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特集:改正農薬取締法施行
    ――国産農産物の信頼回復のために

ルールを守り消費者の信頼を回復すること
改正農薬取締法の背景とポイント

澤田清 農水省農薬対策室長に聞く

 昨年7月、無登録農薬が全国的に販売され使用されている実態が明らかにされ、国産農産物の安全性に対する国民の信頼を揺るがせた。このため、従来から販売が禁止されていた無登録農薬の製造・輸入・使用の禁止、農薬使用基準に違反する農薬使用の禁止、生産者を含めた違反者への罰則の強化などを内容とする農薬取締法の改正が行われ、3月10日から施行される。
 国産農産物の信頼を回復し、産地を守っていくためには、生産者が新たに設けられたルールである改正農薬取締法や同法にもとづく農薬使用基準を守った農業生産を行うことが求められる。そこで、改正農薬取締法の内容と生産者・JAグループが取り組むべき課題について特集した。

◆国産農産物の信頼を裏切った無登録農薬の使用

 ――今回、農薬取締法が改正された理由はなんでしょうか。

澤田清氏

 澤田 農薬は、安全性の確認された登録農薬を適正に使用することが必要ですが、昨年、無登録農薬が全国的に流通し、使用されている実態が明らかとなり、これまでに、44都道府県で約270の業者が無登録農薬を販売し、約4000農家が使用していたことが判明しました。この結果、消費者の国産農産物への信頼を著しく損なっただけでなく、農作物の出荷自粛などの事態を招きました。このような事態を踏まえ、昨年12月に農薬取締法が改正され、3月10日から施行されることになったわけです。

 ――改正の主なポイントはなんでしょうか。

 澤田 1つは、無登録農薬の販売については従来から禁止されていましたが、これに加えて、製造、輸入、使用が禁止されたことです。
 2つ目は、農水大臣および環境大臣が使用者が遵守すべき農薬使用基準を定めて、これに違反する農薬使用は禁止になります。
 そして、3つ目が罰則の強化です。これまで法律違反の罰則が軽いこともあって、罰則があるにもかかわらず無登録農薬の違法販売が行われていました。そこで抑止力のある水準とするために飼料安全法と同等のレベルにまで引き上げられました。特に、法人の販売等に係る義務違反については最高刑が1億円となりましたし、違法に使用した場合は3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることになります。

◆さらに高まる「食の安全性」に対する意識

 ――農薬の使用基準を設けた目的はなんですか。

ダイホルタン(カプタホ−ル)殺菌剤ホ−ルエ−ス、ホ−ルエイトという名前で販売されていた。毒性の点で、検出されてはいけない農薬となっている。何の表示もなく、一見して無登録と分かる。
ダイホルタン(カプタホ−ル)殺菌剤ホ−ルエ−ス、ホ−ルエイトという名前で販売されていた。
毒性の点で、検出されてはいけない農薬となっている。何の表示もなく、一見して無登録と分かる。

 澤田 農薬は、登録に際して毒性評価を行い、人や動物などへの害がない範囲を作物残留などの基準として定め、この基準を超えないように使用方法を決めています。つまり、適正に使用されてこそ安全が確保されるわけです。今回の法改正では、遵守すべき使用基準を定め、違反した場合には罰則が科せられることとなりました。

 ――農薬を使用するときのルールを決めたということですね。

 澤田 無登録農薬問題で消費者の信頼を損ないましたが、キチンとしたルールをつくり、それを守れば消費者の信頼も回復する。そういう農業をしようというのが一番の狙いです。農薬は安全性の確認をし、化学品としてどこまでの範囲までなら使えるか科学的に検証し、評価され管理されていますから、決めたルールに従えば、その安全性については国がオーソライズするわけです。消費者の信頼を得るためには、ルールを守ることにつきると思います。
 残念ながらそれを守らない人がいたわけですが、これからは、さらに「食の安全性」についての意識が高まると思います。いま国会に提出されている食品安全基本法が決まれば、生産者は食品関連事業者となり、安全な生産工程を行うことが責務となりますから、ますますそういう方向にいくことになります。

◆家庭菜園でも守らなければいけない「使用基準」

 ――使用基準の内容はどのようなものですか。

水酸化トリシクロヘキシルスズ(プリクトラン)(シヘキサチン)殺ダニ剤 プリック、プリラ−という名前で販売されていた。毒性の点で、検出されてはいけない農薬となっている。何の表示もなく、一見して無登録を分かる。
水酸化トリシクロヘキシルスズ(プリクトラン)(シヘキサチン)殺ダニ剤 プリック、プリラ−という名前で販売されていた。
毒性の点で、検出されてはいけない農薬となっている。
何の表示もなく、一見して無登録を分かる。

 澤田 農薬の使用は、そのラベルに書いてあることを守るのが基本ですが、特に食用農作物などに対して使用する場合は、農薬の残留が基準値以下となることを確実にするため、1)その農薬に適用がない作物へは使用しないこと、2)定められた使用量又は濃度を超えて使用しないこと、3)定められた使用時期を守ること、4)定められた総使用回数以内で使用することを遵守義務とし、違反した場合に罰則が設けられました。

 ――これは販売する農産物を生産する人だけではなく、農薬を使うすべての人に適用されるわけですね。

 澤田 そうです。家庭菜園を含めて、農薬を使用するすべての国民に適用されますので、生産者だけではなく、すべての人たちに十分理解していただきたいと思います。

◆「記帳」は産地・生産者を守るため自主的に

 ――有効期限切れ農薬を使用しないことや農薬を使用した日や場所、作物、農薬の種類や量を記帳することなど社会的に要請が強い事柄についてが努力義務とされましたが、記帳についてはいずれ義務化を考えているのでしょうか。

