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特集:地域農業活性化と系統信用事業の役割

インタビュー
JAバンクの信頼性確保へ

農林中央金庫 佐藤純二常務理事

インタビュアー:東京大学大学院 万木孝雄助教授

佐藤常務・万木先生

 2月26日の全国信連会長会議で、14年度のJAバンクの総合戦略となる「平成14年度系統信用事業重点実践事項」が了承された。JAバンクの戦略を聞く万木助教授に答えて佐藤常務は、新しいデータ等も紹介しながら「より便利で安心なJAバンク」に向けた実践事項のポイントを意欲をこめて明快に語った。


 万木 JAバンクの総合的戦略と位置づけられている「平成14年度系統信用事業重点実践事項」の3本柱は(1)系統信用事業全体での信頼性確保(2)一体的事業推進による着実な事業実績の確保(3)一体的事業運営に向けた体制・仕組みづくりです。まず要点をお聞かせ下さい。

◆信用性の確保−−
  セーフティネットの強化で全JAの健全性を確保

佐藤常務
(さとう じゅんじ)昭和21年宮崎県生まれ。上智大学法学部法律学科卒業。46年農林中央金庫入庫、平成2年青森支店長、4年組合金融第一本部推進部企画推進室長、8年大阪支店副支店長、10年秘書役、11年人事部長を経て、13年常務理事。

 佐藤 第1点としてはセーフティネット(安全網)の強化があります。「JAバンク基本方針」に盛り込んだ破たん未然防止策に基づき、JAバンクの構成メンバーであるJA、信連の経営内容を常時チェックしていきます。そして、問題点の早期発見、早期改善に取り組むことにより、安心してJAバンクを利用できるようにします。
 第2点と第3点は全体があたかも1つの金融機関のようになって、その機能を高めていくことです。とくに高度な金融サービスを提供するためのIT(情報技術)戦略によるシステムの開発と運営、リテール(小口個人)商品の立案企画といった仕事を農林中金でやり、それを全国のJAにあまねく提供していくという一体的な事業運営を進めます。

 万木 まずセーフティネットの強化については、破たん防止のチェックを、これまで以上に厳しく専門的な金融のプロの目で見ていくということですね。

 佐藤 ええ。自己資本比率は行政ベースで4%以上ですが、私どもは8%以上という高いバーを設けて健全性を点検していきます。また、自己資本比率4%未満のJAの解消に系統あげて取り組んでおり、4月からは全JAが健全な経営でペイオフ時代を迎えられるよう準備を整えています。

 万木 従来はJAグループ内での情報伝達が遅い面がありましたが、今後は必要な情報をもっと積極的に地方などから集めるという情報受発信のシステムは動き始めているのですか。

 佐藤 農林中金の中にJAバンク中央本部が、また各県にも県本部がそれぞれ設置されたので、その連携を密にしていきます。もう1つ、信用事業新法で農林中金に指導の役割が与えられておりますので、十分な役割発揮が出来るよう気を引き締めているところです。

