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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

ルポ 地域を変えたおんなたち
明日の豊かさにチャレンジ

母ちゃんパワーで年間5億へ
冬でも野菜がいっぱい


JAいわて花巻・ファーマーズマーケット「母ちゃんだぁすこ」


◆まごころが人気の秘密

4億の売上げを誇る
「母ちゃんハウスだぁすこ」

 JAいわて花巻のファーマーズマーケット「母ちゃんハウスだぁすこ」は12年度の年間売上は4億円に上り、今年度は5億円へと毎年売上を伸ばしている。地域の女性たちが「大地の香りを直接消費者に届けたい」と作った農産物直売所だ。農家の主婦らが栽培した野菜や花の農産物、漬物やもち、団子などの加工品、暮らしの中から生まれたクラフト製品など丹精込めて作られた「まごころ」が人気の秘密だ。
 平成9年6月に開設。13年3月には増改築をした。施設面積は1069.97平方メートル、うち売り場面積は558平方メートル。レストラン、休憩所を併設している。駐車場は大型バスの専用スペースもあり500台が駐車可能だ。事業費は1億8千万円。JAいわて花巻が運営し、正職員2人のほか、パート・アルバイトなど総勢20人が働く。生産部会の協力者は260人、平均出荷者は120人に上る。
 母ちゃんハウスだぁすこができたきっかけは、女性たちからの強い要望だった。その背景に、女性部を中心に取り組んできた、家族1人10万円、50万円自給運動の成果がある。自給農産物の生産を通して、力をつけてきた女性たちが、各地で余った野菜を母ちゃん市のような形で、直売するようになっていったからである。米の転作が拡大したことも野菜の生産に拍車をかけた。農業収入確保のためには、これらの生鮮野菜を現金化していかなければならなかった。
 不定期の母ちゃん市はいくつもできたが、売上に限界があった。組合長と女性部の懇談会でも、常設の直売市の開設を求める強い要望が出た。ちょうど1市3町のJA合併を機会に、生産者と消費者のふれあいづくりのための拠点施設の建設が検討されていた。その中でグリーンセンターをメインにファーマーズマーケットを併設しようということになった。直売所はあくまでもおまけのようなものだったが、立ち上げてみると人気が集まったのはファーマーズマーケットの方だった。女性たちのまごころ込めた農産物や加工品を求める人の列が途切れることはなかった。

◆地域参加が魅力に

 主客逆転である。
 「母ちゃんハウスだぁすこ」という名前は、郷土の偉人・宮沢賢治の童話の中の「だだぁすこ、だんだん」という太鼓の音にちなんだもの。地域で一般公募した中から選ばれた。
 名前だけではない。生産者だけでない、地域参加がだぁすこの魅力だ。4月から10月までの第3日曜日は、店の前にフリーマーケットが並ぶ。若いお母さんたちが思い思いの品を並べ、大変なにぎわいになる。
 パンを出荷するのは障害者の施設だ。3月からは敷地内に本格的なパン工房がオープンし、その運営を任せることにしている。
 だぁすこの魅力の第一は品物の豊富さだ。開設当初は雪国での冬の営業は絶望視された。売る物がないのではないかと思われた。
 その分、加工に力を入れた。加工は惣菜事業部を直売所自身が持つとともに、個人の農家が食品衛生法の許可を取って、加工品を出荷する。まんじゅうなどの菓子を扱う人の中には1千万円近い販売高を誇る人も何人かいる。お客様に喜んでもらおうという意欲が品物の品質に表れている。
 小田島邦雄さん(72)、景子さん(70)夫婦のまんじゅうは、まず最初に売れてしまう人気商品だ。菓子のほかに季節の山菜やきのってんぷら、煮しめなど、農家ならではのお惣菜も来店者に喜ばれている。特に春を呼ぶタラの芽、フキノトウなどが人気だ。
 景子さんが作って、邦雄さんがパック詰めし直売所に運び込む。二人三脚のオシドリ夫婦だ。「直売所が始まる前は、ばあさんとよくけんかしたものだったが、今はそんな暇もない」と笑う。「喜んで食べてくださる人がいることが幸せなこと」と顔をほころばす。
 だからだぁすこの高橋テツ店長から「まんじゅうが売り切れたので、追加はできないかしら」と連絡が入れば、できる限り対応する。夕方になって、せっかく来てくださったのに、何も買うものがないというのは、直売所全体の評判を落とすことになると考えるからだ。
 小田島さんに限らず、だぁすこはそんな生産者の熱い思いに支えられている。

◆うちで育てた野菜は違う

野菜の品質をチェックする高橋テツ課長
(店長・右)と佐藤賀世子さん

 加工品だけではない。冬場の野菜も充実している。「うちの冬野菜のおいしさは格別。売り場があれば生産者のやる気が形になるんです」。高橋店長も胸を張る。店内にはタマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ゴボウ、ヤマイモなどの貯蔵のきく根菜類だけでなく、ホウレンソウ、小松菜などの青物、特産の曲がりネギ、雪の下で貯蔵したハクサイ、キャベツなどが並ぶ。
 ミカンなど地元でとれないものは、和歌山県のJA紀の里のファーマーズマーケット「めっけもん広場」との産直契約により、新鮮なものが毎日届けられる。
 生産者部会の副会長を務める佐藤賀世子さん(58)はだぁすこを機会に本格的に農業に取り組んだ。土地はあったが、父母も夫も勤め人。大半の土地は人に貸していた。自給運動を機会に自家用の野菜生産をするようになった。やってみると楽しくなった。かわいがって育てるとそれにこたえてくれる。「うちで育てた野菜はうまみが違う」。自分には向いている仕事だと思った。直売所が建つころ、ちょうど、人に貸していた畑が戻ってきた。
 自給野菜が基本なので、佐藤さんの野菜生産は少量多品目が基本だ。自慢の曲がりネギのほか、タマネギ、大根、夏場の露地トマト、キュウリときめ細かく手をかけている。完全無農薬とはいかないまでも、有機質肥料をたっぷり使い、できるだけ農薬を使わないように心がける。安心安全は家庭を預かる主婦として基本的な願いだからだ。

◆眠ってたものが掘り起こされた

 農家というほどの農家でもなかった佐藤さんのうちには満足な農機もなかった。去年思いきって自宅前にハウスを建てた。今まで直売所で稼いだお金を投資した。単に野菜生産の場としてだけでなく、野菜を洗ったりする出荷調整にあると便利だからだ。「冬場の体操するのもいいし、孫が来た時の遊び場になる」。だからハウスの中は野菜を植えずに少し空けてある部分がある。農業と真剣に取り組む一方、生活を楽しむことも忘れない。「野菜からエネルギーをもらっているんです」。佐藤さんは心底幸せそうに笑う。
 全国で農産物直売所、ファーマーズマーケットが人気だ。地域が変わったという。女性たちが元気だという。今まで農家で眠っていたものが掘り起こされている。農産物や特産品だけではない。むしろ、女性を中心に、今まで表に出し損ねていたパワー、知恵そして勇気がほとばしり出ているのではないだろうか。
 農村女性の底力、エネルギーを発揮する場。そのことを通して21世紀、農村はどう変わらなければならないのか、JAはどうあらなければならないのかが見えてくる気がする。
 ますます元気な全国の農村のお母さんたちへ、大きな期待を寄せたい。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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