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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

新春特別企画 21世紀を拓く政治と農業のゆくえ
対談

21世紀の政治と農業
農業が主役になる社会への構造改革こそ


自民党衆議院議員 松岡利勝氏
東京農工大学前学長 梶井功氏

 今年の本紙新年号では、現在の政治、経済状況から、今後の農業や農協のあり方を問う特別対談を企画。自民党衆議院議員の松岡利勝氏は、現在の政策の力点が都市に偏りすぎていることを批判。地方軽視では国全体が不安定になることや環境問題が解決できないことを指摘し、「農業が主役になるような社会」への構造改革こそが求められていると主張した。また、次ページの対談で経済評論家の内橋克人氏は、農業を推進力とした「共生」の経済社会づくりを提言。いずれも構造改革をスローガンに掲げる今の政府に厳しい批判となった。

◆大都市優先で農村切り捨ての農林水産予算案

 梶井 来年度予算の政府原案が昨年末に決まりましたが、農林水産予算は前年対比6.2%減ですね。なかでも公共事業の削減率が大きく、とくに農業農村整備事業費は14%も減らされています。しかし、公共事業全体を削減しているかといえば、必ずしもそうではなくて都市環境整備は9%近くも増えています。どうも大都市優先で農業・農村は切り捨てという印象を受けます。
 農政としては40%に落ち込んだ自給率を45%まで上げるという目標を掲げているわけですから、そのための予算だと思いますが、こんな状況では目標達成は覚束ないんじゃないか。これから国会で議論されるわけですが、まずこの予算原案についてのお考えを聞かせていただけますか。

自民党衆議院議員 松岡利勝氏

 松岡 ご指摘のとおり、このような予算で食料、農業、農村の将来は大丈夫なのかという点については、みんな危惧の念を持っていますね。小泉内閣は、地方は今までが良すぎた、というような認識を持っていて、都市に重点を置く、が首相の一大方針です。
 私は予算の額の問題はもちろんですが、それ以上に根本的に農政が非常に軽く扱われているのが問題だと思っています。これでは将来に向かって大変な禍根を残すだろうと。そういう意味では来年度予算は、今後の農政はどうあるべきか、大きな議論を巻き起こす契機になるんじゃないかと思っています。
 21世紀の地球全体を考えると、人口問題、食料問題、環境問題が当面する最大の課題ですね。今までの石油化学工業に依存した経済構造、とくに日本はそうですが、これを突き進めていくと、地球環境は破壊される。それに対して二酸化炭素など温室効果ガスの削減目標を決めた京都議定書が採択されたわけですね。
 そこで考えなければいけないのは、二酸化炭素などを吸収するのは、森林と農地しかないということです。こういう点からしても、農林水産予算を充実させる必要はあっても、これをないがしろにするという発想は本来出てこないはずなんです。そこが小泉首相の認識が間違っているところです。
 党内でも非常に反発がありましたが、今回の農林水産予算案は、トップダウン的に、一方的に決められ、大変に問題があったなと思っています。
 もちろん、あなたたち政治家としてはどうなんだという話になるわけで、その責任はわれわれはしっかりと受け止めなくてはいけない。今一度、こんなことではどういうことになるのかを考えるべきです。都会が栄えて地方が滅ぶということになれば、これは最終的には国土全体がおかしくなるわけですから、都会もおかしくなってしまう。この問題は、これからの政治の大きな課題の出発点、そういうふうに思います。

◆セーフガードでの当然の権利
 放棄はWTO交渉で不利に

東京農工大学前学長 梶井功氏

 梶井 今、ご指摘になった環境問題と農業・農村のかかわりですが、これについては新基本法でも農業、農村の多面的機能を発揮させるようにしていくとしたわけです。また、WTO交渉の日本提案でもそこに重点を置いていますね。環境問題との関連もあり、食料安全保障よりも、多面的機能をいわば一番の柱にしている。それがぐらつくようでは困る。WTO交渉にも影響するのではないでしょうか。農政軽視はセーフガード対応にも出たように思いますが・・・。

