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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

インタビュー
経済事業改革で農業を変える
組織・事業改革すすめ 組合員の期待に応える


JA全農専務理事 四ノ宮孝義氏
聞き手:明治大学教授 北出俊昭氏

 価格の低迷、輸入農産物の増加、生産基盤を揺るがすBSE問題、JA経済事業の収支改善など、JAグループ経済事業のかかえる問題は数多い。着実に進む組織統合で組織の効率化・スリム化を実現し、こうした諸問題に取組み、これからの日本農業の展望を切り拓こうとしているJA全農の当面の課題を、四ノ宮孝義専務に聞いた。聞き手は北出俊昭明治大学教授。

◆5つの役割・使命の実現のため5大改革

JA全農専務理事
四ノ宮孝義氏
明治大学教授
北出俊昭氏

 北出 経済連との統合が進んでいますが、それによって経済事業はどう変わるのでしょうか。

 四ノ宮 13年4月に21府県連が全農と合併し27都府県本部体制になりました。そして今年4月には6県連が加わり、33都府県本部体制になります。
 合併に際して改革の基本に据えたことは、全農と県連の仕事のなかで重複している機能について、全国本部が主としてやった方が効率的だといえる海外事業、原料事業、全国品目購買事業、大消費地の直販事業などは全国本部で。営農指導や販売事業、それをサポートする生産資材の供給推進、生活関連事業には地域性がありますから、これは県本部が主体でやる。そしていま県連でやっている仕事で、JAに移管した方がいい仕事は、人も施設も機能もJAに移す。こういう原則で考えてきています。
 機構を含めて簡素化することで、無駄な経費をなくし、業界との競争に勝てる、あるいは対等にたたかえる組織を実現する「組織改革」。そして、重複を避けて機能を切り分けて分担するという「事業の改革」の2つを実現するために統合連合をつくっているわけです。

 北出 それを実現するための当面の課題が「中期事業構想」というわけですね。

 四ノ宮 そういうことです。地域農業振興に向けた支援強化、国産農蓄産物の販売力・商品開発力の強化、生産資材コストの低減、安心快適で潤いのある地域社会の創造、JAグループ経済事業の再構築と収支確立という「役割・使命」。そしてこれを遂行するために、事業改革、業務改革、物流改革、組織改革、意識改革の5つの改革を遂行していくということです。

 北出 「業務改革」としてはどのようなことを…。

 四ノ宮 統合の時に機能についてはかなり切り分けをし整理しましたが、まだできていない部分が残りました。例えば、JAから県本部に発注しそれを県本部が全国本部にさらに発注をするということがあります。1つの経営組織として考えると内部販売のために事務システムや要員を確保しておくのは無駄ですから、合理化しなければいけないと思います。そのためにはシステムを統一しなければいけませんが、各県に50年の歴史がありますから、1つにするのは大変なことです。そこでいま「事業改革推進部」という専門部署を設けてこれに取組んでいます。
 北出 第1次統合の6都県とやってきて、具体的に変わってきたことがありますか。

 四ノ宮 「物流改革」面で、JA、県本部と一緒になって協議をして、農家配送を思い切って効率化することでJAにはコストダウンなどの成果がでていますね。

◆仕入れ機能の強化で生産資材価格を低減

 北出 「物流改革」は非常に大事なことですが、これに関連して生産資材供給価格を引き下げることが求められているわけですが、この点についてはどう取組まれていくのでしょうか。

 四ノ宮 農業の生産コストを下げるために生産資材価格そのものを引下げることが重要であると考え、一貫して取組んできています。そのなかで低価格生産資材を開発し、普及してきています。例えば肥料の「アラジン」では、国産の化成肥料よりも20%ほど安い価格を実現しました。それからいくつかの県連で取組んでいるBB肥料がありますが、これももっと使ってもらいたいと思います。これらは国内メーカーと競合するので難しい面はありますが、やっていかなければいけない課題です。
 農薬では、「ラウンドアップ」のように、海外原体メーカーから直接購入する方法もとっています。「ラウンドアップ」は直接購買を始めた時からみれば30%近く安くなっていますし、大型規格のものはもっと安くなっています。
 また、ダンボールでは、茶箱化することで5〜6%安くなりますから、これの普及に取組んでいます。そして農業機械では、「HELP農機」をメーカーにお願いしています。

 北出 そうすると「物流改革」の前に、仕入れ機能を強化しようということですか。

 四ノ宮 そうです、これが大事ですから、さらにメーカーなどと開発にも取組んでいきます。コストを下げるといっても国内メーカーは収益が上がらない構造になっていますので、努力はしていきますが難しい面もあるので、低コスト資材の普及に力を入れていきたいと考えています。

◆機能別価格の徹底で担い手・法人に対応

 四ノ宮 価格問題の2つ目は、担い手や法人向け価格問題です。一般に全国一律価格を発表してきていますが、大規模農家や法人のように、量が多いとか、引き取り方法が違う、あるいは決済条件が違う人たちには有利価格(機能別価格)を実現していく必要があります。JAでもこれ以上の量を買えばいくらという価格表はありますが、平等思想もあって決定的な価格差を出しにくい事情があります。しかし、それでは公平でないという議論があり、担い手や法人のJA離れのひとつの要因になっています。そこで全農として機能別価格を出していきますから、県本部、JAがそれを地域でのコンセンサスにしていただいて、担い手や法人にその価格で供給してもらいたいと思っています。こうしたことを通じて、とくに農業の中心的担い手に対しては向こう5年間で20%くらいの生産資材コスト削減を実現したいと考えています。

