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特集:21世紀 食料・農業・農村を拓く女性たち
――JA全国女性協創立50周年記念 |
座談会 女性のためのマーケティング講座 男も女も「女」を知らない しなやかな感性で知恵集めて生き生きと 出席者 丸紅(株)食糧部肥料園芸課長 沢ゆり氏 生活者マーケティング(株)代表取締役 渋谷貞子氏 農業生産法人(株)ぶった農産取締役 佛田とし氏 司会:博報堂生活総合研究所主任研究員 南部哲宏氏 |
女性の生き方は、男性よりも多様で選択肢も多い。進学率も就業率も上がった。当然、ライフスタイルも多様で、食に対する意識や行動も様々。しかも子供の成長に応じて変化が早い。これらに対する農産物のマーケティングの現状はどうか。完全にミスマッチングではないか。座談会は都会生活者である女性の目線や気持ちを中心に、そうした問題点を追った。そして、女性にもモーレツ社員やリストラ社員がいる。だから、どんな人を相手に商品を売りたいのか、ターゲットを絞り込む必要があるんじゃないか、などという話に発展した。また消費地と組合員の双方向に情報を発信しなければならないJAの機能の弱さとか、ユニクロの農業参入なども話題となった。
南部 ちょっと前置きをさせて下さい。僕が農業を勉強してきて昨今感じている問題意識は生活の変化に対し、日本農業がミスマッチを起こしているんじゃないかということです。戦後の腹をすかしていた時代の食料供給システムは多分70年代ごろまではよかったけど、その後の社会・経済が成熟し、女性の多様な生き方などを考え合わせると結局、システムが全然合ってないみたいな感じです。 佛田 私も博報堂生活総合研究所にいて、農業には興味のないOLだったのですが、南部さんに引っ張り回されているうちに、今の主人と知り合って1年前に石川県まで嫁いでいってしまったというわけです。
沢 私は文学部史学科出身ですが、帰国子女なので、海外との関わりが多い仕事がしたいと思い、丸紅を受けて入社しました。肥料課に配属されましたが、日本の肥料業界はジリ貧で、伸びていくのは困難です。そこで他の商社がすでに参入していたフラワービジネスを勉強することになり、以後ずっと花のほうも担当して、昨年4月には肥料園芸課の課長になり、もうすぐ1年が経過します。 渋谷 私どもの会社は大手食品企業の商品開発のお手伝いをしています。今までは企業が消費者に目を向けないで、売れそうなものを勝手に作ってきましたが、それではモノが売れなくなりました。そこで生活者の立場で、その声を企業に届けるスタンスで会社を起こしました。
南部 では前提として30年前と比べた女性の就業状況を見て下さい(別表)。15歳から64歳までの就業者数は670万人も増え、女性人口比の就業率は61%に達しています。子供に手のかかる30歳から39歳の層の就業者も72万人増えています(差2表)。これらを念頭に置いてお話して下さい。
渋谷 毎月の失業率を見て驚くんですが、男性と互角に女性就業者が全体の率を上下させています。ライフスタイルが変わるのも当然ですね。それは子供の年齢や家族別に2、3年で変わり、どこに住む人か、鉄道沿線によっても違ってきます。 南部 子育てしながら働いている母親の悩みはどうですか。 渋谷 私の会社は全員が女性で、子育て真最中の母親はまず子供をどこに預けるかが悩みですね。会社では家事をすませてから出勤できるようにと始業を10時にしています。また主婦の仕事を大事にする感覚のある人でないと商品開発はできないという視点で採用しています。 南部 限られた時間を有効に使うために、ある程度は手抜きできるものを使っていますか。例えばカット野菜や冷凍野菜とか、簡便化された食品とか。 渋谷 とても上手に使ってますよ。それに国産品にこだわったり、また宅配の生協を利用している人も多い。外食もうまく使い分けているようです。私は子育て真最中の人に、少子化の中で子供は宝なんだから子供を第一に考えなさいといっています。我慢して目をつむるから仕事は二の次でよい、その代わり子育てが終わってからは仕事第一にしていただきますと。 南部 沢さんはいかがですか。 沢 私は独身ですし、また社内で周りをみても、子供を抱えて働いている方はすごく少ないんですよ。