い産業になるはずです。農業には食料生産という役割がありますが、都市の環境にとっても非常に重要な一面を担っています。

  坂田   市街地区域の中の農業政策も重要ですね。

  大河原   その点で私たちは、東京都は都市農業の先進自治体だと行政をほめており、自信を持ってリーダーシップをとってほしいと思っています。
 私たちが提案して、農業ボランティアの養成も都で始まっています。一定の農業技術を身につけた人を増やしているわけですが、しかし、仕事のあっせんはしていません。このため、今後は経験を積んだボランティアが遊休農地の多い地方で就農し、担い手になれるようにするという意識的な取り組みも必要です。
 一方、市民農園は自治体かJAか農家でないと運営主体になれませんが、農業技術を教えようとする非営利団体だったら、なれるのですから生協でもできるわけです。そうした形で遊休農地も活用しながら、農地を守り、緑を残すという制度づくりの運動も進めたいと思います。
 また都は近く農業振興プランの案をまとめます。それをもとに都民の意見を聞き、9月以降に正式な策定になる段取りです。これは新しい農業基本法に対応して都市農業を推進するものになるはずです。

  坂田   では、どうも貴重なお話をありがとうございました。
(インタビューを終えて)
 事務所は狭いからと近くの喫茶店でインタビュー。お話中「先生」はいやですねと注文つけられ、大河原さんと呼びかけることにした。生活者ネットワークでは議員のことを代理人という、市民が中心の政治、市民の代わりに選挙に出ていると言う意味でそう呼ばれている。
 6月24日の都議選挙では、小泉旋風が吹きすさぶ中、生活者ネットワークの候補者6人全員を当選させたのはお見事。定員2の選挙区で当選できたことを特に評価しているという。大河原さんは学生結婚同然で3人のお子さんを育てる中で、食の安全性について感心を持つことから生協活動に入っていった。今でも、支援の中心は世田谷区生協の女性たち。世田谷区議(代理人)も4人だしている。消費者として、どうして食物が作られるのか農村へ行って見ることが大切、海外旅行でも外国で売られる野菜や果物をみれば日本の消費者も変わってくる。外見では不揃いな農産物が沢山存在するからという。
 インタビューを終えたら、大河原さんがアイスコーヒー代を割り勘にしましょうと提案された。華のある普通の女性、大河原雅子さんに同行カメラマンもすっかりファンになってしまった。まだ40代これからの活躍に期待。(坂田)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp