◆人工衛星の画像で玄米の品質を分析
この夏、米国NASAの人工衛星、イコノスが新潟県の上空から穂が出そろった水田地帯を撮影した。といっても、日本の米の出来具合を偵察したわけではない。撮影を依頼したのは、JA越後さんとうである。
画像はコンピュータ処理され、地域のほ場が7区分に色分けされて出力される。この色は玄米のたんぱく含量を示している。つまり、この画像は地域の米の品質分布マップなのである。
この技術は、出穂後10日以降であれば、上空から葉に含まれる葉緑素量を赤外線で測定すれば、それが玄米のたんぱく含量にほぼ一致することが分かったことから、同JAが今年産から実用化に向けて採用したもの。
JAではこのデータをもとに生産者が出荷した米をたんぱく含量別にカントリーエレベーターのサイロで管理し、サイロ別の販売を行っていくことにしている。
それだけではなく、この衛星画像は色によって刈り取り適期が分かるため、気象情報と照らし合わせて晴天日に稲刈り日を設定することも可能で、生産者に情報を提供している。
また、1メートル単位で解析が可能なことから、たんぱく含量データをもとにほ場ごとにきめ細かく施肥設計を改善するなど、米の品質の平準化と低コスト化にも役立つ。
◆水害をきっかけに始まった土づくり
同JAは10年以上前から米の単作地帯として、量産体制から安心・安全に配慮し消費者ニーズに合わせた米づくりへの転換を図ってきた。
今は人工衛星情報などいわゆるITを活用した生産・販売体制を築きつつあるが、そのスタートは地域の生産者あげての地道な土づくりから始まっている。
きっかけは昭和53年に地域を襲った水害。信濃川支流の渋海川が氾濫しそれを契機に大型ほ場整備が始まった。
しかし、完成したほ場では、倒伏が発生したり、作柄、品質、食味にばらつきができた。そこで当時の「JAこしじ」では、品質の安定化、平準化をめざして生産者とJAの間で「地域連携協定」を結び、平成元年から稲わらのすき込みなどの運動に取り組んだのである。
その後、平成5年からは全耕地を対象に、土壌分析と土壌改良剤(ヨウリン7、ケイカル3の割合で配合)の散布をする“健康な土づくり事業協定”を改めて生産者と結んだ。事業には町やJAも費用負担するなど、地域ぐるみで土づくりに取り組んだ。
さらに平成8年からは有機たい肥づくりの試験を行い10年からは全面的に農地への導入を果たす。
有機たい肥の開発にあたってJAが留意したのは、環境にマイナスにならないことと、この地域の稲の生育ステージにあったものとすること。しかも、容易に入手できる原材料から製造できるものでなければならない。
試験の結果、原材料として適していたのが、カントリー・エレベーターから出る籾殻と転作大豆を利用した豆腐づくりで出る豆腐かす、米糠、魚などだった。畜産物の糞はもともと畜産農家が少なく量が不足しているだけでなく、抗生物質の使用が見込まれることから原材料として利用しなかった。
◆土壌分析データで施肥体系を構築
一方、土壌分析では、土の団粒構造や窒素量などをほ場ごとに調べていったが、その結果、地力を7区分できることが分かった。これは裏返せば、地力を平準化させるためには7つの施肥体系を構築すればいいということでもあり、適正な施肥量の計算から地域全体で減化学肥料生産に取り組むデータともなったのである。
また、農薬についても居住地域への飛散防止のため20年以上前から空中散布から地上共同防除に切り替え、成分、散布回数とも半分にした。
このような土づくりなど生産体制の見直しについてはすべて地域の合意を得て行ってきている。
同JAの今井利昭営農部長はこうした取り組みについて「新食糧法の施行による市場化や貿易自由化に対抗するために単なる量産体制から安心、安全に配慮し消費者ニーズを的確に捉えたコメ産地へ脱皮するためだった。それが農業者の所得確保につながるとも考えた」と強調する。
◆農地マッピングと生産履歴を統合
地域の生産者が足並みをそろえ減農薬、減化学肥料など新しい時代の要請に応えた産地への転換を模索するところは多いだろう。
ただ、問題となるのは生産された農産物が本当に決められた栽培方法で作られているかどうかである。
同JAには、その生産工程管理を行うには、農地一筆ごとに土壌情報、生産情報が把握できる農地管理システムが不可欠と考えた。
平成6年に農地保有合理化事業の認可を受けたことをきっかけにJA独自の農地管理システムを検討した。
従来は農地台帳管理、農家台帳管理などに分類されおり、生産者と農地が一括して管理できるデータはなかった。そこでJAは生産者から農地台帳閲覧の合意を得て、さらに住民台帳に匹敵する情報量があるJA共済の加入リストとリンクさせて、平成7年にコンピュータ画面で生産者と農地が一括して目視できるマッピングシステムを完成させた。
◆「平等」から「公平」へJAのあり方変える
マッピングシステムは、一筆ごとの土壌分析情報、たい肥の散布状況、食味値などを盛り込んでいき、いわば地域農業のデータベースとしたのである。
また、このマッピングシステムによって、農地の集積、作業受委託のあっせんと調整もより的確なプランとしてJAが生産者に提示することもできるようになったし、JAによる生産法人育成にも役立っているという。
さらに生産者による生産工程記録や人工衛星で得たデータも組み込んでいるため、人、農地、栽培法、食味、そして今後の課題などまで一括して把握することができるといえる。
現在、同JAは主食用では東京都や農水省のガイドラインなどに即した減農薬、減化学肥料栽培を中心に取り組んでいるほか、酒造好適米生産の確立もめざしている。
JAは前年の8月から10月までに翌年産についての作付け品種と栽培基準、品質による価格差の考え方などを提示する。
それを受けて地域では団地化などの取り組みを決めて、翌年3月までに需要を見ながらJAと生産者は契約栽培協定を結ぶ。対象は全生産者と全ほ場だ。
生産者は苗づくりの段階から生産工程を記帳していく。一方、行政、普及センター、JAなど関係団体で越路町有機農産物の生産・出荷確認委員会を構成しており、定期的にほ場を巡回し栽培基準どおりに生産されているかどうかの確認も行っている。また、JAとしても営農センターの職員全員が現地指導にあたる体制をとっている。
こうして育てられた米は、収穫日、品位、品質のデータとともにサイロ別に管理されるという流れになっている。
生産履歴情報については、今年度から消費者向けにも提供する方針で、JA越後さんとうの米をどの卸が扱い、どの小売り店で購入できるかまでの情報も伝えることにしている。農地のマッピングシステムとして構築し始めたデータベースにさまざまなデータをリンクさせたことによって、今後は産地のPRにも活用する考えだ。これは言ってみれば米産地の情報を消費者と共有することでもあり、共生をさぐる具体的実践といえるのではないか。
一方、JAにとってITの活用こそ「JA改革になる」(今井部長)という。栽培基準を守り品質向上につとめた生産者の米は、きちんと評価されるように扱って販売する。「ITによって平等の原則から公平の原則への転換が可能になった」と語る。
「日本の大地から安全な農産物をつくるのはわれわれの当然の義務。そのためのブランド化は消費者の信頼を得て、農業者の所得の安定につながることだ」と今井部長は語っている。