1フロアに1人いるかどうか。多数派は20、30代の未婚女性です。その方たちは食に対しては貪欲で、まあグルメみたいな女性で日常の話題も食べ物のことが多いですね。 佛田 30年前と比べ女性の結婚年齢が5歳上がっているといいますが、大都市と地方では違います。独身にしか見えない若い女性が石川では2、3人の子供を抱えたりしています。 南部 そういう所で農業生産が行われているということですよ。結婚年齢にしても大都市のようには上がっていない。渋谷さんや沢さんが語った都心部で働いている女性と農業生産地との間に意識や実態のギャップがあるんですね。
渋谷 私の会社の女性には働いているんだから食生活に気をつけようという意識があるんです。一方「食のフォーラム」のアンケートでは「参加してみて自分の食生活の貧弱さを痛感した」という回答が多いのです。ですから、ただ、食べさえすればいい、と食生活に気を使わなくなった人もいると思います。 佛田 そうです。農家にはまだ『お腹いっぱい主義』の傾向が強いように思います。だから「お食事しましょう」ではなくて「早くたくさん食べちゃいな」みたいなね。また農家だから食べ物を大事にしているのかなと思ったら、自分で作っているせいか無駄にもするんです。せっかくこだわって作ったのにとってきて、そのまましおれさせてしまったり。一方では、こだわり野菜は販売用であり、自分たちで買って食べるものは安いものでいいんだという意識もあるようです。 沢 仕事で量販店と話をしますが、青果の部長さんはものすごく危機感を持ってらっしゃいます。親が野菜を食べないからですけど、子供たちを中心に家族がスナックに走っていて、体のために本当に必要な野菜や果物を食べない、だからスーパーでも売れない。そこで「敵はスナック菓子だ」といっています。もちろん量販店ではスナック菓子も売っていて、それなりの売上げがあるわけですが、それでも「打倒スナック菓子」を叫んでいるんですよ。そして、どうやってフレッシュな生鮮青果をもっと食べてもらえるかを一生懸命に考えています。 佛田 ちゃんと育てた野菜の取れたてを食べると改めて野菜のおいしさを痛感します。それを知らないと子供たちは野菜っておいしくないと思うんじゃないでしょうか。だから、だんだん野菜嫌いになっていくのでは。そこで、いい加減なものを出荷していないかどうか生産者はもう一度、見直すべきですね。 沢 私は米国に行った時のほうがサラダや野菜をおいしく感じます。本来の野菜の味が濃かったりするんです。日本のは味が薄いんです。それは、日本では経済が先行して栽培効率とか形をきれいにするとかを追求して品種の改良で本来の味が失われたからだと聞きました。 佛田 そのために子供たちはファーストフードとか味の濃いものにいってしまって、本来の味がわからない子が育っていくのではないかと思います。 渋谷 うちが開いている親子の料理教室では、家で味噌汁にそっぽを向く子が、お代りをして母親を驚かせます。鰹節でちゃんとダシをとってあるからです。野菜嫌いの子が野菜の具もいやがりません。子供は本来の味を知らなかったのですよ。 南部 生活総研の最近の調査では「料理を作るのが好きなほうだ」という女性が48.5%で半数を切り、「おコメを1日に1度は食べないと気がすまない」女性も92年の調査より減って約67%です。一方では「立ち食いそばを食べるのが恥ずかしいと思う」女性は減っています。これらの数字を見ますと、食のことが余り考えられていないかも知れませんよ。
沢 食以外に、考えなくちゃいけないことが増えたのです。食をないがしろにしているわけではないけど、ほかのシェアが上がってきたんですよ。 渋谷 しかし食生活を考えないと。子供たちの体がだんだんおかしくなってきています。 南部 わかっちゃいるけどやめられないという状況ですね。しかし、そうした大きな課題を解決していくところにビジネスチャンスもあると思います。 佛田 そう思って、東京・渋谷の西武のガーデンズを見たけど、こだわって作ったものがすごく高いので、びっくりしました。あれでは普通の生活者は手を出さないと思います。 渋谷 ユニクロは急成長、急降下の形です。農業に参入しても、すぐに撤退するかも知れません。繊維業界が混乱したように、日本の農業が、かき回されはしないかと心配です。 佛田 私は参入しても多分、難しいのではないかと思います。 渋谷 都道府県別に収入の伸び率をみますと、東京より高い農村部があります。それは特産品をうまくマーケティングしているからです。例えば南高梅を作っている和歌山県の南部町です。小さな町村でも、みんなで知恵を集めれば、いいアイデアが出てくると思います。