 澤田 JA全中などとも協力して指導をしていきますが、すべての生産者に義務化することは難しいと思います。それよりも、これはいまの時代の流れだといえます。記帳するのは煩雑だという人もいますが、キチンと記帳され生産履歴が明らかなものしか置かないというスーパーも出てくるようになるのではないでしょうか。
 記帳は、義務だからとか、人に言われたからやるというものではなく、産地を守るために、生産者自身のために行うということではないでしょうか。

◆マイナー作物にはグループ化と経過措置で

 ――農薬の適用が少ないあるいはないというマイナー作物については…

 澤田 農薬登録では、安全性の確認のために、農薬の毒性試験結果の提出を求めるほか、各作物への使用方法を決めるのに必要な作物残留試験などの結果の提出も必要です。しかし、農薬メーカーは、どうしても主要な作物を対象に試験を行い、適用作物として登録申請を行う傾向にあるため、マイナー作物は、使える農薬が少ないというのが現状です。そして、マイナー作物の病害虫の防除に農薬を使えば、登録にない使用方法として罰則の対象となりかねません。農林水産省では、これまでもマイナー作物への農薬適用拡大を支援してきましたが、現在、2つの対策を進めています。
 1つ目は、形状、利用部位などから類似性の高い作物をグループにまとめて、各メーカーから登録変更申請を受け付けることです。たとえば「非結球アブラナ科葉菜類」、「非結球レタス」などのグループごとに農薬登録ができる仕組みに切り替えています。
 2つ目は、グループ化できないものについて、作物残留試験などが実施されて登録変更が行われるまでの当分の間、農薬使用基準の適用作物に経過措置を設け、安全な使用方法を設定する都道府県知事から申請された作物に対し、農林水産大臣が承認する仕組みを作りました。この経過措置は、なるべく早期に終了することを想定しています。

 ――登録の変更、適用拡大申請はどれくらい出されていますか。

 澤田 600種類の農薬が申請されています。

 ――グループ化できないもので、都道府県知事が申請する「経過措置」の期間はどれくらいを考えているのでしょうか。

 澤田 今年の12月末までに申請があったものに限ろうと考えています。

◆情報を確認して使用――分離して登録される農薬

 ――従来、ミニトマトにはトマトで農薬登録が取れていれば使えましたが、これからは分離して登録を取らなくてはいけないことになりました。現在、生産者が在庫としてもっている農薬が使えるかどうかが問題になると思いますが、この対応はどうお考えですか。

 澤田 分離して登録しなければいけないものは表1のようになっています。トマトで登録されている農薬は、極力ミニトマトにも使用できるように農薬メーカーと調整していますが、使用できなくなる農薬や使用方法が変更となる農薬もあります。
 そうした情報は確定次第行政ルートを通じて流していきますが、直接お知りになりたい方は、農水省ホームページの「農薬コーナー」(http://www.maff.go.jp/nouyaku/)に登録情報を出しますのでそちらを参照していただきたいと思います。しかし、パソコンがなくても個々の生産者に情報が伝わるように、行政窓口や農協、販売店から情報を伝えていただくことが大事だと思います。

表1 分離して登録する作物

◆特定農薬は、効果と安全性を確認して指定

 ――「特定農薬」が話題となりましたが、これについてはいかがですか。

 澤田 改正農薬取締法では、新たに無登録農薬の製造や使用を禁止したため、農作物の防除に使う薬剤や天敵で、安全性が明らかなものにまで農薬登録を義務付ける過剰規制とならないように、特定農薬という仕組みを作りました。無登録農薬を禁止するために必要な制度上の仕組みであり、新たな規制を持ち込むものではありません。
 ただ、「特定農薬」という呼び方についていろいろご意見がありましたので、「特定防除資材」(特定農薬)という呼び名にすることにしました。

 ――これの検討にあたって情報提供を求めたところかなりの数の情報が寄せられましたね。

 澤田 特定農薬の指定の検討のために、昨年の11月から12月始めにかけて、関連する資材の情報を求めたところ、2900件の情報が寄せられました。重複を整理した740種類について、専門家による会合で検討を行い、1月30日の農業資材審議会農薬分科会に報告が出されました。
 寄せられた情報のうち、雑草抑制シートやアイガモ、アヒル、ウシ、コイなどはもともと農薬ではないので除外され、残ったものの検討が行われた結果、とりあえず、殺菌効果がある重曹と食酢、そして地場で生息する天敵について指定されました。
 農薬とするからには、客観的な効果も確認すべきと多くの委員から意見があり、他の多くのものは、農薬かどうかという点で結論が保留されました。効果のないものを特定農薬としてしまえば、これを農薬として売る業者が現れて問題になるという認識です。したがって、農薬かどうか判断が保留されたものは、農薬効果を謳って販売することは従来どおり取り締まりますが、効果は分からないものの、使用者が自分の判断と責任で使うことは可能です。

 ――保留されたものは、今後どうするのですか?

 澤田 今後、客観的に効果と安全性を調査して評価していきます。具体的には、専門家の意見を聞いて、判断のためのガイドラインをつくり、それに基づいて評価していきます。当面、木酢など関心の高いものからすすめていく予定です。

◆消費者から信頼される国内農業のために

 ――最後に生産者に一言お願いします。

 澤田 今回の農薬取締法の改正は、農家に罰則をかけることが目的ではありません。消費者からも納得されるルールをつくり、それを守って農業をすることで、消費者の国産農産物への信頼を回復しようということが一番の目的です。そのことで、産地も日本農業も守ることができると確信していますので、生産者のみなさんもルールを守り、消費者から信頼される農業を築いていただきたいと思います。

――ありがとうございました。 (2003.3.6) 


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