 北出 「平等から公平へ」ということは非常に大事なことですね。実際にこの機能別価格は実現しているのですか。

 四ノ宮 通常価格とあまり差がない価格であれば、かなりのJAが取組んでいます。しかし、担い手や法人の満足を得ていないので、もっと徹底しなければいけないと思いますし、JAさえ了承してくれるならば、かなりの価格を全農では用意していきたいと思います。

◆物流改革を進めて購買事業を黒字に

 北出 生産資材価格を下げるには物流も大事ですね。

 四ノ宮 資材価格引下げの3つ目の課題が「物流改革」です。JAの購買事業が赤字になっている理由の1つには、倉庫などの集約化が進んでいないという事情があります。そのため分散在庫で在庫量が多くなり、期限切れなど在庫ロスも多く、手数料がほとんど喰われてしまっているわけです。倉庫などを集約化して農家に定期配送できるJAには10トントラックで届けることで配送コストを安くできますし、JAも在庫回転率がよくなり、ロスも減るし、人件費も減りますからコスト低減ができます。そこで生み出された人員は営農や推進にあたってもらうことで利用率も向上することができます。そのために全農ではJAコンサル室を設けてJA改革のご提案をしています。
 もう1つは、北九州4県でテストしていますが、連合会がJAと一体になって、連合会の拠点倉庫から直接農家へ配送することを考えています。これをやればJAは倉庫、在庫を持ちませんから、JAの資材事業は黒字化が期待できます。県本部で地域限定で取組んでいるところもあり、こうした「物流改革」によって、相当なものが出ると思います。

 北出 担い手や法人については、機能別価格以外には何か…。

 四ノ宮 営農総合対策部に担い手対応室を設け、直接、法人を訪問して3年目になりますが、何回も訪問することで相互理解がすすみ、資材やコメなどの販売をJAにできないかという話をし、部分的にでも了解されればJAにつないでいます。
 ここ1、2年、県本部にそういう部署を設置していこうという動きもあります。JAでも独自に取組んでいるJAそお鹿児島とか、全農職員もメンバーに加えたプロジェクトをつくっているJA山形おきたまのような例もでてきています。

 北出 地域農業支援は中期構想の第1に掲げられていますが、JA自身が地域農業を見直して自主的に取組むことを支援することは大事なことですね。

 四ノ宮 全国本部がすべての担い手や法人対応はできませんから、県本部やJAにやってもらいそれを支援していきます。

◆消費者ニーズに応え多様な販売活動を

 北出 販売と結びついた地域農業振興ということだと思いますが、そのときに「全農安心システム」の役割は重要だと思いますが…。

 四ノ宮 有機農産物でという考えがありますが、JAグループが完全な有機農産物を追い求めるのは量的なこともあって現実的ではないと考えています。消費者が求めているのは、どのように栽培されたのか、それは私のニーズに合っているのか、ということを知らされることです。
 それに応えるための仕組みとして「安心システム」をつくったわけです。BSE(牛海綿状脳症)問題でもいわれているトレーサビリティの仕組みを産地と取引先との間でつくったわけです。昨年12月までに12産地10工場が認証され、今年の3月末までにこれが14産地11工場になる予定です。洪水のように増える輸入農産物に対抗するためにも有効だと思いますので、これを全体に広げていきたいと考えています。

 北出 「安心システム」を進めていくと、販売も市場依存から変わっていくのではないですか。

 四ノ宮 市場自体もセリから相対取引へシフトしていますし、全農のセンターはまさに相対取引で、それぞれの取引先ニーズに合ったものを産地に作ってもらい、安心システムを求める取引先にはそれに応えていくという体制が整いつつあると思います。
 もう1つ販売戦略として重視しているのは、従来の品目別縦割りの推進ではなく、地域ごとに総合的に品揃えをして推進していこうという「エリア別総合販売」です。ここに県本部も入ってもらうというものです。

 北出 大量生産大量販売だけではなく、多様な消費ニーズにあった多様なJAの販売活動をしていくということですね。

 四ノ宮 そういうことです。そして食品スーパーなどに、地場のものは地場で調達してもらうようにする。それが県本部の重要な役割のひとつだと思います。

◆「産地がいきいき、をめざして」全力を尽くす

 北出 最後に組合員、JAへのメッセージをお願いします。

 四ノ宮 昨年1年を振り返ると、野菜では、セーフガード暫定発動がありましたが本格発動にはならず、産地には失望感があると思います。私たちは政府と一緒になり中国との交渉にがんばると同時に、コスト削減や販売強化で期待に応えていく決意です。BSE問題は、本当に日本の畜産基盤を揺るがすような問題で、政府の対応も後手後手になっていますが、なによりも消費者の信頼回復のために努力をしていきます。トレーサビリティの確立が重要ですし、「安心システム」はBSEに対応する武器になるとも思っています。
 いずれにしても21世紀の最初の年は、農家組合員の皆さんには厳しい年だったと思います。そして今年も厳しさという点では変わりはないと思いますが、いままで申し上げたようなことに全力をあげて取組み、農家の営農・生活に寄与することが私たちの使命ですから、目に見えるようにしていきたいと考えています。私たちの新全農のメインメッセージは「もっと近くに。」ですが、サブのメッセージとして掲げた「産地がいきいき、をめざして。」の実現に全力をつくし、皆さんの期待に応えていきたいと思います。


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