沢 そのパイプ役になるのが農協や経済連ですね。仕事で花の農家に行くと、女性の立場は夫より一歩下がった感じです。旦那さんが前に出て、海外視察にしても奥さんを連れずに男性だけで行っています。 南部 農協は市況しかみてないし、女性の実態などもちゃんとウォッチングしていない。だから小売に支配され続ける。 沢 でも小売には情報やノウハウが蓄積されていますから、それをうまく使ってほしい。 佛田 女性ウォッチングの話が出ましたが、地方は都会より5年か10年遅れています。まだまだ封建的ですよ。 南部 端的な話、農協は組合長を女性にしたほうがいい。販売部長なんかも女性にしたほうが手っ取り早いと思います。 沢 地方が遅れているとのことですが、大手町(JAグループ全国連)も女性登用では遅れているんじゃないですか。 南部 女性を理解していたから事業に成功したという事例を挙げて下さい。 沢 東京・渋谷駅1階のショッピングモールのようなところに「青山フラワーマーケット」という花屋さんがあり、業界では「革命的」という位置づけです。オープンスペースで、半分がブーケになっているお花で、あとはバラでバラのお花ですが、夕方には行列ができるほど。 南部 最近は冷蔵庫にしても冷凍室より開ける回数が多いことに合わせて野菜室のドアを改良したり、女性の立場に立った商品開発が増えましたね。 佛田 北陸のほうでは最近、洗たく物を室内で干しても衣類が臭くならない洗剤が出ました。あちらでは曇天が多いので、ほとんどの家が室内に干すため、乾きが悪いとヘンな臭いがしますそれを防ぐ商品です。 渋谷 高知県の馬路村のゆずポン酢は良い商品なので私たちは口コミで、その販路を広げましたが、女性には良い物なら人にも伝えたいという本能みたいなものがあります。だから主婦の口コミの力はすごいと思います。しかし今は地域発の商品に個性がなくなってきました。36から38歳がターゲットという話が出ましたが、今は何百、何千万人の人を相手にしてはいけないのだと思います。 佛田 ライフスタイルの多様化で生産者側も相手を絞れないんです。そこを突き詰めると、やはり良いものを作るしかないというところに行き着きます。 沢 絞り切れないから万人にいいものを、となっちゃうといけないんですね。 佛田 しかし今の農業界はまだ、いいものを作って万人にといっている気がします。 南部 ぶった農産の顧客はやや年配で所得の高い余裕ある層に絞られているようですね。 佛田 ええ、自分たちがおいしいと思うものしか作らないということでやっていて、結果的には絞られています。
南部 最後に、女をわかるにはどうすればよいかといったことについて語って下さい。 佛田 石川県のある集落で女性たちが起業して、がんばっていらっしゃったんですが、女性特有のグループ色が強くなり過ぎて、外部の人が入りにくいという雰囲気があるみたいです。また20年ほど前の設立なので後継者がほしいのですが、設立当初のつながりが強過ぎちゃってやはり外部から入りにくいという難点があるみたいです。 渋谷 絆が強くなり過ぎちゃうみたいな女性っぽいところが強く出ると「女の世界」といった弊害も出てきますね。 沢 女性だけでまとまろうとすると、その半数は男っぽい女性が必要になるんじゃありませんか。やはり男女半々が自然だと思います。だから女性の部署や役職を増やすべきです。大手町もそうなってほしいですね。 南部 男も〈女は忙しい、もっと楽をさせてあげたい〉と理解を始めています。だから食事は出来合いの総菜でも外食でもOKだという男が多い。そこに生まれるビジネスチャンスを外国勢がついてきて、今後さらに簡便化を追求した商品が増えて来そうです。 渋谷 例えば南高梅を考え出したのは男ですが、それに女性客が飛びついたということもあります。やはり地域の特産品開発やマーケティングは性別を超えて展開されています。 南部 そろそろ時間のようです。本日は、どうもありがとうございました。 |