 松岡
 WTO交渉もそうですが、さらに問題なのはセーフガードをめぐる対応です。セーフガード暫定発動は、国際的に当然認められたルールであって何も理不尽なことをしたわけではありません。
 たしかに暫定措置を発動して本発動をしなかった例は3件あります。しかし、それはすべて暫定発動期間中に2国間で問題が解決したからなんですね。解決をしなかったにも関わらず、本発動しなかったのは1件もありません。だから、今回の政府の判断は、世界初演、ですよ。いまだかつてないことを小泉首相はやったことになる。
 私は、一言で言って、これまでの小泉改革は、表の看板だけ大きく掲げて中身は全然伴っていないと考えています。セーフガード本発動見送りは、決着先送りの1つの典型です。
 暫定措置発動後、小泉内閣が発足して武部農政になったわけですが、この間、何1つ、政治的に努力してこなかった。そして靖国神社参拝問題によって、ますます中国との関係がおかしくなり、それを何とか解決するための、言ってみれば犠牲のような形でこういう決着になった。
 ネギ、生シイタケ、イ草のほか、他の野菜も含めて産地は、相当な打撃があると思います。引いては消費者の利益が損なわれることになるわけで、この点についてどう責任を取ってもらうのか、まさに今後の大きな問題が生まれたなという感じですね。
 そのうえ、WTO交渉でも、日本という国は当然の権利さえも発動しなかった国ということになれば、日本の立場を主張していくにも、非常に厳しくなったなと思います。小泉内閣が今のような方針で臨んでいけば、これはもう日本は失うものが多い。そうなれば、国家100年の、さらに地球全体の将来をも失うわけですから、もう一度、体制を立て直さないととんでもないことになると思っています。

 梶井
 私は日中の協議会で話し合いがつく問題じゃないと思いますね。

 松岡
 難しいですね。日中間の合意では「秩序ある貿易を」となっていますが、われわれはその秩序を、当然、暫定発動期間中の貿易量と捉えていてそれが土台だと考えています。ところが、中国は暫定措置発動前の輸入が急増した2000年が水準だというわけです。
 そうなると大きな開きがある。もう基準の部分で最初から食い違ったまま、平行線をたどると思うんですよ。そうなれば、いつ本当に具体的、現実的な解決ができるのかということになる。問題先送りどころか、元の木阿弥、です。もちろん日中間の対立が避けられたということ自体は、決して悪くないと思いますよ。しかし、中身はもっと悪くなった。
 後は、外交で受けた打撃というのを、当然、国内的な措置で補わなければならない。そういった意味では、所得の補償的な面も含めてきちんとしないと、政策としての整合性がまったく保てないと思います。これも課題です。

◆農業生産と環境テクノロジーの合体推進を

 梶井 その所得安定の問題について言えば、新たな経営所得安定対策の議論は、稲作経営安定対策が破綻しかけているために、松岡さんたちが先頭を切ってこの仕組みを根本的に見直さなければならないという話から始まったわけですね。ところが、農水省の検討過程で話が変わって構造政策にすり替えられたという感じがするんです。

 松岡
 そのとおりですよ。経営所得の安定がこういう形で成り立つぞとなれば、みんなその土台に乗って、自給率向上に向け、本当に必要なものを作ろうという形に進む。逆に構造改革が進むんです。
 ところが、今回、その方向は頓挫してしまった。安心して農業ができるというセーフティネットがないまま、ただ構造改革だ、ということになった。
 強調したいのは、社会の構造改革とは何なのかです。私は21世紀は農業が主役になるような構造改革にすべきだろうと考えています。理由は先ほど申し上げた石油化学工業への依存では行き詰まるということですね。
 中国もどんどん工業化していますが、その排出ガスが中国だけでなく広くアジアに影響が出ている。それをどう改革するかですが、日本は環境テクノロジーを生かして、石油化学依存から脱するべきです。その基は、私は農業だと思う。
 たとえば、ブラジルですが、砂糖キビからエタノールを作って今は燃料の8割に使っています。たまたまお金がなくて、必要は発明の母、ということからそうなっているわけですが、日本では、今米が余っていますが、稲からもメタノールが取れるわけですよ。また、イモからもプラスティックが取れる。そのプラスティックは、原料がイモですから土に還って公害を起こさない。
 そういった形で、エネルギー革命を起こさなければなりませんし、その基になるのが森林も含めた農業生産だと思います。だから、その方向に大きくシフトし、その担い手になっていくのがやはり農業だと。農業生産は、食料の面からもエネルギーの面からも地球を救うわけですね。日本の農業生産技術は優れていますから、それと環境テクノロジーとを合体させれば、農業の将来は重要になると思います。そういう芽をこれから出していかなければならないということです。

 梶井
 今のお話が、米の転作問題の視野に入ってくればだいぶ違ってくると思いますね。

 松岡
 そうですね。これからはわれわれもやはりそういった視野を持って、時間的なスケジュールも含めて政策を組み立てて、どうその方向に持っていくか考えます。

◆経営所得対策は“2階建て”の仕組みで

 梶井 米政策についは、幸いにして、今回は稲作経営経営安定対策の対象から副業農家を除外するという方向はなくなったようですね。私はやはり8割の農業生産を支えている中小の農家が意欲を持てるような政策を打ち出すべきだと思います。

 松岡
 北海道の一部では、大規模経営が農業を担っていますが、そのほかはそういう形態の農業はないんですね。まさにさまざまな経営が入り組んだ複合農業ですから。だから、主業、副業を分離して、あなたはこっち、あなたはあっち、というようなことができるシステムになっていないんです。