◆事業実績の確保−−
  5大作戦の積極的展開でJAグループの総合力発揮

 万木 では次に2番目の柱である「一体的事業推進・・・」について、さらにお話下さい。

 佐藤 農業者に対する経営指導を含めた高度な金融サービスを通じて担い手を育成する「農業金融パワーアップ21パートU」を展開します。特に当面はBSE(牛海綿状脳症)問題への円滑な金融対応を重点にしています。
 金融機関はメガバンクを含めみんなリテール強化をいっていますが、JA系統金融は正に個人分野です。そこで我々もリテール分野を戦略的に拡大します。
 その1つが情報ネット拡充作戦で、各県の中核的JAとネットワークを組み、新商品開発にかかる実務面での意見交換や当該JAからのトレーニー受入れなど多彩な活動を展開しています。また昨年秋に系統内イントラネットを構築し、参加は今、6県70JAですが平成14年度中に全JAへの展開を目指しています。
 それから「預かり資産NO.1作戦」ですが、これは貯金だけではなく投信、国債、外貨預金など多様な組合員の資産運用ニーズに応えるものです。
 さらに「ちいき・いきいき・ローン作戦」があります。利用者のライフサイクルに応じた各種ローン商品のサービス機能を拡充し、提案していくもので、34のモデルJAで推進の定着を図っています。
 もう1つ「実践業務改革チャレンジ作戦」はJAの事業推進のあり方を目標管理型に変えていくものです。また全国1万3000のJA店舗の配置を必要性や効率性の観点から見直していくための作業等の検討も進めています。
 最後に「信頼の掛け橋」強化作戦は組合員の資産相談に応じる資格取得者のファイナンシャルプランナーを15年度末には今の2倍の1万4000人に増やそうというものです。
 以上が「5大作戦」ですが、「一体的事業推進…」の柱の中には「総合力の発揮」という実践事項もあります。うちJA共済との共同開発による個人型確定拠出年金商品の発売は6、7月ごろの予定です。またカードのIC化による信用・共済・経済事業をつなぐ利用も検討しています。
 さらに農中グループ各社の力をまとめてJA支援を一層強化することも考えています。

 万木 実践事項の内容はかなり画期的です。総合力発揮はずっと言われてきましたが、いよいよ実質的スタートですね。

 佐藤 銀行や保険の合従連衡などによる変化はまだまだ続きそうで、目を離せません。そんな中でJAグループ内の事業提携の強化は当然です

◆組織整備の推進−−
  第一線と金庫の距離縮め三段階の効率化に取り組む

万木先生
(ゆるぎ たかお)昭和37年大阪府生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業。平成元年岩手大学農学部農学科助手、8年三重大学生物資源学部助教授、12年東京大学大学院助教授。著書(分担執筆)は、「農協合併と信用事業」(長谷部正編『農協経営の計量分析』農林統計協会)、「地域環境と産地政策」(石田正昭編『地方からの農政改革』三重大学出版会)など。

 万木 JA、信連が培ってきたリテール分野でのノウハウを商品開発などに活かすといったイントラネットなどのお話がありましたが、さらに垂直的な面での方針をお聞かせ下さい。

 佐藤 おっしゃる通り「総合力の発揮」は水平的な実践事項です。垂直的には組織整備を進め、10月には農林中金と宮城県信連が統合する予定で準備をしており、来年以降には栃木、秋田との統合日程があります。全体として3段階の効率化に積極的に取り組んでいます。

 万木 その場合、人事面での大事な点はいかがですか。

 佐藤 銀行合併では人事が一体感を持つまでに20年かかったなんて話がありますが、1日も早く職員たちの心が融け合うようにすることが大事です。そうしないと1プラス1が3の力にはなりませんからね。

 万木 組織整備にともなう人事によって新しい仕事にチャレンジする機会が広がってくるといったアピールで、若い職員たちに期待を持たせることも必要じゃないでしょうか。

 佐藤 そうですね。私どもは昭和40年代後半から信連との人事交流を続け、最長2年間の農林中金での実地研修を経た人は1000人を超えています。それを今、対象者をJAへと広げています。また協同セミナーという研修会社で人材育成に継続して取り組んでいます。

 万木 一方、第一線の単協が培ってきた蓄積を吸収、定型化し、ネットワークなどで、それを根付かせ、単協に広く活用してもらうという双方向のJAバンク機能にも期待したいと思います。

 佐藤 昨年はモデルJAに呼びかけ、「JAバンクフォーラム」という集いを初めて開いたところ、金融課長さんクラスから現場の苦労話がたくさん出ました。今後とも第一線と金庫の距離を縮め、現場の意見を活かしていきます。

 万木 JAバンクの方針は組合員にどう伝えていますか。

 佐藤 JAが集落座談会なども開いて知らせています。とにかくペイオフをひかえたこの時期にJA貯金が安定的に伸びていることは組合員と地域のみなさんがJAを信頼してくれている証しだと思っています。そこで、この資金をいかに効率的に運用していくかが大きな課題となります。金庫の国際的格付けが高いのは調達基盤が安定しているからで、それに見合った運用力の強化が必要です。

