東都生協は、安心安全な農産物を求めて14年前に「土づくり宣言」をし、組合員がおカネを出し合って基金を造成して、土づくりをする生産者に資金を貸し付けている。また4年前からは、輸入急増や作り過ぎで価格が暴落した時には余剰農産物の低価格供給もしている。これは畑でつぶされる野菜を見た組合員から「何とかならないのか」という声が上がったからだ。そこで廃棄を回避して“割引販売”となった。宮村理事長はそうした同生協の貴重な取り組みを次々に紹介した。一方、農流研の原田理事長は同生協の試みの基調となっている宮村理事長の理念にも話を展開させながら、消費者と生産者の信頼関係確立と協同組合間提携の重要性を強調した。
◆農業の大切さを共通認識に
過小評価こそ問題
原田 日本経済はどうなる?という議論の中で、農業は産業としての話題にならなくなっており、さみしい気がします。市場経済のグローバル化の中で農業の位置づけが、国の予算でも余り重視されていません。これは農協にも責任があるかと思います。国民的合意や消費者の支援を得るといった観点での考え方が、やや足りなかったかなという反省もあります。今の農業のあり方について理事長のお考えをお聞かせ下さい。
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(みやむら みつしげ)大正15年東京都生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業。青森短期大学教授、日本女子大学家政学部教授、日本女子大学生活協同組合理事長、日本生協連食糧問題・全国産直調査委員会主査を経て、現在東都生活協同組合理事長、農業・農協問題研究所副理事長、東京都有機農産物等流通推進協議会会長。 |
宮村 地球上のどこかに農業があって日本にはなくてもよいというのでは、農業の大切さをとらえたことにはならないと思います。やはり各民族や各国民の生き方の中に農業があり、日本に農業があるということでないと困ります。
産業としての農業がないといわれますが、それは専ら利潤概念の成立するような農業はないという意味だと思いますが、これは非常におかしい。家族労働力と自作地で行う農業経営形態が社会に存在していることが正に産業として農業があるということです。歴史の違う別な国では企業としての農業がありますが、それでなければ産業じゃないというのは間違っています。農業があり、それが他産業とつながって1つの国民経済が成り立っているのですから。
そういう農業を国民が必要だと認めることによって農業者は自覚や誇りを持てると思います。問題は農業の存在が過小評価され、時には無視されることです。一時、経済界には農業不要論までありました。しかし生協は、消費者が生きていこうという組織ですから、日本に農業があることの大切さ、それを粗末にしてはいけないという点での共通認識があります。
原田 今、農協は合併で大型化しており、県と全国の連合会の統合もありますが、まだ、その機能発揮の段階に至らず、模索中という感じですが、そうした再編成をどうご覧になっていますか。
宮村 営農・販売事業の重要性が強調されていますが、信用や共済の事業が単協から連合会に移行しても、営農・販売は農協事業の土台だから一生懸命やっていこうという形になっているんじゃありませんか。農協から農業ははずせませんからね。
◆「3つの協同」を活発に
産直も大事な協同の1つ
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(はらだ こう)昭和12年東京都生まれ。東京教育大学卒業。昭和36年全農(全販連)入会、平成2年大阪支所課長、同生活部長。平成5年全農常務理事、平成8年(株)全農燃料ターミナル社長、平成11年(財)農協流通研究所理事長。 |
原田 以前に先生は農協新聞に「JAという呼び方に反対だ」と書かれましたが、私も同感です。それから共生について、均衡ある発展をするための相手との共生はあるが、財界や多国籍企業やWTOなどは対立すべき存在であり、共生の相手ではないのではないかと論じられていましたが、その点はいかがですか。
宮村 私たちの生協では協同の概念をどう広げて考えていくかを議論しました。そして組合員同士、職員同士、組合員と職員という3つの協同を活発にし、さらに協同組合間の協同、それから取引相手である団体や会社とも連携や提携の協同をするという組み立てをきっちりしていくことが大事だということになりました。
その点から農協の流れを見ると基礎となる組合員同士の協同をどう強めていくかが問われているのではないでしょうか。1つの例をあげれば、農協は今でこそ産直に積極的ですが、スタートの頃は、産直なんかやる組合員は協同を崩す奴だなんていっていました。仲間と話し合って産直をやろうという動きですから、その協同を大事にし、それをベースに農協をつくり上げていく考え方があれば最初から産直も農協事業の中に入ってきていたはずだと思うんですよね。
だって農協の共販は、そもそも共同販売なんですから、その辺を考える努力が足りなかったんじゃないかと残念ですね。
◆地場流通を大切に
安全な作物は土づくりから
原田 先生は、著作の中で大都市を中心とした大型の流通体系はやや歪んだ流通ではないか、そのアンチテーゼとして産直を含む地場流通があり、そうしたものとの調和した発展が必要だという議論を展開されておりますが、そこから地場流通を大事にしようという考えが出てくるわけですか。
宮村 そうです。そうした考え方が東都生協に広まり、1987年には「土づくり宣言」をしました。安心安全な作物は土づくりからと、組合員がおカネを出し合って基金をつくり、土づくりの生産者におカネを貸すシステムを発足させました。また、その翌年には地域総合産直を提唱しました。
これは、単に品物を集めてきて供給するという産直では、産地の営農が持続できなくなり、品物もこなくなるんじゃないかという考え方です。産地ではいろんな営農活動をしているのだから、それが成り立つような条件づくりを応援しようというわけです。