 梶井
 水田の構造ひとつ考えれば分かることで、たとえば、水利の維持管理は末端では集落全体でやっているわけですね。

 松岡
 共同管理です。私の地元の阿蘇でも野焼きをやるんです。これは本当に共同作業で私も2回、野焼きに出たことがありますが、杉の枝を持って、延焼しないように管理しながら進めていく。そうやって全員で野焼きをやるわけです。共同社会ですよ。その共同社会の一部を切り離して、別々にするというのは不可能ですね。
 ですから、副業農家の除外問題は当然のこととして、それは行わないことになりました。ただ、これから主業農家が副業農家の部分も担いながら、しかも一体となってどう地域の農業をやっていくのかという方向は考えなくてはなりません。
 そういう前提で経営所得対策を考えると、私のイメージでは2階建てです。1階部分は共通でみんなが対象になって、そして主業農家には2階部分があるべきだと思います。

 梶井
 そのためには、日本は単一経営が支配的になっていますから、土台にあたる1階部分は品目別の所得対策としてしっかりさせなければならないと思います。

 松岡
 そうですね。私は、年金と同じようなイメージで仕組みをつくるべきだろうなと考えてきました。そうなれば主業農家の人たちは農業だけで生活しているわけですから、その人たちには2階部分があって経営全体の安定策があっても、副業農家の方たちは納得すると思うんですね。

◆農産物の安全は利益主義でなく
 安全主義を基本に

 梶井 ところで、BSE問題もありますが、食品の安全性が今後は大きな課題になりますね。

 松岡
 ええ、輸入野菜では検疫の強化が大きな問題ですし、そのほかの農産物も含めて安全性確保のためにはあらゆる手段を講じなければなりません。ドイツのシュレーダー首相が言ったように、これまでと視点を変えて、利益主義ではいけない、安全主義を基本にする、ということだと思います。

◆英国の農業政策を教訓に日本農業を今一度見直すべき

 松岡 私は小泉首相にこんな話をしたことがあります。
 英国では19世紀から20世紀初頭にかけて、都会対農村の対立が起きていた。どういう対立かといえば、英国は当時世界帝国ですから、都会の人の主張は、食料はどこからでも持って来られるじゃないか、なぜ国内で高いものを作って買わせられるのか、というわけです。
 そこで、そういう論理が勝って、日本の食管法のような穀物法を1846年に廃止する。その結果どうなったかというと、25年経ったころに英国は荒れ果てた。要するに農村に農業生産がなくなるから、仕事がなくなる。そして都会に人口が流入したが、安い労賃の労働力が来たので、今度は都会で仕事の奪い合いが起きた。農村も荒れ果て、都市も疲弊したわけです。
 そこで、英国はその反省に立って、1921年から農業保護政策をとるようになる。特に第2次大戦後のアトリー内閣のときの1947年、農業法や都市農村共同開発法を新たにつくって農村開発をやるんです。そしてきれいな美しい農村が蘇って、都会と農村の共存が今日まで続いている。

 梶井
 その過程が同時に20%台にまで落ちた穀物自給率が、今や9割までになったということですね。

 松岡
 はい。そういうことをご理解いただきたいと申し上げたわけです。地球規模で考える、あるいは歴史的にも大変な教訓があるということを今一度改めて見直してもらわないと、本当に間違ってしまうと思います。
 われわれの責任も重いですから、そこはきちんと議論していかなければならないと思いますね。

 梶井
 健闘を期待しています。今日はありがとうございました。


(対談を終えて)
 このところ、小泉総理に対する抵抗族の1人というような扱いでの松岡議員の姿を何度かテレビで見たが、農政軽視への抵抗はおおいにやってもらいたい。議員が強調されているように、“都会が栄えて地方が滅ぶということになれば・・・国土全体がおかしくなるわけですから、都会もおかしくなってしまう”。このことを総理にしっかり認識させてほしいと思う。
 議員は阿蘇の野焼きに参加したことがあるという。農業が“むら”という共同社会のなかで営まれているのだということを、彼自身の体験を通じて知っておられるのである。だから“共同社会の一部を切り離して、別々にする”ことにつながる稲経対策からの副業農家除外などという提案は、農村の現実にあわないとして取り下げさせるように動かれたのであろう。農政の勘所を心得ているというべきだろう。
 その議員が、経営所得安定対策は“1階部分は共通でみんなが対象になって、そして主業農家には2階部分がある”という2階建てを考えておられる。賛成である。問題は1階がいまガタガタになっていることであり、その整備のために構造改革予算なども大幅に組み替えるような活躍を期待したい。 (梶井)


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