◆体制・仕組みづくり−−
  人・システム・商品提供の3つのサービスを高品質化

佐藤常務

 万木 では実践事項の3番目の柱「一体的事業運営に向けた体制・仕組みづくり」ですが、その中に「セグメント(区分)ごとのマーケティング」とあります。これまでは農家・組合員に同質的に金融商品を提供してきましたが、今は各農家・組合員のニーズの多様化が進んでいます。これは、そうした個別のニーズにどう応えていくのかという方針ですね。

 佐藤 セグメントに関しては、JAを利用する組合員の満足度分析を、静岡と兵庫の各JA利用者2万人を対象に実施しました。今までの組合員分類は正か准か、農業者か、経済事業を利用しているかなどといった内容でしたが、そうしたセグメントではなく、新しく全組合員のデータを分析し、利用者意識を新しい切り口で分類しました。
 すると利用者の中でも▽満足度の高い人▽いやいやつき合っている人▽無関心型の人とか、面白いセグメントが出ました。JA職員の訪問に応対するのは年寄りと決めていて、3、40代は無関心というタイプの家庭なども明確になりました。問題は満足度の高い組合員が何%いるかということです。セグメントなどというと営利主義のようですが、JAバンクの機能、サービス等を向上させていくためにも満足度の分析は各JAでさらに掘り下げていきたいと考えています。
 あるコンビニチェーンの社長さんは、例えばコーラやお茶は全国どこのコンビニでも品質、値段などが全部同じなのに売り上げは各社、各店舗によって差がある、それはサービスであり、満足度の差だと語っていました。
 時代は大きく変動しておりますが、JAバンク利用のポイントはやはりサービスだと思います。いかに高品質のサービスを提供できるかを念頭に、業務を組み立てていくことが決め手になるのではないでしょうか。

◆決済機能の強化−−
  あらゆる決済に対応 インターネットバンキングもスタート

万木先生

 万木 最後に決済機能の強化についてお聞かせ下さい。

 佐藤 早くから系統決済データ通信システムにより、為替や相互の振込、引出などの決済サービスに取り組んできています。それから掛け金の集金など大量の情報を代行処理するシステムとか、カード決済処理などもしています。今後は国庫金などの扱いが電子化されますので、そうしたIT化への対応を検討中です。また、インターネットバンキングは昨年11月にスタートさせ、すでに多くの皆様にご利用いただいております。
 私どもJAバンクとしては、これまで申しあげてきた「14年度重点実践事項を通じ、JA・信連・農林中金が一体となって利用者の皆様にとって、便利で安心なJAバンクづくりを進めていきたいと考えています。


(インタビューを終えて)

 「JAバンクの発足」と聞いても、何が変わるのかは私もほとんど知らなかった。その内容を端的に表すと、3段階制を越えた縦の連携が本格的に進められ、その核となるのは農林中金に他ならない、ということであった。
 従来の農林中金は、有価証券運用を中心とする機関投資家としての力量は十分に認められるものの、農業や地域経済への資金還元力は未知数である。それらに地道に取り組んで来た単協や信連にとっては、お手並み拝見と言った雰囲気もあるのではなかろうか。
 しかし、現状でそのような私情を引きずる余裕は無いはずである。連携的な協調融資や情報交換などは、統合の是非に関わらずもっと早期に実現しておくべきであった。その意味では、JAバンクの発足は大きなチャンスである。積極的な人事戦略を通じて、各地域の現場で培われてきた経験や蓄積が、広く全国に発信され共有されることを期待したい。
 JAバンクの内容において、政策金融と関連する部分の問題に触れられていないのは残念であったが、構想の方向自体については強い共感を持った。「JAバンクとなって農協が変わった」と、利用者も職員も実感できるようなシステムをぜひ作っていただきたい。
 最後に佐藤常務より、金融機関間の競争が激しさを増す中での協同組合金融の理念を再構築して欲しいという、大きな宿題をいただいた。次回お会いする時はその課題に少しでもお答えできるように、研究に励みたいと考えている。(万木)


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