JAグループの信用事業は、新たなJAバンクシステムづくりに向けて歩みだした。その柱は、破綻未然防止システムとJA・信連・農林中金が一体となった事業推進で、組合員・利用者の期待に応えより便利で安心な事業をめざす。鍵を握るのは、日々、事業を実践している各地のJAにある。現場の取り組みをJA紀の里の中嶋専務に紹介してもらいながら、農林中金の京谷業務開発部副部長と白石東京農大教授に今後の信用事業について話し合ってもらった。
◆集める貯金から集まる貯金へ
平成7年に14JAが広域合併し、貯金残高6510億円でスタートしましたが、その後、昨年3月末には7471億円に増やしました。しかし年次別にみると、住専問題で農協系統がヤリ玉にあげられた8年度の伸びは、わずか6億円増にとどまっています。
単位JAは住専に融資していないのに、県信連や農林中金の問題で1つにくくられてしまったのです。銀行の破たんはその1社のケースとされますが、系統信用事業では、1つのJAが破たんすると全国のJAに影響を及ぼします。
さて私どもの推進は毎年度の活動計画の中で、例えば各支店の店周500メートル以内の取引世帯数向上目標といった数値まで設定し、それらを実現する重点活動事項を定めています。金融推進部は取引基盤充実のため、まず第1に役職者が貯金残高3000万円以上の世帯と大口融資先を定例訪問しています。
1000万円以上の顧客に対しては渉外担当職員に役職者が同行して訪問し、情報資料を提供。また中元や歳暮を贈っています。
第2に年金と給与の振込指定シェア拡大に努め、第3に定期積金の取引世帯の拡大による次世代対策の強化を図り、第4に口座振替契約の獲得などに努めています。
一方、融資部はリスク管理体制の強化、財務の健全化を第一とし、収益力の強化としては事業資金の貸出を強化、またハウスメーカーなどとの連携による住宅資金と制度資金の取り扱い拡充を柱としています。
職員教育は地区支店7店に信用渉外のインストラクターを置き、顧客訪問に同行して指導しています。また、81支店に1人ずついる窓口リーダーが本店女性職員の指導を受けて、各支店の窓口職員教育にあたるシステムになっています。
当JAは『集める貯金』から『集まる貯金』を目ざして年金振込額を毎年12億円ずつ増やし、昨年末は363億円です。これは農産物の販売代金300億円を上回り、貯金増加の大きな財源となっています。
経験豊かな女性職員23人が年金アドバイザーとして対象者を訪問し、年間100件以上の振込指定獲得を目ざしています。また嘱託の社会保険労務士が各支店で年金相談会を開き、年間1000件以上の相談のうち振込指定の即答は40%にのぼります。
年金友の会会員は昨年末で3万5000人。60歳以上の管内人口に占めるシェアは23%。会員サービスは小旅行、誕生日プレゼントなどのほか年に2回感謝デーを設け、粗品を進呈し、定期積金の月掛けなどを勧めています。
信用渉外担当は合併当初の193人から18人減りましたが、1人当たりの月間訪問件数は当時の580件から700件へと増え、活動の効率化と意識改革が進み、多くの顧客にJAの良さをPRすることにつながっています。
◆住宅金融公庫より低利のホームローンも
収益力強化に向けた融資戦略としては普通貯金が多い特徴を生かし、資産管理部と連携して住宅金融公庫より0.05%低い金利のホームローンを発売。住宅会社に好評で現在1000件、残高は226億円となっています。
また賃貸住宅建設の借り替え資金の優遇金利や、農業再生産資金の設定、さらにはJAが営む3つの自動車整備工場と連携した自動車ローン融資手続きの簡素化なども実施しています。
信用事業の情報システムはすでに構築しましたが、さらに共済、経済、福祉などの各事業を総合的に行う事業体としての戦略的な情報システムの構築に取り組んでいます。
組合員と地域のみなさんに安心してJAバンクを利用していただくためには第1にコンプライアンス(法令遵守)経営の早期確立、第2に自己資本の増強や部門別収支の均衡、リスク管理の徹底が必要です。
そして経営の健全性と信頼性の確保、利便性の高い金融サービスの提供に向けた普段の努力が求められていると考えています。
【JA概要】組合員数6万1789人(うち正組合員2万5669人)▽職員1469人(うち信用事業担当はパート、臨時職員を含め559人)▽貸出金残高1995億円(うちローン比率42.2%)▽貯貸率27%▽長期共済保有契約高約3兆9650億円▽購買事業取扱高136億8900万円▽主要生産品目は農産園芸品、畜産物、果樹、花▽JAを除く管内の金融機関店舗数約160店(信金85、地銀62、都銀7その他)。