最近は地産地消という言葉がはやって、とてもいいことだと思いますが、それだけやっていればうまくいくのか。そこには限界があると思います。農政などともからんできますからね。
原田 東都生協は店舗を持たない組織的な共同購入を続けていますが、これは協同組合の基本的な考え方からですか。
宮村 私たちは、お店を持つことが邪道だとは考えません。現在2店があります。協同してお店をつくって買うことも共同購入ですからね。協同組合の発生もロッチデールのお店から始まって協同組合原則を打ち立てました。ただ店舗は維持が難しいのですよ。
無店舗購入の特色は予約制であることです。お店なら現物を見て商品を選べますが、予約注文では後で届く商品に対する信頼がないと成り立ちません。だから、どこに出しても恥ずかしくない品物を届けるという主義です。
しかし産直では、届いた物が少しまずくても〈農家が一生懸命に作ったんだから〉と我慢する向きもありました。生産者も消費者も産直にあぐらをかいてはいけません。それに欠品も禁物です。
特に今の組合員は、生協に不満があれば、さっさとスーパーや、また他の生協に向かいますから。そこで組合員が求めているものをよく調べて、それを産地へ知らせるという活動が大事になります。
◆生産者と共に「農」を守る
余剰農産物の定価供給も
原田 確かに農家としては、天候のせいで作物がまずくなったのだから仕方がないなどといった産直への甘えも出てきます。それで挫折した産直もあります。だから生産者と消費者の協同を持続させるには大変なエネルギーを必要としますね。しかし最近は農協側の意識も随分変わってきました。
宮村 ですから農協もちょっとしたスタンスのとり方で、その力を大いに発揮できると思います。
話は変わりますが、79年の農協全国大会決議は政府の農政審議会答申とウリ2つの内容を取り込みました。輸入農産物の増加を肯定し、国内生産を縮小再編成する内容です。さらに減反さえ農協側から提案したんです。それに合わせて農協の経営刷新も進みましたが、これはまずかったですよ。
それ以後、輸入増加で国産の農産物は畑でつぶされたりして、組合員から何とかならないのかという声が高まりました。そこで私たちは4年前から野菜と果物で余剰農産物の低価格供給をやっています。安くても出荷してもらっています。従来は、それはできないということでしたが、組合員が望むことならシステムを変えてでもやる、そして生産者と一緒に農業を守ろうというスタンスです。でないと知恵も何も出ませんからね。
原田 いいシステムを考えていただきました。二束三文になった時、農家は大助かりです。
宮村 とにかく農業なしには人間は生きていけないという基本をはっきりさせないといけません。そして農業は地球上の土地条件で様々な形をとりますから、画一的にやるのは不合理です。
したがってWTO体制、これはいけません。例外なき自由化で農業の特殊性を認めないのですから。
まだガットの特別条項のほうがよかった。農業の特殊性を認めていたからこそ農産物貿易の制限を許容していました。だから農業陣営は開き直る必要があります。
それから狂牛病問題ですが、東都生協は賢明に92年ごろから肉骨粉使用の牛はストップしていました。また仕入委員会で加工食品なども厳しく仕様書の中で調べていました。しかし、今回の事件で改めてトレーサビリティを追求しますと何が使われているか、わからないことがたくさんあります。
その点で産直には強みがあります。仕入委員会が産地に出向き、また最近は産地の「公開監査」と呼ぶ活動で、どういう作り方をしているかなどを調べています。
農協はこうした活動に応えていただきたい。農協ならトレーサビリティができるはずですから、そういう営農指導と生産活動をやっていただければ、しっかりした信頼関係が築けます。
原田 確かに効率性の追求から牛海綿状脳症も出ました。それに対して理事長がおっしゃったようなアンチテーゼがどんどん出てこないといけません。
宮村 EUがいっている予防原則の立場もとっていきたいと思います。遺伝子組み換えは1つの科学技術としては否定しませんが、しかし、組み換え作物は科学的に大丈夫とはいえないから扱わないといった予防原則です。
一方、私たちは消費者が有機農産物だけを望んでいるといった立場には立っていません。
原田 日本の国土や気象条件では、どうしてもコストの高い農業になります。そこで、そのコストを消費者と負担し合うといった信頼関係の確立が必要になります。ではありがとうございました。
(インタビューを終えて)
宮村理事長は、東都生協の理事長というより農業経済学者として、農協組織のボタンの掛け違いは80年代の農政の方向に賛成をしたときに始まったと指摘されている。
農政が、日本の農・畜産物の需要は長期的に減退、よくても頭打ちの見通しを立てたなかで農畜産物の自由化に踏み切ったことは日本の農業の縮小を意味することであった。それにもかかわらず、農協組織はこれを前提にした事業方針を取ったことは、農協の事業が金融事業にシフトをする方向に向かう道筋が出来たと分析されている。
その後の動きを見るとこの分析が正しいことを証明している。
東都生協は共同購入を主体とした生協で、野菜・果物・畜産物は産直方式であり、消費者と生産者の相互交流による信頼を基本とした事業をつくる努力をされている。
農産物は天候で計画通りにいかず、不作の時は欠品となり、豊作の時は農家がお手上げになるが、出来すぎた時に生産者、消費者の協力で野菜・果物を沢山食べるようにと東都生協では共同購入の申込み欄に、野菜・果物のおまかせ項目を作り特別価格での供給で豊作貧乏対策をやっておられる。
協同組合の運営は手間隙がかかり、効率の悪い事業が多いが、基本を守ることの大切さを実践されている生活協同組合である。(原田)
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